山種美術館と上村松園 ― 清澄な美人画の世界

東京都渋谷区にある山種美術館は、国内でも珍しい日本画専門の美術館です。
美術館のもととなった山崎種二の個人コレクションには、近代を代表する美人画の名手・上村松園の作品も含まれています。

山種美術館と上村松園

山種美術館の創立者で山種証券(現在のSMBC日興証券)の創業者でもある山崎種二(1893-1983)は「絵は人柄である」という考えのもと、同時代の画家と親しく交流し、その作品を収集しました。
美人画の名手・上村松園もそのひとりで、山種美術館には以下の18点が所蔵されています。

山種美術館が所蔵する上村松園の美人画(18点)

  1. 夕照(せきしょう) 大正初期
  2. 蛍(ほたる) 1913年
  3. 桜可里(さくらがり) 1926~29年
  4. 新蛍(しんけい) 1929年
  5. 盆踊り(ぼんおどり) 1934年
  6. 夕べ(ゆうべ) 1935年
  7. 春のよそをひ(はるのよそおい) 1936年
  8. 砧(きぬた) 1938年
  9. 春芳(しゅんぽう) 1940年
  10. 春風(しゅんぷう) 1940年
  11. 折鶴(おりづる) 1940年
  12. つれづれ 1941年
  13. 詠哥(えいか) 1942年
  14. 娘(むすめ) 1942年
  15. 夏美人(なつびじん) 1942年
  16. 牡丹雪(ぼたんゆき) 1944年
  17. 庭の雪(にわのゆき) 1948年
  18. 杜鵑を聴く(ほととぎすをきく) 1948年

これらの作品は、山種美術館が発行している小冊子『山種美術館の上村松園』(2017年発行。A5版30頁。税込550円)にはすべて収録されています。
実物は山種美術館の展覧会やよそへの貸し出しで展示されるのを待つしかないので、美術館のホームページなどをチェックして機会を待ちましょう。

『山種美術館の上村松園』は山種美術館のミュージアムショップのほか、オンラインショップでも購入できます。

上村松園について

上村松園は明治から昭和にかけて活動した女性の日本画家。
近代画壇を代表する美人画(女性の美を描いた日本画)の名手として知られ、1948年には女性として初めて文化勲章を受章しています。
松園の息子・上村松篁(1902-2001)、孫の上村淳之(1933-)も日本画家(どちらも花鳥画)で、それぞれ1984年と2022年に文化勲章を受章しました。

松園は、明治維新から間もない京都の下町に生まれました。
松園の父親は生まれる前に亡くなり、母親が茶葉の商いで松園と姉の二人を育てたそうです。
小さなころから絵を描くことが好きだった松園は、小学校を卒業すると京都府画学校に入学しました。
女性が職業に就くのも滅多にないような時代のことですから、絵の道に進むことは親戚からは反対されたといいますが、母親の後押しもあって無事進学することがかない、鈴木松年に師事して絵を学ぶようになります。

松年が画学校を辞職した際、松園もそれにしたがって学校を中退し、松年の画塾に入門しました。
のち幸野楳嶺、竹内栖鳳に師事しながら、寺社・博物館の所蔵する美術品や展覧会などを見て回り、模写や縮図をしたといいます。
花鳥風月の世界が中心だった京都画壇には美人画の手本が少なかったためだそうですが、このような研鑽が「松園の前に松園なく、松園の後に松園なし」(河北倫明)と言われた独自の画風を育てたのでしょう。

着物の柄・髪飾りといった細かい部分まで手を抜かずに描き込まれた衣装や、一筋一筋描き込まれた柔らかそうな髪の毛の表現も見どころの一つ。
帯の結び方や髪の結い方までイメージして描いたに違いないと思わせるリアリティは、写生の技術に加えて、日常で和服や日本髪に触れ、身に纏っていた人ならではのものだと思います。

たとえば『山種美術館の上村松園』の表紙を飾る《庭の雪》の少女は髪を「お染髷(おそめまげ)」に結い、背中に汚れを防ぐ「油取り」をかけています。
これは江戸時代後期から明治時代に関西の娘さんたちの間で流行したファッションだそうです。
美しく時代に忠実な衣装と髪型、そして女性の細やかな仕種をとらえた作品は、松園の十八番でした。
これらの女性たちは作者である松園の理想像を形にしたもので、

一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ私の念願とするところのものである。
その絵を見ていると邪念の起こらない、またよこしまな心をもっている人でも、その絵に感化されて邪念が清められる……といった絵こそ私の願うところのものである。
「棲霞軒雑記」『青眉抄』初出1943

という松園本人の言葉のとおり、見ていて何となく背筋が伸びるような品の良さがあります。

山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)

山種美術館には様々な日本画が所蔵されていて、美人画だけでも松園のほかに「西の松園、東の清方」と並び称された鏑木清方(1878-1972)の美人画、仏教思想を織りこんだ幻想的な作風で知られる村上華岳(1888-1939)の「裸婦図」など、たくさんの魅力的な作品が見られます。
作品の一部はホームページの展覧会情報などで公開されていますので、ぜひお気に入りを見つけてください。

10時~17時
※入場は閉館の30分前まで

月曜休館(祝日は開館し、翌火曜に休館)
展示替え期間・年末年始休館

入場料は展覧会ごとに異なります(現金のみ)

公式ホームページ

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