日曜美術館「伝統で未来を拓(ひら)く 〜第69回 日本伝統工芸展〜」(2022.9.18)

毎年恒例の日本伝統工芸展は2022年で69回をむかえました。
日曜美術館では全国から1,100点以上応募された作品から受賞作品16点を紹介。
さらに5人のアーティストの工房を訪ねています。

目次

2022年9月18日の日曜美術館
「伝統で未来を拓(ひら)く 〜第69回 日本伝統工芸展〜」

放送日時 9月18日(日) 午前9時~9時45分
再放送  9月25日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

卓越したものづくりが一堂に介する日本伝統工芸展が始まります。陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の工芸分野7部門で選ばれた555点が、全国12か所を巡ります。培った伝統の技で新たな創作に挑んだ匠や、創作の喜びを力にして技を磨いてきた作家たち。アトリエ訪問も交えながら16点の入賞作品をすべて紹介。伝統工芸の未来を切り拓(ひら)く作品の数々をお楽しみに!(日曜美術館ホームページより)

出演
川邉雅規 (ガラス作家)
川邉かおり (ガラス作家)
田中義光 (漆芸家)
満丸正人 (人形作家)
岡原有子 (彫金作家)
隠﨑隆一 (陶芸家)


アトリエ訪問

諸工芸
川邉雅規《硝子鶴首花入「凛然」》(日本工芸会新人賞)

「鶴首(つるくび)」の名前通り、首の部分が細長く伸びた形をした白い花器です。
胴体には波紋か木の年輪のような奥行きのある模様が刻まれ、
奥に行くほど濃いグラデーションを作っています。
よく見ると、口の部分にも細かい年輪が。

作者の川邉雅規さんは、大学でガラス工芸やアート表現を学び、国内外で活動した後、
2016年に妻・かおりさん(同じくガラス作家)と2人で
島根県出雲に「ガラス工房 Izumo」を設立しました。

白いガラスの層が重なった受賞作品は
川邉さんが長く手掛けてきたCocoon(繭)シリーズの展開。
同じシリーズのオブジェに触れてみた小野さんによると、表面は滑らかだとか。
この模様は白と透明のガラスを何層にも重ねてグラインダーで削り出す
「オーバーレイ」という技法で生み出されるものです。
現代アートの世界で活躍してきた川邉さんは、
「これまで作ってきた作品・作風が伝統工芸の中でどう評価されるか興味があった」
と語っています。

漆芸
田中義光《蒔絵箱「凛花」》(高松宮記念賞)

陽光を思わせる金の地に、黒い葉を茂らせる椿が赤い花を咲かせています。
作者の田中義光さんは、太陽の少ない冬の朝の散歩中に
たまたま椿の花に光が差したのを見て着想を得たそうです。

石川県輪島で生まれ育った田中さんは、地元の漆芸工房で28年務めた後独立し、
現在は自宅のアトリエで制作をしています。
写実的な植物の表現は、身近な自然を観察し、スケッチすることで磨かれました。
花のつくりを知っているのと知らないのでは、描く絵も変わってくると言います。

逆光で黒く沈んだように見える椿の葉とその下に見える不規則な黒の濃淡は、
下地部分をシワを寄せたラップで叩きつけるように塗った上に
乾漆粉(砂糖の炭)をまき、その上に葉を描いてから
漆を塗り重ねて研ぎ出すという手間をかけて表現されています。
葉の輪郭や立体感を表現する金粉は、説明的にならないよう葉先などに少しだけ。
金粉をまかない部分が大事なんだそうです。

人形
満丸正人《木芯桐塑布和紙貼「夕浜」》(日本工芸会奨励賞)

今回の伝統工芸展で唯一、人形部門で受賞した作品です。
戦前の沖縄で、一日の仕事を終えた漁師の姿を人形にしました。
穏やかな表情で家路をたどる、今はなくなった日常の情景です。

人形作家になって10年目の満丸正人さんは、。
会社に勤めながら大阪にある自宅のリビングで制作をしています。
人形の顔は桐材に桐の粉と糊をあわせた「桐塑(とうそ)」を盛ることで、
豊かな表情をだすことができます。
満丸さんが特に大事にしているのは人形の横顔で、
ここが良ければ前から見た顔も良くなると言います。

人形が着ている藍に白の縞がはいった着物は、
目の粗い布の上から和紙を貼ったもの。
満丸さん自身が和紙を染め、色あせた風合いを表現しました。
作品の中に「沖縄のかおりを出したい」と語る満丸さんは、
お母さんが沖縄のご出身だそうです。


金工
岡原有子《メロンとバナナ帯飾り》(日本工芸会奨励賞)

