日曜美術館「自分が感じたものが尊い~山本鼎と児童自由画運動~」

番組情報

放送日時 毎週日曜 午前9時~9時45分
(再放送は翌週日曜 午後8時~8時45分)
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

2020年1月19日の日曜美術館

「自分が感じたものが尊い~山本鼎と児童自由画運動~」

日本の美術教育を変えた版画家・山本鼎。100年前、手本を写すことが評価された時代に、子どもの自由な感性を尊重する児童自由画運動を興す。社会を動かした思いとは?

日曜美術館ホームページより

ゲスト
 小笠原正(上田市立美術館 学芸員)

職人育成から美術教育へ 山本鼎が目指した自由画とは?

日本の伝統技術の世界って、良くも悪くも役割分担がはっきりしていると思います。
木版なら下絵を描く絵師、版木を彫る彫師、版木に絵の具をつけて摺りあげる摺師がいて、
それぞれが技術を高めてチームを組むことで最高のものを作りあげるわけです。

今回の主人公である山本鼎は1882年(明治15年)に生まれ
10歳から19歳まで木版工房で彫師として奉公していますから、
10代のほとんどを伝統の世界で生きてきた人です。
しかし山本は、人の下絵通りに版木を彫ることに満足できませんでした。

働くかたわら独学で絵を学び、20歳で東京美術学校の西洋画科に入学。
在学中に絵師、彫師、摺師の作業をすべて一人でおこなう「創作版画(刀画)」を製作。
雑誌「明星」で発表された「漁夫」が注目を集めました。
30歳でパリに留学しますが、金銭的にかなり苦労したようです。
4年後の1916年(大正5年)ロシア経由で帰国する際、
モスクワの子供たちが描いた自由な絵に出会ったことで、
帰国後「児童自由画運動」に取り組むことになります。

このころ小学校でおこなわれていた美術教育は
画材の使いかたを教え、手本の絵を正確に写させる「臨画教育」でした。
「画」を「臨」む(よく見る)ことで学ぶわけですが、
現代の感覚だと、美術の教育というより伝統的な職人の修行のように見えます。
当時の感覚では、絵を教えるということは
絵師の修行をさせることだと考えられていたのかもしれません。

それに対して山本は子どもに自由に描かせる「自由画教育」を提唱し
美術教育の改革を訴えたのですが、
もとは職人の修業をした人によって修業的な臨画教育が否定されたのは皮肉な気もします。
山本にとって、お手本を写すだけの作業から子どもを自由にすることは
下絵を彫るだけの作業に縛られていた自分を解放することだったのかも…
と、つい想像をたくましくしてしまったり。

美術教育はどうあるべきか、絵を描くのは何のためか…と、
いろいろ考えさせられる回でした。

上田市立美術館「農民美術・児童自由画100年展」

2019年11月30日(土)~2020年2月24日(月)

サントミューゼ 上田市立美術館 2階展示室

9時~17時 ※入場は閉館の30分前まで

火曜休館(祝日の場合は翌水曜休館)

一般 700円(600円) 高校・大学生 500円(400円) 小・中学生 300円(200円)
※( )内は20名以上の団体、障害者手帳携帯者とその介助者1名

公式サイト https://www.santomyuze.com/museumevent/normin_art100_2019/