日曜美術館「蔵出し!日本絵画傑作15選 二の巻」/ アートシーン「#アートシェア+雅楽の美展」(2020.06.14)

NHKの蔵出し画像から選ぶ日本画の傑作選、中盤です。
第2回は鎌倉から桃山時代。
アートシーンでは「#アートシェア」のほか、
中止になった藝大美術館の「雅楽の美」展の紹介、展覧会情報も。

2020年6月14日の日曜美術館
「蔵出し!日本絵画傑作15選 二の巻」

放送日時 6月14日(日) 午前9時~9時45分
再放送  6月21日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

日曜美術館45年のアーカイブから「日本絵画の傑作15選」を3回に分けて紹介するシリーズ。2回目は鎌倉から桃山時代の5作品。豪華な出演者の言葉と共にじっくり見る。中世社会のドキュメント・一遍聖絵、初めて絵師が名を残した雪舟・山水長巻、秀吉が描かせた巨大な唐獅子図、人気ナンバー1の国宝・松林図、2700人の群像劇・洛中洛外図。梅原猛、東山魁夷、森村泰昌、丸木位里・俊、山口晃、高畑勲らの言葉とともに。(日曜美術館ホームページより)

出演
梅原 猛 (哲学者)
横尾忠則 (アーティスト)
森村泰昌 (美術家)
丸木位里 (画家)
丸木 俊 (画家)
東山魁夷 (画家)
山口 晃 (画家)
加山又造 (日本画家)
おかざき真里 (漫画家)
井浦 新 (俳優・クリエーター)
安部龍太郎 (小説家)
コシノヒロコ (デザイナー)
高畑 勲 (アニメーション監督)


傑作選中盤! 今週は鎌倉時代から桃山時代

先週に引きつづき、日本美術の傑作5点を紹介。
《一遍聖絵》《山水長巻》《唐獅子図屏風》《松林図屏風》《洛中洛外図屏風》でした。
前回との大きな違いは、最初の《一遍聖絵》を除いて
すべて制作者の名前がわかっている点でしょうか。
小野さんいわく、この時代は「描き手の個性がより強く作品に現れる時代」。
描き手の名前と作品が結びつき「絵師」の存在が大きくなっていく時代です。

《一遍聖絵》鎌倉時代
「捨てはてて旅ゆく~一遍上人絵伝~」2002 より

全12巻、すべて合わせた長さは130mに及ぶ絵巻は、
南無阿弥陀仏を一遍(一度)唱えるだけで悟りが開けるという教えを説いて
時宗の開祖となった一遍上人(1239-1289)の旅の記録です。
弟子(弟または甥とも)の聖戒が詞書を起草し、
画僧の円伊が絵を描いたと言われています
一遍上人の旅の記録をもとに各地の寺社や名所を取り入れた絵は資料的価値も高く、
市の様子や路上で生活する貧しい人々を事細かに描いた様子は
番組内で「中世社会のリアルドキュメント」と呼ばれるほど。

梅原猛さんは、この中に描かれた上人の
「どこかに孤独な顔をして、一人笑っていない」様子に注目しました。
上人と親しかった人の手で完成されたこの絵巻は、
旅を始めたころ同行していた供の者(妻子とも)と別れ、
全てをなげうって悟りを求めた上人の厳しい生き方を写しているのかも知れません。

雪舟《山水長巻》室町時代
新日曜美術館「雪舟 躍動する水墨画」2002
国宝への旅「漂泊の魂~雪舟・山水長巻~」1987 より

雪舟(1420-1506)67歳の時、大内氏へ贈った作品です。
48歳で渡った中国(明)が舞台と言われていますが、
ただの風景画ではなくそこに雪舟の個性が加えられたことが
この作品の人気の秘密なんだそうです。

「男性的と女性的」「荒さと緻密さ」のように相反する要素が合わさって
「オーケストラみたいな感じ。音楽にさえ聞こえますよ」と、
対比の絶妙さを語る横尾忠則さん。

絵の中の風景を大阪―東京間の新幹線の窓から見た景色に重ね、
流れるような描き方にスピード感を感じると話す森村泰昌さん。

山里の風景に「風の音が聞こえる」と言い、
風に吹かれた旗がねじれて8の字のようになっているのを
「巧いなあ」と言う丸木俊さんと、
岩・木の葉・人など、本来なら別の線で描くことが当たり前のものが、
すべて同じ「天下御免みたいな線」で描かれていることを指摘する丸木位里さん。

67歳の水墨画家というより前衛芸術家の批評を聞いているような気分になりますが、
昭和の風景画の巨匠である東山魁夷さんが雪舟について、
60代も後半の雪舟の仕事が最後まで「追求の態度を変えない」激しさを失わないと
評価していることを見ると、どうやら雪舟の個性というものは
こういった激しさや厳しさによって生み出されているようです。

