日曜美術館「ポケモン工芸化 大作戦!」(2023.4.30)

現在、石川県金沢市の国立工芸館で開催中の「ポケモン×工芸展」を、小野さんと柴田さん、そして謎解きクリエイターの松丸亮吾さんが訪問。

未知のコラボレーションによって生まれた新しい世界を探検するように会場を巡り、作品の背景に秘められた謎に迫ります。
松丸さんによるポケモン視点からの考察も見逃せません。

2023年4月30日の日曜美術館
「ポケモン工芸化 大作戦!」

放送日時 4月30日(日) 午前9時~9時45分
再放送  5月7日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

世界で人気のポケモンが、ゲームやアニメの画面を飛び出し、国立工芸館に大集合!人間国宝から若手まで、漆芸、金工、陶磁、染織など現代工芸の作家20名が、ポケモンと真剣に向き合い、制作。伝統の技や知恵、驚きの発想でポケモンに新たな命を吹き込んだ。ポケモン大ファンの謎解きクリエイター・松丸亮吾さんが展覧会場を訪れ、作品の素材や大きさ、表情を手がかりに、作家たちが込めた思いや挑戦の軌跡をひもとく。(日曜美術館ホームページ日曜美術館ホームページより)

出演
今井陽子 (国立工芸館主任研究員)
松丸亮吾 (謎解きクリエイター)
吉田泰一郎 (金工作家)
満田晴穂 (自在置物作家)
桝本佳子 (陶芸作家)
桂盛仁 (金工作家)
池田晃将 (漆芸作家)


ポケモンと伝統工芸?

1996年に携帯ゲーム機「ゲームボーイ」のソフトとして発売された「ポケットモンスター(ポケモン)」は、今やゲームを超えて展開する巨大コンテンツに成長しています。
初期は151種類だったポケモンも現在は千種以上に増えて、毎年ゲームの世界大会が開かれる人気ぶり。
ポケモンをプレイしたことがなくても、ポケモンの存在は知っているという人は多いことでしょう。

それにしても何故ポケモンと工芸なのか。
展覧会を担当した今井陽子さんは、メディアミックスの世界で広く認知されるポケモンと、長い歴史を持つ伝統工芸の造形の力をぶつけ合ったら「どんな化学反応が起きるだろうか、という好奇心」だと語ります。
グッズ展開も充実しているポケモンですが、その歴史は30年未満。
長いものなら千年を超える工芸の力は、ポケモンワールドに新しい風を吹かせることができるのでしょうか?
(一視聴者がバトル観戦の気分になっていますが、番組は終始なごやかな雰囲気です)


《ピカチュウの森》須藤玲子

小野さんと柴田さんの前に現れたのは、黄色いレースのリボンが一面に垂れ下がる不思議な空間。
よく見ると何匹ものピカチュウが連なってレースの模様になっています。
小野さんが「感電死しますよ(笑)」と言っていましたが、たしかに野生のピカチュウがこれだけ出てきたら身の危険を感じるかもしれません。
このレースには糸と縫い針だけで作る「ニードルレース」の技法が使われていて、ピカチュウや植物の文様はすべて一本の糸からできているそうです。

《湖のほとりで》池本一三

ガラスの表面にエナメル顔料を吹き付け、必要な部分だけ残して取り除き、焼き付ける。
この工程を一色ずつ何度も繰り返すことで、器の表面には奥行きのある幻想的な風景が生まれます。
高さ50㎝のガラスの壺に描かれているのは、ポケモンたちが暮らすゲームの世界と、作者の池本一三さんが実際に出会ったり仲間にしたポケモンたち。
実はビデオゲームをしたことがなかった池本さんは、この作品のために初めて一本のゲームをやり通したそうです。


ポケモンといく、工芸の世界

ポケモンと工芸という新しい試みの中で、クリエイターたちはどのように自らの技とポケモンを結び付けていったのでしょう。
この謎に挑むのは、謎解きクリエイターの松丸亮吾さん。
ポケモン歴20年、ポケモンバラエティ番組「ポケモンとどこいく!?」(テレビ東京)ではポケリーダーを務める歴戦のマスターですが、工芸に関してはほぼ初心者。
新しい世界を「ポケモンと一緒に勉強しながら体験していきたい」と語っています。

