美術館で買えるフランス製のアートなスカーフ(ミュージアムグッズ専門の会社による直輸入)

ミュージアムショップに行ったとき、
デザインに惹かれて素敵なミュージアムグッズを購入し、
後から作品や作者のことを調べた…なんてことありませんか。

わたしの場合、ラウル・デュフィというフランスの画家がデザインした
「ミュージアムスカーフ」を持っていますが、
スカーフを購入するまで、この人物については何も知りませんでした。

ラウル・デュフィという名前も、売り場の女性に教えられて知ったくらいです。

ミュージアムスカーフとラウル・デュフィのテキスタイルデザイン

スカーフ・ハンカチ・ショールなどは作りやすいのか、
オリジナルのミュージアムグッズとしてよく見かけますし、
絵柄に採用されるアートも、印象派の作品から
浮世絵や現代アートまで幅広くあります。

その中でデュフィのスカーフがちょっと特別なのは
(特別だと思っているのは…と言うべきかも知れませんが)、
ラウル・デュフィのモチーフの多くは
絵画作品を布地にプリントしたものではなく、
はじめからテキスタイルとしてデザインされたものだからです。

ラウル・デュフィとテキスタイル

ラウル・デュフィ(1877-1953)は、
19世紀末から20世紀前半のパリで活動した画家です。
アンリ・マティス(1869-1954)ら野獣派(フォービスム)の画家と交際し、
その影響を受けて非リアリズムの作品を描いたことから
デュフィも野獣派に分類されますが、
透明感のある色彩や自由で動きのある線描は
ほかの野獣派画家とはまた違った、デュフィ独自の画風です。

ポール・ポワレとのコラボレーションでテキスタイルデザインの道に

デュフィは絵画のほかに本の挿絵や舞台美術、
そして織物(テキスタイルデザイン)などの分野で活躍しています。

デュフィがデザインの仕事に足を踏み入れるきっかけとなったのは
当時フランスのファッション界で「帝王」と呼ばれた
ポール・ポワレ(1879-1944)との出会いでした。

ポワレは1900年代のはじめごろ活躍した服飾デザイナーで、
それまで女性のドレスとは切り離せなかったコルセットを
ファッションの世界から追放した立役者として知られています。
…もっとも、現在のタイトスカートの原型となるホブルスカートを
取り入れたデザインを発表し、本人も
「女性の胸を開放して、代わりに足を束縛した」と言っていたそうですが。

生活の中に芸術を取り入れ、美しい生活空間をつくることを主張した
ウィリアム・モリス(1834-1896)にはじまる
「総合芸術」の動きが盛り上がっていたこの時代、
ポワレもまた洋服以外に室内装飾・家具・香水などを展開し
(今では当たり前ですが、当時は革命的なことでした)
また同時代の美術(ゴーギャン、ナビ派、フォービスムなど)に影響をうけた
オリエンタルなファッションを発表しています。

ポワレがデュフィに声をかけたきっかけは、
デュフィが詩人のギヨーム・アポリネール(1880-1918)の依頼で手がけた
詩集『動物詩集またはオルフェウスの行列』(1911)の挿絵でした。
モダンで迫力のある木版画に刺激を受けたポワレは
デュフィと共同でプリント生地の制作に乗り出し、
2人のコラボレーションで生まれた布地と衣装はパリで評判になります。

第1次世界大戦(1914-1918)の後にポワレの人気は衰え
ファッション業界から姿を消しました。
ポワレの後に時代を築くのが、
ポワレより4歳年下のココ・シャネル(1883-1971)です。

ビアンキーニ=フェリエ社との専属契約

ポワレとのコラボレーションでデザイナーとして評価を受けたデュフィは、
フランス・リヨンの絹織物業ビアンキーニ=フェリエ社と、
1912年から1928年まで専属契約を結びます。
ビアンキーニ=フェリエ社についてはこちら Wikipedia(仏)

リヨンは16世紀からフランスの絹織物業の中心地として栄え、
ヨーロッパの宮廷の人々の衣装や室内装飾に使う布地を生産していた地域。
19世紀には近代的な工場生産を導入し、国際市場で飛躍した時期でした。

