日曜美術館「春 はじまりの旅 アート×坂本美雨」(24.3.17)

2023年4月から日曜美術館の司会に就任する坂本美雨さんが、一足早くアートの旅へ。
朝倉彫塑館(谷中)、ポーラ美術館(箱根)、江之浦測候所(小田原)の3か所を巡ってアートと向き合います。

2024年3月17日の日曜美術館
「春 はじまりの旅 アート×坂本美雨」

放送日時 3月17日(日) 午前9時~9時45分
再放送  3月24日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

4月から日曜美術館の司会を務めるミュージシャンの坂本美雨さんと、春を先取りするアートの旅に出かけます。まずは、下町の情緒あふれる東京・谷中へ。ある彫刻家の自宅兼アトリエがそのまま残された空間を体感。箱根の森では、モネやピカソの傑作と対面し、巨匠たちの時代へタイムスリップ。そして、小田原の海を見渡す丘にある壮大なアートスポットで、敬愛するアーティストに出会います。(日曜美術館ホームページより)

出演
坂本美雨 (ミュージシャン)
杉本博司 (現代美術作家)
戸張泰子 (朝倉彫塑館主任研究員)

日曜美術館の司会交代(2024年度)についてはこちらの記事もどうぞ


坂本美雨さんと台東区立朝倉彫塑館

東京・谷中の住宅街を少し歩くと、コンクリート造りの黒い建物とその屋根の上から街を見守るようなポーズの彫刻が見えました。
この建物と彫像を作った朝倉文夫(1883-1964)は、明治から昭和にかけて活躍した彫刻家です。
現在「朝倉彫塑館」と呼ばれている建物は、1935年に建てたアトリエ兼自宅(朝倉によればさらに別荘・彫塑塾・友人の倶楽部・宿泊所などなど…)で、朝倉の没後1967年から一般に公開されました。

アトリエは天井の高さが8.5mあり、大きくとられた窓から自然光が入ります。
立ち並ぶ作品の中でも特に目立つのが、高さ3.78mの《小村寿太郎像》(1938)。
日露戦争の際にポーツマス条約締結に尽力した外交官の像に、坂本さんは小さいころに見たリンカーン像を思い出したそうです。

朝倉のアトリエには、《小村寿太郎像》のように大きな作品を作るための工夫がされています。
坂本さんが特別な許可を得て入った地下室には、アトリエに設置された電動昇降台(エレベーター)の機構部分がありました。
普通は作品の周りに足場を組んで登り降りしながら制作しますが、電動昇降台の上に作品を乗せて上げ下げすることで安全かつ楽に作業をすることができます。

そして愛猫家の坂本さんを喜ばせたのが、朝倉による猫たちの彫刻です。
朝倉も大の猫好きで、多い時には19匹の猫を飼っていたんだとか。
彫刻と一緒に展示されていた当時の写真には、猫に取り囲まれた朝倉の姿がありました。
「のぞきこむ」「憩う」「右前足上げる」「背伸びする」など、それぞれの動作に即した名前で呼ばれている彫刻たち(原題は不明)は、元保護猫のサバ美ちゃんと暮らす坂本さんから見てもリアリティ溢れる姿。
朝倉の原稿の間からたまたま出てきたという猫のスケッチも、寛いだ良い表情をしています。
朝倉について「いい人だったんだろうな」「お会いしてみたかったな」と語る坂本さん。
朝倉は坂本さんが生まれるよりもだいぶ前に亡くなっていますが、対談が実現していたら猫トークが止まらなかったかもしれません。


朝倉彫塑館

東京都台東区谷中7-18-10

9時30分~16時30分 ※入場は閉館の30分前まで

月・木曜日休館 (祝休日と重なる場合は翌平日休館)
年末年始休館
展示替え等のため臨時休館あり

一般 500円
小・中・高校生 250円
年間パスポート(発行日より1年間有効) 1,000円
障害者手帳等の提示で本人および介護者の入館無料
毎週土曜日は台東区在住・在学の小中学生と引率者の入館料無料

公式ホームページ


坂本美雨さんとポーラ美術館

箱根の富士箱根伊豆国立公園にあるポーラ美術館には、自然とアートが楽しめるの「森の遊歩道」(全長1km)が併設されています。
今回美術館を訪れた坂本さんのお目当ての一つは、この遊歩道に設置された野外彫刻の中にありました。
ロニ・ホーンの《鳥葬(箱根)》(2017−2018)は円筒形に形作られた巨大なガラスの塊で、タイトルの通り自然環境の中に晒されて朽ちていくことで完成する作品です。
(硬いガラスが朽ちるまでどれだけの時間が必要なのでしょう?)
過程だけ見れば決して美しくはない鳥葬という儀式ですが、自然に還って別の何かのエネルギーになるというテーマを形にしたこの作品を前にした坂本さんは、自身も「(鳥葬が)許される国なら選んでいたかも」と感じたそうです。

