ぶらぶら美術館 解説動画も配信中の「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(後編)ゴッホ「ひまわり」日本初公開!

4月7日から放送時間を8時に変更したぶらぶら美術館。
今回は「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」の後編です。
前回に引き続き、イギリスの歴史と西洋美術の流れをたどる旅の第2弾です。
先週は18世紀イギリスで風景画が流行するまで。
ここからフランス印象派へ進む前に、スペイン絵画の名品を紹介します。

2020年4月7日のぶらぶら美術館
「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(後編)
〜古典から印象派の誕生へ、ゴッホ「ひまわり」日本初公開!〜

今回は、今年1番の話題、61作品全てが日本初公開!という奇跡の展覧会、国立西洋美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」です。200年の歴史の中で、国外で初めてという大規模な所蔵作品展を東京で開催。日本の言い方では国宝級の名作ばかりです。そもそもロンドン・ナショナルギャラリーは、「近代美術館の模範」と言われるように、開館以来、西洋美術の歴史を俯瞰できるようなコレクション収集にこだわってきました。そのため、館のラインナップはまさに「西洋美術の教科書」。今回は、日本に居ながらにして、国宝級名画で西洋美術の流れを辿ることができる…という贅沢な機会!なので、ぶらぶらでは「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を2週にわたって特集。世界的名作で西洋美術の流れを見る「ぶらぶら的美術の教科書」決定版をお届けします。(ぶらぶら美術館ホームページより)

放送日時 4月7日(火) 午後8時~9時
放送局 日本テレビ(BS日テレ)
出演者
山田五郎 (評論家)
小木博明 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ボケ)
矢作兼 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ツッコミ)
高橋マリ子 (モデル・女優)

川瀬祐介 (国立西洋美術館主任研究員・本展監修者)



スペイン絵画とイギリス

17~18世紀ごろに黄金時代を迎えたスペイン絵画は、
カトリック国であったためにプロテスタントの国と交流が薄かったことや
ヨーロッパの中心地からやや離れていたなどの理由で
国外ではあまり知られていませんでした。
イギリスもプロテスタントですからスペインと親しいわけではありませんでしたが、
1808年ナポレオンがスペインに侵攻した半島戦争でスペインに援軍を出したことから
スペインの絵画もイギリスで知られるようになり、さらに国外へ広まっていきます。

このコーナーではスペイン絵画を代表する巨匠の作品を紹介。
イギリスとのかかわりを重視して選んだためか
それぞれの定番から少し外れた珍しい作品が登場しています。

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《窓枠に身を乗り出した農民の少年》(1675-80頃)

スペインでは唯一、存命中からイギリスで人気だった画家です。
代表作は聖母マリアを描いた《無原罪のお宿り》など宗教画ですが、
イギリスではこのような子どもの絵が評価されたようです。

市井の子供たちをモデルにして子どもらしさや純粋さを強調した作品は
宗教が違う相手にも受け入れられたとか。
「数少ない子どもを可愛く描ける西洋画家」だというムリーリョの絵はもしかすると、
宗教画の中にたくさん描かれている天使のための習作だったのかも知れませんけど…

イギリスの経済力が高まってスペイン絵画を求めるようになると
ベラスケスやエルグレコなども再評価されるようになりますが、
その糸口を作ったのがムリーリョでした。

ディエゴ・ベラスケス《マルタとマリアの家のキリスト》(1618頃)

宮廷画家として《ラス・メニーナス》などを手掛けたベラスケス、その初期の作品。
タイトルは聖書の一場面。ただし絵の中心は厨房で料理をする若い女性です。
画面右奥に飾られた絵の中にタイトルになっている場面が描かれていて、
料理をする女性の後ろにいる年配の女性がその絵を指差して何か話しています。
(個人的な感想ですが、調理の邪魔をしているようにも見えます)

調理台の上にある食材は魚、卵、ニンニクなどなじみ深いものばかり。
鑑賞する人によっては、どんな料理を作っているのかも想像できるかもしれません。
こういった調理風景を描いた絵画は酒蔵を意味する「ボッデガ」からとって
「ボデゴン(厨房画)」と呼ばれるそうです。

