2021年夏、清澄白河・六本木・渋谷で横尾忠則の展覧会が開催

横尾忠則さんが生まれてから85年、
グラフィックデザイナーから画家へ本格的に転向した
「画家宣言」から41年目にあたる2021年の夏、
東京では複数の「横尾忠則展」が同時に開催されています。

横尾忠則さん(1936-)について

5歳のころには『講談社の絵本 宮本武蔵』の
巌流島の決闘の図(石井滴水)を模写していたという横尾さんは、
小学校時代は毎月のように『漫画少年』誌に漫画を投稿していたそうです。

高校時代には通信教育で挿絵を学び、
さらに武蔵野美術学校出身の教師の影響をうけて
油絵やポスターを制作するようになります。
県主催の絵画展などで入賞を重ね、
1955年に武蔵野美術学校受験のために上京しましたが

東京の美大の受験の前日、美術の先生に突然、受験を反対されて、受験当日に先生に送られて東京駅から郷里に帰ることになったという、まことにおかしな運命の悪戯によって、ぼくの人生はその出発から、路線が思わぬ方向に変えられてしまった。郷里に帰った僕を待っていたのは、郷里から三五キロほども離れた加古川市の印刷所だった。
(「偶然の美学」『絵画の向こう側・ぼくの内側:未完への旅』岩波書店,2014)

という経緯で、兵庫県加古川市の成文堂印刷所に入社することになりました。
その翌年の1956年、神戸新聞にカットを投稿していた常連仲間と
開催したグループ展がきっかけでスカウトされ、神戸新聞社に入社し、
59年に独立しています。

1965年に東京の松屋銀座店で開催されたグループ展「ペルソナ」に出展した
《Made in Japan, Tadanori Yokoo, Having Reached Climax at the Age of 29, I Was Dead》
がきっかけとなり、ポップカルチャーの中心人物となった横尾さん。
1969年にパリ青年ビエンナーレ版画部門で大賞を受賞し、
1972年にはニューヨーク近代美術館で個展を開催。
その他各国のビエンナーレに出展するなどキャリアを重ねていきますが、
1980年7月、ニューヨーク近代美術館のピカソ展に衝撃をうけ「画家宣言」。
アーティスト・横尾忠則のはじまりでした。
(もしかすると、本来の路線に戻っただけなのかもしれませんけど)

以来、スタイルやモチーフを頻繁に変化させながら
大量の作品を制作してきた横尾さんに対して
3つの展覧会がそれぞれの角度からアプローチしていこうというわけです。

東京展の裏側では「学芸員危機一髪」!?
Curators in Panic(横尾忠則現代美術館)

一方、2012年11月に開館して以来
横尾さんから寄贈・寄託された作品を保管・展示している
兵庫県の横尾忠則現代美術館では、
「Curators in Panic 〜横尾忠則展 学芸員危機一髪」(2021年3月27日~8月22日)
が開催されています。

2021年から2022年にかけて国内で行われる大規模な巡回展、
その後に控えている海外での展覧会…
そんな中、新型コロナウィルスの蔓延で作家との打ち合わせもままならず、
他所から作品を借りてくるのも難しい。
出品ランキング上位20位を占めるレギュラー陣すべてを含めた
140点もの作品を貸し出した美術館の展覧会はどうなる!?

という状況のもと、3人の学芸員さんが
普段は注目されない「2軍」の作品から25点ずつ「推し」を選んで
自由なコメントと共に紹介する、混乱する現場の現状を絡めた展覧会。
設定からして面白そうです。

現状では県をまたいだ移動は難しいところですが、
オンラインギャラリートークは横尾忠則現代美術館のウェブサイトのほか、
YouTubeでも視聴できます


GENKYO 横尾忠則:原郷から幻郷へ、そして現況は?(東京都現代美術館)

東京都江東区三好 4-1-1(木場公園内)

2021年7月17日(土)~10月17日(日)
(東京での会期終了後、大分県立美術館に巡回します)

月曜休館(8月9日、9月20日は開館)

