2021年のはじめに、美術を愛する人たちによる #アートシェア が帰ってきました。
今を見つめなおすために、前向きになるために、新しい一歩を踏み出すために、
「今」だからこそ共有したいアート作品をシェアします。
2021年1月3日の日曜美術館
新春スペシャル 「#アートシェア2021」
放送日時 1月 3日(日) 午後9時~10時
再放送 1月17日(日) 午後3時~4時
アンコール放送 1月31日(日) 午前9時~10時
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
年の始めに、今見てほしい珠玉の一作を “あの人” がオススメ。
井浦新:自宅にこもる日々、前を向かせてくれた太古の美とは。
ヤマザキマリ:大切な旅を奪われる中、心を解放してくれたビジュアルアート。
山口一郎(サカナクション):心の奥に眠る感情を揺さぶる無機質な写真。
石黒浩(ロボット学者):人間の本質、そして未来に迫る彫刻とは。
塩田千春(美術家):負の感情が“創る力”に。
スタジオゲスト芦田愛菜
(日曜美術館ホームページより)
ゲスト
芦田愛菜 (俳優)
片岡真美 (森美術館館長)
出演
井浦 新 (俳優)
石黒 浩 (大阪大学教授・ロボット学者)
大林剛郎 (企業経営者)
塩田千春 (美術家)
山口 晃 (画家)
山口一郎 (ミュージシャン)
ヤマザキマリ (漫画家)
アネルス・オフィシール (#tussenkunstenquarantaine 仕掛人)
2021年初の日曜美術館は8人による #アートシェア
お正月で番組の放送時間が入れ替わっていたことに気づかず、
朝の9時に「あれ、はじまらない?」と首をかしげたのは私だけでしょうか。
夜の9時に始まった今年最初の日曜美術館は、丸々1時間のスペシャル版でした。
再放送は無いのかと思っていたのですが、
1月17日(日曜日)の午後3時から放送。
さらに1月31日(日曜日)午前9時~9時45分にアンコール放送がありました。
NHKプラスでの見逃し配信はないようですが、
シェアされた作品と出演者のコメントは日曜美術館のブログで見ることができます。
2021年1月10日の再放送(午後8時~8時45分)は、
思考の工芸をあなたに~金沢 国立工芸館~ です。
井浦新さんと 《国宝 火焔型土器》
昨年は仕事の中止や延期がつづき、
自宅待機が続いていた井浦さんが火焔型土器と出会ったのは、
撮影が再開されたドラマ「歩くひと」の収録で訪れた
新潟県十日町の十日町博物館でした。
およそ5000年前の人が生み出した一見不規則な造形は、
実は複雑なパターンが繰り返される精巧なものです。
すべての火焔型土器は川の流域で見つかることから、
これらの土器の波打った装飾は焔でなく水ではないか? という説を
学芸員の方から教えられたという井浦さん。
信濃川流域に暮らす人々が
大雨による川の氾濫や土砂崩れに苦しめられてきたこと、
それを乗り越えるために水を表す美しい造形を作ったことを思って、
「お前たちも頑張れよ」というメッセージを受け取ったそうです。
石黒浩さんと アルベルト・ジャコメッティ《歩く男Ⅰ》1960
アンドロイドの開発を通して人の本質を追求する石黒さんは、
ジャコメッティ(1901-1966)の彫刻に
いろいろなものを削ぎ落した末に現れる人間らしさを発見しました。
たしかにジャコメッティの彫刻は
極端に引き延ばされた体つきやゴツゴツガサガサした表面など、
人間らしくない特徴を持っているにもかかわらず
人間以外の何物にも見えません。
「削ぎおとして削ぎおとして、人間の色々なものを最小限で表現したらああなるのかな」
と考え、ジャコメッティに共感したという石黒さん。
アンドロイドもまた、余計なものを省略して見る人の想像をかき立てることで
より人間らしく見えるのだそうです。
塩田千春さんと フランシスコ・デ・ゴヤ《我が子を食らうサトゥルヌス》1819-1823
マドリード郊外の別荘の壁に描いた「黒い絵」シリーズの1枚で、
スペインの宮廷画家だったゴヤ(1746-1828)が、70代の終わりごろ、
スペインの内乱が激しさを増す時期に描いた作品です。
ローマ神話のサトゥルヌス(ギリシア神話ではクロノス)が、
我が子に殺されるという予言を恐れ
生まれた子どもを次々と吞み込んだというシーンを描き、
子どもの頭と右腕を食べつくして左腕を齧っている最中という
生々しい現場を切り取っています。
ゴヤはこの作品を食堂の壁に描いたそうですが、
これを前にしてご飯を食べるメンタルは
どこか狂気を含んでいる気がしてなりません。
森美術館から個展(2019年「塩田千春展:魂がふるえる」)の
オファーを受けた次の日に癌が発見され、
治療と展覧会の準備のかたわら
抗がん剤治療のバックを使った作品を作り続けた塩田さんはこの絵から、
人はどういう時に不安・恐怖を覚えるのか、
それをどうやって表現するのか、
ということを考えたそうです。
ドイツのベルリンで暮らす塩田さんは現在、
新しい作品に取り掛かっています。
塩田さんと言えば空間を糸で埋め尽くすようなインスタレーションが有名ですが、
こちらはそこら中に赤い糸が垂れ下がる空間のようです。
糸には赤い髪が結び付けられ、そこには小さく “I hope…” の文字が。
この空間を訪れる人は、どんな希望を見出すのでしょうか?
