猫の給仕頭(ディエゴ・ジャコメッティの彫刻)に会いに、松岡美術館へ!(東京・白金台)

松岡美術館が所蔵・公開する松岡清次郎の美術コレクション(およそ1,800点)の中にはさまざまな彫刻作品があり、常設で展示されています。
古代オリエントから近現代のヨーロッパまで様々な時代・地域の彫刻の中には、2015年の来館者による所蔵品人気投票で第1位に輝いたディエゴ・ジャコメッティの《猫の給仕頭》(1967)があります。

《猫の給仕頭》(ディエゴ・ジャコメッティ作、1967)

ピンと背を伸ばして後ろ足で立ち上がり、前足で大きな皿をかかえた猫のブロンズ像。
尻尾で体を支えているところも可愛らしいこの彫刻、本来の用途は鳥の餌置きでした。
小鳥の天敵である猫が恭しく餌を差し出しているという、ちょっと可笑しい作品です。

作者はスイス出身の家具デザイナーで彫刻家のディエゴ・ジャコメッティ(1902-1985)です。
ディエゴの兄は彫刻科のアルベルト・ジャコメッティ(1901-1966。人体を細く引き延ばしたような彫刻で有名)。
また父のジョバンニ・ジャコメッティ(1868-1933)はスイス印象派の画家で、弟のブルーノ・ジャコメッティ(1907-2012)は建築家と、芸術の才能が豊かな一家だったようです。

ディエゴはジュネーヴの美術工芸学校を卒業した後、エミール=アントワーヌ・ブールデル(1861-1929)に学んでいた兄のアルベルトを頼ってパリに出ました。
アルベルトと共同でパリにアトリエを構え、家具などを共同制作したほか、アルベルトの助手やモデルも務めていたそうです。

ディエゴが動物の彫刻をつくりはじめたのは第二次世界大戦の頃で、以来定期的に動物の作品を発表するようになりました。
代表作のひとつである《猫の給仕頭》は本人もお気に入りだったようで、作品集の表紙にも採用されています。

《猫の給仕頭》はグッズも充実(葉書・クリアファイル各2種類)


日常生活の中で使うものなだけあって、どこから見ても可愛い《猫の給仕頭》。
松岡美術館のミュージアムショップでは、《猫の給仕頭》の絵ハガキとクリアファイル各2種類、正面から見たものと斜めから見たものが用意されています。
もとの作品が立体でも平面のグッズでは決まった方向から見た画像しか使えないので、それを寂しいと思った人がいたのかもしれません。

実は、後ろから見ても可愛いのですが…
他の角度から見た姿は実物を見て確認すべし、ということでしょう。


松岡美術館の彫刻 ― 《猫の給仕頭》は1階ロビーでお出迎え

松岡美術館の展示室は1階が常設展示、2階が特別展示になっていて、1階の常設展ではたくさんの彫刻作品をみることができます。
《猫の給仕頭》(1967)はエントランスを入ってすぐ、正面にある女性の像《ペネロープ》(1912)に向かって左奥に置かれています。
ちなみに《ペネロープ》はディエゴの兄・アルベルトの師匠だったブールデルの作品です。

ロビーには他にも魅力的な彫刻作品があり、近現代彫刻以外では旧松岡邸の庭園を眺める大窓の前に並ぶギリシア・ローマ時代の彫刻も見逃せません。
2022年のリニューアルでは、ギリシア・ローマ彫刻の常設展示にローマ時代の《アルテミス》(1-2世紀)が加わりました。
《アルテミス》はローマ時代の彫刻ですが、形はヘレニズム後期のギリシア彫刻をモデルに制作されたもの。
2000年の年月で多くのパーツが失われ、胴のみが残っている状態ですが、衣装のドレープや体の柔らかい曲線など、見どころの多い作品です。

3つある常設展示室は、古代オリエント美術や中国古代青銅器など考古美術(第1展示室)、西洋近現代彫刻(第2展示室)、古代インド・ガンダーラ(現在のパキスタン)・クメール(現在のカンボジア)・中国の古い神像や仏教彫刻など古代東洋彫刻(第3展示室)と、テーマ別に分かれています。

美術館の創立者・松岡清次郎(1894-1989)のコレクションは日本画の収集からはじまり、それから陶磁器、洋画、彫刻と範囲を広げていきました。
彫刻作品は美術館の創設を決めてから、”日本ではあまり見られないものを紹介したい” という考えのもとに収集を始めたといいます。
1987年ごろには “大きな彫刻増に囲まれ、芝生の上で家族そろって食事ができるような” 野外美術館を作ろうと、ヘンリー・ムアなどの大型作品20点を購入。
このうち《ペネロープ》を含む大部分を1987年5月のサザビーズ・ニューヨークで一度に購入したというエピソードがあり、松岡氏の美術館にかける熱意が伝わってくるようです。

野外美術館の計画は実現しませんでしたが、松岡美術館に行けば常にいくつもの彫刻作品が展示されています。
時代・地域・作者もさまざまな彫刻作品の中からお気に入りの1点を探してみるのも楽しいのではないでしょうか。


松岡美術館(東京都港区白金台5-12-6)

月曜休館(祝日の場合は翌平日休館)
年末年始および展示替え期間は休館

10時~17時 (第1金曜日のみ19時まで)
※入館は閉館の30分前まで

一般 1,200円
25歳以下 500円
高校生以下 無料
障がい者手帳をお持ちの方 無料

公式ホームページ