日曜美術館「オラファー・エリアソン ひとりが気づく、世界が変わる」 アートシーン「入江一子の制作風景」(2020.04.26)

2020年4月26日の日曜美術館は、東京都現代美術館で3月14日から開催予定だった
「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」(新たな会期は6月9日~9月27日)
の会場から(撮影は3月30日)。
司会のお2人と、上白石萌歌さん、松尾貴史さんが先取り体験します。
(2020年8月16日に再放送しました)

アートシーンは特別編として過去の日曜美術館から
洋画家・入江一子の作品制作の様子を放送します。

2020年4月26日の日曜美術館

「オラファー・エリアソン ひとりが気づく、世界が変わる」太字

放送日時 4月26日(日) 午前9時~9時59分
再放送  5月 3日(日) 午後8時~8時59分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

ロンドンの美術館に“沈まぬ太陽”を作り、ニューヨークのブルックリン橋に“巨大な滝”を作ったオラファー。科学者を含む100名を超えるスタッフを率い、時に億単位の金をかけて、まさに今考えるべき問題に真っ向から取り組む。3月から始まる予定だった展覧会(現在休館中)を訪ねるとともに、来日がかなわなかったオラファーにもテレビ電話でインタビュー。ウイルスが、まん延する中での、アートの果たす役割などを語り合う。(日曜美術館ホームページより)

出演
長谷川祐子 (キュレーター)
上白石萌歌 (俳優)
松尾 貴史 ((タレント)
オラファー・エリアソン (アーティスト)


オラファー・エリアソンの作品(インスタレーションなど)

オラファー・エリアソン(1967-)は、
アイスランドとデンマークの国籍を持っています。
両親が離婚したため、
夏になると父親が暮らすアイスランドを訪れました。
父親のエリアス・ヒョルレイフスソンはやはりアーティストで料理人でもあり、
オラファーは父親とのやり取りから
想像力で現実を違うものに変えるやり方を学んだそうです。
アイスランドの圧倒的な自然とデンマークの社会福祉システムは
アーティストとしての活動にも大きな影響を与えています。

《ウェザー・プロジェクト》2003

オラファー・エリアソンが世界的に有名になったのは、
ロンドンの近現代美術館テート・モダンに人口の太陽を展示した
《ウェザー・プロジェクト》でした。
これが視覚的だけのものなのか温かさまで感じられるのかはわかりませんが、
当時の映像では本当に日向ぼっこでもしているかのように寝転がる人の姿もありました。

《ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ》2008

ニューヨーク市を流れるイースト川に4つの滝をつくる壮大なプロジェクト。
パブリックアート基金と協力し、日本円にしておよそ17億円を投資したそうです。
滝が流れていたのは2008年の6月26日から同年10月13日までですが
その間に170万人がおとずれ、経済効果は75億円を超えるともいわれているとか。

フィヨルドハウス

デンマークの湾岸都市ヴァイレの入り江(フィヨルド)につくられた4階建ての建造物。
実は投資信託会社のオフィスビルです。
港と橋でつながった1階部分はパブリックスペースとして公開されています。
建物全体をオラファーが手がけた初めての作品で
(それ以前も建築作品のデザインを担当したことはありました)
外光を大胆に取り入れた風通しのいい構造が特徴です。

《アイス・ウォッチ》2018

2018年12月に開催された国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)にあわせて
グリーンランドのフィヨルドから運んできた氷のかたまりを
ロンドンの中心地2か所においた《アイス・ウォッチ・ロンドン》。
これ以前にもコペンハーゲン(2014)とパリ(2015)で行われていました。
何万年もかけて作られた氷がそれとくらべれば圧倒的に短い時間で
じわじわと溶けていく様子を見せることにより
気候変動について実感することが目的だとか。

街中に巨大な氷のかたまりが出現したら難しいことを考えるより先に
嬉しくなってしまいそうですが、
(映像の中でも楽しげに氷に触る人たちの姿があります)
それもオラファーの狙いのひとつ。
氷のかたまりを実際に触り体験することで
遠い場所の(自分と関係ない)問題ではなく
いまここにある氷をとおして自分とつながっている問題だと知る後押しをすることも
このプロジェクトの大切な役目なんだそうです。

頭の中で知っているだけのことは必ずしも行動に結びつきません。
体を通じての実感や個人的な体験こそが実際の行動に繋がっていくのです。
「自分自身の行動を変えてみよう」
「自分が気候変動の問題にどう関われるのか考えてみよう」
そういう思いになるのです
(オラファー・エリアソンの言葉)

