ぶらぶら美術・博物館 しりあがり寿さんが解説する「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」と「冨嶽三十六景」―赤富士に一手だけ加えた結果!?(2020.06.09)

美術館や博物館を訪れて「ぶらぶら」するのが難しい時期だから、
いっそ向こうから来てもらおう! そんな夢のような企画の第1弾。(5月下旬収録)
第1回は現代美術家・しりあがり寿さんが葛飾北斎の《富嶽三十六景》にいたずらした
《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》を、しりあがりさんご本人と
すみだ北斎美術館の奥田学芸員が解説する1日限りの展覧会でした。

2020年6月9日のぶらぶら美術館
ぶらぶらプロデュース!夢の特別展①
葛飾北斎の凄さがわかる!漫画家・しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」展

放送日時 6月9日(火) 午後8時~9時

放送局 日本テレビ(BS日テレ)

出演者
山田五郎 (評論家)
小木博明 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ボケ)
矢作兼 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ツッコミ)
高橋マリ子 (モデル・女優)

しりあがり寿 (漫画家・現代美術家)
奥田敦子 (すみだ北斎美術館主任学芸員)

特別企画、ぶらぶらプロデュース!夢の特別展を開催!独自の切り口で番組のオリジナル展覧会を開いちゃおうという試みです。
第1回目は、アニメーションから現代アートまで幅広く活動する漫画家・しりあがり寿さんがゲスト。2018年すみだ北斎美術館で開催し、話題になりながらも8日間で終わった幻の展覧会「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」展を番組で復活させます。これは、稀代の浮世絵師、葛飾北斎の名作シリーズ「冨嶽三十六景」に、しりあがりさんが社会風刺やユーモアを交え、いたずらして生み出したパロディー作品の展覧会。今回は、しりあがりさんご本人が、ご自分の作品を解説してくれます。さらに、すみだ北斎美術館の学芸員をお招きし、北斎作品の真髄を深掘りします。有名な「神奈川沖浪裏」はどんな、しりあがり作品になったのか?赤富士で知られる「凱風快晴」は、どんなパロディーに?しりあがりさん曰く、「パロディー化することで、改めて北斎の凄さが見えてきた」のだとか。世界を驚かせた北斎の「冨嶽三十六景」と、笑えるしりあがりパロディー作品。その両方が楽しめる「ぶらぶらプロデュース!夢の特別展」です!(ぶらぶら美術館ホームページより)



富嶽三十六景(1831頃)で遊ぶ!

2020年に新しいパスポートのデザインとして採用された《富嶽三十六景》。
大抵の人は知っているこのシリーズに
漫画家で現代美術家のしりあがり寿さんが「一手だけ」加えて
パロディ作品を作りました。
《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》展では、
パロディとオリジナル両方並べて両方の凄さと面白さに迫ります。

《凱風快晴》→《髭剃り富士》

普段は青く見える富士山ですが、夏のおわりから秋のはじめ頃には
朝日に照らされて赤く染まって見えることがあり、これを「赤富士」といいます。
その赤富士を画面の半分を占めるほど大きく描いた《凱風快晴》。
静岡と山梨、どちらの側から見た景色か論争があるそうです。
しりあがりさんの作品では、
裾野の樹海を巨大な髭剃りが剃り上げる《髭剃り富士》になりました。
すみだ北斎美術館の奥田敦子さんも
「(樹海が)髭にしか見えなくなった」という、インパクトある1枚です。

《深川万年橋下》→《最新料金所》

太鼓橋の下から見える富士山を描いた《深川万年橋下》。
橋の裏側が見えるほど下から見上げた構図なので、
船から見た景色なのかもしれません。
《最新料金所》では、橋の下に「隅田川水路 万年橋料金所」が設置されました。
しりあがりさんによると「丸と三角に四角を足してみた」そうです。
(「いま思いついたんですけど」とも言っていますが…)
ETC専用のレーンがあったり、そうでない所には係のオジサンが待機していたりと
まさに現代(最新)の料金所そのもの。
看板で肝心の富士山が隠れてしまっているのも、
高速道路で風景が破壊される現代を風刺しているのかもしれません(?)。

《東海道程ヶ谷》→《アミダ並木》

程ヶ谷の宿場近く、箱根駅伝の難所として有名な
権太坂のあたりと言われていますが、実際にどこなのかは分かりません。
右恥に石仏らしいものが見切れているのが風景写真のようです。
街道沿いにひょろひょろと伸びている松の木の枝を
伸ばしてアミダくじにしたのが《アミダ並木》です。
上2つがパッと見て明らかに代わっている部分が分かるのに対して、
こちらは出演者から「自然」「あまり変わっていない」という意見が出るほど
さり気なく変化しています。
上の方にわざわざ余白を作って「アタリ」と書いていなかったら
見逃しかねないのではないでしょうか?

