美術館にドレスコードはあるのか? 服装マナーを考える

先に結論を言いますと、
少なくとも日本では博物館・美術館という施設を利用するにあたり
ドレスコード(服装規定)というものはありません。
美術館は「公共のための施設」ですから、極端なことを言えば
家の外にでられて、他人に見られても恥ずかしくない服装なら問題ないことになります。

そうは言っても、自分が周囲から浮いていないか
人からどう見えているか気になるのが人情というもので、
「美術館・コーデ」「美術館・服装」などのワードで検索すると
美術館に行くための素敵なコーディネイトが沢山提案されています。
(特に女性のファッション)

こういった場面で提案されているのは
落ち着いた色合い、派手な装飾や露出を避けたコーディネイトなど、
知的でシックな印象を与える服装で、
「美術館は文化的な学びの場であってほしい」という、
コーディネイターの方の思いが伝わってきます。

わたしとしては、日本美術の展覧会に和服で出かけたり
肖像画の人物を参考にしたカラーやアイテムを工夫したりと、
作品をリスペクトしたファッションで出かけるのも面白いと思います。


美術館の服装マナーとは? 注意するべきポイント

現実的に考えれば、美術館にドレスコードを設けるのは難しいでしょう。

たとえば、
好きなアーティストの作品を見に来た人
子ども連れの親御さん
親戚に押し付けられた無料券を持った学生
なんとなく非日常な空間を楽しみたい人
ポスターを見て興味が湧いたご近所さん
美術系の学生
SNSのネタ探しに来た人
仕事帰りにちょっと綺麗なものを見て癒されたい会社員…

こんな具合に美術館を訪れる動機は様々で、
これらの人たちが共存できるのが美術館ですから。

美術館がやけに高級感のある施設に併設されていて普段着では入りにくい、
または美術館を会場にしてブラックタイのイベントが開催される、
なんて事態はあるかもしれませんが、
それは美術館ではなく立地やイベントの問題ですよね…。

そんなわけで、美術館に細かいドレスコードを設けるのは無理だと思います。
あえて規定するなら、
「家の外に出て他人に会っても恥ずかしくない服装」でしょうか。

これを踏まえたうえで、注意したいポイントを考えてみます。


作品に触れる可能性があるもの(額縁・台座も注意!)

美術館に展示されているものがすべてケースで保護されているとは限りません。
絵画作品の場合は表面を保護するガラスを被せてある場合もありますが、
表面がむき出しになっている場合も意外と多いのです。

見過ごされがちな絵画の額縁・彫刻の台座なども、もちろん接触厳禁です。
たとえばレオナール・フジタこと藤田嗣治は
絵画に合わせて額縁まで自作することがあったそうで、
こうなると額縁も立派な「藤田の作品」ですよね。
(そうでなくとも、作品と同時代に作られた貴重品だったり…)

他の入場者の邪魔になるもの

公共の場所ですから、当然他の入場者がいます。
コロナウイルスの感染拡大からこちら
日時指定入場制が一般的になってきたこともあって、
展示ケースに近寄れないほど会場内が込み合うことは
少なくなっているかもしれませんが、
体がぶつかる、視界を遮る、音やにおい等、
他の人の鑑賞を邪魔するようなことは気をつけたいものです。

自分の疲労や体調不良の原因になるもの

国立博物館のように見るからに広い建物はもちろん、
個人宅くらいの大きさの美術館でも、
展示室内を移動するとけっこう長い距離を歩くことになります。

エレベーターやエスカレーターがなかったり、
あったとしても分かり難い場所だったりすることも。
(特に、歴史のある…つまり建物が古い美術館は要注意です)

また展示室内は、貴重な作品を傷めないように
気温や湿度が低めに設定されています。
大抵の美術品はカビと湿気と虫が大敵なので、これは仕方のないこと。
美術館コーデを考える人たちが露出を控えるのは
これも理由の一つかもしれませんね。
特に女性は、上着やストールなどを用意して
体を冷やさないように注意しましょう。
ミュージアムの冷え対策については、こちらの記事もどうぞ