狩野永徳《唐獅子図屏風》桃山時代

雪舟を師と仰いだ狩野派の4代目・加納永徳(1543-1590)の作品です。
縦2m30cm×横4m50cmの大画面の中、
金色の雲(霧?)が立ち込める山中を背景にして2頭の獅子が描かれています。

山口晃さんはこの作品の見どころとして
大きな画面にあえて描き込まない筆数の少なさ、
太い線と細い線・動きと静止など対立する表現の共存、
権力者の空間を演出する存在感の3点を挙げています。

余計な描き込みが無いために遠くからでもはっきりと獅子の姿が分かる構図。
獅子の体はところどころ抑揚を変えた線で描かれ、立体感があり、
さらにどこかを見ているようでどこも見ていない獅子の目つきは
室内のもの全てににらみを利かせているように見えます。
これを背にして座る権力者は、獅子に守られているように見えたかもしれません。

長谷川等伯《松林図屏風》桃山時代
NHKスペシャル「静かなる国宝~国宝 松林図屏風~」2000
日曜美術館「熱烈!傑作ダンギ等伯」2017 より

こちらも雪舟から強い影響を受けた画家・長谷川等伯(1539-1610)が描いた
六曲一双の屏風です。

東京国立博物館で2013年におこなわれたアンケート
「あなたが観たい国宝は?」で第1位に輝いた作品は、
見る人によって異なる印象を与えるようです。

本物を目の前で見た時に思わず「立ち止まってしまって」
その力の強さに圧倒されたという井浦新さんと、
この絵を前にした時に「パワーを感じる」というコシノヒロコさんは
一見静かな絵の中に激しいパワーを読み取っています。

おかざき真里さんは少女漫画にも通じる
「胸がキュッとなるような寂しい感じ」の心地よさを語り、
(狩野派は元気になる少年漫画の感じなんだそうです)
安部龍太郎さんは立ち並ぶ松林を
遠景に見える雪山(涅槃の世界)に向かう聖者の行進に見立てて
「絵の中に連れていかれるような感じがする」といいます。

激しい力と想像力を刺激してくる共感性を持つこの絵ですが、
技術的には「大した筆使いじゃない」と加山又造さんが言っています。
荒く、それでいてみる人を引き込んでしまうこの絵は描かれた後も成長を続け、
あと100年もするとますますいい絵になっていくんでしょうね、とも。

岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風》江戸初期
北陸スペシャル「よみがえる岩佐又兵衛 北之庄が生んだ奇才絵師」2005 より

5月31日の「#アートシェア」でも紹介された、岩佐又兵衛の《洛中洛外図屏風》です。
「洛中洛外図」というテーマは大変人気があって
様々なバリエーションが残っているのですが、
この「舟木本」(滋賀の舟木家に伝来したことから)は
その中でも特に人気のある作品です。

画面の中には2700人以上の人間が描き込まれ、
それぞれが違うしぐさや表情をもって存在しています。
高畑勲さんは絵師の視線に、人間に対する興味と大衆性、
そして「見てやろう」という精神を感じるそうです。

スタジオの小野さんも2010年に東京美術から刊行された
縮尺版『洛中洛外図屏風 舟木本』を虫眼鏡で鑑賞しながら、
全裸になって川で泳ぐ人たちの姿や、
盛大な法要が営まれている寺院の隅で女性と「不適切な行為」中のお坊さんの姿に
「え、ちょっと待って」と声をあげていました。

立派な物や尊いものだけでなく「卑」「俗」の部分も赤裸々に描き
社会そのものを俯瞰した絵の中には、
2700人以上の人間の熱気がうごめく大衆の世界が展開しています。


#アートシェアと展覧会情報「雅楽の美」展

あちこちで美術館の再開情報が発表され、
アートシーンにも展覧会情報が戻ってきています。
「#アートシェア」もまだまだ共有中。
今週はアーティストの真鍋大度さん、アート集団「目」、
横浜美術館、東京芸術大学美術館のおすすめです。

5月31日放送「日曜美術館 #アートシェア」に続き、「アートシーン」でも、美術を愛するさまざまな方に、今だから見てほしい一作をお話しいただきます。現代アートチーム「目」や真鍋大度さんのとっておきの作品とは…?また、中止となった「雅楽の美」展の展示も特別に紹介します。横浜トリエンナーレ2020など、今後のアート情報も!

