日曜美術館「生中継!“鳥獣戯画展” スペシャル内覧会」(2021.4.11)

2021年4月13日に開催される「国宝 鳥獣戯画のすべて」テレビスペシャル内覧会が、
日曜美術館初の生放送で、いつもより長い60分の番組として放送されました。
(BS8Kでも同時に生放送)

2021年4月11日の日曜美術館
「生中継!“鳥獣戯画展” スペシャル内覧会」

放送日時 4月11日(日) 午前9時~10時
再放送  4月18日(日) 午後8時~9時
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

4月13日から東京国立博物館で開催される展覧会「国宝 鳥獣戯画のすべて」。開幕を2日後に控え、まだ誰も見ていない会場の様子を生放送で伝える。最大の見どころは、「鳥獣戯画全巻(甲・乙・丙・丁巻)44メートルが、全部開いた状態で展示される」こと。作品の詳細は、事前に撮影した8k映像で堪能。断簡や明恵上人像など、見どころを余さず中継し「テレビだからこそ可能な、スペシャルな内覧会」をお届けする。(日曜美術館ホームページより)

出演
片岡真実 (森美術館館長)
井上 涼 (アーティスト)
土屋貴裕 (東京国立博物館 絵画・彫刻室長)
大友良英 (音楽家)
千葉広樹 (音楽家)
芳垣安洋 (音楽家)
山田路子 (音楽家)
八木美知依 (音楽家)


鳥獣人物戯画(鳥獣戯画)全4巻をすべて公開!

鳥獣戯画…正確には「鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)」は、
京都市右京区栂尾にある高山寺に伝わる4巻セットの絵巻物です。
ただし、各巻の内容にはっきりしたつながりはなく、画風などにも違いがみられるため、
平安時代末期から鎌倉時代初期(12~13世紀)にかけて
複数の作者が描いた絵を巻物の形でまとめたものが高山寺に伝来し、
「鳥獣人物戯画」として知られるようになったと考えられています。
(現在、甲・丙巻が東京国立博物館、乙・丁巻が京都国立博物館に寄託保管)

全4巻(甲・乙・丙・丁)で、すべて合わせた長さは44m以上。
東京国立博物館で開催する「国宝 鳥獣戯画のすべて」では、
この4巻がすべて開いた状態で展示されます。

「国宝 鳥獣戯画のすべて」を企画した土屋貴裕さんによれば、
全4巻をすべて、場面替えなしで一度に展示するのは
日本の展覧会で(もちろん世界でも)初めての試みだそうです。

特に人気が高い甲巻の前には動く歩道を設置し、
絵巻をくり広げて読み進めるような鑑賞ができます。
(混雑緩和のためにも、良いアイデアかもしれません!)

高山寺と明恵上人

現在高山寺のある場所には、
もともと奈良時代に建立された「度賀尾寺」がありました。
平安時代には高雄にある神護寺の別院として
「神護寺十無尽院」と呼ばれていましたが、
鎌倉時代になるとすっかり荒廃していたそうです。
この土地を後鳥羽上皇より下賜された明恵上人(1173-1232)が、
「高山寺」として再興したのは1206年のこと。
この明恵上人が、高山寺の実質的な開祖となります。


鳥獣戯画の特徴と見どころ

鳥獣人物戯画絵巻(以下、「鳥獣戯画」)には
他の絵巻にはない特徴があります。
ひとつは詞書(ストーリーや台詞をあらわす文字)が無いこと、
もう一つは白描画(墨の線だけで描かれ、色がついていない絵)であること。
確かに、映像で紹介された絵巻の画面の中には、
ところどころに赤い「高山寺」の判子が押してある以外、
文字も色も見当たりませんでした。

国宝「鳥獣戯画 甲巻」京都・高山寺蔵
動く歩道で行く、動物たちの世界

小野さんと柴田さん、そしてゲストの片岡真実さんと井上涼さんは、
まず動く歩道に乗って甲巻を鑑賞しました。

甲巻にはウサギとカエルの相撲など有名な場面が多く、
ただ「鳥獣戯画」と言えば大抵の人はこれを想像することでしょう。
2015年に同じ東京国立博物館で「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」が開催され
全4巻が展示されていた時も、甲巻の前だけは人の山ができていたものです。
(わたしは、比較的すいていた他の巻だけ見て帰った記憶が…)

大友良英作曲「鳥獣戯画の世界 甲巻」

全編通して楽しそうに遊ぶ動物たち(ウサギ、カエル、サル、ネコ、キツネなど)
の姿を描いた甲巻について、

「初めて見た時にもう、絵が動いてるような音楽が聞こえてくるような絵でした」
と語るのは、音楽家の大友良英さんです。
番組の中では、そんな情景にインスパイアされて作曲した
「鳥獣戯画の世界 甲巻」も披露されました。(東京国立博物館大講堂で演奏)

5人で演奏される合奏曲で、中には横笛や箏のような日本の楽器も。
大友さんもマンドリンのような弦楽器から途中でギターに持ち替えて演奏していました。
鳥獣戯画の画像を見ながら聞いていると、たしかに
「絵巻の中から聞こえてくるとしたらこんな曲かも知れない」
と思うような音楽でした。

国宝「鳥獣戯画 乙巻」京都・高山寺蔵
「平安時代の動物図鑑」

乙・丙・丁の巻は、コの字を描くような形で一室に展示されています。

乙巻を楽しむためのキーワードは「平安時代の動物図鑑」(by 土屋さん)。
絵巻の前半は身の回りにいる日本の動物にはじまり、
後半に入ると異国の動物や空想の動物が次々に登場します。