体験すること、そして気づくことは、今回の展覧会でも大切な要素になっています。


「ときに川は橋となる」の会場から

展覧会を案内してくれるキュレーターの長谷川さんは、
オラファー・エリアソンの作品を日本で最初に紹介した人。
展覧会カタログにも論考を寄せているそうです。
展示風景の一部は東京都現代美術館のウェブサイトから見ることができます。

《あなたの移ろう氷河の形態学》2019

会場で最初に出会うのは3つの水彩画です。
《あなたの移ろう氷河の形態学(過去)》2019
《メタンの問題》2019
《あなたの移ろう氷河の形態学(未来)》2019
淡い色の抽象画のように見えますが、
これは氷河の氷を紙の上において溶けたところに絵の具をたらし
さらにドローイングを重ねたものです。
氷河の氷は1万5000年から2万年前のものを1キログラム使用したとか。
画材としては贅沢すぎるような気もしますが…それも含めてアートなのでしょう。

《太陽の中心への探査》2017

出演者がそろって
「キラッキラ」
「ミラーボールみたい」
「キラキラしてる」
「キラキラしてる星みたいな物体」と
とにかく光り輝いていることに言及している、
ガラスと鉄でできた中に光源を入れたカラフルな多面体。
ガラスを通った光が周囲に投げかけられて、部屋全体が「キラッキラ」しています。
この光には屋外のソーラーパネルのエネルギーが使われているそうです。
どうやら現代美術館の敷地内にあるようなので、
展覧会に行けるようになったら探してみようと思います。

《クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12》2020

上白石萌歌さんは幼稚園のころ、
バスの中でスケッチブックにペンを立てて
車の揺れでギザギザの線をつくる遊びをしていたそうです。
白い丸の中に無軌道な線を走らせたようなこの作品も
同じような方法で作られました。
電車の揺れを利用して独特の線を描くドローイングマシンの作品です。
(マシンは宙づりにしたお盆に紙を敷いて絵の具の球をいれたような形をしています)
展覧会の作品は環境を壊さないよう鉄道を使ってベルリンから日本まで運ばれ、
この作品の線はその途中で記録されたものです。

《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》2020

展示室に入ると7つのライトに照らされて連なった影が壁に投影されます。
最初「飾り忘れてますよ!」と言った松尾貴史さんも
「いつまでも無邪気に遊んでられる」と絶賛していました。
上白石さんや司会のお二人もくるくる回ったりポーズをとったりと
大いに楽しんだ様子。
青―紫―黄色のグラデーションになった影が動く様子を見ているうちに
本体である人間の方が動かされてしまう「影があなたを動かす」作品です。
出演者一同、オラファーの遊び心にまんまと引っかかったようです。

《サステナビリティの研究室》

サステナビリティ(sustainability)とは「持続可能性」
自然環境と共生し、かつ持続することができる社会のシステムのことです。
こちらにはいろいろな模型、リサイクルガラスの素材、
野菜くずでつくった顔料などが集められて
持続可能な社会を目指すオラファーの哲学をのぞき見できる展示になっています。
オラファー・エリアソンスタジオには工学エンジニア、建築家、レンズの研究者など
さまざまな分野の専門家が120人も所属しており、
オラファーのアイデアを実現する「アートの研究開発」をおこなっているそうです。

《サンライト・グラフィティ》2012

ここまで見てきてもわかるように、
オラファーの作品は綺麗で楽しいものであると同時に
自然環境との共生を訴えています。
この作品はヒマワリの形をしたソーラーランプを動かすと
壁に光の軌跡があらわれるもの。
使われているランプ「リトルサン」は展覧会のグッズとして販売されています。
「リトルサン」は電気が届かない地域に住んでいる人に
安全でクリーンなエネルギーを届けるためのプロジェクト。
経済的に余裕のある人たちがやや割高な料金で購入することで
電気のない地域の人たちが手ごろな価格で購入できるシステムになっています。
割高といっても欧米の先進国で約50ドル(5000円ちょっと)ほど。
東京都現代美術館にも入っているNADiffのオンラインショップでは
3,960円(税込)で販売されていました。(2020年4月現在)
卓上で使いやすいスタンドのついた「リトルサン ダイアモンド」も販売されており、
こちらは4,620円。
ほかにも現代美術をあつかう美術館のオンラインショップなどで購入できます。