《イーブイ》《シャワーズ》《サンダース》《ブースター》吉田泰一郎

最初に出会ったのはイーブイと、イーブイから進化した3種類のポケモンたちでした。
今にも動き出しそうなリアルさですが、素材は金属。
毛皮がある3匹のちょっとボサッとした毛並みは、それぞれ属性に合わせてデザインした細かいパーツをひとつひとつ差し込んで再現されています。
(シャワーズは丸みのある鱗状のパーツ)
これらのパーツは、クッキーの型に柄をつけたような形の鏨(たがね)で薄い銅板を切り出し、着色して作られます。
たとえばブースターの赤い毛なら、切り抜いた銅板をバーナーで炙って変色させ、急速に冷やして色を定着させます。

作者の吉田泰一郎さんは、普段は実在の動物をモデルにした作品を作っています。
リアルなサイズにこだわりがあり、今回の作品もゲーム内のサイズを再現したとのこと。
ポケモンが現実に存在するなら可愛いだけではすまない大変な側面もあるだろうと考えて、細い瞳孔や牙などの獣らしい要素も加えてあります。
松丸さんはブースターが舌を出して息を吸い込む…攻撃の準備動作に入っていることに気づきました。
リアルなポケモンは、ちょっとスリリングな存在でもあるようです。


《自在ギャラドス》満田晴穂

生物の姿を金属で再現し、関節を動かして形を変えられるようになっているのが自在置物です。
甲冑を作る技術を転用したもので、甲冑の需要が減った江戸中期以降にはじまり、明治時代に隆盛を極めました。
自在置物作家の満田晴穂さんは、普段の制作ではまず本物の標本を手に入れて解体・観察・計測するところから始めるそうです。
実在の生物を忠実に写し取ってきた満田さん、今回のチャレンジはポケモンがテーマとあって「どうしよう」と思ったとか。
そこで満田さんは1年がかりでギャラドスを研究し(ゲームやアニメをもとにオリジナルの模型も作ったようです)、オリジナルの生物として作り上げました。
完成した《自在ギャラドス》は松丸さんも「めちゃめちゃリアル!」と驚くほど。

これまで実在する生物の再現にこだわってきた満田さんは、自在置物の定番である龍を作ったことがありませんでした。
今回ギャラドスを実在させたことで「龍を作ろうって気に、今はなった」といいます。
近い将来、満田さんの手で龍が「再現」される日がくるかもしれません。


《ロコン/信楽壷》《リザードン/信楽壷》桝本佳子

綺麗な工芸作品が並ぶ中に登場したら「なんだこれは」と思うような驚きや、笑いが提供できたら良い、と桝本佳子さんは語っています。
壺が主で装飾が従という常識を壊すような陶器を作ってきた桝本さんの作品は、信楽壺と炎系ポケモンが一体化したような不思議な形をしています。

信楽焼は釉をかけずに焼くことで粘土に含まれた鉄分が赤く発色するのですが、これまで似合うモチーフが見つけられなかったと言います。
赤やオレンジで属性も火に関わっているほのおタイプのポケモンは、信楽焼との相性が抜群でした。
松丸さんは、ポケモンの属性やモチーフから「なぜこの素材が使われているのか」と推測する工芸鑑賞の楽しみ方を見出したようです。


《帯留 ブラッキー「威嚇」》《帯留 ブラッキー「 立ち姿」》《ブローチ ブラッキー「眠り」》桂盛仁

桂盛仁さんは、2022.12.25の日曜美術館にも出演しています。
2008年に人間国宝の認定を受けている桂さんですが、ポケモンについては「ピカチュウとポケモンと一緒ですか?」というくらい知識がありませんでした。
そんな桂さんが選んだポケモンは、げっこうポケモンのブラッキー。
見た目が可愛いのと、使われている色が金属で出せる色だったのが決め手だったそうです。

