カレー沢薫の猫漫画と写真美術館のコラボ!―「ニァイズ~『クレムリン』出張版」がおすすめ

東京都内、恵比寿ガーデンプレイス内にある東京都写真美術館(住所は目黒区)。
またの名をTOPミュージアムという写真・映像専門の美術館に行くと、
チラシ置き場で変わったペーパーが見つかります。
(´ω`) ←こんな顔をした猫が登場する漫画で、A4二つ折りの全4ページ。
写真美術館に置かれているのに写真は一切なし!
これは東京都写真美術館と漫画家・カレー沢薫先生とのコラボで生まれた
広報誌の別冊で、名前は「ニァイズ(nya-eyes)」といいます。

カレー沢薫プレゼンツ・猫と漫画と写真美術館 ― 東京都写真美術館ニュース別冊「ニァイズ」

「ニァイズ」は、東京都写真美術館の本家・広報誌「eyes(アイズ)」の別冊として
2011年1月に誕生。
「アイズ」と「ニャー」をあわせて「ニァイズ」です。
つい「ニャイズ」と呼びたくなりますが「ニ “ァ” イズ」です。

漫画の中で写真美術館を案内してくれるのは、
カレー沢薫先生のデビュー作『クレムリン』から出張してきた1人と3匹。
大学生という名のニート・却津山春夫(きゃっつやま はるお。通称キャッツ)と
血統書つきの中年ロシアンブルー・関羽×3(3匹全員同じ名前)。
第1号で東京都写真美術館を爆破した彼らは、
地獄の広報 ネムロ女傑(漫画内で実際に使われた呼称)によって
莫大な借金(再建費用)を背負わされ、
普及係として(おもに関羽が)働くことになった…というのがすべての前提。
なお爆破された美術館は、次のページで復活しました。

実際には『クレムリン』のファンだったネムロさん(仮名。2020年に異動)の発案で、
カレー沢先生にオファーが行ったようです。


カレー沢薫・独占取材!?― 猫漫画になった写真美術館

元の広報紙「eyes」が展覧会の情報など美術館からのお知らせを発信するのに対して、
「ニァイズ」は施設や職員のお仕事などを紹介するのがメインです。
ひとつひとつのエピソードが小粒なためか、
本家「eyes」が年4回刊行の季刊なのにたいして
「ニァイズ」は毎月刊行の月刊となっています。

とはいえ「ニァイズ」でも展覧会や写真家が取り上げられることはあり、
わたしなどは128号の野生動物写真家・宮崎学さんの記事
(宮崎さんの展覧会にあわせたもの)を見つけて「ニァイズ」の存在を知りました。
生粋のファンからは「遅い」と怒られそうですね。

カレー沢薫先生ならではのブラックなユーモアや
猫化した職員たち(登場人物は老若男女ほぼ猫人間!)に目が行きがちですが、
実際に写真美術館を取材し、職員の方々に話を聞いて描いているだけあって、
提供される情報はかなり正確なものです。
…写真保存技術の専門家人口はエクストリームアイロニングの競技人口なみ(7号)
って本当なんでしょうか?

もちろん東京都写真美術館が爆破されたことはありません。
職員の方々も(残念ながら)猫ではありませんし、関羽×3もいません。
(2011年末に2階ロビーで関羽のイベントと作者サイン会があったようです)
ですが、過去の「ニァイズ」を読み返せば、

  • ミュージアムカフェの変遷
    シャンブルクレール(ベルギービールがおすすめ) 3号
    BIS(カフェとミュージアムショップの融合) 23号
    メゾンイチ(ベーカリーカフェ) 72号
    フロムトップ(2022年現在のカフェ。素材にこだわりあり) 132号
  • 大規模改修工事のため全面休館(2014年9月24日~2016年9月2日)
    休館のお知らせ 42号
    引っ越しの現場 46号
    神田の仮事務所(元は意外な施設) 54号
    リニューアルに向けて必要な物資・予算を調べる(初度調弁) 61号
    リニューアルしたTOPミュージアムを(カレー沢風味で)紹介 68~72号
  • 美術館の通称が「TOP」に
    (写真美術館界のトップを狙う?) 65号
  • コロナによる臨時休館と展示休止
    (登場人物が全員マスクの貴重な回) 113号
  • 本家「eyes」の歴史
    (創刊年が意外すぎる) 136号

など、東京都写真美術館の歴史や裏話を楽しく知ることができます。
(脚色部分は頭の中で割り引いてください)


写真美術館のホームページで猫漫画を読む ―「ニァイズ」は全号掲載

さて、フリーペーパーである「ニァイズ」のバックナンバーを
すべて手に入れるのは大変です。
東京都写真美術館のほかには、
公益財団法人東京都歴史文化財団の各美術館をはじめとする各地の美術館、
専門学校、書店でも配布されていますが、
(わたしは水道橋のTOKAS本郷で大量に見つけたことがあります)
この方法ですべて集めるには時間と幸運が必要となるでしょう。

ご安心ください。東京都写真美術館のホームページに行けば、
すべてのバックナンバーを電子版(pdf)で見ることができます。
112号からははデジタルブックも併用され、読みやすい方を選べるようになりました。

場所は少々わかりにくいのですが、
トップページを下にスクロールした先にある「ニァイズ」のバナーから。
関羽の顔 (´ω`) が目印です。
(本家「eyes」はトップページの「TOPについて」→「美術館ニュース」で行けるのに…)