金属の板を叩いて成形する「打出し」の技法で作られた可愛らしい帯どめ。
メロンの筋といいバナナの黒い部分といい、とてもリアルな果物です。
作者の田原有子さんがモデルに選ぶのは身近なものばかりですが、
金属で表現されるとかなり斬新なデザインに見えます。

岡原さんは、ジュエリー職人だったお父さんの影響で
21歳の時に彫金教室でアクセサリーを作り始めました。
お父さんには「彫金はこう(狭いのジェスチャー)なるぞ」と言われたそうですけど…
現在も熱海から東京北区の工房に通って制作を続けています。
(壁には工房の仲間からのお祝いメッセージが)

バナナの黄色は金を焼き付け、斑点・ヘタ・お尻の黒は合金を埋め込んで表現。
さらにメロンの筋には細いタガネで筋を浮き上がらせて
他の部分をへこませる新しい技法をためしています。
一枚の銀の板を叩き続けて完成するまで、およそ2か月半がかかりました。

陶芸
隠﨑隆一《備前白泥混淆花器》(文部科学大臣賞)

釉薬をかけずに高温で焼き締める備前焼は、飾り気のない茶色や褐色が定番。
ところがこの作品は淡い色で、質感の違う土を貼ったひだ飾りのような所もあります。
型破りな作品は、作者の隠﨑隆一さんの備前焼の未来に対する提案でした。

隠崎さんは元デザイナー。
人間国宝の伊勢崎淳に師事し、35歳で自分の窯を開きました。

備前焼に使う土は田んぼの底を深く掘り起こした下の土
「田土(ひよせ)」ですが、(さらに山土と黒土も配合するそうです)
現在は田土のみで焼き物を作ろうとすると
2~3年で掘りつくしてしまうほど少なくなっています。
隠崎さんは田土より浅い場所にある質の悪い土に注目し、
これと田土を混ぜた「混淆土(こんこうつち)」の研究を20年続けてきました。
今回の作品は口縁部に白い泥を塗りこんで完全に覆ってしまい、
モザイク模様のような混淆土の表情を隠す部分と強調する部分を作っています。
まだ発見できていない備前焼の可能性を問う作品でした。


2022年の受賞作品

漆芸
須藤靖典《乾漆蒔絵漆箱「果てしなき」》(日本工芸会保持者賞)

丸みのある箱の表面に、果てしない大海原を表現した作品。
金銀の粉をまいたさざ波が複雑な模様を作り、青く光る螺鈿が海の色を添え、
蓋の上には金色の靄が立ち込めて泡のような銀の粒が散らばっています。
漆芸の様々な技法が一体感をもって集合する作品は、
幾つもの表情を持つ海そのもののように見えました。

漆芸
神垣夏子
《籃胎蒟醬箱「幻想」》(日本工芸会奨励賞)

「蒟醬(きんま)」は彫刻刀(蒟醬剣)で漆の表面を彫り、
色漆を埋めて研ぎだす技法です。
もとは中国の沈金に倣ったもので、タイやミャンマーで盛んにつくられました。
黒漆の上に黄色いイチョウの葉が散っていく様子を現したこの作品は、
箱の表面で過去と未来を表すぼんやりした葉(点彫り)と、
写実的な葉(面彫り)が重なりあって、見る人に奥行きを感じさせます。

漆芸
新井寛生《乾漆螺鈿蒔絵箱「溢水(いっすい」)》(日本工芸会新人賞)

名前の通り、湧きだた水があふれて落ちる様子を漆で表した六弁花形の箱。
蓋の中央には金粉の湧水が現れ、
それが側面を流れ落ちる様子は縦の筋で表現されます。
側面につながる蓋の角部分には螺鈿がほどこされ、水の青さを思わせます。
作者の荒井寛生さんは35歳。今年度最年少の受賞となりました。

染織
佐竹孝子《木綿風通織着物「宙(そら)」》(日本工芸会新人賞)

紺の濃淡とヤシャブシ・クチナシ・ヤマモモ・クズなどの
植物染料を使った連続模様で星々の輝く銀河を表現。
濃淡を取り混ぜた複雑な連続文様は、
縦の線と横の線を交差させたチェックを
上下左右に少しずつずらしたように見えます。
たしかにSF的というか、宇宙につながる世界を連想する柄です。

染織
武部由紀子《刺繡着物「仰ぐ」》(日本工芸会奨励賞)

もとは建築の仕事をしていた武部由紀子さんが
今回の作品に選んだテーマは、ゴシック建築の教会。
尖った屋根を内側から見上げた風景なんだそうです。
たった5色の色糸による長短の線で、
抽象化された柱や天井から差し込む光がシンプルに表現されています。