《駿州江尻》→《台風中継》

富士山が見えるこの辺りの名勝としては三保松原が有名ですが、
北斎はあえてどこだか分らない風景を描きました。
(宿場の外れにある姥が池とも言われているそうです)
風が強く吹いている様子を
木や草のしなり具合、飛ばされた懐紙、風に抵抗して踏ん張る人々など
そこにあるものの様子だけで描き出した1枚。
この絵の右下にある空間にカメラを持った撮影チームと女子アナを描き加えた結果
《台風中継》の図になりました。
こちらも一目でわかるたいぷではなく、
「おや右下に人が増えているな」と思ってそちらに目をやると
カメラや三脚といった不自然なアイテムの存在に気が付く趣向になっています。

《遠江山中》→《驚異のマジック!美女まっぷたつ》

巨大な角材から板を切り出す様子を、かなりデフォルメして描いています。
材木とそれを支えて居る支柱、支柱越しにみえる富士山など
手前がかなりごちゃごちゃしていますが、
三角形を組み合わせて作られた構図が全体をすっきり見せています。
このギリギリのバランスで成り立っている構図は壊せなかったのか、
この図は角材を箱に見立てた《驚異のマジック!美女まっぷたつ》になりました。
美女の入っている箱を切断する人も手品師らしい洋装になっています。
ただ、箱が長すぎて人体切断マジックのタネがわかってしまうのが難点でしょうか。

《尾州不二見原》→《メビウスの桶》《たいへんよくできました》

本当はこの場所から富士山は見えず、
別の山が富士山だと思われていたそうです。
遠くに少しだけ顔を出している雪をかぶった山が
本当に富士山なのかはわかりません。
職人が巨大な桶を作っている所ですが、
この桶の形が変化してまず《メビウスの桶》になりました。
さらに桶の形が変化して、ついに両端が繋がっていない花丸になったのが
《たいへんよくできました》です。
元は絵の真ん中に大人しく収まっていた桶が
画面の幅いっぱいに広がるメビウスの輪になり、
花丸になると背景を隠すほど広がってしまう(富士山も一部がちらっと見えるだけ)
様子は、画面が桶に浸食されていく経過を観察している気分になります。

《甲州石班沢》→《カンチョーいたす》

激しく流れる川で漁をしている男性と、その背後で魚籠を覗き込む子供がいます。
この地域は鵜飼がさかんだそうで、
男性が持っている縄の先には鵜がいるんでしょうか?
番組で紹介された絵は藍(オランダ経由で輸入された青い絵の具)一色で、
これは初刷りに近い版の特徴なんだとか。
版を重ねると版木の荒れを補うためか、
緑や赤など多くの色を使うようになるそうです。
激しく波の立つ水面と、そこから突き出た岩の上に立ち
身を乗り出すようにして縄を引く男性の姿はとても緊張感がありますが、
背後のこどもにとっては退屈だったらしく
《カンチョーいたす》となってしまいました。
遊びのつもりが大事故につながらないか、なんだか心配になる絵です。

《神奈川沖浪裏》→《地球温暖化日本水没》《太陽から見た地球》

北斎と言えば、これを思い出す人も多いでしょう。
激しい波とその向こうに見える三角形の富士山、
波間に見える小舟(漁村から鮮魚などを運ぶ押送船)。
「The 北斎」ともいうべき1枚です。
この富士山を手前に移動させ波の中に入れてしまうと
《地球温暖化日本水没》の図になります。
富士山の高さが3,776mと言われていますので、
波の高さは1万mくらいあるかもしれません。
富士山が近くに来るとこんな大惨事になるわけですが、
逆に富士山から遠ざかり、神奈川からも遠ざかり、
ついに地球から遠ざかってしまった結果が
太陽のフレア越しに地球を眺める《太陽から見た地球》です。

新作《コロナ退散》

北斎87歳の時の肉筆画《朱描鍾馗図》の鍾馗さまですが、
コロナウイルスを踏みつけている所がオリジナルと違います。
元の絵も「疱瘡除け」のお守りだったので、
パロディというより、時代にあわせた
アップグレード版と言うべきかもしれません。


《富嶽三十六景》×《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》全作公開予定!
「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」国立新美術館

2020年6月24日の開催が決まった「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」で
《富嶽三十六景》と《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》が展示される予定です。
展覧会図録にも両方が収録されますので、
細かいところまでじっくり見比べてみるのは如何でしょう?

東京都港区六本木7-22-2

2020年6月24日(水)~8月24日(月)

火曜休館

10時~18時
※入場は閉館の30分前まで

入場は事前予約制
チケット購入はこちらから

一般 1,700円
大学生 1,100円
高校生 700円
中学生以下 無料

公式ウェブサイト