プログラマー、エンジニア、デザイナーなど専門家たちによる
「異能の専門集団」ライゾマティックス。
2021年3月から東京都現代美術館で開催されているライゾマ初の個展を
開催準備から追いかけました。
2021年4月4日の日曜美術館
「ライゾマティクス まだ見ぬ世界へ」
放送日時 4月 4日(日) 午前9時~9時45分
再放送 4月11日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
リオ五輪閉会式や紅白歌合戦のステージ演出で知られる「ライゾマティクス」は、プログラマー、エンジニア、デザイナーなどから構成される異能の専門家集団。最新のテクノロジーを駆使して、「株式市場でのAIと人間の戦い」、「電磁波の奏でる音楽」、「リアルとバーチャルが重なり合うダンス」など、見えない世界を見ようとしてきた。設立15年に開かれる大規模個展の会場を訪ね、“まだ見ぬ世界へ” の思いを大いに語り合う。(日曜美術館ホームページより)
出演
石橋素 (ライゾマティクス主宰/エンジニア/アーティスト)
真鍋大度 (ライゾマティクス主宰/アーティスト/インタラクションデザイナー/プログラマー)
MIKIKO (振付演出家)
ELEVENPLAY (ダンスカンパニー)
長谷川祐子 (東京藝術大学大学院教授)
柳沢知明 (ハードウェアエンジニア)
田井秀昭 (サーキットデザイナー)
坂本洋一 (ハードウェアエンジニア)
花井裕也 (ソフトウェアエンジニアリング)
ほか、ライゾマティクスのメンバー
ライゾマティクス(rhizomatiks)について
ライゾマティクス(rhizomatiks、通称ライゾマ)のチーム名は、
フランス語の「リゾーム(rhizome、地下茎)」からきているそうです。
これは哲学者ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著
『千のプラトー』(1980)の中に登場する言葉で、
中心の幹があり末端の枝葉があるという階層的上下関係(ツリー型)に対して、
中心を持たずに様々な流れが絡みあいながら展開する組織を提唱したもの。
2006年にrhizomatiksを結成した真鍋大度さんは、
上下関係ではなく、横のつながりで広がっていくグループを目指したそうです。
2015年から石橋素さんが共同主催となり、研究開発の要素が強い
ライゾマティクスリサーチ(Rhizomatiks Research)が始動。
現在のrhizomatiksのもとになりました。
(2020年10月に組織変更)
MIKIKOさんが期待する《multiplex》
2010年にPerfumeの東京ドームコンサートでの演出・映像制作以来、
ライゾマティクスはPerfumeの演出を数多く手がけています。
わたしは「Perfumeの演出はカッコいい」ことくらいは知っていても
演出を手がけた人は知らなかったのですが(反省します…)
「あの、Perfumeの演出を担当した会社」として
ライゾマティクスを知っていた人も多いことでしょう。
東京都現代美術館で開催中の「ライゾマティクス_マルティプレックス」では、
Perfumeの振り付けでも知られるMIKIKOさん、
MIKIKOさんが率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」と協力して、
ダンサーと箱型ロボット「キューブ」が舞台の上で複雑に絡み合う
《multiplex》(Rhizomatiks×ELEVENPLAY 2021)が発表されました。
10年近くライゾマティクスとの共同作業を続けているMIKIKOさんは、
(ライゾマティクスは)
私がこういう映像になるのかなって想像したものを
はるか斜め上に越えてくるので、
なんかそういう意味では、もうお客さんとして楽しみです
と語っています。
箱(キューブ)・ダンサー・観客の重なり合い
小野さんと柴田さんは
展覧会の企画者である長谷川祐子さんの案内で、
《multiplex》の展示室に向かいました。
最初にに見たものは、5つのキューブが音楽に合わせて滑らかに動く姿。
「箱が踊ってますね」(小野)
「ただの箱なのに、ちょっと生きてるみたい」(柴田)
キューブたちは、ダンサーの振付けにあわせて
踊るようにプログラミングされているのだそうです。
(小野さんいわく「箱ダンス」)
展示室内に5人のダンサーの姿はありませんが、
その動きは部屋の外の映像で見ることができます。
映像にはダンサーたちが動いた軌跡をあらわす光なども追加され
(特殊なスーツとカメラでダンサーの動きを記録したものだそうです)、
さらにリアルタイムで撮影された観客の姿も映し出されています。
映像を見た後で展示室に戻った小野さんは、
踊りの軌跡が舞台の床に表わされていることにいることに気づき
「ここにダンサーがいる」と感じました。