金属に別の金属をはめ込む象眼の技法で3種類のブラッキーを表したこの作品では、「眠り」のポーズに最も苦労したそうです。
月光を浴びて力を貯めるイメージがなかなか形にならず、最終的に土台の金色の板を本体から大きくはみ出させることで、光に包まれた様子を表現しました。
周囲を囲む輪郭は細ければ細いほど綺麗で粋というのが常識を破った、ある意味問題作かもしれません。
(「威嚇」と「立ち姿」はほとんど見えないくらいの細い線に囲まれています)


《未知文黒御影茶器》《電線光環中次》池田晃将

松丸さんが「見たかったやつ!」と歓声を上げたのが、池田晃将さんの《未知文黒御影茶器》。
黒漆の地にレーザーカッターで切り抜いた螺鈿の極小のパーツを規則的に配置し、その上から更に漆を塗って研ぎ出す方法で作られています。
見た目は黒いモニターに浮かぶ電気信号を思わせ、なんだか近未来的な雰囲気も。
ここで表現されているアンノーンは古代文明の文字に似た姿をしたポケモンで、文字が先かアンノーンが先かは世界の7不思議のひとつです。
もちろんアンノーンを「解読」することもでき、松丸さんは「かれら」「いしき」「さっちする」などの単語を読み取りました。
会場で解読に挑むときは、単眼鏡などの持参をおすすめします。

ここまでいくつもの作品を考察してきた松丸さんに、作者の池田さんから問題が出されました。
お題は三角柱の形をした蓋物《電線光環中次》。
3つの側面にブレのある横線でゼニガメ・フシギダネ・ヒトカゲが表されているこの作品は、何故この表現になっているのでしょう?
松丸さんは作品の名前に注目して、ポケモンがまだ有線(「電」気を通す「線」)で対戦や「交換」をおこなっていた時代のポケモンの移動画面と推理して、見事正解しました。
今ではゲーム内の通信は当たり前ですが、当時は画期的なシステムだったのです。


人とポケモンの成長物語?

《無題》田中信行

小野さんと柴田さんが最後に出会ったのが、巨大な黒い石碑のような何か。
麻布に漆を塗って貼り重ね、最後に表面に漆でコーティングして磨いた乾漆技法の作品です。
「こんなポケモンいましたっけ?」「いませんよね?」と不思議そうなお2人の言う通り、こちらはポケモン本体ではなく、技を形にした作品です。

ゴーストタイプのポケモンが対戦相手の背後から現れて攻撃を仕掛ける「かげうち」をモチーフにしたこの作品は、実態のない影が地面から立ち上がった瞬間の形。
暗い展示室の中では、黒い表面で光と影が移り変わる様子を見ることができます。

ポケモンと工芸家の出会いが世界を広げる

ゲームのポケットモンスターは、人とポケモンがともに成長していく物語。
小野さんはこの展覧会で、様々な技術を持つ人たちとポケモンの出会いが両方の世界に進化を促し、鑑賞する人々にも幸せをもたらし、さらに世界を広げていくことを実感したようです。


「ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見」(国立工芸館)

日曜美術館では8人の作家と16点の工芸品が紹介されましたが、実際の会場では20名の作家による作品72点が展示されます。

石川県金沢市出羽町3-2

2023年3月21日(火・祝)~6月11日(日)

9時30分〜17時30分(4月29日~5月7日は20時まで)
※入場は閉館の30分前まで

月曜休館(5月1日は開館)
5月14日(日)は休館

一般 900円
大学生 500円
高校生 300円
中学生以下 無料
障害者手帳の提示で本人と付添者1名無料

公式ホームページ公式ホームページ

ポケモン×工芸展の巡回について

2023年7月25日から、アメリカ合衆国のハリウッドにある外務省の対外発信拠点「ジャパン・ハウス ロサンゼルス」で巡回展「POKÉMON X KOGEI Playful Encounters of Pokémon and Japanese Craft」が開催されます。

ジャパン・ハウス ロサンゼルス
(Hollywood & Highland 6801 Hollywood Boulevard, 2F and 5F Los Angeles, CA 90028 USA)

2024年以降に日本での巡回展も予定されているとか。
私は期間中金沢には行けそうにないため、関東に来てくれることを期待しようと思います。