染織
松山好成《唐組帯締「潮騒」》(日本工芸会会長賞)

手組みの紐の中で最もむずかしく継承者が少ない唐組を受け継ぐ松山好成さん。
受賞作の帯締めは、古代(飛鳥時代)に使われたのと同じ
「唐組台」を用いて編み上げたものです。
2cmほどの幅の中に藍の濃淡と白で
細かいひし形の文様が8列織り出されています。
使われている色は青と白のみですが、
じっと見ているとグラデーションの中に動きを感じるような気がします。


金工
般若泰樹《吹分盤》(朝日新聞社賞)

黒と黄がマーブル状に混ざりあう模様は、鳥の翼をイメージしたもの。
黒味銅(銅の合金の一種)と真鍮を同じ鋳型に交互に流しこむことで
偶発的につくられるものです。
違う種類の金属を融合させるためには、高い鋳造技術が必要です。
平たい盃を大きくしたような単純な形が、幻想的な景色を引き立てています。

木竹工
河野祥篁《透網代花籠「朝露」》(日本工芸会総裁賞)

今年、最も高い評価を受けた作品です。
二重になった漆塗りの竹籠が花を活ける部分を包みこむ形は、
仏様の座る蓮華座をイメージしたもの。
外側には太さの違う竹を螺旋状に並べてあり、
竹の模様が重なり合うことでより複雑で美しい景色が現れます。

諸工芸
氣賀澤雅人《硝子切子鉢「波瑠璃」》(NHK会長賞)

螺旋状にほどこされた太いカットと細かいカットの線が交差し、
底に仕込んである青・紺青・群青の色を映して海の波のよう。
器の中をのぞくと大小の泡のような丸いカットと細かい筋が刻まれ、
南国の海を覗き込んだような気持ちになります。

木竹工
林哲也《神代杉網代文様箱「朔望」》(東京都知事賞)

薄茶色の屋久杉と、灰色の神代杉(土中に埋って長い年月を経過した杉材)が
交互に組み合わせて網代文様を表現した箱です。
貴重な古木の柾目(木の中心を通って縦に切った時のまっすぐな木目)を活かし、
アクセントには楽器などにも使われるブラックウッドを使用。
落ち着きがありながらも華やかな印象を受けました。

陶芸
五嶋竜也《白磁鉢》(日本工芸会奨励賞)

熊本地方で採れる「天草陶石」を使った白磁の花器。
釉薬は薄くして、素材の白さや質感を際立たせています。
(天草陶石は単体で磁器を作ることができる珍しい原料)
ドレープのある布のようにも、開きかけた植物の蕾のようにも見える有機的な形は、
ろくろで成形した器から手で削り出したものです。


第69回 日本伝統工芸展

伝統を基礎に時代に即した新しいものを築き上げる
作家たちへの応援を趣旨とする日本伝統工芸展。
今年は番組で紹介された16点の受賞作のほか応募作品から選ばれた入選作、
人間国宝の新作41点からなる558の作品が全国12会場を巡回します。

日本工芸会公式サイト

東京展

2022年9月14日(水)~9月26日(月)
日本橋三越本店(東京都中央区日本橋室町1-4-1)
無料

愛知展

2022年9月28日(水)~10月2日(日)
星ヶ丘三越(愛知県名古屋市千種区星が丘元町14-14)
無料

京都展

2022年10月12日(水)~10月14日(金)
京都産業会館ホール(京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町80番地)
有料

北海道展

10月18日(火)~10月23日(日)
札幌三越(北海道札幌市中央区南1条西3丁目8)
無料

石川展

2022年10月28日(金)~11月6日(日)
石川県立美術館(石川県金沢市出羽町2-1)
有料

岡山展

2022年11月17日(木)~12月4日(日)
岡山県立美術館(岡山県岡山市北区天神町8-48)
有料

島根展

2022年12月7日(水)~12月25日(日)
島根県立美術館(島根県松江市袖師町1-5)
有料

香川展

2023年1月2日(月)~1月16日(月)
香川県立ミュージアム(香川県高松市玉藻町5-5)
有料

宮城展

2023年1月20日(金)~1月25日(水)
仙台三越(宮城県仙台市青葉区一番町4-8-15)
無料

福岡展

2023年2月1日(水)~2月6日(月)
福岡三越(福岡県福岡市中央区天神2-1-1)
無料

広島展

2023年2月15日(水)~3月5日(日)
広島県立美術館(広島県広島市中区上幟町2-22)
有料

大阪展

2023年3月9日(木)~3月14日(火)
大阪髙島屋(大阪府大阪市中央区難波5-1-5)
有料