ぶらぶら美術館10周年スペシャル「春の熱海アートツアー」起雲閣・海峯楼・10年間第回顧ベスト3

先週に引きつづき、ぶらぶら美術・博物館10周年記念スペシャルの後編。
熱海が誇る近現代の名建築「起雲閣」と「海峯楼」をめぐり、
最後は10年間に出会った約7000点の作品から厳選のベスト3を選びます。

2020年4月21日のぶらぶら美術館
〜名建築!文豪の愛した起雲閣と隈研吾の海峯楼、10年間大回顧ベスト3!〜

放送日時 4月21日(火) 午後8時~9時

放送局 日本テレビ(BS日テレ)

出演者
山田五郎 (評論家)
小木博明 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ボケ)
矢作兼 (お笑いコンビ・おぎやはぎ ツッコミ)
高橋マリ子 (モデル・女優)

中島美江 (起雲閣総括責任者)
髙嶋 諒 (海峯楼バトラー)

ウェブサイト


「起雲閣」 太宰治も滞在した高級旅館

前編ではフォトジェニックな神社として注目されている來宮神社、
そして新素材研究所の杉本博司さんさんがデザインしたMOA美術館に行きました。

後編で最初に訪れるのは、熱海駅から車で10分ほどの距離にある
熱海市指定の有形文化財「起雲閣」。
映画や雑誌の撮影などでも良く使われる、和洋折衷の名建築です。

総括責任者の中島美江さんによると、起雲閣のはじまりは1919年。
実業家の内田信也が母親の療養所として建てた別邸でした。

1925年に根津財閥の創始者である根津嘉一郎が内田の建てた建物と庭の一部を購入し、
1947年に実業家の桜井兵五郎が購入し、平成11年まで旅館として営業しています。
旅館時代は多くの文人がおとずれており、
太宰治は『人間失格』の第3章までを起雲閣別館で執筆した後
心中相手の女性と和館の2階にある座敷「大鳳」に滞在したそうです。

1998年に競売物件となって取り壊しの危機に直面しますが、
中島さん等地元の人々の運動により2000年熱海市が購入。
現在は年に10万人が訪れる観光施設となりました。
(当時の購入金額は12億5000万円だそうです。)
おなじ桜井兵五郎が作った金沢の「白雲楼ホテル」は取り壊されていますので、
この建物は運が良かったと言えるでしょう。

最初に建てられた和館は足の悪い母親の療養所として作られたため
廊下にも畳を敷き座敷と同じ高さにする工夫がみられます。
建築の素材も贅沢なものを惜しみなく使っており
旅館をはじめた桜井は従業員に建物を丁寧に扱うよう注意していたそうです。

起雲閣は所有者が変わる中で増築や改装も行われてきました。
現在は渡り廊下で和館とつながっている洋館は根津の増築で建てられたもの。
屋根瓦やサンルーム「玉姫」の床、食堂の暖炉などに使われているタイルは
洋館のために特注された「泰山タイル」です。
泰山タイルは京都の泰山製陶所によって大正から昭和の初期にかけて作られ、
当時の西洋風建築の流行もあって大流行しました。
玉姫の床に使われたタイルは表面が布目になっているせいか
「木綿豆腐」なんて呼ばれていましたが…(わたしは焼豆腐の方が近いと思います)
手作業で作られるためひとつひとつ異なった表情を持つ美術的に価値の高い建材です。

ほかにも根津の鉄道事業にちなんで
古い電車に見られる上げ下げ窓(上下にスライドして開く窓。電車窓)が
洋館の窓に取り入れられていたり
旅館になってから改装された和館の座敷「麒麟」の壁は
桜井の出身地金沢の伝統技法である「加賀の青漆喰」で群青に塗られていたりと
所有者ごとの思い入れが感じられる部分も見どころです。


隈研吾設計「海峯楼」 隈研吾設計、水とガラスの現代建築

次に向かったのは熱海駅から徒歩で行けるATAMI海峯楼。
隈研吾の設計で1995年にゲストハウスゲストハウス「水 / ガラス」として完成し、
2010年から1日4組限定のホテルとして開業しました。

