日曜美術館「選 アートと音楽 坂本龍一×日比野克彦」(2023.6.4 再放送)

2013年1月13日の再放送。
音楽と美術の境界線にある作品を集めた展覧会を、坂本龍一さんと日比野克彦さんが訪れました。
会場の作品と聞こえてくる音に目と耳を傾けながら、アートの過去・現在・未来について語りあいます。

2023年6月4日の日曜美術館
「選 アートと音楽 坂本龍一×日比野克彦」

放送日時 6月4日(日) 午前9時~9時45分
再放送  6月11日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 森田美由紀(NHKアナウンサー)

3月に亡くなった坂本龍一さんを追悼し、坂本さんがアートについて語った番組をアンコール放送。坂本さんが総合アドバイザーを務めた展覧会「アートと音楽」(東京都現代美術館)は、世界各地から最先端の現代アートを集め大きな話題となった。アーティストの日比野克彦さんと作品を体感。アートと音楽の境界、自然との共生、社会の変革を担う可能性など、アートの過去・現在・未来について語った貴重なメッセージをお届けする。(日曜美術館ホームページより)

出演
坂本龍一 (音楽家)
日比野克彦 (現代美術家)
大西景太 (映像作家)
大友良英 (ギタリスト)


坂本龍一さんのこと

坂本龍一さん(1952-2023)は音楽グループ・イエローマジックオーケストラ(YMO)の一員で、ソロでも幅広い音楽活動を展開したアーティストです。
映画音楽の分野では「戦場のメリークリスマス」(1982)など多くの名曲を制作し、2023年6月2日公開の「怪物」(監督:是枝裕和・脚本:坂元裕二)でも音楽を担当しました。

今回の日曜美術館(放送は2013年1月13日)の舞台は、東京都現代美術館で2012年10月27日から2013年2月3日まで開催された「アートと音楽―新たな共感覚をもとめて」の会場。
坂本さんは、展覧会の総合アドバイザーとして参加しました。
坂本さんとともに会場を巡るのは、長年の親交がある現代美術のアーティスト・日比野克彦さんです。

「アートと音楽 ― 新たな共感覚をもとめて」(会期終了)

東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1 木場公園内)

2012年10月27日~2013年2月3日

公式ホームページ


「アートと音楽」の世界へ

最初に登場したのは、セレスト・ブルシエ=ムジュノの《クリナメン》。
水色の水盤に大小さまざまな白い器が浮かび、それらがぶつかり合うことで「カーン」「コーン」と音を立てます。
水の動き任せの不規則な音は譜面に記される音楽とはまったく違うものですが、それでも明らかに音楽なのです。

ビジュアルも音もとてもきれいで(バリ島のガムラン音楽に近い響きだそうです)単純明快この作品を日比野さんは「やられた」感があると評価します。
坂本さんも「世代・国境を越えて一目でわかる」「楽しいポップアート」と、この作品を絶賛していました。

続いて坂本さんが高谷史郎さんのコラボ作品《collapsed》。
白い壁に哲学者や詩人の対話がレーザーで写し出され、その言葉が音に変換されて2台の自動演奏ピアノで奏でられます。
片方のピアノがもう片方を追いかけるように音を鳴らしあう様子を、坂本さんは「会話の不可能性」に例えています。

ピアノとピアノの中間くらいの位置にあるソファでピアノ同士の「対話」を聞いた日比野さんは、音から会話のニュアンスを読み取ったようです。
(高い音は問いかけに聞こえるとか…?)


音を描く

20世紀初頭の油彩画

「アートと音楽」には現代作品だけではなく、過去の作家が音楽をイメージして制作した作品も展示されています。
日曜美術館では20世紀初頭の絵画から、ロシアのワシリー・カンディンスキーが音楽のイメージを色と線で表現した(1866-1944)の《「E.R.キャンベルのための壁画No.4」の習作 (カーニバル・冬)》(1914)と、スイスのパウル・クレーがオペラ作品を独自の理論で再構築した《ホフマン風の物語》(1921)の2点が紹介されました。
カンディンスキーとクレーはともにドイツのミュンヘンで表現主義の芸術サークル「青騎士」の一員として活動し、現代美術の先駆けとなった人です。

日比野さんは絵画を例に、美術と音楽の身体感覚の違いについて語っています。
聴衆を前にしておこなわれる音楽家の表現は、音楽家の身体感覚が人に伝わるまでの時間差はほとんどありませんが、美術作品はアーティストが制作したものが展覧会などを通して公開されるまで時間差があることが普通です。
カンディンスキーやクレーの絵は作者の身体感覚を留めているとも言えるわけで、ここに音楽にはない「永遠のライブ性」があるんだとか。


