岩合光昭はどんな人? 猫写真から野生動物、ナショナルジオグラフィックの表紙まで

わたしなどは写真家の岩合光昭さんに対して「世界各国で猫の写真を撮る人」というイメージを持っていましたが、ファンや写真に詳しい人はご存知のように、岩合さんはもともと野生動物写真の専門家でもあります。

岩合光昭とはどんな人? ― 猫と野生動物

わたしが岩合さんが野生動物写真の大家だと知ったのは2022年の東京都写真美術館で開催された展覧会「パンタナール」がきっかけで、それまでは猫の専門家だと思い込んでいました。
(今考えると申し訳ない)

猫写真のベテラン

岩合光昭さんが猫を撮りはじめたのは高校生のころだといいますから、1960年代の後半くらいでしょうか。
スマホが普及して誰もが気軽に猫を撮影できるようになるよりもずっと前です。
日本が空前の猫ブームだと言われるようになったのは2010年代ですから、岩合さんはそのずっと前から猫の写真を撮っていた、まさに第一人者と言えます。

以来、ライフワークとして半世紀以上も猫の写真を撮り続け、いまや大型書店に行っても猫の写真集を集めたコーナーに岩合さんのスペースが設けられていたりしますから、質・量ともに日本のトップ、猫写真と言えば岩合光昭! というイメージがありますね。
現在も岩合さんの猫写真の展覧会は各地で開かれていますし、2012年から始まり2013年にシリーズ化したドキュメンタリー番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK BSP4K、 NHK BS)は現在も好評放送中です。


野生動物写真の専門家

岩合さんが動物写真を志したのは、日本の動物写真家の草分け的存在だった父・岩合徳光さん(1915-2007)の助手としてガラパゴス諸島を訪れた19歳の時だったそうです。

初の野生動物写真集は、レイチェル・カーソンの『われらをめぐる海』(1951)に影響されて、約40か国の海に住む動物たちを取材した 『海からの手紙』(朝日新聞社,1981)。
『アサヒグラフ』に2年3カ月(115回)にわたって掲載され、連載中の1980年に第5回木村伊兵衛写真賞を受賞しました。

展覧会の予定は岩合光昭さんのオフィシャルサイトをチェックしましょう。
猫や野生動物の写真は、サイトの写真ギャラリーや公式SNSでも見ることができます。


岩合光昭と『ナショナルジオグラフィック』

岩合光昭さんと言えば、1986年と1996年にアメリカの科学誌『ナショナルジオグラフィック』の表紙を飾ったことも有名です。
『ナショナルジオグラフィック』の日本版が創刊された1995年以前に、2度も表紙に採用されたのは、日本人唯一の快挙でした。

『ナショナルジオグラフィック』は科学・教育のための非営利団体の会員誌として1888年に創刊されました。
月刊誌になったのは1896年のこと。
その後写真を使った誌面に力を入れるようになり、1962年には全ページカラー写真で構成されたアメリカの雑誌第一号になりました。

岩合さんは、過去の『ナショナルジオグラフィック』に掲載された野生動物写真の傑作を集めた『ナショナル ジオグラフィック 傑作写真ベスト100 ワイルドライフ2 』(日経ナショナルジオグラフィック社、2006)の監修も担当しています。


セレンゲティの野生動物と『ナショナルジオグラフィック』

岩合さんは、1982年8月からおよそ1年半かけてタンザニアのセレンゲティ国立公園で、野生動物を撮影しています。
この出発の直前に知り合いのカメラマンが『ナショナルジオグラフィック』の編集者になったことを知り、アフリカで撮った写真を使ってくれないかと頼んだ岩合さん。
この時は、ばっさり断られてしまいました。

帰国後に出版した写真集『セレンゲティ ― アフリカの動物王国』(朝日新聞社、1984)を同じ編集者に送ったところ、今度はOK。
逆にワシントンD.C.の編集部に写真を持ってきて欲しいと頼まれ、40ページの特集が組まれることになりました。
1986年5月号(Vol.169)の表紙に選ばれたライオンの親子の画像は、写真集『おきて ― アフリカ・セレンゲティに見る地球のやくそく』(小学館、1986)の表紙にもなっています。
岩合光昭オフィシャルサイト “写真集「おきて」撮影エピソード”


スノーモンキーと『ナショナルジオグラフィック』

『ナショナル ジオグラフィック』は1994年12月号(Vol.186)の表紙を飾ったのは、岩合さん撮影の雪玉を持つニホンザルの子どもでした。
世界の野生動物を撮影してきた岩合さんですが、日本の野生動物を被写体に選んだのはニホンザルが初めてだったといいます。
同じ写真は写真集『スノーモンキー』(新潮社、1996)の表紙でも、見ることができます。
岩合光昭公式オフィシャルサイト “写真集「スノーモンキー」撮影エピソード”

この猿は、冬に温泉を楽しむことで有名な長野県地獄谷に生息する猿の1匹です。
岩合さんは立花隆さんの著書『サル学の現在』で、地獄谷の猿が雪玉で遊ぶことを知ったそうです。
それまでに何度も訪れた場所でそんな光景が繰り広げられていると知らなかった岩合さんは、改めて地獄谷を訪問。
雪玉を持って追いかけっこをする子猿たちを写真に収めることができました。
地獄谷では冬に雪玉と遊ぶ子猿が見られるそうですが、それまで岩合さんの目に入らなかったのは何とも不思議です。
野生動物のプロであっても、知らなければ気づけないこともあるということでしょうか?

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