建物全体が池に囲まれて、池のふちが水で覆われているために
ガラス張りの食堂(ウォーターバルコニー)の席に着くと
池が外に見える海と繋がって、どこまでも続いているように見えます。
こういった視覚効果を「インフィニティ」と呼ぶそうです。
足元の水と外の海が直接つながる効果は、
畳から縁側、庭と繋がる日本建築の伝統にのっとったもので
同じ熱海の名建築、「旧日向別邸」(ブルーノ・タウト設計、重要文化財)を
リスペクトしたそうです

ラグジュアリースイート「誠波」(せいは)のソファからも
同じ効果が得られるのですが、
現在海峯楼と海の間にある旧日向別邸が工事中のため覆屋が覗いています。
旧日向邸は2022年4月に工事が終わり再オープンの予定なので、
この風景はあと2年くらいしか見られないそうです。
景観を壊すと思うか、
海峯楼のもとになった建物(の一部)が見られるレアな風景と思うかは見方次第。
(私はちょっと見てみたい)


10周年記念スペシャル・10年間のぶらぶら大回顧展からさらに厳選したベスト3発表

今回のメインイベントかもしれない「祝!丸10周年ぶらぶら大・大回顧展」は
海峯楼の大広間「楽清」で行われました。
部屋をぐるりと囲む金地に波と松林の襖絵は、
赤福の「伊勢だより」の作者である木版画家の徳力富吉郎氏が描いたものだそうです。
その年のベスト5を選ぶ「年末大回顧展」から
さらに厳選したベスト3を選ぶはずだったのですが…

小木さんのベスト3

  1. マーク・ロスコ《No.7》
  2. アンリ・ルソー《赤ん坊のお祝い!》
  3. 京都・三十三間堂 1001体の千手観音

高橋さんのベスト3

  1. アルフォンス・ミュシャ《原故郷のスラヴ民族》
  2. オディロン・ルドン《グラン・ブーケ》
  3. 伊藤若冲《動植綵絵》

矢作さんのベスト3

  1. ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》(ボイマンス美術館所蔵。小バベル)
  2. ヴィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》(SOMPOミュージアム所蔵のもの)
  3. 江戸東京たてもの園 前川國男邸

山田さんのベスト3

  1. クロード・モネ《日傘の女性、モネ夫人と息子》
  2. エドガー・ドガ《エトワール》
  3. ジョヴァンニ・セガンティーニ《アルプスの真昼》

番組を通して興味も変化する?

小木さんのベスト3は、1と2がベスト5の外から選ばれるという結果になりました。
最初見た時はピンとこなかった作品の良さが
後からわかってくるのも美術館めぐりの醍醐味ではありますが…
予告動画で「小木がずるい」と言われてしまうわけです。
山田さんが印象派好みであるとか高橋さんは色彩豊かな作品に弱いとか
視聴者にも新発見があったり。

2014年から参加の高橋さんは、番組を通して日本画に興味を持つようになったそうです。
「自分で行くと通り過ぎちゃうものとかも、ぶらぶらだと見てなきゃダメじゃないですか」
とのこと。
好き嫌いと関係なく見て解説を聞くことで新しい興味がわいてくるのも
番組の良い所かも知れません。


後編で訪れた場所 起雲閣・海峯楼

起雲閣

静岡県熱海市昭和町4-2

9時~17時 ※入館は閉館の30分前まで
水曜日休館(祝日の場合は開館)、12月26日~30日
※新型コロナウイルス拡大防止のため2020年5月6日(水)まで臨時休館

一般 510円(410円)
中・高校生 300円(200円)
小学生以下 無料
※( )内は20名以上の団体、市民、障がい者料金

公式ホームページ

ATAMI 海峯楼

静岡県熱海市春日町8-33

誠波:2名1室2食付 1泊 15万円~(入湯税別)
(料金は時期や部屋ごとに異なる)

公式ホームページ