12世紀に制作された《国宝源氏物語絵巻》は現存する日本の絵巻の中でも最古の作品とされ、日本四大絵巻のひとつにも数えられる傑作です。
現在はバラバラになって失われた部分も多いのですが、名古屋の徳川美術館と東京の五島美術館にはまとまった数が所蔵され、定期的に公開されています。
源氏物語絵巻とは?
11世紀に紫式部(生没年不明)が執筆した「源氏物語」は、天皇の子に生まれた光源氏を主人公とする長篇物語です。
紫式部が、藤原道長(966-1027)の娘である中宮彰子(988-1074)に仕える女房として体験しただろう宮中の様子も細やかに描き込まれ、光源氏の数奇な人生を軸に展開する華麗な平安王朝の世界(そこで生きる女性たちの悲哀)を現代まで伝えています。
「源氏物語」は、古くから物語として読まれるだけでなく、絵画の主題や工芸品のモチーフとしても楽しまれてきました。
当然ながら源氏物語の絵巻は幾つもつくられていますが、単に「源氏物語絵巻」といえば12世紀につくられ、現在は国宝に指定されている《国宝源氏物語絵巻》をさすのが普通です。
もとは「源氏物語」全54帖のストーリーを10巻(一説には20巻とも)の巻子本にまとめられていましたが、長い時間の中でバラバラになり、現在では全体の約4分の1が複数の場所に伝わっています。
江戸時代初期には尾張徳川家が3巻、阿波蜂須賀家が1巻を所有していた事がわかっていますが、それ以前の来歴はわかっていません。
現在《国宝源氏物語絵巻》はどこで見られるのでしょうか?
源氏物語絵巻こと《国宝源氏物語絵巻》はどこで見れる? ー 主な所蔵館・公開時期
バラバラになった《国宝源氏物語絵巻》のうち、尾張徳川家に伝わった3巻は愛知県にある徳川美術館に、阿波蜂須賀家に伝わった1巻は紆余曲折の末に東京都の五島美術館に所蔵されています。
合計4巻分の絵巻は昭和の初めごろ、保存状の理由から詞書と絵をバラバラにしてそれぞれ桐箱製の額装に改める処置がとられましたが、徳川美術館所蔵分は2020年に全15巻の巻子本に再改装されました。
これらの絵巻はそれぞれの所蔵館で定期的に公開されるほか、全国の特別展に貸し出されて展示されることもあります。
《源氏物語絵巻》徳川美術館本と公開時期
現存する《国宝源氏物語絵巻》の最大数を所蔵する徳川美術館は、尾張徳川家に伝わる宝物を保存するため、19代当主・徳川義親が1935年に建設した美術館です。
徳川美術館が所蔵する《国宝源氏物語絵巻》は、詞書・絵をあわせて33面(15巻)です。
- 「蓬生」(15帖) 詞書1・絵1
- 「関屋」(16帖) 詞書1・絵1
- 「絵合」(17帖) 詞書1
- 「柏木(一)」(36帖) 詞書1・絵1
- 「柏木(二)」(36帖) 詞書2・絵1
- 「柏木(三)」(36帖) 詞書1・絵1
- 「横笛」(37帖) 詞書1・絵1
- 「竹河(一)」(44帖) 詞書1・絵1
- 「竹河(二)」(44帖) 詞書2・絵1
- 「橋姫」(45帖) 詞書1・絵1
- 「早蕨」(48帖) 詞書1・絵1
- 「宿木(一)」(49帖) 詞書1・絵1
- 「宿木(二)」(49帖) 詞書1・絵1
- 「宿木(三)」(49帖) 詞書1・絵1
- 「東屋(一)」(50帖) 詞書1・絵1
- 「東屋(二)」(50帖) 詞書1・絵1
《国宝源氏物語絵巻》は毎年11月下旬に数場面ずつ特別公開されます。
2023年の特別公開は、竹河(一)と東屋(二)の2巻です。
(2023年11月18日~26日)
また、2024年にはサントリー美術館(東京)の「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」(7月3日~9月1日)にも登場する予定です。
徳川美術館(愛知県名古屋市東区徳川町1017)
10時~17時 ※入場は閉館の30分前まで
月曜休館 (祝日の場合は開館し、翌平日休館)
一般 16,00円
高校・大学生 800円
小・中学生 500円
《源氏物語絵巻》五島美術館本と公開時期
蜂須賀家が所蔵した1巻は1880年代の後半に売却され、その後茶人として有名な益田孝(鈍翁)、東京コカ・コーラボトリング創業者の高梨仁三郎を経て、東急グループの創始者であり五島美術館設立の基礎を築いた五島慶太に買い取られ、五島美術館に収蔵されることになりました。
五島美術館が所蔵する《国宝源氏物語絵巻》は、詞書・絵をあわせて 13面です。
(こちらでは1枚ずつ額装で保管されています)
- 「鈴虫(一)」(38帖) 詞書2・絵1
- 「鈴虫(二)」(38帖) 詞書2・絵1
- 「夕霧」(39帖) 詞書2・絵1
- 「御法」(40帖) 詞書3・絵1
《国宝源氏物語絵巻》は毎年ゴールデンウィークの頃に1週間ほど展示されます。
2024年は、4月27日~5月6日の予定です。
五島美術館は作者・紫式部の日記を絵巻化した《紫式部日記》の一部も所蔵していて、こちらは毎年秋に1週間ほど展示されます。
紫式部日記絵巻 ― 藤原道長の時代・源氏物語の時代への憧れ
五島美術館(東京都世田谷区上野毛3-9-25)
10時~17時 ※入場は閉館の30分前まで
月曜休館 (祝日の場合は開館し、翌平日休館)
展示替え期間・夏季整備期間・年末年始休館
一般 1,400円
高校・大学生 1,100円
中学生以下 無料
その他の《源氏物語絵巻》断簡
徳川美術館と五島美術館の《国宝源氏物語絵巻》はもともと巻子本の形でまとまっていたものですが、一部だけを切り取った断簡も各地に散らばっています。
(むしろ、まとまった形で4巻分も残ったのが奇跡なのかも…?)
有名な断簡は、東京国立博物館が所蔵する「若紫」(5帖)の絵が1枚。
(ヒロインのひとりである若紫の登場よりも後の場面なので、これより前の絵が1〜2枚あったと思われます)
また書芸文化院の春敬記念書道文庫には、《国宝源氏物語絵巻》書風の分析に関わった飯島春敬の旧蔵品である「末摘花」(6帖)、「常夏」(25帖)、「柏木(一)」(36帖)、「松風」(18帖)の詞書の断片が収蔵されています。
その他、個人蔵などで「若紫」(5帖)、「薄雲」(19帖)、「少女」(21帖)、「蛍」(26帖)、「柏木」(36帖)
の詞書の一部が確認されているそうです。
本来の《国宝源氏物語絵巻》はどれほどの長さだったのか、そしてどれほど豪華絢爛な世界が広がっていたのか…想像が広がります。