エル・グレコ《受胎告知》ー 大原美術館でエル・グレコの作品を見たら、カフェ「エル・グレコ」で珈琲を?

16〜17世紀の偉大な画家のひとりであるエル・グレコの絵画は、日本国内に2点あります。
その片方を所有しているのが、岡山県倉敷市の大原美術館。
この美術館に収蔵されている作品の中でも、エル・グレコは特別な存在のようです。

エル・グレコ《受胎告知》(大原美術館)

大原美術館のエル・グレコ


エル・グレコの《受胎告知》(写真左)は日本に2点しかないエル・グレコの片割れで、日本にやってきた最初のエル・グレコでもあります。
この《受胎告知》は1922年にパリの画廊で売りに出されていたところを、美術館のための絵画を収集していた児島虎次郎に発見されたそうです。
すでに巨匠として評価が定まっていたエル・グレコの作品は当然高額でしたが、児島は日本の大原孫三郎に相談した上で購入を決めました。
《受胎告知》は1923年には倉敷で初公開され、現在も大原美術館に所蔵されています。
この絵を見るために倉敷を訪れる人も少なくありません。

日本にあるもう1点のエル・グレコは国立西洋美術館の《十字架のキリスト》
この他には徳島県の大塚国際美術館に陶板画による原寸大の複製がありますが、オリジナルの絵画はこの2点のみです。
エル・グレコの貴重さがよくわかりますね。

大原美術館

岡山県倉敷市中央1-1-15
大原美術館へのアクセス(JR倉敷駅より)は、こちらの記事でも紹介しています。
大原美術館へのアクセス ー JR倉敷駅から徒歩の行き方

月曜休館 (祝日・振替休日は開館)
*冬季休館あり
*7月下旬〜8月は無休

3月〜11月 9時〜17時
12月〜2月 9時〜15時 (入館は閉館の30分前まで)

一般 2,000円
小学・中学・高校生(18歳未満) 500円
小学生未満 無料

公式ホームページ


エル・グレコの《受胎告知》という作品

生涯で多くの宗教画を残したエル・グレコ(1541-1614。本名はドメニコス・テオトコプロス)の作品です。

エル・グレコはクレタ島の出身で、聖像画(イコン)の職人として独立。
その後イタリアに渡ってヴェネツィア・ローマで修行した後、スペインのトレドに定住しました。
通称の「エル・グレコ」は古いスペイン語で「ギリシア人」という意味です。

大原美術館の《受胎告知》は、スペインに定住した後、エル・グレコの全盛期に描かれた作品と考えられています。
力強いタッチ、ダイナミックなフォルム、鮮やかな色彩とドラマティックな明暗の表現といったエル・グレコの特徴が遺憾無く発揮され、画面の中の人物が飛び出してくるような迫力があります。

エル・グレコが戦争に巻き込まれたら?

大原美術館が所有する作品のうち、オールドマスター(18世紀以前のヨーロッパで活躍した偉大な画家)の作品はこの1点のみ。
それもあってか、大原美術館の関係者にとってエル・グレコはちょっと特別な扱いだったようです。

エル・グレコの重要さが伺える戦時中のエピソードを、大原孫三郎の孫にあたる大原謙一郎さんが紹介しています。
大原美術館で下足番(当時は靴を脱いで上がるスタイルだったので、お客さんの履き物を管理する人がいました)をしていた女性の家に嫁いだお嫁さんが、ご主人から言われた事なんだそうです。

(前略)もし爆撃されてここに火が入ったら、本館の2階へ行けと。そうしたら火で白く輝いている絵があるーこれはセガンティーニの《アルプスの真昼》という絵です。その隣に黒い絵があるから、それを外して持って逃げろと。それがエル・グレコの《受胎告知》。臨場感あるでしょ。そういう危機感をもって仕事をしていたのです。

(阿川佐和子さんとの対談より)
『はじまり、美の饗宴 すばらしき大原美術館コレクション』学研、2016

絵の名前よりも見た目の印象を優先した指示は「実際に火事になった時間違いなく持ち出せるように」という計算でしょうか。

ここで目印になった《アルプスの真昼》は色の明るさに加えて所々金を使っているので、本当に火が入ったら間違いなく明るく輝いたはずですが…そんな事態にならなくて幸いでした。


「エル・グレコ」というカフェ


大原美術館のお隣には、その名も「エル・グレコ」という喫茶店があります。
蔦(アイビー)の絡まる外観は外から見るといかにも昔ながらの格式高いカフェ…というイメージで、人によっては敷居が高く感じるかもしれません。
ところが中は意外なほど明るく広々としていて、コーヒー(トラディショナルブレンド900円、ストロングブレンド770円)やレアチーズケーキ(720円)をいただきながらくつろげるお店です。
(値段は2024年現在のもの)

こちらの「エル・グレコ」は、もともと大原孫三郎が農地を管理する会社の事務所として建てたものでした。
設計は大原美術館の設計者でもある薬師寺主計で、壁面のアイビーはこの人の好みだったそうです。
1959年に会社が移転すると、初代店主が建物を改装して喫茶店を開業しました。
初代は茶人(茶道の専門家)で、大原家にお客があると接待役を務めていた縁で喫茶店を開業することになったんだとか。
「エル・グレコ」という店名を付けたのは大原總一郎(孫三郎の長男)で、もちろん《受胎告知》にちなんだ命名です。
エル・グレコの絵を見た後は「エル・グレコ」でコーヒーを飲みながら余韻を楽しむのはいかがでしょう。

珈琲 エル・グレコ

岡山県倉敷市中央1-1-11(大原美術館の隣)

10時〜17時

月曜定休

公式ホームページ
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