日本美術とポップカルチャーを融合させた独特の世界観を想像する現代美術家・村上隆さんの展覧会へ。
2023年の夏から始まった制作の現場にも密着し、展示作品の生まれる過程を追います。
2024年4月21日の日曜美術館
「モンスター村上隆、いざ京都!」
放送日時 4月21日(日) 午前9時~9時45分
再放送 4月28日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 守本奈美(NHKアナウンサー)
現代美術の最前線を走り続ける村上隆が8年ぶりに日本で大規模個展を開いている。テーマは「もののけ京都」。村上が挑んだのは、風神雷神図や洛中洛外図屏風など千年の都が生んだ日本美術の最高峰。今回特別に制作現場への密着が許された。アイデアが生まれる瞬間や驚きの制作システムなど半年間に及ぶ取材で捉えた創作の舞台裏を紹介する。また、村上が師と仰ぐ美術史家の辻惟雄が展覧会を鑑賞。現代に至る奇想の系譜を読み解く。(日曜美術館ホームページより)
出演
村上隆 (現代美術家)
辻惟雄 (美術史家)
ニック・シムノビック (ガゴシアンギャラリー マネージングディレクター)
ジョアン・ヘイラー (ザ・ブロード館長)
アレクサンドラ・モンロー (ソロモン・R・グッゲンハイム美術館キュレーター)
ケイティ・シーゲル (ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校教授)
ビリー・アイリッシュ (シンガーソングライター)
高橋信也 (京都市京セラ美術館ゼネラルマネージャー)
村上隆のスーパーフラット(超二次元)的世界
現代美術家・村上隆
村上隆さん(1962-)はみずから「オタク第一世代」を名乗り、漫画・アニメなどの表現に日本美術に通じる独自の進化を見出した第一人者として日本のポップアートを引っ張っていく存在です。
元々アニメーターを目指していた村上さんは、2浪ののち東京藝術大学美術学部日本画科卒業に入学。
現代アートに目覚めてからも、自分の表現にサブカルチャーを取り込んできました。
日本美術の伝統と近現代のサブカルチャーを融合した独自のスタイルは、世界でも高く評価されています。
スーパーフラットの重層性
村上さんが生み出した「スーパーフラット」は日本の伝統的な美術と戦後の漫画・特撮・アニメに通じる美学を取り入れています。
鮮やかな色彩・平面的な表現・奥行きのない空間表現といった日本美術の特徴は、古くて高尚なものと現代の低俗なものに共通します。
村上さんは両者を重ねてひとつの作品にすることで、高尚・低俗を区別することに疑問を投げかけているのです。
美術史家の辻惟雄さんは、村上さんの代表作のひとつである《マイ・ロンサム・カウボーイ》(1998)と江戸絵画の重層性を指摘しました。
《マイ・ロンサム・カウボーイ》はアニメ的な特徴を備えた全裸の少年が大量の精液を出しながら仁王立ちするフィギュア作品で、2008年にサザビーズのオークションで16億円(日本人アーティストとして最高額)で落札されています。
辻さんは液体が空中に広がる曲線と狩野山雪(江戸時代初期)の大樹表現、白い飛沫と葛飾北斎(江戸時代後期)の波の表現の共通性を見出し、さらに土着のファリシズム(繁栄・豊穣のシンボルとして男根を崇拝する思想)と「高尚な」美術との対峙を読み取っています。
村上隆と辻惟雄が巡る「村上隆 もののけ 京都」
辻惟雄さんは、村上隆さんが30年にわたって師匠と仰ぐ存在。
『熱闘! 日本美術史』(とんぼの本、2014。もとは『芸術新潮』の連載)では白熱のバトルを繰り広げた相手でもあります。
そんな辻さんが、京都市京セラ美術館で開催中の「村上隆 もののけ 京都」を訪れました。
村上さんはトレードマークのお花の帽子をかぶって案内しています。
洛中洛外図屛風 岩佐又兵衛 rip
国宝《洛中洛外図屏風(舟木本)》を村上さんの解釈で再構築してほしい、という美術館のオーダーで制作された作品。
展覧会のための制作が始まった2023年の8月末には原画をパソコンに取り込む作業が進んでいましたが、村上さん自身は「どうしようかな」という状態でした。
その後、京の都とそこにいる人々の構図はそのままにして人々の表情に手を加え、街を覆う金色の雲に無数の髑髏を埋め込むことに。
そこから更にオリジナルの要素を追求して、京の街に妖怪たちが描き加えられることになりました。
村上さんは最初この作品には乗り気ではなかったそうです。
と言うより、村上さんにとって引き受ける仕事の65%くらいは描きたくないもので、ただそれに乗っていくと新しい出会いがあるんだとか。
自分の希望ではない、他所からのオーダーから始まったモノノケたちの闊歩する京の街は、村上さんにとって新しい出会いになり得たのでしょうか?