10時~18時
※入場は閉館の30分前まで

一般 2,000円
大学・専門学校生・65歳以上 1,300円
中高生 800円
小学生以下 無料

公式ホームページ

画家・横尾忠則の画業をテーマごとにまとめて展示する大規模な個展。
横尾忠則現代美術館が「学芸員危機一髪」になった元凶は間違いなくこれでしょう。
同じテーマを反復して描くことが多い横尾さんならではと言うべきか、
ひとつのコーナーだけで小さな展覧会なら賄えるんじゃないだろうか…
というくらい、とにかく物量(絵画を中心に、500点以上)に圧倒されます。
横尾ワールドに呑まれる気分を味わうなら是非こちらへ。

主な展示室は企画展示室の1階と3階ですが、
5歳の横尾さんが絵本の挿絵を描き写した《武蔵と小次郎(模写)》をはじめ
デビュー前の作品が見られる2階のアーカイヴ、
2020年5月からSNSで発信し続けているマスクをコラージュした
《WITH CORONA》(2021年4月から《WITHOUT CORONA》に改称)
シリーズのインスタレーションがある
ホワイエ(1階のミュージアムショップを入った先にあります)もお見逃しなく。

企画展示室内の写真撮影はできませんが、
ホワイエの《WITH CORONA(WITHOUT CORONA)》は
インスタレーション撮影のみ可能です(1枚ずつのクローズアップ撮影は禁止)。

カフェ「二階のサンドイッチ」では、
桃・マンゴー・西瓜ジュースなど横尾さんの「夏の果物の好物」を使った
「真夏のフルーツサンデー -GENKYO-」(920円)が提供されます。
(ラストオーダーは17時30分)


横尾忠則:The Artists(21₋21 DESIGN SIGHT ギャラリー3)

東京都港区赤坂 9-7-6
東京ミッドタウン(ミッドタウン・ガーデン)

2021年7月21日(水)~10月17日(日)

火曜休館

11時~17時 (土日祝日は18時まで)

入場無料

公式ホームページ

カルティエ現代美術財団が所蔵する横尾忠則作品のうち、
肖像画139点を集めた展覧会です。
描かれているのはアーティスト・哲学者・科学者など(人工知能も!?)
すべて財団の歴史に名前を残す人なんだとか。
(会場内は写真撮影が可能です)

同じサイズのキャンバスが全て顔の高さに並べられ、
横尾さん自身のセルフポートレイトから順に1人1人辿っていくと
自然に会場を一巡りする構成になっています。
最後を飾るのも横尾さんのセルフポートレイト。
横尾さんを含め複数の肖像画に描かれている人も何人かいますので、
機会があったら是非数えてみてください。
(会場に置いてあるチラシには全作品の縮小版が載っています)

「肖像画」という共通点はあっても、
中には1人の人が多重になって描かれたものあり、
顔のパーツがバラバラになっているものあり、
別のパーツとコラージュされているものもあり…
「あ、横尾忠則だ」とニヤリとしてしまう要素満載です。


YOKOO LIFE:横尾忠則の生活(渋谷 PARCO 8階「ほぼ日曜日」)

東京都渋谷区宇田川町 15-1

2021年7月17日(土)~8月22日(日)

休業日はPARCOに準ずる

11時~20時 (毎週金・土曜日は21時まで)

一般 450円 (100円分のお買い物チケット付き)
小学生以下 無料

公式ホームページ

最初のパネルに「作品は展示していません。」とお断りがしてある、
身の回りにあるものから「横尾忠則の生活」を紐解く展覧会です。
(会場内は写真撮影が可能です)

愛用品や趣味、好きなことなど
いくつかのテーマに分けて横尾さんを語る展示は、
「あんこ」と「カレー」と「病院のベッド」が当たり前に同居する、
それ自体が横尾さんのコラージュ作品と言われても
納得できそうな空間を作り出しています。

最初に書いてあるように作品の展示はありませんが、
ミュージアムショップに並ぶ絵ハガキは
「Y字路」や「ピンクガール」のようなお馴染みのシリーズはもちろん、
滅多に見つからないレアものも有るかもしれない…という充実の品揃え。

他にも、主催者である「ほぼ日刊イトイ新聞」のweb連載を書籍化した
『YOKOO LIFE』の先行販売も7月21日から開始されました
(書店では8月3日から。1,320円)。
そのほか、海苔弁当専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」とコラボした
「横尾只海苔弁当」(土日祝日に限り数量限定で販売)といった
変わり種のミュージアムグッズ(?)も。

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