日曜美術館「絵が語る僕のすべて~絵本作家・画家 スズキコージの世界~」(再放送)

2020年3月22日の日曜美術館は、2019年4月7日の再放送。
小野正嗣さんと柴田祐規子さんが絵本作家のスズキコージさんを訪ねます。
幅4m×高さ2mの巨大な絵画を描くライブペインティングに密着しながら、
50年に及ぶスズキさんと絵の関係についてうかがいました。

2020年3月22日の日曜美術館

「絵が語る僕のすべて~絵本作家・画家 スズキコージの世界~」
(2019年4月7日の再放送です)

放送日時 3月22日(日) 午前9時~9時45分
再放送  3月29日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

絵本作家で画家のスズキコージさん。その不思議な世界が人々をひきつけてきた。今回、野外のにぎやかな場所で巨大絵画をわずか3日で描く現場にも密着、創作の秘密に迫る。 (日曜美術館ホームページより)

出演
スズキコージ (絵本作家・画家)
アーサー・ビナード (詩人)
美村里江 (俳優)
寺村摩耶子 (絵本研究家)
高畑啓子 (株式会社あぶち代表)



スズキコージ(鈴木康司 またの名をコージズキン)さんを訪ねて神戸へ

2019年度第1回の再放送。
柴田さんは「よろしくお願いします」の回です。
番組は3月の神戸にスズキコージさんを訪ねるところから始まりました。

スズキコージと聞いて「誰だったっけ?」と首をかしげ
絵を見たら「あの人か!」となった人はたくさんいると思います。
売れていなかったころ「個性が強すぎる」という理由で
アニメの背景描きの仕事をクビになったというのも納得の存在感。
コージさんのアトリエにはそんなペインティングがたくさんありました。
クローズアップされていたのはバイオリンと地球儀ですが、
カラフルな服装のコージさんご本人も作品に見えてきます。

静岡県浜北市うまれのコージさんは、
物心ついた時から絵を描いていました。
画家をめざして東京の美術大学を受験するも、すべて不合格。
このときアカデミックな路線は向いていないと感じたそうです。
あてもなく上京して天ぷら割烹のお店で働きながら絵を描いていた時に
親戚の紹介でグラフィックデザイナーの堀内誠一さん(1932-1987)と出会い
雑誌の挿絵画家としてデビューしました。
この雑誌はマガジンハウスの「平凡パンチ 女性版」。のちの「an・an」です。



絵本作家・スズキコージ

コージさんが絵本を描き始めたきっかけは、
堀内家の書庫にあった外国の絵本だったそうです。
23歳で最初の絵本『ゆきむすめ』(岸田衿子文 / 世界文化社,1971)を出版しましたが
その後まったく売れず
肉体労働などで稼ぎながら絵を描く生活が15年以上続きました。
絵本にっぽん賞を受賞した「やまのディスコ」(架空社,1989)で評価されてから
「絵本作家・スズキコージ」として知られるようになりましたが、
電気や水道が頻繁に止められる生活の中
描き続けるのは大変なことではないでしょうか。
コージさんご本人は「絶版王って言われてました」と明るくおっしゃるのですが…

「売れる物をつくろう」とか
「子どもにうける物や母親が買ってくれるような物をつくろう」
ということはなかったのですか、という柴田さんの質問に、
「子どものこと」は考えないと答えています。
かわりに「コミュニケーションということは考えます」と。
大人と子どもではなく人間同士として気持ちが伝わることを重視しているコージさんは
「子どもなんかに負けるかというのはある」とも言います。

ウケを狙うことなく対等な立場からストレートに気持ちをぶつけるコージさんの絵は
子どもにとってもとっつきにくいことがあるかもしれません。
わたしも、小学校で初めてスズキコージの絵本や挿絵を見た時は
それまで知っていた分かり易く綺麗・可愛い絵本との差にびっくりした記憶があります。
(でも、一度その魅力を知ると「そこが良い!」となるんですよねえ)



ライブペインティング 《オリーブ冠の娘》(2019)を描く

さて、メイン・イベントは3日がかりのライブペインティング。
幅4m×高さ2mのキャンバスに、構想・下描き一切なしの即興で絵を描いて行きます。
(コージさんは絵本やイラストでも下描きはしないみたいです)
ライブペインティングは路上・公園など人のいるところで行います。
舞台となるのは神戸北野美術館。
誰でも自由に見られる環境なのでスマホを使って撮影する人もいました。
1日目は三田村管打団による生演奏があり、
音楽に合わせて体全体を動かしながら描いて行く様子はまさに「ライブ」。

作業はまず、キャンバスにバケツで水をかけるところから始まりました。
これが予測不能な線を生み出すのだとか。
キャンバスの布も、ピンと張っていなくて何だか緩いかんじ。
その上に手を使って絵の具を塗っていきます。
最初は素手で「(手のひらが)痛くなってくると筆つかう」とのこと。
その筆も逆さに持って点を打つように使ったりと自由に進めて行きます。
最終日はあいにくの雨でしたが
横たわる巨大な女性を中心に据えた世界《オリーブ冠の娘》は無事に完成しました。

人の集まる路上が「最高のアトリエ」だと言うコージさんは
思春期のころ人と話すことが苦手だったので
絵をコミュニケーションの道具に使っていたそうです。
まるで作者と一体化しているようなコージさんの絵は、
見る人に「わたしがスズキコージです」語りかけているのかも知れません。

俺のことを表現するのに俺の絵を見てもらったら
もう何も言うことないくらいに一番わかってもらえる
見てもらうしかないよね 僕の絵をね (スズキコージさんのコメント)