ぶらぶら美術・博物館 東京ステーションギャラリーで山田天陽のモデル・神田日勝の回顧展(リモート美術館)

ぶらぶら美術・博物館初のリモート美術館。
4月18日から東京ステーションギャラリーで開催の予定だった神田日勝の回顧展です。
2019年の朝ドラ「なつぞら」の山田天陽のモデルとして最近注目されている神田日勝は、
北海道で農業に従事しながら絵を描き、自分のスタイルを探し続けた画家でした。
高橋マリ子さんは残念ながらお休み。
館長の冨田さんも含めて眼鏡着用率100パーセントの回となりました。

2020年5月26日のぶらぶら美術館
「神田日勝 大地への筆触」
~朝ドラ「なつぞら」山田天陽のモデル!北海道・十勝が生んだ画家~

放送日時 5月26日(火) 午後8時~9時
放送局 日本テレビ(BS日テレ)

出演者
山田五郎 (評論家)
小木博明 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ボケ)
矢作兼 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ツッコミ)

ゲスト
冨田章(東京ステーションギャラリー館長)

今回は、1970年に32歳という若さで病死した夭折の農民画家・神田日勝(かんだにっしょう)の回顧展へ。
北海道・十勝で農業をやりながら絵画に取り組み続け独自のリアリズムを切り拓いた画家ですが、この展覧会を見ていくと「農民画家」という一言では括れない、さまざまな試行錯誤や展開・魅力が見えてきます。
清々しい風景画。真っ黒なゴミ箱。死んだ馬。カラフルなアトリエ…。同じ画家が描いたとは思えないほど、短い人生の中で画風を変えた神田日勝。時代に翻弄されつつも唯一無二の存在感のある絵を作り出しました。15年の画業の変遷を追いながら、どうやって日勝芸術が生まれていったかのを深掘りしていきます。
最晩年に描かれた最後の完成作「室内風景」-日勝ファンである現代作家・奈良美智さんが惚れ込んだという、その訳は?未完成のままアトリエに遺されていた絶筆「馬」。そこには日勝の描き方の秘密が残されていました。
ぶらぶら初となるリモート収録で、みなさんも一緒にバーチャル展覧会をお楽しみください!(ぶらぶら美術館ホームページより)



ぶら美初のリモートミュージアム

美術館や博物館を歩きながらお喋りする
「ぶらぶら」がうりの「ぶらぶら美術・博物館」ですが、
今週は初のリモート回でした。
なんと、予告動画も「テレワークYouTube」。
展示室の中継を見ながら番組収録をおこなった皆さんの感想によると、
思ったより見やすかったようです。
カメラマンの方も徒歩で会場を移動するわけですから、
ちょうど絵を見ながら歩く「ぶらぶら」のスピード感になりますし、
細かいタッチや表現まではっきり見ることができたとのこと。
編集した画像を見る視聴者と違って出演者の方々は肉眼で見るわけですから、
絵の細部を拡大した映像はあまり見ないのかも知れません。
「技術が上がったらルーブル美術館これでできるんだと思ったらすごいことですね」と
夢をふくらませる矢作さんですが、山田さんの
「これで味しめちゃうと絶対『リモートで良いじゃないですか』ってなるよ」
という意見には同意するしかなかったようです。
国外ロケは、番組がはじまった2010年にフランスにいったきりなんだとか…。
山田さんは「次の収録はどんな形かな」なんて不吉なコメントを残していました。
視聴者としてはリモートも悪くはないのですが、
(確かに、思った以上に見やすかった)
絵を前にお喋りする皆さんの姿がないのは物足りない気がします。
ぶらぶら in ルーヴル美術館も、いずれ実現してほしいですね。


没後50年を前にプチブレイク。神田日勝の「運命的な」展覧会

もともと知る人ぞ知る画家だった神田日勝の注目度が急上昇したのは、
NHK「連続テレビ小説」の第100作目(2019年度前期)「なつぞら」がきっかけでした。

吉沢亮さん演じる「天陽くん」こと山田天陽のモチーフ

山田天陽はヒロインの幼馴染で初恋の相手、
さらにアニメーターを目指す彼女の背中を押してくれた人でもありました。
演じる吉沢亮さんのイケメンぶりもあってか、
36歳で亡くなった時は「天陽くんロス」を起こす視聴者が続出したほど。

この展覧会は「なつぞら」の人気にあやかった…わけではなく、
2020年が神田日勝の没後50年、
さらに日勝が暮らした鹿追町の開村100周年だったことで企画が持ち上がった後に
朝ドラにそんな人が出るらしい…ということが明らかになったんだそうです。

このめぐりあわせに冨田館長は「運命的な縁を感じた」といいます。

神田日勝の生い立ちと画業のはじまり

神田日勝(1937-1970)は東京の練馬の生まれです。
終戦直前の1945年に、家族で北海道の鹿追町へ移住しました。
兄の一明(のちに東京芸術大学に進学。画家)の影響で絵を描きはじめ、
中学を卒業すると家の農業を継いで、農家と画家を兼業するようになりました。

19歳の時、平原社展(北海道十勝エリアの公募展)に《痩馬》(1956)を出品し、受賞。
以来、道内の展覧会を中心に作品を出品するようになります。

ベニヤ板にペインティングナイフで刻み込むようなタッチは
この頃につくられました。
日勝は何度かスタイルを変えて新しい表現に挑戦していますが、
ペインティングナイフを使った技法と
奥行きがあまり感じられない画面の構成は変わっていないようです。