美術館で開催されている特別展「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン」(2024年5月19日まで)は、第一次世界大戦からの復興を機に工業化が進み「機械時代(マシン・エイジ)」を迎えたパリがテーマです。
クロード・モネが蒸気機関車の走る駅を描いた《サン=ラザール駅の線路》(1877)などの絵画のほか、実際の機械も展示されています。
撮影の日、グラモフォン社が1927年に発表した蓄音機(H.M.V 32型)を使って再生された1925年のレコードは、昔の人が聴いていたのと同じ音かもしれません。

ポーラ美術館といえば、日本最大の印象は絵画のコレクションも忘れてはいけません。
モネの《睡蓮の池》(1899)に昔見た景色の記憶を呼び覚まされ、同時代の女性画家ベルト・モリゾが机に向かう愛娘を描いた《ベランダにて》(1884)には何かに集中している娘の姿を写真に撮ってしまう自身の視点と重ねて共感を覚えた坂本さん。
中でも「とても惹かれる」と語ったのは、パブロ・ピカソの《海辺の母子像》(1902)でした。
親友カスマヘスの自殺をきっかけに、青い絵の具を多用して生死・苦悩・貧困などのテーマを描いた「青の時代」の作品です。
子供を抱き、素足で海辺を歩く母親の姿に、坂本さんは同じように綺麗な海辺を持つガザを連想しました。
子供を亡くした、または子供と共に亡くなった母親たちに思いを馳せ、社会的に光の当たらないところに置かれた人々を掘り下げる「芸術のやらなくちゃいけないこと」を確認することで「個人的には勇気をもらった」と言います。


ポーラ美術館

神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285

9時~17時 ※入場は閉館の30分前まで

年中無休(展示替えのため臨時休館あり)

一般 1,800円
65歳以上 1,600円
大学・高校生 1,300円
中学生以下 無料
障害者手帳所持者および付添者1名 1,000円
※「森の遊歩道」散策は無料

15名以上の団体もしくは貸切バスでの来館は事前予約が必要

公式ホームページ


坂本美雨さんと江之浦測候所

坂本さんが今回特に希望して訪れたのが、相模湾に面した斜面に広がる「江之浦測候所」です。
ダイナミックで不思議な造形物が立ち並ぶ空間は、坂本さんが敬愛する杉本博司さん(1948-)がプロデュースしたもの。
2022年7月10日の日曜美術館で紹介されてからおよそ1年半、現在も拡大を続けています。

坂本さんはまず「夏至光遥拝100メートルギャラリー」で、杉本さんとの出会いとなった《海景》のシリーズを鑑賞しました。
世界各地の水平線を写した作品は、見ているうちに風景という枠を超えて「自分の思考の中のよう」に思えてくると言います。
実際に向き合って感じてみないと見えてこないものがあるという点では、坂本さんが「どういう場所なのか実際に訪れてみないと伝わり辛い」「全体を肌で感じる場所」と感じた江之浦測候所と相通じるものがあるかもしれません。

その後坂本さんは杉本さんと合流しました。
海に突き出した「冬至光遥拝隧道」の上を歩き(坂本さんの反応を見るに、かなりスリリングなようです)、実際の古墳の石を使って古墳を模した「三角塚」では王族の墓の石室を再現した四角いスペースで横になり、まさに体全体で体験します。
杉本さんの基本構想は、遙かな世代を重ねた末にたまたまこの世に存在する個人が、文化の歴史・民族の記憶という個人を超えた「人間そのものの記憶」を体現し感じること。
測候所の壮大な世界観は、歌手として「歌は祈り」と感じるという坂本さんにも共感できるものでした。

3つのアートスポットを巡り終えた坂本さんは、この体験が知識を得ることや良いものを見ることに留まらず、「アーティストのひとりとして何をすべきかの道標になる予感」がすると語っています。
4月から始まる新たな日曜美術館では坂本さんに、そして視聴者であるわたしたちにどんな出会いがあるのか、楽しみになってきした。


江之浦測候所

神奈川県小田原市江之浦362−1

事前予約・入替制(各3時間。入場は終了時刻の45分前まで)
午前の部: 10:00~13:00
午後の部: 13:30~16:30

火・水曜日休館
年末年始休館
臨時休館日あり

事前予約制
インターネットの前売券 3,300円
(クレジットカード払いは2日前、セブンイレブン払いは3日前まで)
当日券 3,850円
(当日午前9時から電話でのみ受付)
中学生未満(乳幼児含む)は入場不可

公式ホームページ