生活の場面を描いた風俗画と思いきや、
実は聖書に主題があるあたり、流石カトリックの国という気がします。

フランシスコ・デ・ゴヤ《ウェリントン公爵》(1812-14)

半島戦争で活躍して公爵になった、
初代ウェリントン公爵(アーサー・ウェルズリー)の肖像画。
軍人の肖像画といえばその勇敢さや功績を分かり易く記録するものですが、
こちらの肖像画は勲章こそつけているものの表情がなんだか虚ろで
連戦の疲れがにじみ出ているかのようです。

その点が従来とは違う「19世紀の新しい肖像画」として評価されているとはいえ
当時のウェリントン公は気に入らなかったらしく
イギリスに持ち帰った後家族にあげてしまったんだとか。

この絵は1961年にナショナル・ギャラリーに収蔵され、
その19日後に盗難にあったことでも有名なんだそうです。
(4年後に犯人から返却されました)



イタリア景観画からイギリスの風景画へ

ここで先週の「ベネツィアの絵をやたら描いた」カナレットからつづく
イギリスの風景画に戻ります。
グランド・ツアーで持ち帰られたイタリアの景観画に影響を受けた風景画は、
やがてピクチャレスク(絵になる)な理想の風景を作りだすようになります。

クロード・ロラン(本名クロード・ジュレ)《海港》(1644)

イギリス人にとって何が「絵になる」のか。
その傾向を決めたひとりがロランでした。
この人はフランスのロレーヌ地方出身ですが生涯のほとんどをローマで過ごしており、
やはりグランド・ツアー経由でイギリスに広まったそうです。

作品に描かれているパーツは実際の物に取材したリアルなものですが、
描かれる風景はそれを組み合わせた空想の風景。
さらに水平線に近い太陽が水面に落とす光や柔らかい空気感が幻想的な色どりを添える
ピクチャレスクの典型を示す作品です。

このロランに影響を受けたイギリスの国民的画家が、ウィリアム・ターナーでした。

 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》(1829)

山田さんいわく、ターナーは「絵画会のビートルズ」。
これまでヨーロッパの後を追いかけていたイギリスの絵画は、
彼の登場で最先端に躍り出ることになります。

こちらの絵はギリシャ神話の場面を描いたものですが、
神話的な主題は時代遅れでリアリティがないとみなされた19世紀に
ファンタジックな存在をどう描くか工夫を重ねた後が見られます。
巨人の姿は雲の中のシルエットとして、
太陽神が乗る馬車は馬の形をした太陽の光線で表現され、
水面には海の精霊や船を先導する魚たちがさりげなく描かれています。
ロランの影響を受けた光や空気の表現は更に強いものになって、
画面全体に神秘的な空気が漂っています。

ターナーはゲーテの『色彩論』にもあたって光と空気の描き方を研究し、
そうして生み出された色彩の効果はフランスの印象派にも影響を与えました。



イギリスとフランス絵画

イギリスとフランスの関係というと、
百年単位で仲良くいがみ合っているようなイメージがあります。
そんな理由ではないと思いますが、
イギリスの美術に関する趣味は伝統的にイタリア贔屓で
ナショナル・ギャラリーでもフランス美術は長いこと手薄だったそうです。

印象派やポスト印象派の作品が本格的に始まったのは20世紀になってから。
コート―ルド美術館の創始者であるサミュエル・コートールドも
ナショナル・ギャラリーのための基金をつくるなど援助していたそうです。

クロード・モネ《睡蓮の池》(1899)

1870年に普仏戦争がはじまるとモネは兵役を逃れてロンドンにわたりました。
この時に出会ったターナーの風景画がモネの作風に影響を与えたと言います。
この作品はモネが描いた「睡蓮」の中でも初期のもので、
光の表現には確かにターナーと通じるものがあるようです。

また太鼓橋を正面にした引きの構図も特徴。
(のちの睡蓮は、より水面に近づいた構図になります)
橋の両側が見切れた景色の一部だけを切り取ったような構成は
写真や浮世絵から学んだものと思われます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《劇場にて(初めてのお出かけ)》(1876-77)

