ハンチョウ×科博…!黒服・牧田の年パス事情?

ギャンブル漫画の第一人者・福本伸行先生の『賭博破戒録カイジ』に登場する大槻班長が主役のスピンオフ『一日外出録ハンチョウ』。
味わい深いキャラクターたちの中に、上野の国立科学博物館の年パスを所持する黒服・牧田がいます。

『ハンチョウ』の科博マスター? 黒服・牧田

これは……
地下にいながらもチンチロで大金を稼ぎ……「1日外出券」を利用しては…外で悠々自適な1日を送る
E班トップ……
大槻班長の 1日外出の記録である……!

第1話「玉座」『一日外出録ハンチョウ』(講談社,2017-)

『1日外出録ハンチョウ』は、福本伸行先生の人気作品『カイジ』シリーズのスピンオフ作品です。
(協力:福本伸行、原作: 萩原天晴、漫画:上原求・新井和也)

主人公は『カイジ』の主人公たちも収容された地下の強制労働施設で作業班長を務める大槻。
スピンオフなだけに『カイジ』のハードさとは趣きを変えて、1日外出券を使ってグルメや旅行を満喫する大槻の姿が描かれ、その姿に共感を寄せる読者が続出し、ついには本編で転落していく姿を見るのが辛くなってしまった…という声も上がっているんだとか。

とんでもない高利の借金を背負わせ、債務者を強制労働施設に送り込むブラック企業(もはや犯罪組織)帝愛グループ。
その怪しさを強調する黒スーツにサングラスの 平社員たち(通称「黒服」)は『ハンチョウ』にも登場します。
問題の牧田は、1日外出券で外に出た債務者の監視・回収を行う「監視黒服」として登場したのですが…

『ハンチョウ』科博会(53話)で牧田初登場!

帝愛の黒服・牧田慎二。
監視黒服として『ハンチョウ』53話に登場したのが初登場です。

この牧田という黒服……
実は科博の年間フリーパスを所持し……
近くの千駄木に住みながら……
休日には男手ひとつで育てた2人の息子を何度も科博に連れていっていた……
科博ヘビーユーザー……!

第53話「観覧」(単行本7巻)

上野で解放された大槻(と仲間の沼川と石和)は、予約したランチまでの1、2時間を科博で潰すことを思いつきます。
「サクっと」科博を見て、そのその後食事に行くつもりの大槻たちでしたが…
入館前から館外のシロナガスクジラに時間を取られ、30分以上かけて地球館1階の3分の1も進まない。
(科博ユーザーにとってはよくあること)

おい…!
あんまりなめてんじゃねえぞ……?
上野の科博を……………!

遅々とした歩みを見せつけられて我慢の限界に達した牧田は、自ら科博の案内を買って出ます。
「熱烈でかつ…………迅速……!」と評される牧田のナビ力をもってしても閉館30分前までに地球館を大方見て回るのが限界だったようですが、科博の魅力に目覚めた大槻たちは残る日本館を攻略するべく翌日も科博に繰り出すことになったのでした。

初登場にしてここまで情報が開示されたキャラクター、ほかにいないのではないでしょうか。
この回だけで名前のほかに

  • 科博ユーザー(年間パスポート所持)
  • 千駄木在住
  • 息子が2人いる
  • シングルファザー

さらに、頼まれてもいないナビを買って出るなかなかの世話焼き…一歩間違えるとお節介と言われそうな人柄が見えてきます。

その後の牧田登場回と「一日外出録マキタ」

牧田はその後、本編のエピソードに何度も登場しています。

59話「歩旅」(8巻)で大槻たちの旧東海道歩き旅を監視した時は、日本橋から横浜まで歩いて筋肉痛に苦しみ。
(なお監視終了の翌日に、息子とサッカーをする約束があったそうです…大丈夫だったんでしょうか)
69話「起点」(9巻)では息子たちを連れて花見キャンプに参加。
長男・俊也と次男・弘樹の名前が判明しました。
また4話「飲芋」から登場している黒服・宮本の指導係だったことも明らかにされます。

80話「婚話」(10巻)では地下労働を卒業した元債務者・木村が婚活デートに着ていく服選びを手伝い。
100話「打場」(13巻)では「ゴルフ教え魔おじさん」として、大槻たちを指導。

残念ながら科博通ぶりを発揮することはないようですが、面倒見の良いお父さんキャラとしてのポジションを確立しています。
大槻たちとの距離感も監視役というより家族ぐるみで付き合いがある職場の同僚といった雰囲気で、監視対象と親しくしすぎて左遷されるのでは…と心配になるほど。
小学6年生の次男・弘樹は、102話「御田」(13巻)で「ポツンとやってる屋台」のおでんが食べてみたいという希望を大槻にかなえてもらい、さらに132話「背伸」(17巻)では、大槻の一日外出に同行して大人の世界を体験させてもらっています。

そして単行本19巻に収録されている特別編 「一日外出録マキタ」では、業務の合間に降ってわいた「束の間の自由時間(フリータイム)」を楽しみながら自分を見つめ直す姿を見せてくれました。
(奥さんは死別したらしい描写があったのもこの回です)


