ジョン・ファーマン『これならわかるアートの歴史 洞窟壁画から現代美術まで』東京書籍,1997 (アート・美術館のおすすめ本)

野村幸弘・熊谷吉治 訳

1997年 第1刷発行
2005年 第7刷発行
2011年 普及版 第1刷発行

原著
ART: A COMPLETE (and Utter) HISTORY, 1994

退屈しない西洋美術史

美術を語る方法は幾つかありますが、
わかりやすいのは「こんなのは芸術ではない」とけなすやり方と、
逆に「これこそが芸術である」と褒め称えるやり方でしょう。

「芸術である/芸術ではない」と決める根拠は人それぞれで、
たとえば技術が優れている、
社会的・倫理的に正しい(最近はあまり重視されない)、
メッセージ性があるなど、それこそ批評家の数だけ根拠がある状態。
ゆえに素人は大人しく批評家の尻馬に乗るか
「芸術である」との評価が既に定まっている作品を求めて美術館へ向かうわけですが…

芸術の評価は昔からそうやって決められてきた、ということを教えてくれるのがこの本です。

前からある芸術に対して
「自分たちは新しい(真の)芸術である」と主張する芸術家が出てきて、
それを批評する人たちが叩き、
しばらくして世間が「新しい芸術」を認めるようになると
叩いていた人たちが今度は持ち上げにかかって、
それが次の芸術的スタンダードとなる…
そんな歴史をユーモアたっぷりの文と挿絵で綴ります。

ウン万年前の洞窟壁画から1980~90年代の概念芸術にいたるまで
西洋美術の歴史を分かり易く、かつ面白く伝えてくれますが、
たまに毒が効きすぎて、著者の好き嫌いに偏っていないだろうか?
と思う部分があったり。

茶化される現代アート

たとえば現代アートなどは散々にこき下ろされております、

ミニマル・アートは「さっさと家に帰れ」派…つまり
「馬鹿な事をしていないで家に帰ってまともな仕事に就きなさい」と
説教したくなるようなしろもの。
コンセプチュアル・アートは「俺たちって凄い天才」派…
自分は一般人には理解できない芸術という概念のもとに活動しているという体で
世間を馬鹿にしている奴らのやらかし。

現代アートに対して悪態をつきたくなるのはわたしだけじゃないと分かって心強いですが、
作者のジョン・ファーマンはイギリスの王立美術大学でデザイン修士号を取得し、
広告や出版の分野で活動してきた人物。
現代アートについて(もちろんそれ以前のアートにも)並々ならぬ知識を持ち
実際に自分の目で見たうえで茶化しているわけで、
下手にそうだそうだと同調したら鼻で笑われそうではあります。

そんな作者は最後に

もし私がこき下ろした作品の中にあなたのお気に入りがあったとしても、まあそれはそれでいいじゃない。あなたがそう言うなら、あなたが正しくて私が間違っているんだよ。私はそれで全然構いません(でも本当は私のほうが正しいんだけどね!)。

と、公平なところを見せてくれます(?)。

好きなら何でもあり!

なにしろ、作者が言葉を変えてくり返している主張は、
芸術とは「結局(あなたが気に入れば)何でもあり」ということで、
好きなら好きで良いし、好きだと思えないものを無理にわかろうとしなくて良いんだよ、
ということのようです。

もしかすると、現代アートの散々な言い草もこの主張を通すためのテクニックで、
本当はジェフ・クーンズ(1955-)が作った花の子犬(高さ12.4メートル)に
深い愛情を持っていたりするのかも知れません…
(スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館所蔵。写真で見るとけっこう可愛い)

西洋美術史の流れを楽しく振りかえって、
ついでに面白いエピソードなんかも知りたい
という時におすすめできる本ですが、
この本に登場する芸術家の内ひとりでも
頭に入れておくとより楽しく読めるはずです。
有史以前から現代までの幅広い時代をカバーしているので
登場人物・作品で知っているものがない! という事態はまずないと思いますが
一番簡単なのは2回読むことでしょうか。