真鍋大度さん(DJ・アーティスト)の#アートシェア
リアム・ヤング《City Everywhere》2018

映画監督で建築家でもあるリアム・ヤングの
映像と語りで進行するレクチャー・パフォーマンス。
デジタルテクノロジーが発達する都市の裏側で
人知れず進行する物語に焦点をあて、
資源のために各国で行われる過酷な労働の実態を描くドキュメンタリーと思いきや
いつの間にかドローンがピザを配達したり犬を散歩させたりする
今より未来の風景が広がっています。

真鍋さんはロックダウン状態の都市の映像が
映画のワンシーンのように見えたことから、
まるでSFのようなこの作品を思い出したのだそうです。
現在のドキュメンタリーと地続きで映画のような世界が現れる展開は、
確かに現在の世界と共通点がありなんだか恐ろしいような気もします。

《phenomena-quarantine version 2020》

架空の美術館を舞台に過去の作品を体験することができる、真鍋さんの最新作です。
コロナで中止になってしまったフェスのかわりに
オンラインのイベントで発表されました。

目(現代芸術活動チーム)の#アートシェア
バルテュス《美しい日々》1944-1946

ディレクターの南川憲二さんとアーティストの荒神明香さんが紹介するのは、
バルテュスことバルタザール・ミシェル・クロソウスキー・ド・ローラ(1908-2001)が
第2次世界大戦中に描いた少女の絵です。
ソファにもたれた少女は左手に持った手鏡を覗き込んでいますが、
「鏡を見ている自分がまわりからどう見えているかはあまり見えていない」ところ、
戦時中のことで、彼女も恐らく自由に外出できないところが
現在の状況と重なったそうです。

「ワークショップ エイリアンの地球研究」

エイリアンは地球の物体をどのように観察するのか考える、
オンラインのワークショップです。
段ボール箱の上に空き瓶をセットし、
ビンの底(これがエイリアンの目の水晶体となります)を通して見たり
箱の中に手を入れて触れてみたりしながら
箱の中にある「物体X」を観察して、
形状・特徴・観察結果などを「研究報告書」にまとめます。
箱に何が入っているのかをあてるゲームではなく、
分からないまま観察するのがポイント。

人間と全く違う構造の目を持った生物であれば
人間と同じものを見ても同じ映像として認識できないわけで、
いま私たちに見えているものが他からも同じように見えるとは限らない。
そんなことを改めて確認する実験でした。

蔵屋美香さん(横浜美術館館長)の#アートシェア
《ロスコ・チャペル》1998

アメリカ・ヒューストンにある礼拝堂で、
室内はマーク・ロスコ(1903-1970)の壁画で覆われています。
ロスコと言えば、色彩で画面を塗りつぶしたような抽象画で知られています。

飾られている作品は暗い藍や灰色に見える色のものばかり。
蔵屋さんも初めて見た時は「ブルーグレーの板みたい」と思ったそうです。
ところがこの礼拝堂には天窓があって、そこから太陽の光が降り注ぐと
ブルーグレーの中に様々な色が浮かび上がり、
その中に風景が見えるような気すらしてきたんだそうです。

ロスコ・チャペルは今すぐ見に行けるような場所ではありませんが、
いつか行こうと思うことが今を生きる希望に繋がるのではないかと
蔵屋さんは思っています。

横浜トリエンナーレ2020「AFTERGLOW ー光の破片をつかまえる」

3年に一度の現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」は、
2020年7月17日から10月11日まで、
蔵屋さんが館長を務める横浜美術館をメイン会場にして開催されます。
(事前予約制)

古田亮さん(東京藝術大学准教授)の#アートシェア
池大雅《柳下童子図屏風》(江戸時代)

南画の大成者の代表作
八曲一隻の大画面を横切って大きな川が流れ、
中央にかかる小さな橋の真ん中では2人の童子が水面に身を乗り出しています。
(メダカやエビを捕ろうとしているところなんだとか)

無心に手を伸ばす童子たちとともに
池大雅自身が心を遊ばせて描いたに違いないこの絵は、
見ている人間が今いる場所と関係なく、絵の中に心を開放し自由に遊ぶことができる
そんな芸術の力を与えてくれる作品です。

「雅楽の美」展(東京藝術大学大学美術館)

藝大美術館では2020年4月4日から5月31日まで
伝統芸術である雅楽の世界を紹介する展覧会を企画していましたが、
新型コロナウイルス感染防止のために開催できませんでした。
大陸や朝鮮半島から伝来した芸能と
日本にもとからあった歌舞が融合して生まれた雅楽は、

  • 舞楽(ぶがく)…唐楽(左方の舞)・高麗楽(右方の舞)を伴奏とする舞踏
  • 管絃(かんげん)…楽器による演奏
  • 歌物(うたいもの)…催馬楽(さいばら)や朗詠(ろうえい)などの声楽曲
  • 国風歌舞(くにぶりのうたまい)…外来音楽の渡来以前からあった古来の歌舞

などの様々な内容があるほか、絵画や工芸のモチーフとしても取り入れられており、
その世界は非常に広がりがあります。
番組では舞楽の装束や楽器など、展示の一部が公開されました。