日曜美術館「太宰府天満宮 美の世界 千年の時の流れの中で」(2023.3.12)

小野さんと柴田さんは、九州の福岡にある太宰府天満宮を訪れました。
この土地を舞台に千年以上積み重ねてきた文化と、新しく作られる文化を紹介します。

2023年3月12日の日曜美術館
「太宰府天満宮 美の世界 千年の時の流れの中で」

放送日時 3月12日(日) 午前9時~9時45分
再放送  3月19日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

菅原道真が眠る太宰府天満宮。学問の神様として知られ年間一千万人を超える参拝者が訪れる。千年を越える歴史の中で時の権力者や文化人など多くの人たちを惹きつけてきた。太宰府天満宮に時代を越えて寄せられてきた人々の祈りの風景とそれぞれの時代に奉納され受け継がれてきた貴重な文物などを紹介。そして境内に広がる豊かな自然と美しい四季の彩り、そこに育まれてきた命の営みを襖絵に描き出す画家の取り組みを見つめていく。(日曜美術館ホームページより)

出演
神戸智行 (画家)
西高辻信宏 (太宰府天満宮第40代宮司)
アンダーソン依里 (太宰府天満宮宝物殿学芸員)
古賀義悟 (太宰府天満宮神苑管理部技師)
峰松節子 (浄妙尼末裔)


太宰府天満宮と菅原道真

全国におよそ12,000社ある天神社の総本宮が、九州の福岡県にある太宰府天満宮です。
御祭神の天神様こと菅原道真(845-903)は平安時代の政治家で、
学者や文章家としても高く評価された人物。
宇多天皇(867-931。在位887-897)の側近として出世を重ね、
つづく醍醐天皇(885-930。在位897-930)の時代には右大臣まで出世しましたが、
政争に敗れて太宰府に左遷された後2年ほどで亡くなっています。

その後、京の都では疫病や異常気象などが続き、
さらに道真の政敵だった人々が次々と亡くなって、道真の祟りと考えられました。
霊を鎮めようと墓所の上に神社を建てたのが、現在の太宰府天満宮のはじまりです。

天神様は祟りをなす恐ろしい神である反面、
学問の神として全国から信仰を集め、地元でも親しまれる神でもあって、
太宰府天満宮で行われる神事・催事は現在も地元の生活としっかり結びついています。


太宰府天満宮宝物殿の文化財とその歴史

古くから国際的な交易・外交の要所だった太宰府は、歴史上の偉人や事件とも関わりがあり、
太宰府天満宮には時の権力者・文化人から多くの貴重な品が奉納されました。
1928年に開館し、1953年には福岡県第1号の博物館に登録された(1992年に全面改修)
宝物殿はおよそ1万1千点の資料を所蔵し、
菅原道真や太宰府天満宮に関する展示が行われています。

平重盛奉納の太刀(豊後国行平)

かつての太宰府は九州一帯を統括し、
大陸との外交拠点・アジア公益の拠点として栄えた土地でした。
平氏政権を打ち立てた平清盛一族の財政基盤にも、
太宰府を拠点とした日宋貿易があります。
倶利伽羅竜と不動明王・大日如来の梵字が彫刻されたこの太刀は、
清盛の長男・重盛が奉納したもの。
ちなみに作者の行平は、九州における源平の争いで時勢に乗り損ねた結果流罪になり、
後鳥羽上皇の鍛冶師として都に復帰した人だそうです。

豊臣秀吉の朱印状

朱印状とは将軍や武将が特別な許可を与える時に発行する公的な書状で、
現在の判子に朱肉を使うのはこれが元になっています。
こちらは晩年の豊臣秀吉が「太宰天神」に筑前国500石を寄進した証明書。
太宰府天満宮の勢力が非常に強かったことが分かります。

三条実美奉納の螺鈿水杓

幕末の政変で三条実美を筆頭とする倒幕派の公卿7人が都を追われた
「七卿都落ち」事件の際、
天満宮の35代当主は、親戚にあたる実美と他4人の公卿を自宅に受け入れています。
朱漆を塗った表面を螺鈿で覆い、三条家の結雁紋をあしらった豪華な柄杓は、
公卿たちが討幕後に身の回りの品々を奉納したうちのひとつ。
ここで過ごした3年の間には、彼らを訪ねて維新の志士たちがやって来たそうです。


太宰府天満宮と神戸智行

《一瞬の永遠》と太宰府天満宮アートプロジェクト

太宰府天満宮では国内外のアーティストを招いて取材・制作をサポートし、
完成した作品を収蔵する「太宰府天満宮アートプロジェクト」をおこなっています。
日本画家の神戸智行さんは第7回のアートプロジェクトで2010年から2011年にかけて天満宮を取材し、4曲1双の屏風《一瞬の永遠》などの作品を制作しました。
金や銀の箔と薄い和紙を重ねて彩色し
それを何度も繰り返す独自の技法で描かれる世界には、
奥行きのある独特の空気が感じられます。

向かって左には白梅と太陽、右には水に写った紅梅と月を描いた
《一瞬の永遠》を制作するにあたり、
神戸さんは境内にある6000本の梅の木全てに見て回っています。
2011年3月11日の東日本大震災が発生した時、
神戸さんはちょうど境内で梅の花を描いていました。
その一瞬の記憶を焼き付けるために、この作品は《一瞬の永遠》と命名されたそうです。

太宰府天満宮文書館の襖絵

神戸さんは現在、菅原道真の没後千年祭に合わせて建てられた文書館を飾る
24面の襖絵を依頼され、天満宮の四季をテーマにした大作を手がけています。
天満宮についてより深く知るために、2014に家族を連れて神奈川から福岡に移住。
作品に対する真摯な姿勢が伝わってきます。

日曜美術館では、金の背景に川辺に散る紅葉と鳥や虫を描いた
秋の襖絵が特別に披露されました。
柴田さんが「ダンゴムシが描かれた襖絵って初めて拝見しました」と言うように、
紅葉の葉蔭にはアリやダンゴムシなど
美術作品ではなかなかお目にかかれない顔ぶれも登場。
神戸さんはこの中に、小さな生物の命も世界を形作るために欠かせない存在だ、
というメッセージを込めたと言います。
小さな生き物たちは、これからもっと増えていく予定だそうです。

太宰府の文化を伝えていくために

菅原道真の子孫にあたる第40代宮司の西高辻信宏さんは、
道真の御霊を1120年にわたって守り続ける太宰府天満宮は、
太宰府という場所の重要性もあって古くから人が集い、
文化を生み出してきたと語っています。
そういった過去から伝えられて来たものを未来に引き継ぐためには、
現在分かっているものだけでなく、
歴史の中で埋もれて分からなくなってしまった物事に光を当てることも重要。
(実際、近年の調査でも新発見があったそうです)

西高辻さんによると、
神戸さんはそろそろ10年になる太宰府での生活の中で天満宮の神事や祭事にも触れ、
地域の人の思いを噛み砕いて作品にしているといいます。
これから完成する作品もまた、
太宰府天満宮の歴史・文化を照らす新たな光になるのかも知れません。


「神戸智行展-太宰府天満宮コレクションより」(太宰府天満宮宝物殿 企画展示室)

襖絵の完成に先立って、
宝物殿がこれまで収集してきた神戸智行さんの作品を展示しています。

福岡県太宰府市宰府4ー7ー1(太宰府天満宮境内)

2023年2月11日(土)~5月14日(日)

9時~16時30分 ※入場は閉館の30分前まで

月曜休館(5月1日は開館)

一般 500円
高大生 200円
小中生 100円
※障害者手帳提示により付添者1名まで半額料金

公式ホームページ