四神と六角螺旋堂
暗い部屋の中に浮かび上がる、青龍・白虎・朱雀・玄武の巨大な姿。
4体の守護獣が象徴する要素を備えた「四神相応の地」京都の中に作られた「四神相応の部屋」です。
村上さんはこの作品にも、自分の思考だけでは生まれない要素を盛り込んでいます。
たとえば打ち合わせ中の「巨大すぎる虎」というひらめきが形になった白虎は、可愛い虎のキャラクターや過去の作品に登場した虎をAIに学習させ、出力したいく通りもの虎を切り貼りすることを繰り返して作ります。
亀と蛇が絡み合う玄武も、庭で飼っているスッポンを元にAIを通したところ、怪獣のようになったり余計な手が生えてきたり…
上手い絵を描くためではなくあえて「下手っぴ」にすることで元の考えと違った物となる、そんなズレから生まれた神々は、だからこそ超常的な雰囲気をまとうのかもしれません。
風神図・雷神図
風袋から風を吹き出し風雨をもたらす風神と、太鼓を叩いて雷鳴と稲妻をおこす雷神を左右に配した屛風は、俵屋宗達が製作して以来人気モチーフとして多くの画家に制作されてきました。
その中でも代表的な尾形光琳の風神雷神図屛風を、村上さんが写します。
写すといっても忠実に模写するのではなく、風神雷神図のルールを破っていく作品です。
背景は金色、風神は緑の肌で風袋を持ち、雷神は白い肌で太鼓を叩き雷を起こす。
そんな最低限の約束事を踏まえながら、筋骨隆々の体はキューピーのような可愛らしいラインに、迫力のある顔つきも気の抜けたゆるいものに変えてしまいました。
カラフルな渦巻き状の雲は曽我蕭白の《群仙図》から採ったものですが、禍々しくならないよう明るい色でまとめています。
雲竜赤変図《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》
2010年に制作された全長18mの雲竜図は日本初公開。
元になったのは村上さんが衝撃を受けたという曾我野蕭白の《雲竜図》ですが、水墨画調の巨大な竜は赤一色で描かれています。
制作背景についてはタイトルがすべてを物語っています。
(『熱闘!日本美術史』の勝負で生まれた作品のひとつ)
ほかにも「学生さんとかに描かせて腕が落ちてるんじゃないですか?」などのお言葉があったそうで…
村上さんもその話をネタにするくらいですから、遠慮なくやりあえる仲だということなのでしょう。
村上さんにとっては「ここから超大作が動き始めた」という作品。
辻さんからも「気分爽快」と評価されています。
村上隆の「お花」たち
村上さんの代表的モチーフである、カラフルなお花のキャラクターは、もちろん今回の展覧会にも展示されています。
(洛中洛外図にも「もののけフラワー」の姿が)
《金色の空の夏のお花畑》は、白い入道雲のもと大小さまざまな「お花」たちがひしめく様子が金一色の背景に描かれています。
村上版「花を描いた金屏風」と言えるかもしれません。
野外の池に設置された《お花の親子》は、金色に輝く高さ14mの彫像。
巨大な金色が水面に浮かぶ様子は、観光名所の金閣寺にも通じるものがあります。
日本美術の装飾性と、大人も子供も笑って楽しめるエンタメ性を兼ね備えた村上さんの作品を、辻さんは「アーティストとしての意識と、子どもさんの目でも楽しめる絵を作りたいという考え」の融合と言い、今後さらなる発展を予想しているようです。
「村上隆 もののけ 京都」(京都市京セラ美術館)
村上さんは展示作品のトレーティングカードを京都市のふるさと納税返礼品にしています。
この支援のおかげで、京都市に在住または在学の学生は入場無料になりました。
このふるさと納税は、現在第2弾が実施されています。
京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
2024年2月3日(土)~9月1日(日)
10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで
月曜休館 (祝日は開館)
一般 2,200円
大学・専門学校生 1,500円
高校生 1,000円
ふるさと納税による支援により、京都市在住または京都市内の学校に通学している学生は入場無料
コメント
大変、参考になりました。ありがとうございました。