日曜美術館「ウォーホルの遺言 〜分断と格差へのまなざし〜」(2023.1.15)

現在でも多くのファンを魅了する現代アートの鬼才アンディ・ウォーホル(1928-1987)。
政治や社会を語らないクールでスタイリッシュなイメージが定着していますが、
京都で開催中の回顧展では
作品を通じて人間の平等や格差・差別を炙り出した業績に注目します

2023年1月15日の日曜美術館
「ウォーホルの遺言 〜分断と格差へのまなざし〜」

放送日時 1月15日(日) 午前9時~9時45分
再放送  1月22日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

ポップアートの旗手として今なお絶大な人気を誇るアンディ・ウォーホル。近年、その作品を、これまでにない視点から評価する動きが広がっている。人種差別をテーマにしたウォーホルの作品に刺激を受け、議論を展開する人々や、その影響を自身の創作に取り込むアーティスト。さらに、亡くなる前の年に描かれた大作に、病への恐怖や救いへの思いを読み取く研究者も。京都市京セラ美術館の展覧会場を舞台に新たなウォーホル像に迫る。(日曜美術館ホームページより)

出演
小野正嗣 (作家、早稲田大学教授)
日高優 (立教大学現代心理学部教授)
ニーナ・アブニー (画家)
井村優三 (ギャラリー代表)
ジェシカ・ベック (美術史家)
クワミ・ケイ・アルマー (演出家)


アンディ・ウォーホルの生まれと代表作《キャンベルスープ》《マリリン・モンロー》

ウォーホルの実像について20年にわたり考察を続けてきた日高優さんによれば、
ウォーホルは「感度のいい繊細なセンサー」の持ち主。
多くの人がありふれたものとして見過ごしてしまう事柄を発見し、
「見るべきものがあるから見てください」と見せてくれるような人です。

そんなウォーホルが生まれたのは、
鉄鋼業が盛んだったアメリカの都市ピッツバーグ(ペンシルベニア州)。
両親はチェコスロバキア共和国(現スロバキア共和国)から
働き口を求めてやってきた移民でした。
14歳の時にウォーホルの父が亡くなって、
ウォーホル家の兄弟は母親ひとりに育てられました。

早くから芸術の才能を示したアンディ少年は
カーネギー工科大学(現カーネギーメロン大学)で広告芸術を学びます。
商業デザイナー・イラストレーターとしてニューヨークで成功をおさめ、
アートの世界に入ったのは1960年の事でした。
そして1961年、アメリカで広く親しまれているスープ缶のデザインを忠実に再現した
《キャンベルスープ》でポップアートの先駆者としての地位を確立。
1962年にはシルクスクリーンによる作品の量産をはじめ、
同年に亡くなったマリリン・モンロー(1926-1962)をプリントした
《マリリン・モンロー》のシリーズなど複製・拡大する芸術を実現します。

「アンディ・ウォーホル・キョウト」の会場にも
間違い探しのような《キャンベルスープ》の連作(トマト、ビーフ、コンソメ…)、
展覧会のキーヴィジュアルにもなっている《3つのマリリン》(1962)
などが展示されています。

消費、メディアなど社会のアイコンと思われたこういったものたちが、
実はウォーホル自身の記憶と深く結びついていることが
ウォーホルの兄・ポールさんへのインタビュー(2011)などからわかっています。

時代を象徴するアイコンは、
この時代を生きたウォーホル自身を形作ったものでもありました。


アンディ・ウォーホルのたくらみ? 《人種暴動》《死と惨事》バスキアとの交友、そして《最後の晩餐》

「僕について知りたければ表面だけ見ればいい。裏側には何もないから」
と語ったウォーホルですが、
その作品は見る人の目を社会のさまざまな問題に誘導します。
小野さんは「ウォーホルは思想的な“たくらみ”を隠し持っていたのでは?」
と考えました。

日高さんによれば、ウォーホルは両親が東欧出身の移民であり、貧しい家庭で育ち、
病気のために容姿にコンプレックスもあった「メインストリームに入れない」人。
この自覚がウォーホルの強烈な上昇志向を作る一方で、
格差や差別の存在を見過ごさない目を育てたのかもしれません。

《人種暴動》(1964)

アメリカでは1950年代から60年代にかけて、
アフリカ系アメリカ人を中心に
公民権(選挙などを通じて国・地方公共団体の政治に参加する権利)の適用と
人種差別の解消を求める運動が盛り上がります。
それを抑え込もうとする動きも激しいものでした。

公民権運動のさなかに制作された《人種暴動》は、
アラバマ州で行われた抗議集会の参加者を
警官が警察犬に襲わせた新聞記事の写真を使ったもので、
3枚の同じ写真を白(左上)、青(右上)、赤(下)と3色でプリントしたものです。