1888年に創業したビアンキーニ=フェリエ社は、
万国博覧会への出品(1900年のパリ万博では大賞を受賞)で対外的評価を得て急成長。
1900年代初めごろには、国外にも多くの事務所を構えていました。

デュフィは、ビアンキーニ=フェリエ社の専属デザイナーとして
4,000点以上の下絵を描き、その中から700点以上の図案がつくられたそうです。

1900年代のフランス人が、現代のわたしと
同じ模様の服やスカーフを楽しんでいたかもしれない
…なんて考えると、楽しくなってきませんか。


現在の製造元は、リヨンの絹織物業 Brochier Soieries

わたしの手元にあるスカーフはビアンキーニ=フェリエ社ではなく、
2002年にビアンキーニ=フェリエ社を買収した
ブロシエ・ソワリー(日本でいうなら「ブロシエ絹布」か「ブロシエ社」?)
という会社が作っているものです。

サイズは 90x90cm の正方形(長方形のタイプもあるようです)
もちろんシルク100%(100% soie)で、お値段は…
いわゆるハイブランドのスカーフに比べれば、だいぶお得ではないでしょうか。

Brochier Soieries について

Brochier Soieries(以下、ブロシエ社)は、1890年にリヨンで創業した会社です。
1900年代からシャガール、ミロ、ジャコメッティなどのアーティストと協力し、
アートを取り入れたテキスタイルデザインを発表していたようです。

現在ブロシエ社では、
印象派やキュビスムから、現代のポップアート、ストリートアートまで
10万点以上のテキスタイルデザインをコレクションし、
そのうち1,000点以上をスカーフ、ネクタイ、ハンカチなどの形で商品化しています。
ビアンキーニ=フェリエ社から受け継がれたデュフィのデザインも
この中に入っているわけですね。

購入するには?

ミュージアムショップで見かけて気に入ったデザインを
美術館や展覧会の思い出として買うのは楽しいものですが、
好きなアーティストの作品を今すぐ身につけたい人や
好きなデザインを選びたい人にとっては、気が長すぎる方法かもしれません。

今すぐ欲しいという時は、ブロシエ社のサイトで購入することもできます
こちらでは四角いスカーフ(カレ)だけでも100点以上あり、
アーカイブとしても見ごたえがあります。
デュフィでは、テニスコートの風景を白黒で表現したデザインや
色とりどりの蝶を描いたデザインが人気のようです。


ミュージアムスカーフの輸入元、有限会社アルテ・クルー

ところでこのミュージアムスカーフは
特定の美術館で必ず見つかるというわけではなく、
展覧会などの内容にあわせて仕入れられる物のようです。

付属の下げ札によれば、輸入元は有限会社アルテ・クルー(1968年設立)。
ミュージアムグッズの輸入販売や
展覧会・ミュージアムショップへの商品提供を行う会社です。

代表取締役の伊藤惠子さんは、
ミュージアムグッズが「記念のお土産品」にとどまることなく

美術館、博物館にでむかなくても特別なショップ(セレクトショップ、オンラインショップ等)で購入でき、グッズを手にした方が本物を観に美術館に出向く、「ミュージアムグッズが美術館とお客様の架け橋」となることを目指し、よりよい商品のご提案をしていきたいと思っております。(「アルテ・クルーとは」より)

と語っています。
グッズから画家に興味を持ったわたしなどは、
アルテ・クルーの戦略にまんまと嵌ったひとりかも知れません。

(有)アルテ・クルー

ミュージアムスカーフなど、一部商品はアルテ・クルーのネットショップで販売あり

アルテ・クルーは2020年5月にネットショップを開設しています。
アメリカ製のミュージアムアクセサリー、イギリス製のアートパズル、
もちろんブロシエ社のスカーフも購入できるようです。

2021年4月現在、デュフィをモチーフにしたスカーフは2種類。
ほかにはゴッホ、ゴーギャン、ダリ、カンティンスキー、マグリットの柄がありました。
(写真で見ると、すべて長方形のタイプのようです)