山口晃さんと 国宝 雪舟《四季山水図》(山水長巻)
「シェアっていうかねえ……」
「作品が癒しとか言われると『いやいや!』と言いたくなる」
と、天邪鬼(?)なところを見せてくれる山口さん。
『ヘンな日本美術史』の著者としては、
それこそ「年に1度」くらいでお腹がいっぱいになるような
アクが強い作品がお好みなんでしょうか。
紹介された《四季山水図》は、およそ16メートルの長大な絵巻の中で
四季が移ろっていく壮大な作品。
山口さんいわく「ズッ! バッ! ダッ! シャー! でできている」
最低限の手数で表現された風景はたしかに、
ずっと眺めていると息苦しくなってくるような凄みを感じるかもしれません。
大林剛郎さんと 杉本博《究竟頂(くっきょうちょう)》2013
オーク表参道(2013年オープン)のエントランスホールに設置されている作品。
古代の石室を思わせる壁に挟まれた細長い空間の上から、
ステンレスの円錐がぶら下がっています。
この円錐は、永遠に交わらない無限曲線の数理模型をモチーフにしています。
細長い先をずっと伸ばしていくと、
地球を突き抜けて宇宙に出て行っても
頂点に辿り着くことなく永遠に伸びていくんだとか。
真下の床には、円錐の先を伸ばしたとき
床を通過するおよそ1mmのポイントが記されています。
大林さんは鬱屈しがちな状況に押し込められた人たちに、
宇宙のその先まで続く無限に思いを馳せることで
元気になってもらいたいと語っています。
ヤマザキマリさんと ジョーダン・ベルソン《Fountain of dreams》1984
2020年、コロナウイルスが猛威を振るったせいで
旅に出ることができなくなってしまったヤマザキマリさん。
夏ごろから段々気が滅入り、
旅をしている時は時間をやりくりしてできていた仕事も
手につかなくなってしまったそうです。
そんな時友人から紹介された《Fountain of dreams》は、
抽象映像の先駆けとして有名なジョーダン・ベルソン(1926-2011)の
代表作のひとつです。
クラシック音楽に合わせて流れる色とりどりの光は、
時には海中や宇宙の風景に見え、時には何かの生き物のようにも見え、
見るものを遠い世界に連れていくよう。
ヤマザキさんが特に好きなシーンでは、
泡のような光の粒が上昇していき、終いには空の星と融合してしまいます。
「宇宙旅行しているような気分」になるこの映像を毎日見ていたヤマザキさんは、
「ジョーダン・ベルソンがいるから、旅しなくて良いかな」と
楽観的な気持ちになれたんだとか。
山口一郎さんと 松江泰治《SPK 44134》
現実の風景なのに、なんだか現実味がない松江泰治さんの写真作品。
影も地平線もない風景は、よくできた模型のように見えます。
光が地上を均一に照らした瞬間を狙ってシャッターを切ると
こんな写真ができるんだそうです。
《SPK 44134》は北海道の札幌市を撮影した作品で、
山口さんがデビュー前に住んでいたマンションが写っています。
お金が無くて、電気もガスも水道求められてしまった時代。
(北海道で冬場にガスが止まるのは命にかかわる事態です)
この写真を見るとその時期のことを思い出すことができると言います。
いろいろなものが削ぎおとされて、何の感情も内容に切り取られた風景は
何の主張もしないからこそ、
見る人はそこに自由な感情を乗せられるのかもしれません。
片岡真実さんと 河原温 “Today” Series 1966-
「日付絵画」とも呼ばれる一連の作品は、
コンセプチュアル・アートの第一人者である河原温(1932-2014)が
1966年1月4日から21世紀まで描き続けたシリーズです。
単色で塗りつぶした背景に、白抜きの日付を
その時滞在している場所の言語で描いたものがおよそ3000点。
文字はアルファベットで、アルファベットを公用語としない地域、
たとえば日本などではエスペラント語が使われています。
このシリーズを始めたころから河原温自身は公共の場に姿を見せなくなり、
作品の日付だけが生存証明のように更新されていったそうです。
ちょうどカレンダーをかけ替えるこの時期に相応しい作品、
そして新しく始まる暦の数字や記号にも
自分にとって大切な意味を持つ日付があることを意識させられる作品です。
あっという間だった2020年に対して
「2021年をどうやって刻んでいきますか?」という
柴田さんの問いかけを、わたしも考えてみようと思います。
アネルス・オフィシールさんと #tussenkunstenquarantaine
自宅でアートを楽しむ人たちの記録
ハッシュタグの意味は、オランダ語で
「アートと隔離の間」(Tussen Kunst & Quarantaine)。
ステイホームで外に出られないなら
作品になりきってアートを作ろうという企画です。
絵画作品を忠実に再現するのではなく、
家にあるものを駆使してなりきるのがポイント。
投稿された中には食材を組み合わせた作品や
人物と似た色合いの調味料の瓶を並べた作品もありましたが、
みんな見事に成りきっています。
中には1人で食卓に着いたキリストが
弟子たちとzoom飲み会をしている《最後の晩餐》のような、
コロナウイルスが蔓延する世相を反映した作品も。
仕掛人のアネルスさんによると、
始めた時はメトロポリタンやルーブルからフォローされ
世界中の人に注目されるようなことになると思わなかったので
オランダ語にしたそうですが、
今では世界中から7万件もの投稿が集まって
言語の壁を越えた広がりを見せています。
SNSでは珍しく、コメントもポジティブなものが集まっているんだとか。
日本からもお笑いタレントの片桐仁さん(ラーメンズ)による
フリーダ・カーロ《いばらの首飾りとハチドリの自画像》(1940)など、
力作が次々と投稿されているようです。
自宅で名画を再現。#tussenkunstenquarantaine#fridakahlo pic.twitter.com/ULgLySQpnn
— 片桐仁なう (@JinKatagiri_now) April 8, 2020