この作品は近年の「ブラック・ライブズ・マター」
(黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える国際的な運動)で再評価され、
ロチェスター大学のオンラインイベント
「ウォーホルの季節ー黒人アーティストとの関わり」(2021.3.13)の中では、
シルクスクリーンの技法は繰り返すことで
同じイメージを「脳に焼きつける」狙いがあるのではと指摘されました。
作品に影響を受けた若手アーティストのニーナ・アブニーさんも、
ウォーホルは色使いなどの視覚効果を利用することで
いかに同じ映像を人々の記憶に留めるか、という課題に切り込んだと解釈しています。


シリーズ《死と惨事》

1962年から始まったこのシリーズは、突然訪れる理不尽な「死と惨事」を扱ったもの。
事故現場の報道写真を緑と黒の2色で刷った《死者5名》(1963)は、
よく見ると横転した車体の下敷きになった人、外に投げ出された人の姿があります。

直視するには悲惨すぎる事件の映像は、ウォーホルの手で作品化されることで
「ギリギリ見れる」(by 日高さん)マイルドさを獲得しています。
小野さんによれば「作品にすると思考するための余白が生まれる」とのこと。
悲惨な出来事を見たショックで立ち止まるよりも、その先を思考せよ…と
ウォーホルは語っているのでしょうか。


アンディ・ウォーホルとジャン=ミシェル・バスキア

1980年代は、人種間の対立がよりヒートアップした時代で、
美術の世界にも閉鎖的な空気が漂っていました。
80年代初頭、ニューヨークのクリスティーズ(オークションハウス)で
その空気を肌で感じたという井村優三さんは、例外的な結びつきとして
ウォーホルとジャン=ミシェル・バスキア(1960-88)の出会いを挙げています。

2人は共同制作をするようになり、
互いに影響しあう関係はウォーホルが亡くなるまで続きました。
バスキアの人種なんて知らないよ、というウォーホルの態度は
当時の社会の中で特別なものがあったようです。

1983年のマイケル・スチュワート事件
(黒人の青年が、地下鉄に落書きをしたという理由で警察官に殺された事件)の際、
支援に立ち上がったバスキアに同調したウォーホルは
「ポップスター」としての影響力を活用して世間の注目を事件に集め、
結果として多くの支援金を集めています。

ウォーホルとバスキアを物語にした舞台「ザ・コラボレーション」
(ニューヨークのフリードマンシアターで2023年2月5日まで)の
演出家クワミ・ケイ・アルマーさんは、
分断と貧困の蔓延った80年代の世相を現代に重ねて
「2人の活動を通して、いま私たちが考え、議論し、戦っている問題が見えてくるのです」
と話しました。


《最後の晩餐》(1986)

1983年にHIVウイルスが発見され、社会はこの新しい脅威によってさらに混乱を深めます。
当時は治療法もなく(現在は早期発見で治療可能)恐怖だけが広がる中で
槍玉に上げられたのが同性愛者(特に男性の同性愛者)でした。

当時、エイズは天罰でエイズ患者は罰せられるべき罪人だ、という考えが蔓延していて、
エイズにかかった人は周囲の偏見に苦しめられました。
同性愛者の病気だという間違った認識も広まっていて、
エイズのことを「ゲイ・キャンサー(同性愛の癌)」と表現するメディアも有りました。
そんな中で若いころからゲイ・セクシュアルであることを公開していたウォーホルが
ひどいストレスにさらされていたことは想像がつきます。
(親しい相手をエイズで亡くしたこともあったそうです)

レオナルド・ダ・ヴィンチの同名の作品をモチーフにした《最後の晩餐》(1986)は
そんな時期に描かれた作品でした。
幅10m×高さ3mの画面に慈悲と博愛の象徴であるキリストが4人、
さらにその弟子たち、バイク・ポテトチップスのロゴなど、
すべて手描きで描き込まれています。
キャンサー(cancer)を意味する「C」の字も大きく描かれ、
エイズ・その不安に踊らされる世相・迫害される人々の無実や救いなどが
一つの画面の中に表されているかのよう。
ウォーホルはこの作品を発表した1年後、58歳で亡くなっています。


「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」(京都市京セラ美術館)

ウォーホルの作品約200点(うち100点以上が日本初公開)が来日する大規模回顧展。
巡回はなく、京都のみの開催となります。

京都市左京区岡崎円勝寺町124

2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)

10時~18時 (1月・2月の土日祝日は9時から開館)
※入場は閉館の30分前まで

月曜休館

土日祝 一般 2,200円(2,000円)
平日 一般 2,000円(1,800円)
大学・高校生 1,400円(1,200円)
中学・小学生 800円(600円)
※( )内は20人以上の団体料金

公式ホームページ