モナ・リザのモデルは誰? 永遠の謎に挑む ― E. L. カニグズバーグ『ジョコンダ夫人の肖像』岩波書店,1975

「モナ・リザ」とは誰なのか。
これについては様々な説があり、モデルの名前が判明してからも謎が残っています。
この物語は謎に対するひとつの解答ですが、モデルとなる筈のジョコンダ夫人の登場で幕切れとなり、いま真実を知るのは「モナ・リザ」のみとなっています。

「モナ・リザ」とは誰なのか?…モデルは「リザ夫人」だとしても?

おそらく世界で一番有名な人物画、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》。
このモデルが誰なのかは長いこと議論の的になっていました。
いちおうこの絵が制作された1500年代からモデルはリザ・デル・ジョコンドという女性ということになっていましたし、だからこそ「ma donna Lisa」略して「Mona Lisa」と呼ばれていたわけです。

それでも実は別の女性であるとか、複数のヴァージョンがあってリザ夫人をモデルにした絵は別にあるとか、いろいろな説がありました。

モデルになったのがこの夫人なのは確かだとしても、最終的にレオナルドが描いたのは別の存在である(別の女性・理想の具現・神経症の産物・レオナルドの母・レオナルド本人…etc)などの説もあって、こうなるとレオナルド自身にしか答がだせないでしょうし、本人に訊いてもはっきりとは分からないかもしれません。

2005年に絵のモデルはリザ夫人で間違いないという証拠が見つかった後も《モナ・リザ》が誰なのか、という問題はいまだに謎のままです。

E. L. カニグズバーグ《モナ・リザ》の謎に挑む ―『ジョコンダ夫人の肖像』

アメリカの児童文学作家、エレイン・ローブル・カニグズバーグの歴史小説。
元タイトルは “The Second Mrs. Giaconda” です。
日本語版は松永ふみ子訳で、1975年に岩波書店から出版されました。

タイトルから分かるように、この本の中でも《モナ・リザ》は「フィレンツェの名もない商人の二度目の妻の肖像」つまり「ジョコンダ夫人の肖像」ですが、それと同時にレオナルドの初期のパトロンだったミラノ公の妻で、若くして亡くなったベアトリチェ・デステの肖像でもあります。

レオナルド(1452-1519)、ベアトリチェ(1475-1497)、そして主人公のサライことジャン・ジャコモ・ド・カプロティ(1480-1524。モナ・リザのモデルではないかと言われているひとりです)など実在の人物が登場しますし、《最後の晩餐》など現存する作品もエピソードに織り込まれていますが、この作品はあくまでもフィクション。
カニグズバーグ本人も《モナ・リザ》をめぐるミステリーに興味を持って、自分が納得できる答えを探した結果この物語が生まれたのかも知れません。

物語はすべてサライの視点で進み、コソ泥だったサライがレオナルドの徒弟になるところから始まり、ベアトリチェとの交流と彼女の死を経て、ジョコンダ夫妻が肖像画の注文にレオナルドを訪れるところで終わります。

なので、レオナルドが本当に肖像画の仕事を受けたのか、絵は完成したのか、それが本当にルーヴル美術館にある「あの絵」なのか、読者の側から確認することはできません。
関係者がすべて過去の人になったいま、真実は《モナ・リザ》のみが知っている、というわけです。

代表作『クローディアの秘密』でも秘密を持つことの大切さを語ったカニグズバーグのにくい演出。
「さすが!」と拍手したくなりました。

奥付には「小学6年,中学以上」とありますが、高校以上、大学以上、社会人になってから読んでも一向に差し支えありません。