日曜美術館「デザイナー 皆川明 100年つづく人生(デザイン)のために」(2020.1.5)

東京都現代美術館で開催された展覧会
「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」の会場を紹介しながら、
デザイナー・皆川明の仕事とそこに繋がるもの、
そこから繋がっていくものたちを追います。
(2022年8月28日、アンコール放送に合わせて加筆修正)

2020年1月5日の日曜美術館
「デザイナー 皆川明 100年つづく人生(デザイン)のために」

放送日時 2020年1月 5日 午前9時~9時45分
再放送 2020年1月12日 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

ファストファッション全盛の今、流行にとらわれない独自の生地作りで注目されるデザイナー・皆川明。若い頃は長距離選手として活躍、魚市場でも働いた異色の経歴を持つ皆川は、服、絵画、さらには人生100年時代の幸せな生き方そのもののデザインを目指す。キャリア25周年を記念した大規模な展覧会から、異色のデザイナーの頭の中に迫る!
(日曜美術館ホームページより)

ゲスト
皆川明 (デザイナー)

出演
深井 晃子 (服飾研究家 キュレーター)
糸井 重里 (コピーライター ほぼ日刊イトイ新聞社長)
谷川俊太郎 (詩人)
佐藤 敏博 (刺しゅう職人)

ミナ ペルホネンと皆川明さん

だいぶ古い話になりますが、
わたしは名前から想像して「ミナ ペルホネン」とは北欧にあるブランドに違いないと信じていた時期がありました。
北欧に住んでいるミナ・ペルホネンさんが、
自分や子供のために作った洋服がもとなのかもしれない…
なんて思っていました。

実際に「ペルホネン」はフィンランド語で蝶々のことだそうですが、
ミナ ペルホネンは、オリジナルの布から作られた洋服や雑貨を扱う日本のブランドです。
ブランドの創設者は、デザイナーの皆川明さん。
ミナガワさんだから「ミナ」だったのでした…

デザイナー・皆川明さんのこと

皆川明さん(1967~)は、蒲田(東京都大田区)のサラリーマン家庭の生まれです。
大学の駅伝選手を目指して中学・高校と陸上の練習を重ねていましたが、
怪我のために選手生命を絶たれてしまいました。

体育大への進学も取り止めた皆川さんは、ヨーロッパ各国へ旅をします。
ファッションの世界に進んだきっかけは、
パリでファッションショーの手伝いをしたことでした。
帰国して服飾専門学校へ通い、実際に衣服を作る工場で専門技術を身につけながら
「もの作り」について学んだそうです。
八王子でブランド「mina」(2003年から「mina perhonen」)を立ち上げたのは
27歳の時でした。

軌道に乗るまでは魚市場でアルバイトをして生計を立てていましたが、
やがて独創的な記事が注目されるようになります。
皆川さんの作る洋服は、非常にシンプルな形と独特な柄・風合い・色使いの生地が特徴。
布地から作りあげる服作りのもとになったのは、魚市場での経験でした。
良い素材を探して集まるプロの料理人たちを見て、皆川さんが気づいたのは
「材料を見る目がある人は技術も高い」
ということだったそうです。

衣と食という違いはありますが、
素材を大事にしてとことんまで活かすという姿勢には
料理人と通じるものがある気がします。

ちょっと見ただけだと「素朴な柄だな」と思うミナペルホネンの生地ですが、
実はすべてが手描きのデザイン画から起こされて、
織・染・刺繍などの技術を組みあわせて作られたもの。
とんでもなく細かい設計と高い技術が注ぎ込まれているそうです。

例えば、ソーダ水の泡をイメージした「ソーダウォーター」は、
重なり合う水玉を織り出す糸の向きが1つずつ変えてあります。
37種類のモチーフをつなげたレースの「フォレストパレード」は、
刺繍を請け負う工房の佐藤敏博さんによると
織機のプログラミングだけで数か月、
さらに1メートル織りあげるのには丸3日かかるといいます。