デジタルで音を描く

そもそも何故「音楽」を絵にしようとしたのか。
その理由を日比野さんは人間の「見たい欲望」だと言います。
目で見えないものを見たい・形にしたいという欲の末に表現の方法は拡大し、その結果生まれたもののひとつがデジタルアートです。

小型のモニターをつけたポールが立ち並ぶ大西景太さんの《Forest and Trees》は、音と映像のイメージをひとつにする試み。
モニターに映るのは音の印象を形にしたもので、形が動くと対応する音が生まれます。

作曲家でアーティストの池田亮司さんの《data.matrix [n°1-10]》は、形のないものを音と映像に変換したもの。
光が作り出す数字や図形で表現されるのは、DNAやタンパク質の分子構造など、世界を構成する膨大なデータです。


耳を開く

聞こえていない音に耳をすます

決まった音階の中にあるどの音を・どのタイミングで出すか決めるのが音楽作品で、だから何度でも同じ作品を演奏することができる…そんな常識に逆らって見せたのが、ジョン・ケージ(1912-1992)の「4分33秒」(1952)です。
第1楽章から第3楽章まですべて「TACET(休め)」が並ぶ「長い音楽史の中でも最も革命的な曲」は、坂本さんに大きな影響を与えたそうです。

マノン・デブールの映像作品《二度の4分33秒》ではこの演奏(?)風景を鑑賞できます。
ピアニストがタイマーを押してから4分33秒の間無音が続くのですが、実際にはピアノが音を出していないだけで様々な音(環境音や自分の呼吸音など)が耳に入ってきます。
(何なら、おとなしく座っている観客たちの瞬きが音を立てているような錯覚まで感じます)
完全な無音は存在せず、実は人間のひとりひとりが異なった音を聞いている。
普段は意識しないそれらを意識させることが「4分33秒」の目的なんだそうです。


音の背後にあるものを聞く

存在を意識していない音に意識を向けるのが「4分33秒」なら、大友良英リミテッド・アンサンブルズ(大友良英、青山泰知、Sachiko M、堀尾寛太、毛利悠子)の《ターンテーブルの森》は、実際に聞こえる音を通してその背後にあるものに耳を傾けさせる試みです。
会場に並ぶのはレコードをセットされていないターンテーブルで、すべてが不規則に起動・停止するように、コンピュータで制御されています。
これらは元々中古品で、さらに制作ボランティアの人々が手を加えています。
記録媒体であるレコードを再生するターンテーブルが持つ固有の記憶を聞き取ることができるのでしょうか?


自然の声を聞く

坂本さんと日比野さんは番組の中で「世の中のものは全部音に置き換えることもできる」と話しています。
森羅万象のうち何を・どのような音にして・どのような形にするのかが、アーティストの腕の見せ所でしょうか。

バルトロメウス・トラウベックの《Years》は、木の幹の年輪の幅やカーブなどを音に変換するもので、薄い輪切りにした木を小型カメラで読み取る様子は木製レコードをプレイヤーにかけているように見えます。
年輪の目が詰まっている方がより情報が多いため、複雑な音になるんだとか。

クリスティーネ・エドルンドの《セイヨウイラクサの緊急信号》は植物が発する科学的な信号をグラフに置き換えて楽譜化したもの。
蝶の幼虫の出現から周囲の仲間が根に栄養を貯めるまでが植物のイラストと図形で描かれています。


アートの未来

番組の中で坂本さんは、アートで新しい自然観を追究すること、特別な個人に注目されがちなアートの世界で誰もが持っている創造性を活かすことを語りました。
この考え方はドイツのヨーゼフ・ボイス(1921-1986)が提唱した「社会彫刻」(あらゆる人間が自分の創造性で社会の幸福に貢献するという考え)の影響を受けているそうです。

ボイスは晩年に世界中に人々を巻き込んでアクション・アート「7000本の樫の木プロジェクト」で各地に木を植える活動をおこない、坂本さんもまた、山口情報芸術センターのYCAM InterLabと協力した樹木が発する電位を音楽として再生する《Forest Symphony》のプロジェクト、森林保全団体「more Trees」の立ち上げ(2023まで代表)など、地球の未来に貢献する活動をおこなってきました。
この展覧会は、アートを楽しんだ鑑賞者(そして日曜美術館の視聴者)に、その内容をもとに何を創造するか問いかけているのかもしれません。

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