日曜美術館「失われたときを求めて〜沖縄本土復帰50年」(2022.5.15)

1972年5月15日の、沖縄の本土復帰からちょうど50年が経ちました。
東京国立博物館で開催中(福岡に巡回予定)の「特別展 琉球」では、
琉球王国の宝物や工芸品のほかに、
第2次世界大戦の「戦災文化財」をよみがえらせるプロジェクトも紹介されています。

2022年5月15日の日曜美術館
「失われたときを求めて〜沖縄本土復帰50年」

放送日時 5月15日(日) 午前9時~9時45分
再放送  5月22日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

本土復帰50年を迎える沖縄。近年、戦争で失われた文化財を復元する取り組みが行われている。県民の四人に一人が犠牲となった沖縄戦では、貴重な文化財とともに、その技の担い手までもが失われてしまった。かろうじて残された仏像の破片や戦前に撮影された白黒写真などを手がかりに、かつての技術を取り戻す作業は、“失われた記憶” を取り戻す営みでもあった。文化を蘇らせ、後世に伝えようという取り組みを見つめる。(日曜美術館ホームページより)

出演
園原謙 (沖縄県立博物館・美術館主任学芸員)
玉城望 (陶芸家)
玉城若子 (陶芸家)
上江洲安亨 (沖縄美ら島財団学芸員)
原田あゆみ (東京国立美術館研究員)
岡田靖 (東京芸術大学准教授)
杉浦誠 (彫刻家)
荒井経 (東京芸術大学教授)
喜屋武千恵 (日本画家)
平良優季 (日本画家)


沖縄の文化財と「特別展 琉球」

15世紀に誕生した琉球王国は、日本のほか中国・朝鮮半島・東南アジアなどを結ぶ
アジアの交易拠点として栄えた国でした。
「琉球展」で展示されている琉球王朝の宝物や工芸品からは、
様々な地域の要素を組み合わせて独自の文化として完成させた
琉球文化の懐の深さをかいま見ることができます。

沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」(東京国立博物館・九州国立博物館)

公式サイト

東京展(東京国立博物館 平成館)

東京都台東区上野公園13-9

2022年5月3日(火)~6月26日(日)

9時30分~17時(金・土曜日は20時まで開館)
※入場は閉館の30分前まで

月曜休館

一般 2,100円
大学生 1,300円
高校生 900円
中学生以下無料

九州展(九州国立博物館)

福岡県太宰府市石坂4-7-2

2022年7月16日(土)~9月4日(日)

9時30分~17時 ※入場は閉館の30分前まで

月曜休館
※7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館
※7月19日(火)は休館

一般 1,900円
高大生 1,200円
小中生 800円


展示されている宝物(一部)

国宝《玉冠(たまんちゃーぶい)》

唯一現存する琉球国王の冠です。
中国の皇帝から授けられた冠を飾り玉をつけた金線で装飾して、
琉球らしいアレンジを加えています。

県指定文化財《聞得大君御殿雲龍黄金簪》

琉球の最高神女・聞得大君(きこえおおきみ)が使った簪。
長さはおよそ30cmもあり、全体に細やかな金細工がほどこされています。
大きくふくらんだ飾り部分は中が空洞になっていて、見た目ほど重くはないんだとか。

国宝《赤地龍瑞雲嶮山文様繻珍唐衣裳》

国王が、国の重要な儀式で着用した衣装です。
鮮やかな色で表された文様は中国の伝統的なものですが、
襟のあわせなど仕立ては琉球のものになっています。

国宝《黒漆雲龍螺鈿東道盆(とぅんだーぶん)》

繊細な螺鈿細工で飾られた琉球漆器の傑作。
東道盆は外国の使者などを接待する宴席の料理を盛るための器で、
同じものが中国の皇帝にも献上されています。

「未来へ」戦災文化財の復元と琉球王国文化遺産集積・再興事業

「特別展 琉球」の展示品の多くは
明治のはじめ頃東京に移住した琉球王家の宝物です。
沖縄に残った文化財(建造物、美術品、工芸品など)は、
1945年の沖縄戦(4月1日~6月22日)によって多くが失われました。

18万人を超える沖縄線の犠牲者のうち、
沖縄県の人はおよそ12万人(4万人近い民間人を含む)。
伝統文化の担い手も多くが命を落としています。

戦後間もないころ、博物館や美術館の関係者によって収集・保管された
「戦災文化財」(戦争による災害で破壊された文化財)を引き継ぎ、
その技術や文化を現代によみがえらせるため、
8年前に始まったのが「琉球王国文化遺産集積・再興事業」です。

沖縄の内外から美術家・工芸家・研究者など
100人ものメンバーが集まった
(事業に携わった製作者はのべ300人だそうです)
こちらのプロジェクトの成果は
「特別展 琉球」の「未来へ」コーナーで紹介され
8分野65件におよぶ模造復元が展示されています。


