「上村松園 松篁 淳之 三代展」2022年2月11日、2年ぶりの再開!

新型コロナウイルス感染拡大の影響で
2020年2月29日にオープンしてからわずか2日で休止となった
東京富士美術館の「上村松園 松篁 淳之 三代展」が、
2022年2月11日に再開となりました。
(一部展示作品に変更あり)

東京富士美術館「上村松園 松篁 淳之 三代展」

近代随一と言われる美人画家上村松園(1875-1949)、
松園の息子であり近代的な花鳥画を描いた上村松篁(1902-2001)、
松篁の息子でやはり花鳥画を専門とし、愛鳥家としても知られる上村淳之(1933-)と、
三代にわたる作品が公開されます。
上村家三代の作品を収蔵・展示する松伯美術館
(奈良県奈良市。館長は上村淳之)のコレクションを中心に、
日本画家三代の系譜をたどる贅沢な展覧会です。

東京都八王子市谷野町492-1

2022年2月11日(金)~3月13日(日)

10:00~17:00 ※入場は閉館の30分前まで

大人 1,300円
大高生 800円
中小生 400円
未就学児 無料
※土曜日は中小生無料
※障がい児者、付添者1名は半額(証明書の提示が必要)

月曜休館(祝日の場合は開館。翌火曜日は振替休館)

公式サイト

上村松園の美人画

公式のホームページで公開されているチラシ(pdf)を見ると、
表に大きく印刷されているのは松園の「鼓の音」(1940)。
裏面にも5点(松篁・淳之は1点ずつ)の作品が掲載されており、
メインは松園の美人画のようですね。

(これは2020年のチラシ)

《鼓の音》1940

朱色の振袖に青地の帯を締めた女性が鼓を打とうとする場面。
この作品はニューヨーク万国博覧会に出品されました。
松園は金剛流の師匠について能楽を学んでおり、自分でも鼓を打ったそうです。

《楊貴妃》1922

二曲一隻の屏風(中央で折れ曲がった単品のもの)に
湯上りの楊貴妃と、貴妃の髪を整える少女が描かれています。
楊貴妃は薄布だけ羽織った上半身裸の姿で
松園の美人画としては稀ななまめかしいシーンなのですが、
色っぽいというより仏様を思わせる堂々とした姿です。

唐代の詩人・白楽天の「長恨歌」をもとにしたこの作品は
第4回の帝展に出品されたものですが、
提出の期限に遅れそうになって、背景の一部を松篁が手伝ったそうです。
(上村淳之「「楊貴妃」「夕千鳥」」『唳禽抄』)

上村松篁の花鳥画・上村淳之の花鳥画

松園の美人画が素晴らしいことは間違いありませんが、せっかくの三代展ということで
現代花鳥画の新境地を開拓した松篁や、
空間表現を追求した(そしてやけに可愛い)淳之の作品もチェックしたいところ。
展覧会のチラシには、松篁の《万葉の春》と淳之の《月汀》が取り上げられています。

上村松篁《万葉の春》

上村松篁は19歳で帝展に初入選するなど早くから評価された画家ですが、
終戦後に日展を離脱し、
「世界性に立脚する日本絵画の創造」を目指す日本画団体
「創造美術」を結成しています。
伝統的な花鳥画を下敷きに、色彩豊かでどこかモダンな雰囲気の作品で
花鳥画の新たな境地を開拓しました。

《万葉の春》は松篁には珍しい歴史人物画。
天平の貴族たちが春の野山を散策する様子を
縦186×横765.2㎝の大画面に表したこの作品は、
近畿日本鉄道の依頼で描かれたものです。

松篁は、1968年1月から1969年3月にかけて「サンデー毎日」に連載された
井上靖の歴史小説「額田女王」に挿絵を描いたことがきっかけで
頻繁に人物を描くようになり、また万葉の世界に関心を寄せました。

あまりにも大きすぎてひとりでは手が足りなかったのか、
画中の鳥は淳之が描き、ほかにも芸大の学生が大勢手伝いに来て
上村家は大変にぎやかだったそうです。
(上村淳之「ドイツ製の三面鏡」『唳禽抄』)

上村淳之《月汀》1998

上村淳之は一時建築家を目指しており、
進路を変えて日本画の道に進むときは、母の大反対を受けたといいます。
母のたね子(通称たねさん)は夫の松篁と義母の松園の身の回りの世話のほかに
画材の準備、画商との交渉…とさまざまな仕事を任されていて、
絵描きの大変さをよく分かっていたからこその反対だったそうです。

こちらも花鳥画の専門家ですが、
松篁の描く鳥獣が近づくと逃げるか威嚇してきそうなのに対して、
こちらの鳥や動物は挨拶くらいなら許してくれそうな
穏やかさと距離の近さがある気がします。
松篁が飼っていた小鳥の世話をしたことにはじまって、
20歳頃には様々な鳥の飼育から
繁殖まで手がけていたことが影響しているのかも知れません。
わたしにとっては「すごく可愛い絵を描く人」です。

チラシに採用されている《月汀》は、水辺で羽を広げる鴫が描かれています。
背景に山桜の枝が垂れ下がり、その向こう側に見えるのはぼんやりと光る満月。
現実を離れた不思議な世界の光景のようにも見えます。

三代展というよりも

2009年に開催された三代展の図録(読売新聞大阪本社,2009)を
見返して思ったのですが、
並べてみると同じ系譜に連なる「三代展」というより
わが道を進む日本画家たちの「三人展」と言いたいような趣があります。
それぞれに個性的な三人による共演、
今回こそ沢山の人が見られるようにと願わずにはいられません。