《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》2019

直接的な表現ではなく、体験する人の気づきに任せる作品が多いなか
比較的ストレートにメッセージを伝えてくるのがこちらの作品。
アイスランドの氷河を撮影した写真と
20年後に同じ場所を同じアングルから撮影した写真を
セットにして30組ならべたものです。
1998年、オラファーはただ美しい風景を記録するために
小型飛行機をチャーターして氷河を撮影しました。
20年後に同じ場所の撮影にいったオラファーは風景の変わりように思わず
「場所を間違えたようだからもう一度まわりなおしてほしい」と
パイロットに頼んだそうです。
後の写真では氷河が溶けているだけでなく
人の手による開発が進んでいる様子も見られます。

《ビューティー》1993

天井から霧が降り注ぐ中に虹が見えます。
位置や距離が変わることで会場内の人はそれぞれ違う虹が見える
「あなたの虹をあなたの位置から見つけてください」という目的の作品。
画面の外にいる私たちがカメラのレンズとしか視覚を共有できないのは残念です。

《ときに川は橋となる》2020

展覧会のタイトルでもある作品。
水を通して天井に投影される光は一瞬たりとも同じ姿をしていません。
(タイミングによってはピザやギョーザの皮、という意見も…確かにそっくりでした)

こちらの展示室とベルリンのスタジオをインターネットで繋げて
展覧会のために来日するはずだったオラファーの話を聞くことができました。
コロナの影響下での初めてのインタビューだったそうです。
「ときに川は橋となる」は
見方をかえることで見えなかったものが見えてくること、
世界をよりよく理解するために知覚を変化させることを示すもので、
環境や気候などに対する見方をかえることによって
改めて地球を理解するというメッセージがあるようです。

ショッキングな方法・残虐な手法で
人の意識や社会に働きかけるアートのやり方もありますが、
オラファーは手法についてはそれほど問題にしておらず、
アートがなぜつくられ、何を伝えようとしているのか
それによって使う言語(手法)も変わると言います。
ただ自身は「より詩的な言語」を使いたい、
そして「アートとのつながりを民主化したい」と思っているとのこと。
美術館をアートの初心者にも居心地が良い場所にして
アーティストである「私」と鑑賞者である「あなた」が
制作者と消費者ではなく一緒に展覧会をつくる
「共同制作者」であるような気持ちになってほしいそうです。

また現在アートにアクセスできない状況がつづく中で、
自宅のリビングでアートを楽しめる「拡張デジタルアート」や
外に出られない人の部屋の中に自然を取り入れる方法を構想中だとか。
人間と人間が物理的にはなれていても社会的にはつながる必要がある。
アートはそのプラットフォームになるものだとオラファーは語っています。


「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」東京都現代美術館 (会期変更)

東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)

2020年6月9日(火)~9月27日(日) (会期変更)

月曜休館

10時~18時
※入場は閉館の30分前まで

一般 1,400円(1,120円) 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,000円(800円)
中高生 500円(400円) 小学生以下 無料
※( )内は20名以上の団体料金

公式ホームページ

リトルサンが購入できる NADiff Online は http://www.nadiff-online.com/ から


アートシーン 特別編アーティストのアトリエより―洋画家・入江一子

いつもは注目の展覧会を案内してくれるアートシーンですが、
緊急事態宣言のため休館中の美術館が多いため特別編として2017年6月の日曜美術館から
洋画家入江一子さん(1916-)の制作の様子を紹介しました。

《回想 四姑娘山の青いケシ》2017

当時100歳だった入江さんは、その記念となる大作に取り掛かっていました。
1時間描いては1時間眠る生活で描かれたのは、
76歳の時に旅した中国四川省の四姑娘山の青いケシの花でした。
ヒマラヤの高地にしか見られないその花を訪ねて
山岳地帯を馬と徒歩で進み高山病にもかかったという旅を
「いまでも楽しい思い出です」と語る入江さん。
当時描いた《四姑娘山の青いケシ》(1992)は
東京にある立川中央病院エントランスに飾られているそうですが、
見比べるとケシの花はより青くより大きくなっているようです。
絵の中には馬に乗って旅をする入江さんの姿もありました。

入江さんはいま104歳。
今年の5月に行われる団体展にむけて
100号の《セビリア マリア・ルイサ公園》(2020)を完成させ、
今は次の作品に取り掛かっているそうです。