初めて劇場でお芝居を見る少女の姿を斜め後ろから描いたルノワール初期の作品。
花束を膝にのせてちょっと前のめりになった姿は贔屓の役者に夢中になっているのか
それとも初めての劇場デビューに緊張しているのかも知れません。
肖像画というよりも劇場という場所の雰囲気を描いているようです。
劇場はルノワールが好んだ主題のひとつでした。

これら印象派の画家たちの後にポスト印象派が登場するのですが
(ルノワールもポスト印象派に分類されることがあります)
ナショナル・ギャラリーでもっとも人気の高い作品は
そのポスト印象派の中にあります。

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》(1888)

ナショナル・ギャラリーの一番人気、ショップの袋にも使われているというこの作品は
ゴッホが南フランスのアルルで描いた7作の「ひまわり」の4番目にあたります。
(《ひまわり》が全部で7枚あるということを初めて知りました)

《ひまわり》の3作目までは青い背景で描かれていますが、
これとSOMPO美術館(旧損保ジャパン日本興亜美術館)所有の5作目、
そしてオランダのファン・ゴッホ美術館所蔵の7作目は黄色い背景で描かれています。
友人のゴーガンが4作目の《ひまわり》を気に入ったために
セルフコピーしたのが5作目と7作目なんだとか。

今回来日した4作目と以前番組で紹介した5作目を比べてみると、
実際の花をモデルにして描いた4作目には塗りが薄いところと厚いところがあるなど
限られた時間の中で試行錯誤した痕跡があり、
それをもとにした5作目は全体的に塗りが厚く筆跡も整っているんだそうです。

2枚の《ひまわり》が日本にあるまたとない機会に
両方を見比べてみるのも良いかもしれませんね。
(SOMPO美術館は2020年5月28日オープンの予定です)



注目のミュージアムグッズたち すみっコぐらしの「てのりぬいぐるみ」も

展覧会ごとにお洒落なミュージアムグッズが登場する西洋美術館。
今回も画家のサインをプリントした署名トートバッグ(1,650円)や
細長い瓶に入ったマイクロジグソーパズル(2,420円)などが揃っています。

また「リラックマ」や「たれぱんだ」などのキャラクターを生み出してきた
サンエックス社の「すみっコぐらし」とコラボしたアイテムが登場。
キャラクターたちが名画をモチーフにした衣装を着ている展覧会オリジナルデザインで、
シール(385円)、ミニタオル(550円)、てのりぬいぐるみ(990円)があります。
てのりぬいぐるみは

ぺんぎん?×モネ《睡蓮の池》
とんかつ×レンブラント《34歳の自画像》
とかげ×ドガ《バレエの踊り子》
しろくま×ゴッホ《ひまわり》
ねこ×フェルメール《ヴァージナルの前に座る若い女性》

の全5種類。数量限定のため1種類につき1人2個までです。



おうちで美術館! 動画で楽しむ「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(美術展ナビAEJ)

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展は現在開催延期中ですが、
「監修者が語る!ロンドン展の見どころ&おススメ作品」と題して動画を公開しています。
解説はぶらぶら美術館でも案内役を務めてくれた主任研究員の川瀬祐介さん。

展覧会の構成に沿って1章ごとに1~2作品を紹介します。
全61作品が登場する特別ムービーと、7枚の《ひまわり》を紹介する映像も必見。

動画の長さはすべて10分以内で気軽に視聴できます。

動画一覧はこちらのページに移動しました

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」国立西洋美術館(会期変更・日時指定予約制)

東京都台東区上野公園7-7

6月18日(木)~2020年10月18日(日)

東京展終了後は2020年11月3日(火・祝)~2021年1月31日(日)まで
大阪・国立国際美術館で公開

月曜休館 (5月4日は開館)

9時30分~17時30分 (金・土曜日は9時30分~20時)
※入場は閉館の30分前まで

一般 1700円
大学生 1100円
高校生 700円
中学生以下 無料
※混雑緩和のため団体料金の適用を中止

今後の入場券の販売は6月13日(土)から
スマチケ・読売新聞オンラインチケットストア・イープラス・ファミリーマートのみで実施

特設ページ