日曜美術館「田島征三 いのちのグリグリを描く」絵本『つかまえた』ができるまで(2020.10.04)

絵本作家・田島征三さんを紹介。
田島さんの創作活動の原点を探りながら、今年7月に刊行した新作
『つかまえた』(偕成社,2020)ができあがるまでを追いかけました。
(2021年2月7日 午後8時からアンコール放送)

2020年10月4日の日曜美術館
「田島征三 いのちのグリグリを描く」

放送日時 10月 4日(日) 午前9時~9時45分
再放送  10月11日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

絵本作家・田島征三(たしませいぞう)、80歳。年を重ねた今も、絵本を年に5冊のペースで制作。数万の木の実で作るアート作品や、廃校を利用した巨大立体 “絵本” など、創作意欲は衰えを知らない。今、こん身の力で向き合うのが幼少期の体験。自然の中で、暴れる河魚を素手でつかんだ感触だ。今も手のひらに残る命のひびきをどう形にするのか。新型コロナの影響で家にこもるしかなくなった中、自らと向き合う田島に密着する。(日曜美術館ホームページより)

出演
田島 征三 (絵本作家)
北川フラム (アートディレクター)
松本 猛 (美術・絵本評論家)


田島征三さんのこと

大阪生まれ高知育ちの田島さんが絵本作家としてスタートしたのは、
多摩美術大学図案科に在学中に制作した手刷りの絵本『しばてん』(1962)でした。
デビュー作『ふるやのもり』(福音館書店,1965)を経て、
3冊目になる『ちからたろう』(ポプラ社,1967)で
1969年・第2回BIB世界絵本原画展金のりんご賞を受賞。
人気作家となった田島さんは次から次へとやってくる仕事に打ち込みましたが、
体を壊して東京都日の出村(現日の出町)に引っ越し、
絵本を描きながら畑を耕しヤギやチャボを飼う生活をはじめます。

1970年代の絵本ブームを支えたうちの1冊である『ふきまんぶく』(偕成社,1973)
などの作品が発表されたのは、日の出町に暮らした頃でした。
その日の出町が巨大ゴミ処分場計画の候補地となったのが1980年代の終わりのこと。
反対運動に取り組み、全国を回って窮状を訴えた田島さんでしたが
(作業中のパワーショベルにぶら下がって止めようとしたこともあるとか…)
処分場から出た化学物質にさらされた結果57歳で胃がんを患い、
静岡県伊東市に転居することになりました。

手術後の体力回復のために森を散歩していたとき見つけた
シロダモの大木の実を集めて制作されたのが
登場する「やまいぬ」や「ガオ」と吠える声まで木の実を使って描かれた
絵本『ガオ』(福音館書店,2005)です。
木の実を絵の具のように使いこなしてしまう田島さんについて
北川フラムさんは「ちっちゃいころから、とにかくよく遊んでいた人だと思いますよ」
と言います。


絵本『つかまえた』と「いのちのグリグリ」

松本猛さんによると、田島さんの絵本の原点には
土佐の子ども時代に肌で感じたものがあるそうで、
言われてみれば『ガオ』に限らず田島さんの作品は
子どもらしい遊びの体験が強く影響しているようです。

新作の『つかまえた』は、川で手づかみにした魚の
「グリグリっていう命の鼓動」を形にしたもの。
この絵本、描き始めて1年近くが過ぎた今年3月の時点では
「まだ全然できてない」状態だったのですが、
新型コロナウイルスの感染拡大で展覧会などの予定がキャンセルになり
思いがけず手に入った時間を制作にあてることができました。

田島さんは「あんまりウロウロするんじゃない」というメッセージと受け止めましたが、
時間があることで絵が「正確になっていく」という悩みもできました。
技術的に上手で正確な絵を描こうとすれば大事なものを置き忘れてしまう
「上手になっちゃおしまい」と語る田島さんにとって、
じっくり描く時間ができるということは良いことばかりではなかったのかもしれません。

そんな問題を抱えながら緊急事態宣言の中でも机に向かい続けて
4月の半ばに完成した絵本の中では
主人公の子どもと大きな魚、捕まえようとするものと逃げようとする者の
全力のぶつかり合いが繰り広げられます。
読者は「グリグリ」を感じることができるでしょうか?


鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館

2005年に廃校になった真田小学校が
物語を体験する空間絵本『学校はカラッポにならない』として
2009年7月26日に生まれ変わった美術館です。

新潟県十日町市真田甲2310-1
毎年4月下旬~11月まで開館

水・木曜日休館(祝日の場合は翌日、5・8・9月は変更有)
冬季休館

10時~17時 (10、11月は16時まで)
※入場は閉館の30分前まで

一般 800円(700円) 小中学生 300円(200円)
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者手帳の提示で半額、介添者1名無料

公式ホームページ