2016年に「びじゅチューン! 鳥獣戯画ジム」
をリリースしたアーティストの井上涼さんは、
鳥獣戯画の実物を見るのは今回が初めて。
実際に見た乙巻からは、
描き手の「俺は描けるぜ」「やってやるぜ」といった自負を強く感じたようです。

たとえば、仔馬を連れて草を食んでいる母馬の骨格がほっそりして女性的な姿、
立木で背中をかく牛の皮のたるみ具合や気持ちよさそうな顔など、
動物のさまざまな表情やポーズを描き分ける筆使いに
絵師の実力アピールが見えるんだとか。

絵巻はさらに犬、鳥、鷹などの動物が描かれ、
玄武、麒麟、豹、山羊、虎、獅子、竜、象など
当時の日本にはいない動物(実在しない動物も含む)が続きます。
最後に登場するのは、井上さんいわく「今までで一番謎な生き物」。
タテガミと背ビレのある豹柄の象、としか言いようのない動物は、
夢を食べる獏なんだそうです。
「一大トリップの夢がここで獏に食べられて終わりってことなのかなあ」
と想像する井上さんでした。

国宝「鳥獣戯画 丙巻」京都・高山寺蔵
「表裏にあった人物戯画と動物戯画」

丙巻のキーワードは「表裏にあった人物戯画と動物戯画」。
この巻は前半に人間が囲碁や双六をはじめとする遊びに興じる様子、
後半に動物たちが遊ぶ様子を描いています。

これらは、元々同じ紙の表に人物戯画、
裏に動物戯画が描かれていたものを、2枚に剥がしてつなげたもの。
このことは、表裏になっていた部分に
同じ墨の汚れが染み出していることでわかるそうです。

片岡真実さんは現代アートの専門家ですが、
鳥獣戯画も一ファンとして大好きなんだそうです。
言葉がないからこそ、見ているだけでどんどん想像が膨らんで
「永遠に楽しめる」んだとか。

双六をする一団の中に何故か裸の人が混じっているのを見て
賭けで取られたのでは…と想像するなど、
描かれていることを自由に解釈して楽しんでいます。

後半からいきなり始まる動物の世界でも、
酔っ払って騒ぐ一群がいるかと思えば、それを心配そうに眺める一群がいる…と、
無言の中でもドラマが展開しているようで、片岡さんも
「ここに吹き出しがあったら色々かけるんじゃないですか?」と言っています。

丙巻の最後は突然一匹の蛇が現れ、それから逃げるカエルたちの姿も描かれています。
「実はこんな楽しいことばっかりではないんだよという事を言っているのか、何か物凄くメッセージが込められているような」
と感じた片岡さんは、最後まで想像力を刺激されたようでした。

国宝「鳥獣戯画 丁巻」京都・高山寺蔵
「実力派絵師のくずし描き?」

鳥獣戯画の最後に当たる丁巻は、一般に「あまり巧くない」と評価されていました。
しかし最近「よく見るとそうではない」と評価されるようになったのだそうです。

現場では
「けっこう最初から巧い」(井上さん)
「本当に上手な人が飲み屋でさらっとコースターに描いた絵だけど巧い、みたいな」(片岡さん)
という評価も出ていました。

キーワードにも「実力派絵師のくずし描き」とあるように、
これらの絵はかなり速いスピード・少ない筆使いででササっと描かれたものらしく、
それでも破綻なく仕上がっているところは確かに「実力派」らしく思えます。
「あまり巧くない」という評価は、甲巻などを基準にして見ると
線がシンプル過ぎて物足りない…みたいな意味でしょうか?

描いた人も自分の実力を分かってほしかったのか、
儀式に参加する束帯姿の貴族のうちひとりだけが
やけにリアルに描き込まれた顔をしていました。

重要文化財「鳥獣戯画断簡(東博本)」東京国立博物館蔵

鳥獣戯画絵巻にはっきりしたストーリーは存在しませんが、
それでも絵巻の全体を見ていると
何だか唐突な場面転換があったり、ラストが尻切れトンボに感じられたり
といった印象をうけることがあります。

この原因のひとつに、現在巻物になっている本体から抜け落ちた「断簡」があります。
現在は掛け軸になって第二会場に展示されている「鳥獣戯画断簡」は
甲巻の一部だった可能性が非常に高いもので、
画面の左端には甲巻にある萩の大木から散った花と思われる点描が確認できます。

これから別の断簡が発見されて、新しい一場面が加わる可能性もあるそうで、
鳥獣戯画の世界はこれからも広がっていくのかも知れません。


高山寺の宝物「夢記」「明恵上人坐像」「子犬」(すべて重要文化財)

展覧会では、鳥獣戯画以外にも
高山寺が所蔵する宝物が展示されます。

実質的な開祖である明恵上人のコーナーからは、
明恵上人が夢を記録し続けた、「夢記(ゆめのき)」をはじめ
貴重な品々が紹介されました。

修行の一環として自ら切り落とした右耳の欠損まで忠実に再現された
等身大の「明恵上人坐像」は、本来年に2回の特別な仏事でしか公開されず、
展覧会にお出ましになるのは28年ぶりだそうです。
(こう言ったら失礼かもしれませんが、結構なイケメンでした)

展覧会の最後を飾る「子犬」(木彫りの狗児とも)は、
明恵上人が手元に置いて可愛がっていた遺愛の品。
仏像と同じ玉眼(目の部分に水晶を入れる技法)で表現された目が
やけに賢そうに見えます。


「国宝 鳥獣戯画のすべて」東京国立博物館

東京都台東区上野公園13-9

2021年4月13日(火)~5月30日(日)

9時~19時 ※入場は閉館の30分前まで

月曜休館 ※5月3日(月・祝)は開館

事前予約制(日時指定券の購入はこちらから
一般 2,000円
大学生 1,200円
高校生 900円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料(日時指定券の予約が必要)

公式サイト