新宿御苑の太白と関山 チェリー・イングラムゆかりの桜たち

新型コロナウイルスの拡大に関する政府方針を受けて、
各地の博物館・美術館を含む文化施設・レジャー施設が続々に
2週間前後の臨時休館をもうけているようですね。

2020年現在、大体の施設は3月15日くらいを再開予定としているようです。
これが一段落するころにはお花見シーズンが…と思うと
ちょっと前向きになれる気がするのはわたしだけでしょうか?
気兼ねなく桜の下に繰り出すためにも、いまは頑張って自重します。

春が近づけば桜の開花ニュースに注目が集まり、
お花見の場所取り代行がビジネスになってしまう…
わが国ながら、ちょっと不思議なくらい桜の花を愛する日本人。

現在、とくに関東で目にする桜はほとんど染井吉野ですが、
古い寺社や庭園、植物園にはさまざまな種類の桜を植えている所があります。
そんな施設のひとつ、東京都の新宿御苑。
ここに、ちょっと変わった経歴の桜があることをご存知でしょうか。

新宿御苑の「イングラムさんの桜」 太白(タイハク)

一度は日本から姿を消し、
大英帝国末期の園芸家、コリングウッド・イングラム(1880-1981)の尽力によって
イギリスから里帰りした「太白」という品種の桜です。

直径5センチほどもある一重咲き白い花は、
ジャパニーズ・チェリーを収集し自らも複数の新種を作り出した
イングラム氏のお気に入りだったそうです。

2017年 新宿御苑内の日本庭園にて(大きさが伝わるとよいのですが)

今では春になると「イングラムさんの桜」としてわざわざ訪ねてくる人あり、
その案内をかってでる古参ファンありと、にぎやかな光景がみられます。

阿部菜穂子『チェリー・イングラム』岩波書店,2016

イングラム氏の経歴や太白の里帰りにまつわる様々なドラマは
こちらの本がくわしいです。

阿部菜穂子『チェリー・イングラム―日本の桜を救ったイギリス人』岩波書店,2016

もとは鳥の研究家だったイングラムですが、
1919年に購入した自宅の庭に「ジャパニーズ・チェリー」の木があったことで
桜の研究を志すようになりました。

ヨーロッパではもともとサクランボの実るセイヨウミザクラが根付いていたため、
美味しい実をつけない日本の桜が評価されたのはジャポニズムが流行した19世紀後半。
イングラムの時代になるとヨーロッパにも輸出されていたそうです。

こうして桜の収集家になったイングラムは、日本にも「さくら行脚」に訪れています。
(それ以前にも2回来日したことがあり、2度目は新婚旅行だったとか)
そのとき江戸時代に生み出された多くの品種が
開国にともなう社会の変化によって失われつつあることを知り、
生き残ったものを救おうとたくさんの桜を収集しました。

こうして日本で絶滅した桜のいくつかはイングラム家の庭で生き延び、
太白は1932年に里帰りをはたします。
残念ながらその後の戦争と戦後の「桜=染井吉野」という風潮でまた数を減らし、
いまは新宿御苑のほかに
東京八王子市の多摩森林科学園(https://www.ffpri.affrc.go.jp/tmk/)や
静岡県三島市の国立遺伝学研究所(https://www.nig.ac.jp/nig/ja/)などに
細々と残っているようです。

さて、この本によれば
桜の研究で有名になってからは「チェリー・イングラム」と呼ばれるほどの桜好きで
一番好きな日本の桜はどれかと聞かれるのは
「母親に対していちばんお気に入りの子はだれかと聞くようなもの」
と答えたイングラム氏にもひとつだけ、どうしても好きになれない桜があったそうです。

淫靡な? 八重桜の関山(カンザン)

イングラム氏が徹底して嫌った桜として本に載ってしまった桜。
名を「関山」といいます。

  • 若木を根こそぎにして燃やそうとした
  • 女学校の校庭に植樹された関山に、あんな淫靡な桜はふさわしくないとクレーム

といったエピソードが残っているようで…
根こそぎにされた若木は近所の方に引き取られましたが、
女学校の桜は別の種類にかえられたそうです。

関山は濃いピンク色の八重桜。
多ければ50枚以上の花びらが集まったぽってりした花は
私など「桜餅みたいで美味しそう…」と思うのですが。

2019年新宿御苑にて。淫靡(だらしなくみだらな感じであること)でしょうか?

育てやすく見栄えがよく花期が長い関山は、現在でもあちこちでみられます。
それどころか、見たことも触ったこともない、という人は少数派かもしれません。

これは桜あんぱんですが

桜湯やお菓子でもおなじみ、桜の塩漬け。
この原料に関山が使われることが非常に多く、
食用の桜としても栽培されているのです。
名前は知られていなくとも、染井吉野と並んでなじみの深い桜ではないでしょうか。

太白と関山が見頃になる時期は? 開花情報はホームページやSNSでチェックを

もちろん、新宿御苑にも関山はあります。

新宿御苑のホームページによると、

太白は4月中旬
関山は4月中旬~下旬

が見ごろ。太白の時期を狙って、両者を比べてみるのも楽しいのでは?

ここ数年、太白は毎年3月の終わりから4月の初めごろに咲きはじめ
4月の10日前後に満開を迎えているようですが、
桜の見ごろはお天気の状態などで変わります。

気象庁によれば、2020年3月は平年より高めの気温が予想され、
桜の開化は早めになる見込みだそうです
(開花予想はソメイヨシノが基準ですが、他の桜も早めになると思われます)。
お花見に行くときは1週間くらい前から天気予報と
新宿御苑のニュースをチェックするとよいでしょう。

清楚で堂々とした太白と、にぎやかで色っぽい?関山。
貴方のお好みはどちらでしょうか。

新宿御苑 は 3月25日から4月24日まで毎日開園の予定

太白・関山以外にも、 新宿御苑には多種多様な桜がおよそ65種類1100本。
早春から晩春にかけて来園者の目を楽しませてくれます。
(実は、秋咲き、冬咲きの桜もあったり)

利用案内

 3月15日~6月30日までは、9時~17時30分まで開園(閉園は18時)
 桜の見頃である3月25日から4月24日まで「春の特別開園期間」として毎日開園
 ( 開園時間は季節によって異なる 。通常は月曜休園)

 一般 500円(30名以上の団体割引 400円)
 65歳以上・学生(高校生以上) 250円
 中学生以下 無料

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 公式ホームページ http://fng.or.jp/shinjuku/