『ニァイズ』単行本は講談社から

そしてなんと、1~39号を一冊にまとめた単行本が
2014年に講談社から出版されています。
(表紙には「ニァイズ」の母・ネムロさんの姿も)
書店で手に入れるのは難しいかもしれませんが、電子書籍が発売されていますし、
NADiffのオンラインストアには紙書籍の在庫もあります。
(Amazonなどネット古書店にも…)

残念ながら講談社からの刊行は1巻のみ。
(表紙も数字にバツが付いていて「続刊はありません」と物語っているようです)
なお2019年には40~95号をまとめた(一部入れ替え・削除あり)続刊が
東京都写真美術館から刊行されています。
カレー沢薫先生のコラム(2頁)も収録されていますが、
残念ながら非売品です。
写真美術館の図書室には5冊収蔵されていますので(オンライン蔵書検索より)、
写真・映像鑑賞のついでに確認してみてください。


カレー沢薫の元祖・猫漫画『クレムリン』と「ニァイズ」はセットでおすすめ!

「ニァイズ」の作者・カレー沢薫先生は、
現代人の死に方を考える『ひとりでしにたい』(ドネリー美咲と共著、講談社)や
ペットとの暮らしと別れを見つめる『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)など、
重いテーマを口当たり良く(さりげない毒を含ませて)描く漫画家として、
また鋭い切れ味のコラムニストとしても活躍中。
eyes109号では、展覧会「メメント・モリと写真 ― 死は何を照らし出すのか」
を担当する浜崎加織学芸員と、死を想い表現することについて語りあっています。
(浜崎ならぬハマザキ学芸員は「ニァイズ」129号で初登場)

カレー沢薫『クレムリン』(講談社)とは

そんなカレー沢先生のデビュー作『クレムリン』は、
血統書つきのロシアンブルーなのに捨てられてしまった3匹の猫と、
彼らを(まる1年無視した後で)拾った8流大学生却津山の
ゆるくシュールな日常をつづるギャグマンガです。
「ニァイズ」では東京都写真美術館の普及係を務める却津山&関羽たちですが、
こちらの却津山は大学卒業見込みなしのニートで猫の関羽に養われている状態。
猫好きのカレー沢先生が「猫に養われたい」という願望を形にしたという説も…
(「ニァイズ」9号の登場人物紹介より)

講談社の『モーニング・ツー』(2009年27号~2012年62号)と
『モーニング』(2010年30号~2013年7号)で連載され、
全7巻の単行本(講談社,2010~2013)が出ています。
(電子書籍あり)
また2012年にはYouTubeのDLEチャンネルに
原作を忠実に再現した4話分のFLASHアニメ(監督・歌:谷東)が登場。
2013年に「7巻発売記念」として5話目が投稿されました。

2014年には東京都写真美術館の全面休館にあたって
特別編【クレムリン】写美は2年間休館するニャ!【ニァイズ】
(監督・歌:篠原ぱらこ)が公開されているのですが…


アニメ5話の続きだと思って見た人はかなり混乱したと思います。


カレー沢薫ワールドは「ニァイズ」&『クレムリン』で2倍楽しめる!?

『クレムリン』は日常系ギャグマンガですから、
内容を知らないと「ニァイズ」がわからない…なんてことはありません。
(わたしは「ニァイズ」から興味をもって『クレムリン』を全巻購入したくちです)
ですが、『クレムリン』と「ニァイズ」のどちらかを読んで面白いと思ったならば、
もう片方も絶対にチェックするべきだと思います。

両方押さえておくことで、却津山と関羽ズの新たな一面を見ることができますし、
片方の作品で唐突に登場したように見えるネタが
実はもう片方から来ていることがわかる…という楽しみ方もできます。

たとえば却津山の熟女趣味(『クレムリン』3巻で「45歳から116歳まで」と発言)は
「ニァイズ」でも遺憾なく発揮されています(25号・28号など)。
さらに却津山、何を血迷ったか『モーニング』ではニートを脱却して
大手化粧品メーカー「資猫堂」の企業戦士として戦っているのですが、
(戦う相手は同じ社内の勝ち組たちですけど)
「ニァイズ」連載開始時の東京都写真美術館の館長は
(「フクハラ館長」として1号から出演。2016年4月から名誉館長)
元ネタと思われる会社の社長・会長を歴任して現在名誉会長。
ある意味コネ入社と言えるかもしれません。

…まあ、気づいたから何か良いことがあるのかと言われると困りますが、
「あ、ここが繋がっていたのか」という気づきでちょっとだけ嬉しい気分になれます。
そして現実の東京都写真美術館を訪れる時も、写真と映像に触れる体験に加えて、
却津山・関羽と『クレムリン』の世界を身近に感じる
聖地巡礼の気分を味わえるかもしれません。


東京都写真美術館(TOPミュージアム)

東京都目黒区三田1-13-3(恵比寿ガーデンプレイス内)

月曜休館(祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
年始年末休館

10時~18時 (木・金曜日は20時まで。ただし図書室は通常どおり閉室)
※入場は閉館の30分前まで

展覧会・上映によって料金が異なります。
各展覧会・上映のページをチェックするか、窓口で尋ねるのが良いでしょう。
(展示同士のセット割引もあります)

公式ホームページ