黒服・牧田の年パス事情

有能な社員・良き父親という属性だけでも十分に個性がある牧田ですが、最近忘れられがちな科博ユーザーとしての顔も彼の魅力です。

牧田の年パスは「リピーターズパス」

ストーリーでは「年パス」と呼ばれていますが『ハンチョウ』の作品内で牧田が所持しているのは年間1,500円の「リピーターズパス」です。
このリピーターズパスでは、常設展の年間フリーパス(特別展は割引のみ)に加えて、ショップ・レストランの割引などのサービスが受けられます。

科博の年パスはもうひとつ「科博友の会会員証」があり、こちらはリピーターズパスのサービスに加えて、特別展の無料入場(各1回)や科博情報誌の送付などがあります。
科博通の牧田は科博の家族会員(大人1人と小学〜高校生2人で6,700円)を検討したこともあるかもしれませんね。
最近は息子たちが科博に付き合ってくれないそうですが(第53話「観覧」)、親子3人で特別展の入場列に並んだこともあったろうな…と想像してしまいます。

「科博友の会会員証」と「リピーターズパス」 の違いについては、こちらの記事もどうぞ。
国立科学博物館の年間パスポート「科博友の会」と「リピーターズパス」はどちらがお得?

『ハンチョウ』と行く科博…牧田の推しはどこ?

『ハンチョウ』制作陣の取材能力は素晴らしく、漫画に登場する科博のスポットはほぼ実物と同じように描かれています。
大槻たちが訪れた場所を探して、科博に行ってみました。
所要時間は、寄り道や昼食の時間を含めて約3時間。
大槻たちは13時30分ごろ地球館1階に入場し、閉館30分前の16時30分には地球館をおおよそ見て回ったようです。
科博初心者3人を引き連れて、しかも予め予定を立てたわけでもない突発ツアーで、地球館をほぼ歩き切った牧田の有能さは、尊敬するしかありません。

シロナガスクジラの実物大模型(館外)


入館前の大槻たちが大いに盛り上がった科博のマスコット。
入口とは反対の出口側にあります。
個人的にもっともお勧めの鑑賞ポイントは退館後出口を過ぎた辺りなのですが、実物大の迫力に釘付けになる気持ちはわかります。

ボイセイ猿人の頭骨(地球館1階)


石和のお父さん疑惑が持ち上がったボイセイ猿人ことアウストラロピテクス(パラントロプス)・ボイセイ。
今の人類の祖先にあたるホモ属と同じアウストラロピテクス属から分化し、初期ホモ属と同じ時代に生息していました。
ボイセイ猿人は約170万年前に発生し、約100万年前に絶滅したそうです。

レストランムーセイオン(地球館M2階)

描写はありませんが、昼食は牧田推薦のレストランムーセイオンに行ったはずです。
こちらは1872年創業の洋食店・上野精養軒の系列店で、美味しい洋食を味わえます。
科博の展示をコンセプトにした特別メニューも豊富、しかもアルコールメニューもありますから、大槻たちも満足したことでしょう。
店内のガラス窓からは1階展示室を見おろすことができます。

シアター36⚪︎ (日本館1階)


科博オリジナルの映像(各6〜10分ほど)を月替わりで楽しめます。
360°全方位に展開する映像を球形のスクリーン内に入って鑑賞する迫力満点のアトラクション。
牧田が真っ先に大槻たちを引っ張っていったのも納得ですね。

カラスアゲハの亜種(地球館1階)


カラスアゲハはアジアからオセアニアにかけて分布するアゲハ蝶の仲間で、生息する地域によって色や模様が違う亜種が存在します。
お手元に『ハンチョウ』があれば、この標本と見比べてみてください。
蝶の配置が実際の標本そのもので、描かれているのがどの部分かまで特定できてしまうんです。

ホモ・フロレシエンシス(地球館地下2階)


インドネシアのフローレス島で、1万数千年前まで生き残っていたという牧田の推し原人。
身長1メートルあまりの小柄な体から、小説『指輪物語』になぞらえて「ホビット」という呼び名が付けられました。

パラケラテリウムの化石(地球館地下2階)


史上最大の哺乳類。
(細かい事を言うと、ゾウ類に次ぐ史上最大級の陸生哺乳類)
3,600万〜2,400万年前のユーラシアに生息していました。
サイの仲間ですが、ツノはありません。

万年時計(地球館2階)


迅速に一行を案内していた牧田がつい足を止めて見入ってしまったのが、こちらの万年時計(万年自鳴鐘とも)。
江戸から明治にかけて活躍した発明家で、後の芝浦製作所(現在の東芝のもとになった会社)を創業した田中久重(1799-1881)の傑作です。
現代の時計(洋時計)の機能の他に、1年間の太陽と月の動きを模型で表す天象儀、日本古来の不定時法に対応した和時計、二十四節気、十干十二支、月齢、曜日の機能も備えています。
2006年に、重要文化財に指定されました。

ハーブガーデン(地球館屋上)


閉館30分前、牧田が最後に案内してくれた場所。
奥のスカイデッキは上野公園が見下ろせる絶景スポットです。
息子たちにジュースを買っただろう自販機もありますよ。
ハーブガーデンとスカイデッキは飲食可能なので、天気が良ければお弁当を広げることもできます。