美術学校に通わず独学で絵を学んでいたため、
新しい表現やスタイルは周囲の画家や図版から取り入れていました。
絵と一緒に展示されている日勝のスクラップブックには、
雑誌・新聞記事などの図版がたくさん貼り付けてあります。

1960~1964年 モノトーンの時代

1960年から1964年頃の日勝は、
《ゴミ箱》(1961)や《板・足・頭》(1963)、《ひとり》(1964)など
壁を取り入れた作品を、茶や黒のモノトーンで描いています。

日勝が参考にした、チョ・ヤンキュの《マンホールB》(1958)や
寺島春雄の《柵と人》(1957)も並べて展示され、
他の作品から取り入れた表現を自分のものにしていく過程が見えてくるようでした。

《板・足・頭》に見られる、
壁と柵に挟まれて頭と足先だけが見える人物のモチーフは、
この後もくり返し描かれることになります。

1964~1970年 カラフルな時代

1964年から66年ごろ、馬や牛をモチーフにした作品が増えていきます。
荷車を引くための器具をつけた跡がハゲになっている馬や
死んだ後にたまるガスを抜くために腹を裂かれた牛を描いた《牛》(1964)など、
実際に目の前にあっただろうリアルな姿が描かれました。

またこの時期は、モノクロームだった画面に鮮やかな色が入ってきます。
(モノクロームについては、絵の具を買うお金がなかったせいでもあるそうです)
雑誌で見た他の画家のアトリエを描いたという《画室A》(1966)は
「何かが起きたんじゃないか」「良いことでもあったのか」と言われてしまうほど
明るく鮮やかな色がたくさん使われていました。

「アンフォルメル(非具象)運動」の影響を受けた
色鮮やかで抽象的な《晴れた日の風景》(1968)や、
《板・足・頭》のモチーフを受け継ぎつつ、
塀と一体化しているポスターや新聞に
ポップアートの影響が感じられる《ヘイと人》(1969)など、
さまざまなスタイルを試していたようです。

最後の完成作品《室内風景》と、未完の絶筆《馬》

日勝最後の完成作品となった《室内風景》(1970)は、
床にも壁にも隙間なく新聞を張り付けた部屋の中で
雑多な物たちに囲まれてうずくまる自画像でした。
1968年にも同じタイトルの作品を発表していますが、
過去の作品が新聞・ラジオ・雑誌とともに画材と布団が描かれていたのに比べて
こちらはほとんどがガラクタのようです。
描かれた人が画家であることを示すスケッチブックは閉じられ、
鉛筆はマッチ箱の下にかくれています。

この頃の日勝は画家としての評価を得ていますが、
そのために農業と画業の両立が難しくなり悩みを抱えていた時期だったそうです。

そして日勝が亡くなった時に残されていた《馬(絶筆・未完)》1970。
(正確には未完で残されていた幾つかのうちのひとつだそうですが)
顔から前足の部分にかけては完成していて、胴の部分が描きかけ、
背景はまだ描かれておらずベニヤ板がそのままになっている絵です。
描きかけだったために、日勝の制作のやり方がはっきり現れた作品でもあります。

山田さんが「こんな描き方する人珍しい」とコメントしていますが、
下塗りをしないベニヤ板にじかに絵の具を乗せていく技法といい、
全体を描いてから細かい仕上げをするのではなく
一部分を完成させてから次の部分に手を付ける手順といい、
確かにあんまり聞いたことがないやり方です。

日勝の絵にあまり奥行きが感じられないのは
この方法だと画面すべてが同じ密度で描かれるからだそうです。
遠くのものがぼやけて見えるという遠近法の原則に反している
ということなんでしょうか。

兄の一明は、絵画について日勝と話をした時に、
絵画は空間をきちんと描かなければいけない、と言ったことがあるそうです。
それに対して日勝は、
部分ごとに積み重ねるようにしないと自分は描けないのだと言ったとか。
本当にできなかったのか、それとも何らかのこだわりがあったのかは分かりません。
けれども神田日勝がこの方法を続けた結果として、
他に見られない独自の表現を作りあげたことは確かです。


「没後50年 神田日勝 大地への筆触」東京ステーションギャラリー

東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅丸の内北口ドーム)

2020年6月2日(火)~6月28日(日)

月曜休館 (祝日の場合は翌平日休館)

10時~18時 (金曜日 10時~20時)
※入場は閉館の30分前まで

入館チケットはローソンチケット(Lコード 30066)販売のみ
一般 1,100円
高校・大学生 900円
中学生以下 無料

公式ホームページhttp://www.ejrcf.or.jp/gallery/index.asp

ミュージアムショップで買える十勝「柳月」の銘菓にも注目

番組のおすすめとして、北海道十勝の銘菓が紹介されました。
「日勝鹿追アートビスキュイ」は、8枚入り680円(税込)。
描きかけの《馬》のシルエットをチョコレート生地で表したクッキーです。
「あんバタサン」は4枚入り600円(税込)。
あんバタークリームをサブレにはさんでいます。

どちらも北海道十勝、帯広にある名店「柳月」の商品です。
柳月は日勝が生まれた10年後、1947年に設立されました。
白樺の薪をかたどったバームクーヘン「三方六」が有名ですが、
ほかにも美味しいお菓子がたくさんあります。

巡回予定

東京展終了後は北海道の美術館に巡回する予定です

  • 神田日勝記念美術館 2020年7月11日(土)~9月6日(日)
  • 北海道立近代美術館 2020年9月19日(土)~11月8日(日)