美術館によってはブランケットの貸し出しサービスがありますが
全ての美術館にあるわけではありませんし、
現在はウイルス対策で中止している所が多いと思われます。


美術館のNGファッション、NGアイテム

くり返しになりますが、
家の外に出て人に会えないような格好でない限り
美術館や博物館にNGファッションはありません。
ただし上で上げた注意点を踏まえると、
やめた方が良いものはあります。

それを身に付けていることで犯罪になったりはしませんが、
あなた自身が無駄に疲れたり、周囲の人に嫌がられたりする可能性はあります。

ハイヒールなど踵の高い靴

くり返しになりますが、美術館に行くとかなり歩くことになります。
しかも自分のペースが守れるとは限りません。
スローペースで時々立ち止まりながら歩くのは、
場合によっては普通に歩くよりも疲れたりしますよね。

また、美術館の床は堅いことが多いので(フカフカの絨毯は少数派です)
足が疲れる以外に、足音が響くという問題があります。

ハイヒールを履いて一日中歩いても疲れないし、段差や階段も平気。
どんな時でも足音を響かせない優雅なウォーキングができる…
という場合は何の問題もありませんが、
そうでなければ美術館に行く前に練習するのが無難です。

もしくは、最初からフラットシューズやスニーカーなど
踵の低い靴を履く方が良いでしょう。

かさばる荷物(特にリュックサック)

ミュージアムショップで買い物をするための財布をはじめとする必需品や、
会場内で配布されている展示品リストやチラシなどを入れるためにも
バッグは必要ですが、
重すぎたり大きすぎたりすれば邪魔になります。

持ち主が疲れるのはもちろん、
人にぶつかる・視界を遮るなどして他の入館者の迷惑になったり、
展示品に触れてしまう危険も。

特にリュックサックは、大きさに関係なく要注意。
人間の目が背中についていない以上、注意しすぎということはありません。
日本なら監視係の人に緊張を与えるだけですみますが(?)、
外国の美術館では警備員が駆けつけて、
ロッカーなどに預けるか、体の前で抱えるかするまで
許してもらえないこともあるとか…

たいていの美術館には無料で利用できるコインロッカーがありますが、
最初から荷物は少なく・小さくまとめておくのが無難かもしれません。

つばのある帽子(ベースボールキャップを含む)

荷物と同じ理由(かさばる・他人の迷惑)に加えて、
帽子のつばの出っぱり具合は意外に把握できません。

展示室のガラスケースには、
近づきすぎておでこをぶつけたらしい跡が
白っぽく残っていることがありますが、
帽子のつばなら余計に距離感を間違えやすいものです。

ぶつかるのがケースのガラスならまだしも
(ケースにぶつかるのも決して良いことではありませんけど)
むき出しで展示してある美術品にうっかり触れてしまったら…
あんまり考えたくない事態ですよね。

白っぽい服装

これは他人の迷惑というよりも自分の鑑賞の都合ですが、
展示室やケース内の照明の具合によっては、
白・黄色などの明るい色だとガラスケースに映りこんでしまいます。
ガラス面に白っぽく浮かび上がる自分の姿、そのむこうに見える展示品…
嬉しいものではありません。

美術館によっては透明度が高く反射が少ない特殊ガラスを
展示ケースに採用している場合もありますが
(SOMPO美術館の「ひまわり」の展示ケースが有名)
特殊素材なだけに少数派のようです。

絶対NGというわけではありませんが、
明るい色と暗い色の2択で迷った時は暗い色を選んだ方が無難です。


美術館=公共の場 ということ

「公共の場」は一般に開かれているもの、あらゆる人のためのものです。
まず、自分が美術館を楽しめること。
それに加えて、自分以外の人と美術館に対する心遣いを忘れなければ、
あるべきドレスコードも見えてくるのではないでしょうか。

…蛇足になりますが、
自分も含めた入館者の服装に厳しくなり過ぎないことも大事だと思います。