日曜美術館「琉球の風を纏う 喜如嘉の芭蕉布」

戦後、途絶える寸前だった芭蕉布の技術を復活させた平良敏子さんは、
2022年9月13日に大宜味村のご自宅で亡くなりました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。(2022年9月)

2020年3月1日の日曜美術館「琉球の風を纏う 喜如嘉の芭蕉布」

放送日時 3月1日(日) 午前9時~9時45分
再放送  3月8日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)

司会 小野正嗣(作家)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

涼やかな風纏う布・芭蕉布。より薄く、より軽く、沖縄県喜如嘉の女たちは、蒸し暑い琉球の風土の中で“トンボの羽”のような布を求めてきた。500年の伝統の秘密を追う。

日曜美術館ホームページより

出演
 平良美恵子 (喜如嘉芭蕉布事業協同組合理事長)
 前田正子
 崎山八重子
 中田勝子
 山城良子

喜如嘉の芭蕉布を繋げる人々・繋げてきた人々の姿

芭蕉布の着物に袖を通した小野正嗣さんの最初の言葉は「軽い」でした。
沖縄の蒸し暑い風土にあわせて生み出された芭蕉布は、
より薄く軽い「透明なトンボの翅のような」布。
風通しがよく張りがあるため、肌に張り付くことがなくさらりとした着心地だそうです。
今回はスタジオを離れ、沖縄県 大宜味村(おおぎみそん)喜如嘉(きじょか)に
500年以上うけつがれてきた芭蕉布づくりの技と歴史を追っていきます。

芭蕉の糸ができるまで

芭蕉布づくりはまず、糸芭蕉を育てるところから始まります。
糸芭蕉の収穫時期は秋から冬。
人間よりも背が高い3年物の糸芭蕉を切り倒し、
表の硬い皮を除いて内側の柔らかい皮を取ります。
この皮は性質ごとに座布団用・帯用など4種類に分けられます。
着物になるのは「ナハグー(中子)」と呼ばれる部分。
1本の芭蕉から採れるナハグーは約5グラムで、
着物を1着作るためには200本の芭蕉が必要だそうです。

収穫された芭蕉の皮に灰汁を加えて鍋で炊いたものを一晩寝かせ、
次の日の内に「苧引き(ウービキ)」と呼ばれる作業を行います。
これは竹のハサミでしごいて表面の不純物を取り除く作業で、
同時に繊維が硬い縦糸むきのものか、柔らかい緯糸むきのものかを見極めるのだそうです。
不純物を取り去った繊維は陰干しにされ、透明感のある生成りの色になります。

乾燥した繊維は糸になる工程の前に、
繊維同士が絡まらないよう扱いやすい形に巻き取られます。
(これを「チング巻き」といいます)
完成形はビニールひもを巻いたのに似ていました。

これをいよいよ糸にしていきます。
水に浸した繊維を細かく裂いて、同じ太さ同士を結んでつないでいく
この作業は「苧績み(ウーウミ)」といい、
着物1着分の糸をとるためにはだいたい22,000回結ばなくてはならないとか。

ちなみに「苧績み」の「績む」は長い繊維をつないで糸にすることをいいます。
芭蕉布のように機結び(結び目が小さくほどけにくい結び方)で結んでいく方法と、
撚り合わせてつなぐ方法があります。

一般的に使われる「紡ぐ」は綿状のものから繊維を引き出し撚りを掛けて糸を作る方法で、
木綿のような短繊維や真綿・屑繭から作る絹糸に使います。

こうして糸ができあがると次の染めや織りの工程に入るわけですが、
糸だけで3年以上の時間が必要と思うと気が遠くなりますね。
(なお、麻と綿木は1年草だそうです)

芭蕉布の断絶と復興のいきさつ

芭蕉布の歴史は、現在から500年以上も遡れるそうです。
1429年から1879年まで琉球諸島を中心に栄えた琉球国では
王家が専用の畑を所有して
黄色(国王のみが身に付けられる色)や緋色など鮮やかな色の衣装を楽しんだほか、
庶民も生成りや琉球藍の紺色などの芭蕉布を身に付けていました。

芭蕉布を作る技術は専ら女性にうけつがれ、
昭和初期に男性が出稼ぎに行くようになると布を売って生活を支えたそうです。
女性の手によって長く続けられてきた芭蕉布づくりですが、
太平洋戦争末期の沖縄戦(1945.3.26-6.23)で生産が途絶えたうえに
戦後沖縄を占領した米軍が蚊の繁殖を抑えるために糸芭蕉を切り倒してしまい
断絶の危機に陥りました。

一度途絶えた芭蕉布を復興させた立役者が、
2000年に人間国宝に認定された平良敏子さん(1921-2022)です。
戦争で夫を失った未亡人を集めて1953年に芭蕉布づくりを再開。
喜如嘉の芭蕉布保存会は1974年に国指定の重要無形文化財に指定されました。

軽くて重い芭蕉布

芭蕉布の軽さに感心した小野さんでしたが、
「こもっているものは重たいし尊い」とも言います。
3年余りの時間をかけ、さまざまな人の手を経て作られる芭蕉布は
途中の工程を担う誰かひとりが欠けても完成しません。
そうして出来上がった芭蕉布を纏う人がいて、
その一人ひとりが糸を結ぶように繋がっている。
美しい芭蕉布はそんな理想的社会の在り方だ、と。

番組の中では2人の女性が
生成りの地にそれぞれ違った絣模様の芭蕉布に紫の帯を締めた姿を披露してくれました。
あの着物もきっと沢山の人が手をかけてできあがったのでしょう。
そして一度断絶しかけた芭蕉布の伝統を今につなげるためにも
沢山の人の力が必要だったことを考えると、
一着の着物、 一枚の布、 一本の糸がとても尊いものに思えてきます。