エル・グレコ《受胎告知》ー「大原美術館のエル・グレコ」戦争を乗り越え、修復を経て…

16〜17世紀の偉大な画家エル・グレコの絵画は、日本国内に2点あります。
その片方を所有しているのが、岡山県倉敷市の大原美術館。
この美術館に収蔵されている作品の中でも、エル・グレコは特に古い時代の作品です。
2025年には、後世の加筆を取り除いて発表当時の状態に近づける修復がおこなわれました。

エル・グレコ《受胎告知》のある美術館

大原美術館のエル・グレコ


エル・グレコの《受胎告知》(写真左)は日本に2点しかないエル・グレコの片割れで、日本にやってきた最初のエル・グレコでもあります。
この《受胎告知》は1922年にパリの画廊で売りに出されていたところを、美術館のための絵画を収集していた児島虎次郎に発見されたそうです。
すでに巨匠として評価が定まっていたエル・グレコの作品は当然高額でしたが、児島は日本の大原孫三郎に相談した上で購入を決めました。
《受胎告知》は1923年には倉敷で初公開され、現在も大原美術館に所蔵されています。
この絵を見るために倉敷を訪れる人も少なくありません。

日本にあるもう1点のエル・グレコは国立西洋美術館の《十字架のキリスト》
徳島県の大塚国際美術館には陶板画による原寸大の複製がありますが、オリジナルの絵画はこの2点のみです。
エル・グレコの貴重さがよくわかりますね。

ちなみに大原美術館のお隣には、その名も「エル・グレコ」という喫茶店があります。
元は大原孫三郎が農地を管理する会社の事務所で、会社の移転後に喫茶店になりました。
設計は大原美術館の設計者・薬師寺主計。
「エル・グレコ」という店名は、大原總一郎(孫三郎の長男)がつけたものです。
エル・グレコの絵を見た後は「エル・グレコ」でコーヒーを飲みながら余韻に浸る…なんてこともできます。

エル・グレコと《受胎告知》について

《受胎告知》の作者エル・グレコ(1541-1614)はギリシアのクレタ島出身で、本名をドメニコス・テオトコプロスといいました。
通称の「エル・グレコ」は古いスペイン語で「ギリシア人」という意味です。
聖像画(イコン)の職人として独立したグレコは、イタリアに渡ってヴェネツィア・ローマで修行した後スペインのトレドに定住し、その地で亡くなりました。

グレコは生涯で多くの宗教画を描いていますが、《受胎告知》は代表作のひとつ。
スペイン定住後、グレコの全盛期に描かれた作品と考えられています。
力強いタッチ、ダイナミックなフォルム、鮮やかな色彩とドラマティックな明暗の表現といったエル・グレコの特徴が遺憾無く発揮され、画面の中の人物が飛び出してくるような迫力があります。


エル・グレコ《受胎告知》と大原美術館 ― 戦争、そして修復

大原美術館が所有する作品のうち、オールドマスター(18世紀以前のヨーロッパで活躍した偉大な画家)の作品はこの1点のみ。
それもあってか、大原美術館の関係者にとってエル・グレコはちょっと特別な扱いだったようです。

エル・グレコが戦争に巻き込まれたら?

エル・グレコの重要さが伺える戦時中のエピソードを、大原孫三郎の孫にあたる大原謙一郎さんが紹介しています。
大原美術館で下足番(当時は靴を脱いで上がるスタイルだったので、お客さんの履き物を管理する人がいました)をしていた女性の家に嫁いだお嫁さんが、ご主人からこんな事を言われていたそうです。

(前略)もし爆撃されてここに火が入ったら、本館の2階へ行けと。そうしたら火で白く輝いている絵があるーこれはセガンティーニの《アルプスの真昼》という絵です。その隣に黒い絵があるから、それを外して持って逃げろと。それがエル・グレコの《受胎告知》。臨場感あるでしょ。そういう危機感をもって仕事をしていたのです。

(阿川佐和子さんとの対談より)
『はじまり、美の饗宴 すばらしき大原美術館コレクション』学研、2016

絵の名前よりも見た目の印象を優先した指示は「実際に火事になった時間違いなく持ち出せるように」という計算でしょうか。

ここで目印になった《アルプスの真昼》(写真右)は、色の明るさに加えて所々金を使っています。
本当に火事になっていたら間違いなく明るく輝いたはずですが…そんな事態にならなくて幸いでした。

エル・グレコの修復

大原美術館で大切に守られてきたエル・グレコですが、もちろんただ保管されるだけではありません。
貴重な作品を未来に伝えるために現在も研究され、必要なメンテナンスが行われています。

最近では科学的調査で別の画家が後から色を付けた部分が見つかり、2025年7月からおよそ1か月かけて加筆された部分を取り除く修復がおこなわれました。
1959年に表面の汚れを落とす修復を受けて以来、66年ぶりだそうです。

この修復は一般財団法人クラレ財団の助成で、スペインの国立プラド美術館から修復の専門家が招かれました。
クラレ財団の母体企業であるクラレグループは、大原美術館を設立した大原孫三郎が1926年に創業した会社(当時は「倉敷絹織(株)」)で、これまでも大原美術財団所有の美術品修復を支援しています。

《受胎告知》の再展示は2025年9月以降。
また《受胎告知》修復の様子が動画で公開されています。
大原美術館のYouTubeからどうぞ
動画制作はクラレグループの創立100周年記念事業の一環で、他にも《受胎告知》をはじめとする大原美術館の作品のデジタル画像化、ドキュメンタリーの制作などが進行中だそうで…今から楽しみです。


大原美術館と珈琲エル・グレコ

大原美術館

岡山県倉敷市中央1-1-15
大原美術館へのアクセス(JR倉敷駅より)は、こちらの記事でも紹介しています。
大原美術館へのアクセス ー JR倉敷駅から徒歩の行き方

月曜休館 (祝日・振替休日は開館)
*冬季休館あり
*7月下旬〜8月は無休

3月〜11月 9時〜17時
12月〜2月 9時〜15時 (入館は閉館の30分前まで)

一般 2,000円
小学・中学・高校生(18歳未満) 500円
小学生未満 無料

公式ホームページ

珈琲 エル・グレコ

岡山県倉敷市中央1-1-11(大原美術館の隣)

10時〜17時

月曜定休

公式ホームページ