舞台の上で動いているキューブと、そこにいないダンサーの存在、
さらに舞台の外にいる観客と、3つの要素を層のように重ね合わせた演出に、
わたしは何となく、デジタルで絵を描く時のレイヤーを連想しました。
(描いたことありませんけど…)
最新技術で生まれ変わった《particles 2021》
レールの上を走るボールによって空中に絵を描く《particles 2021》は、
2011年のアルス・エレクトロニカの準グランプリ作品《particles》を
最新の技術で作り直したものです。
(アルス・エレクトロニカは、毎年オーストリアのリンツで行われる世界最大のメディア・アートのイベント)
2011年にはボール自体にLEDを仕込んで光らせていましたが、
今回はボールの位置を追尾してレーザーを照射することで、
外側から光らせるシステムになっています。
小野さんは「ゴルゴ13が20人くらいいます」と言っていますが、
実際はボール一つひとつに入っている基盤のおかげです。
真っ白なガシャポンカプセルのような形をしたボールをあけると、
中にはバッテリーと位置を検知するための赤外線のLEDが入っていました。
ロボットや装置など、ライゾマティクスの作品に使われる基盤は
すべて回路から設計されているそうです。
(Perfumeの衣装に使われた基盤も、もちろんライゾマティクス製)
2011年の時点で、プロジェクションの手法はやりつくされており、
ライゾマティクスでは新たな方法で空中に絵を描く方法を考えました。
最初はホームセンターでビニールのチューブを買ってきて、
その中でボールを転がすことから始めたそうです。
ライゾマティクスが大事にしているのは、手を使って実験すること。
「集まってブレインストーミングしよう」みたいなことはなく、
それよりも実験する時間を作るんだとか。
そんな思想の持主は石橋さんや真鍋さんだけではなく、
ライゾマティクスのメンバーは、多かれ少なかれその傾向があるようです。
「自分たちで作るというのは昔からやってますね」
「作るの好きです。今の作業とかも結構ずっとやってられる」
という、ボール製作担当の柳沢さん。
流れるボールをどう光らせるかというプログラムを作りながら
「地味~な作業ですいません」
という、同路設計/プログラミング担当の田井さん。
問題が起きた時はどうやって解決しているんですか、という問いに対して
「頑張るですかね」
と答えたレール設計の坂本さん。
展覧会スタート前日も続く修正作業の中で
「だいたい本番直前まで修正して、本番やっと完成する」
と語るレーザー照射担当の花井さん。
そんな専門家たちがそれぞれの担当分野を受けもって、
《particles 2021》は完成しました。
技術から生まれるアートの世界
番組ではほかにも、
デジタルアートの売買を可視化した《NFTs and CryptoArt-Experiment》(2021)や
人工衛星の位置をレーザーで指し示す機械(現代美術館の中庭に設置)など、
実際には触れることのできない存在を視覚化する試みが紹介されました。
(現在の展覧会では展示されていない作品も!)
長谷川さんはライゾマティクスについて、
「非常に新しいタイプのアーティストだと思うんです」
と言います。
普通のアーティストが「表現したいもの」に適した方法を探すのに対して、
ライゾマティクスではまず「新しい技術」があって
それを使って表現するための「コンセプト」や「目的」を設定するそうです。
長谷川さんはライゾマティクスの姿勢と、
持ち運びできるチューブの絵の具が普及した19世紀に
アトリエから外に出て自然光を取り入れた絵を制作した
印象派の画家たちを重ねました。
とは言え、目の前の作業をこつこつと進めるメンバーたちの姿は
アーティストと言うよりも「技術者集団」といった雰囲気がありました。
エンジニアチームを率いる石橋さんは
アーティストかって言われるとちょっと分からないですね。
あんまり自分のことをアーティストだとは思ってないです。
と言います。
一方、真鍋さんによれば
ちょっと先に問題になりそうなものとか考えなきゃいけないことっていうのを
一足先に実装して実践して考える
のがライゾマティクスの作品。
技術の研究と開発は、そのためにも欠かせないもののようです。
「ライゾマティクス_マルティプレックス」東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
2021年3月20日(土・祝)~ 6月20日(日)
10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで
月曜休館(5月3日は開館)、5月6日休館
一般 1,500円
大学生・専門学校生・65歳以上 900円
中高生 500円
小学生以下無料
公式サイト
オンライン会場(PC推奨)
(一部の作品は会場のみの公開となります)