服飾評論家の深井晃子さんは、テキスタイルから服を作る皆川さんのやり方と
日本の伝統的な衣文化である着物との共通点を見出しています。

皆川明の内面世界

皆川明の絵とデザイン ―『はいくないきもの』

皆川さんはファッション以外にも、新聞小説やコラムの挿絵を描く
イラストレーターとして活躍しています。
詩人の谷川俊太郎さんは、皆川さんとの合作絵本
『はいくないきもの』(クレヨンハウス,2015)を作った時、
動物とも植物ともつかない不思議な生物に
皆川さんの「裏」を感じて「怖かった」と言っています。
潜在意識からやってきたような存在につける言葉が見つからず、
俳句の定型にすることで解決したんだとか。

しかし、ミナペルホネンの洋服に怖いものは一切姿を現しません。
「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」の会場は、
それぞれの展示室が樹木とそれを支える土になぞらえてあります。
ブランド立ち上げから25年間で発表した服すべてを集合させた「森」、
服になる前のテキスタイルの原画は「芽」、
実際に長年身につけられた服に思い出のエピソードを添えて展示する「土」。
そしてファッション以外の絵は「根」にあたります。
得体の知れないものたちは、
ミナペルホネンの世界を深い部分から支える存在ということでしょうか。

100年後のための土壌をつくる

ブランド立ち上げの時から「100年つづくブランド」を目指していたという皆川さん。
先の目標のために現在の努力を積み上げる姿勢は、
学生時代の運動の経験が影響していると言います。

100年続けるということは、ひとりの寿命では完成しないということ。
(27歳+100年=127歳!)
皆川さんは自分を「土壌をつくる存在」と定義して、
次の世代に受け継いでいくことを考えているそうです。

ミナペルホネンを北欧のミナさんだと思っていた頃よりは
知識が増えたつもりのわたしですが、
独特のテキスタイルが職人さんたちの協力のもと
大変な技術と時間をかけて作られていることや
その根っこには皆川さんの経験をもとにした哲学があることは
日曜美術館で初めて知りました。
「可愛い」「カラフル」「ファンタジーっぽい」…
そんなイメージだった、ミナペルホネンを見る目が変わりそうです。

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」



ミナペルホネン25周年を記念して開催(2019年11月~)。
2022年4月に福岡・青森、さらに10月下旬から台湾に巡回予定です。
展覧会に関するお知らせは、ミナペルホネンの公式ホームページでも見ることができます。

2019~2020年

東京都現代美術館
(東京都江東区三好4−1−1)

2019年11月16日(土)〜2020年2月16日(日) 会期終了

兵庫県立美術館
(神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1 HAT神戸内)

2022年7月3日(金)~11月8日(日) 会期終了

2022年~2023年

福岡市美術館
(福岡市中央区大濠公園1-6)

2022年4月23日(土)~6月19日(日) 会期終了

青森県立美術館展示室
(青森市安田字近野185)

2022年7月16日(土)~10月2日

9時30分~17時(入場は閉館の30分前まで)
※9月10日(土)、24日(土)は20時まで開館

第2、第4月曜休館

一般 1,500円
高大生 1,000円
小中生 無料
※障がい者手帳の提示で本人と付添者1名は無料

公式ホームページ

高雄市美術館(Kaohsing Museum of Fine Arts)
(高雄市鼓山區美術館路80號)

2022年10月22日(土)〜2023年2月19日(日)

9時30分~17時30分

月曜休館・旧正月休館

公式ホームページ

追記 ほぼ日とミナ ペルホネン

ゲストの一人である糸井重里さんが主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」は、何度もミナペルホネンとコラボレーションをおこなっています。
看板商品の「ほぼ日手帳」にも毎年ミナペルホネンの手帳カバーが作られ、今回の展覧会に際してもイベントが開催されました。

こちらの会場レポートは展覧会に行く前の予習としてもおすすめですhttps://www.1101.com/n/s/mina_tsuzuku