日曜美術館「アニマルアイズ~写真家・宮崎学~」(2020.11.22)

「自然界の報道写真家」として活動する
宮崎学さん(1949-)の作品が出来上がるまでを追いかけます。
自動撮影装置の製作から始まる準備期間とあわせて数か月がかりの撮影は、
監督の宮崎さんがモデルや役者である動物たちの目線に近付く道のりでもあるようです。

2020年11月22日の日曜美術館
「アニマルアイズ~写真家・宮崎学~」

放送日時 11月22日(日) 午前9時~9時45分
再放送  11月29日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

写真家・宮崎学(71)は、人間社会のすぐそばで生きる多種多様な動物たちの姿を、半世紀にわたり写し続けてきた。探偵のごとく動物たちの痕跡を読み解き、自作のロボットカメラで人間の目が及ばぬ世界を写し出す。番組では、一年越しの構想の末、動き出した新プロジェクトに密着。「動物の住む森を、動物の目線から見る」、前代未聞の表現に挑む姿に迫る。(日曜美術館ホームページより)

出演
宮崎学 (写真家)


動物の目線で写真を撮る準備

宮崎さんの撮影は、撮影用の機材を自作するところから始まります。
家の中も、材料になる空き缶や水槽、何かの部品だったものなどがとにかく沢山。
ちょっと見るとひどく散らかっているようですが、
どこに何があるかは分かっているそうです。
だから「人に片付けられるとアウトですよ」という宮崎さん。

新作のためには、
四角いプラスチックのボックスに魚眼レンズを上向きに設置したカメラと、
拡大鏡を太いパイプ(もとは汲取式トイレの臭気抜き)と合体させた
望遠ライトを製作しました。

動物の動きにあわせて自動でシャッターを切る無人撮影装置は、
動物の自然な姿を至近距離から撮影するために4年がかりで開発したもの。
撮影用の隠れ小屋を作って身を隠しても
決定的な瞬間を撮ろうと待っている内に「殺気」が出て動物に気づかれてしまう。
ならば人間をその場所から取り除いてしまおうという大胆な発想です。
このカメラで狙えるのはせいぜい数十cm四方のため
動物の行動を予測して最適な場所に仕掛けなければならないそうです。


写真家・宮崎学

中学校を卒業してすぐバス会社に就職した宮崎さんは、
その後光学機器メーカーに天職してからカメラに興味を持つようになったそうです。
この頃からカメラの構造や写真の撮り方を独学し、
動物の写真で入選を重ねて写真家への道を歩み始めました。

プロの写真家としてのデビュー作は
児童文学作家の今江祥智(1932-2015)が文章を担当した
写真絵本『山にいきる にほんかもしか』(千趣会,1972年/ポプラ社,1979)。

また生態がほとんど分かっていなかった西表島のカンムリワシを含む
日本列島のワシ・タカ16種類すべての生態を撮影した
写真集『鷲と鷹』(平凡社,1981)で
1982年の日本写真協会賞新人賞を受賞しています。



『死 Death in Nature』と『アニマル黙示録』

今回、宮崎さんがカメラを設置した撮影場所は、タヌキの共同トイレ。
(「ため糞」とも。タヌキは同じ場所でトイレをする習性があります)
食べカスが残っているから分かるんだそうです。

土に紛れているのは木の実の殻に、沢蟹の甲羅、そしてイノシシの毛。
タヌキに比べれば圧倒的に大きくて強いイノシシですが、
タヌキは近くで死んだイノシシの死骸を食べていたようです。
糞に交じった毛は雨に溶かされて残り、
それをシジュウカラのような鳥が巣材として運んでいく。
こんな自然の営みを、宮崎さんは「腐食物連鎖」と呼んでいます。

生きている間は「弱肉強食」の「食物連鎖」が通用しても、
強いものが死んでしまえば「強肉弱食」の「腐食物連鎖」が始まる。
分かりやすく美しい面にばかり注目する人間が
忘れかちな自然の仕組みにに注目する宮崎さん。
写真集『死 Death in Nature』(平凡社,1994)では、
ニホンジカの死体が土に還るまでを撮り続けました。

宮崎さんが「汚い部分」「見るに堪えない世界」に注目するようになったのは、
まだ会社員兼アマチュアカメラマンだった時期に
原因不明の体調不良で入院した時だったかもしれません。

宮崎さんはこの原因は11歳の時に故郷の伊那谷を襲った水害(三六災害 1961)のあと
土砂崩れを起こした山をコンクリートで固めたことで
生活用水に使っていた川の水に「コンクリートのアク」が入り
それが「腎臓のろ過装置にイタズラしたのかな」と考えているようです。

台所用洗剤のキャップを被って暮らすヤドカリ、
高速道路の下に融雪剤の塩化カルシウムを舐めに来る鹿などを写した
写真集『アニマル黙示録』(講談社,1995年)では、
人間の気づかない所で人間社会の影響を受けて暮らす動物たちの目線から
その背中ごしに人間の街や営みを撮影しました。

不燃ごみを巣にしたり化学物質を体内に取り入れている動物の姿は
人間の目から見ると痛々しく危ういように見えますが、
実のところ人間も似たような状態にあるのかも知れません。

宮崎さんは1996年にウクライナ(旧ソビエト連邦)のチェルノブイリを訪問し、
1986年の原発事故で高濃度汚染された村が消されていく場面に立ち会っています。
その15年後、2011年の福島第一原発事故では、
立ち入り禁止区域の家の持主から依頼を受けて無人の家にカメラを設置。
イノシシが扉を破り、野生動物たちが入り込んでくる一部始終を写真に収めました。


無人カメラのその後

さて、仕掛けたばかりの頃は成果が「ゼロですね」という状態だった無人カメラ。
3か月後に動きがありました。
(チャンスが来る時は続いてきたり、1週間くらい何も来なかったりするそうです)

木の枝越しの空を背景に、「ふてぶてしい顔」のクマがカメラを覗き込む様子、
他にもテン・ウサギ・リス・サルなどが写っています。
中にはカメラを乗り越えていったらしくお腹がアップになった写真も。

人間の目線よりもずっと低い、
動物たちの目線に限りなく近い場所から撮影された写真です。