戦災文化財の復元と鎌倉芳太郎の功績

戦前の沖縄で美術教師をしていた鎌倉芳太郎(1898-1983)は、
明治以降の古い文化が失われていく時代に
「王国時代の文化の実相だけは広く伝えなければ」
という危機感をもって美術工芸、民族、芸能など
琉球王国時代の文化を調査・記録しました。
多くの文化財やその担い手が失われた状況で、
鎌倉の記録は文化財を復元するための重要な手掛かりとなりました。

鎌倉の残した「琉球芸術調査記録」(重要文化財)やモノクロの記録写真が
「特別展 琉球」の会場に展示されています。

円覚寺の鬼瓦と仁王像

天徳山円覚寺は、当時の国王だった尚真王(1465-1527)が
父の冥福を祈って1494年に建立した琉球初の大規模な仏教寺院です。
王家の菩提寺となっったこの寺院はその後数度の火災に見舞われながらも
そのたびに復元され、
戦前は当時の総門を含むいくつかの建物が国宝に指定されていましたが、
沖縄戦で破壊されました。
現在は1968年に再建された総門が県指定の有権文化財に指定されています。

模造復元《旧円覚寺鬼瓦》18~19世紀

円覚寺の屋根を飾っていた鬼瓦は、日本の平面的な鬼瓦とくらべて
能面のような立体感があります。
復元の作業は、土を探すところからスタートしました。
元々の鬼瓦に使われていた「ジャーガル粘土」は現在上質な土が採れないために
ジャーガルのほか数種類の土を混ぜ合わせ、
土の配合や焼き方を変えながら試行錯誤を繰り返し、
納得のいくものができるまでに5年かかりました。
当時の琉球には、簡単に再現できない高度な技術とノウハウがあったようです。

復元にあたった陶芸家の玉城望さん・若子さんご夫妻は、
鬼瓦の完成後もさらに研究を重ね、より本来のものに近い鬼瓦を追求しています。

模造復元《旧円覚寺仁王像》鎌倉時代

元の総門の両脇に立っていた仁王像は、
瓦礫の中から発見された13個の木片を残して失われていました。
(うち、造立当初のパーツは4片)
子どもの健康祈願などで地元の人たちに親しまれていたこの像を
元に戻せないか、という声が上がったことが
プロジェクトが始まるひとつのきっかけだったとか。

残された仁王像のパーツは片方の像(阿)に集中していたこと、
さらに同時代・同派の仁王像が石川県の法住寺に伝わっていたことから
昔の姿に近づけることができ、2015年にはじまった復元は6年がかりで完成しました。


琉球絵画の記録と復元

記録として残された鎌倉の写真は白黒だったため、復元の際は
絵画作品にとっては重要な色彩がわからないという問題がありました。
(カラー写真が一般に普及するのは1900年代も後半になってからです)
復元には、実物を見たことがある古老の聞き取りや
描かれた対象に関する資料、類似の作品の調査などが必要になりました。

復元模写《御後絵(おごえ)》

《御後絵》は琉球王朝の歴代国王の死後に描かれた肖像画です。
元は鮮やかな彩色をされたものでしたが、戦災で焼失。

東京芸術大学保存修復日本画研究室では、
現存する衣装などを参考に色を決定して復元模写をおこないました。
日本よりも中国絵画の影響を強く受けている沖縄の絵画は
日本画を基準に考えると塗り方や表情などが違ったものになってしまう点で
たいへん苦労したそうです。

復元模写《四季翎毛花卉図巻(しきれいもうかきずかん)》

同じく東京芸術大学保存修復日本画研究室が修復した
全長7mの一枚絹に花鳥を描いた絵巻です。
琉球王朝時代の代表的花鳥画家・呉師虔(1672-1743。本名 山口宗季)の作品ですが、
復元にあたってお手本になったのは、中国清代の画家で呉師虔らを指導した
孫億(1638-没年未詳)の《花鳥図巻》(九州国立博物館蔵)。
《四季翎毛花卉図巻》は、こちらを模写した作品と考えられています。

復元模写の工程を後に伝えるため、完成品とは別に
墨による下書き
裏側から色を挿す裏彩色
表から色を重ねて立体感を出す表彩色
細部を描きこむ仕上げ彩色
と、4段階の工程見本が制作されました。

文化財復元の意味

「琉球王国文化遺産集積・再興事業」立ち上げの中心人物の一人である園原謙さんは、
琉球王国が生んだ優れた技術と文化について、
平和な時代だからこそ生まれたものだと語っています。
芸術は非常事態になると後回しにされがちな分野ですから、
人の手を惜しまず素晴らしい作品を作り上げたということは
それだけ平和で豊かな時代だったという証明になります。

不幸にして元の形を失ってしまった文化財ですが、
それらを元に戻すために現代の人間が最高の知恵を結集して挑む試みは、
琉球の文化を現代に取り戻すことでもあります。
そうして引き継いだものをいかに次世代にバトンタッチするか
という課題もあって、このプロジェクトはまだまだ先が長いようです。

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