日曜美術館「ようこそ! 私たちの美術館」 新しい美術館の新しいチャレンジ(2020.06.28)

2020年に開館予定だった美術館は
オープン延期になったりすぐに休館になってしまったりと、
まさに踏んだり蹴ったりの状態でした。
まだまだ不安が残るとはいえ、博物館・美術館の再開がはじまったのは嬉しいことです。
番組では、小野さんと柴田さんが3月に取材した京都市京セラ美術館と、
東京は京橋のアーティゾン美術館、青森県弘前市の弘前れんが倉庫美術館、
今年オープン(リニューアルオープン)する美術館が紹介されました。

2020年6月28日の日曜美術館
「ようこそ! 私たちの美術館」

放送日時 6月28日(日) 午前9時~9時45分
再放送  7月 5日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

今年は新しい美術館の開館ラッシュ。より身近に、より多彩に、地域や作品と出会える刺激的な空間が次々と誕生している。建築家・青木淳が改修を手がけ、自ら館長も務める「京都市京セラ美術館」が目指したのは、チケットがなくても通り抜けられ、誰もが思い思いに過ごせる“原っぱ”のような空間。その他「弘前れんが倉庫美術館」、「アーティゾン美術館」もご紹介。“地域の核”となることを目指す、新たな美術館の姿に迫る。(日曜美術館ホームページより)

ゲスト
青木淳 (京都市京セラ美術館 館長/建築家I

出演
中谷至宏 (京都市京セラ美術館 学芸員)
鴻池朋子 (現代美術家)
新畑泰秀 (アーティゾン美術館 学芸員)
南條史生 (総合アドバイザー)


京都市京セラ美術館 開かれた美術館

小野さんと柴田さんの京都訪問は3月18日に実現していたのですが、
オープンが延期になったために放送できなかったそうです。

平安神宮の参道に面し、大鳥居のすぐ横にある京都市京セラ美術館は、
1933年に「大礼記念京都美術館」としてオープンした
現存する日本最古の公立美術館。
80年以上市民に親しまれてきた建物を改修するにあたって、
設計の担当者でもある館長の青木淳さんは、外観をできるだけ変えずに
「そこを使う人々が使いかたを生み出す開かれた建築」を目指したといいます。

改修後の特徴のひとつは、もともと東西南北にあった玄関のうち
唯一使われていた西側の扉のほかに、東側の扉も開放したこと。
東西に通り抜けられるようになった中央ホールは、
入場券なしで誰もが入れる広場のような場所になりました。
美術館の東側は明治の作庭家・七代目小川治兵衛の作った日本庭園があり、
その背後には東山がそびえる緑豊かな風景が広がっています。
美術館を通り抜けることで、
神宮の参道に面した西側とはまったく違った景色が楽しめるわけです。

新設された展示室
コレクションの常設展示室と、現代アートのための新館 東山キューブ

リニューアルに伴い、これまでに収集してきた「京都の美術」のコレクション
(3,700点あまり)の常設展示室が設けられました。
今回番組で紹介されたのは、いずれも近代を象徴するような絵画です。

榊原紫峰の《獅子》(1927)は、屏風に雌雄一対のライオンを描いたもの。
「獅子」といえば狛犬とともに尊い場所を守る神獣ですが、
この獅子たちは美術館を守る神獣であると同時にリアルなライオンです。
作者はすぐ近くにある京都市動物園(1903に開設)で写生を重ね、
この作品を完成させたそうです。

中村大三郎《ピアノ》(1926)は画家の奥さんがピアノを弾く様子を絵にしており、
桃やブドウを描いた洋風の帯がとても近代的です。
また作中のピアノは市内の小学校にあるもので、
西洋音楽が輸入されたばかりの頃に市内の人々がお金を出し合って
小学校に寄贈したそうです。

向井久万《男児生まる》(1941)は長男が生まれたことをきっかけに描かれた絵で、
出産の場面を描いています。
手前に置かれた赤ん坊用の蒲団などから出産であることは分かりますが、
あまり生々しい雰囲気はありません。
とはいえ、昭和10年代にはかなり衝撃的だったのではないでしょうか?

新館「東山キューブ」のこけら落としは6月7日のアートシーンでも紹介された
「杉本博 瑠璃の浄土」です。
入り口は紋幕を垂らした重々しい雰囲気で、
柴田さんが(つられたように小野さんも)合掌していました。
「現代に現れた浄土」をテーマとする荘厳な展示は、
確かに手を合わせたくなっても仕方ないかもしれません。

展覧会情報

現在は事前予約・定員制で開館
カフェ・ミュージアムショップ等の無料エリアへの入場も展覧会の予約が必要

京都市左京区岡崎円勝寺町124

月曜休館(祝日の場合は開館)
年始年末休館

10時~18時
※入場は閉館の30分前まで

公式ホームページ

コレクションの夏期展示

6月25日(木)〜9月22日(祝・火)

一般(京都市内在住)520円
一般(京都市外在住)730円(620円)
小中高生等(京都市内在住)無料
小中高生等(京都市外在住)300円(200円)
小学生未満無料
※( )内は20名以上の団体料金

「杉本博 瑠璃の浄土」

2020年5月26日(火)~10月4日(木)

一般 1,500円(1,300円)
大学・高校生:1,100円(900円)
中学生以下:無料

※( )内は20名以上の団体料金
※京都市内に在住の高校生または京都市内に通学の高校生は無料


アーティゾン美術館 石橋コレクションと現代美術家のセッション

2020年1月にリニューアルオープンしたアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)は、
東京駅の八重洲口からすぐの場所にあります。

ブリヂストンタイヤ(現ブリヂストン)の創業者である石橋正二郎が
戦後復興期の1952年に創業したこの美術館は、
モネ・ルノワール・セザンヌなど西洋の近代美術(とくに印象派)が
常設で見られる美術館として大変な評判になったそうです。

近代美術と出会う場所だった美術館は、
新たなコンセプト「創造の体感」を実現する試みとして
年に1回、館のコレクションと現代美術家のコラボレーションである
「ジャム・セッション」を開催します。

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子
鴻池朋子 ちゅうがえり

第1回目の「ジャム・セッション」は
ギュスターヴ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》(1856-57)と、
現代美術家の鴻池朋子さんです。

この展示は、ガラスに入った名画を「見せていただく」のではなく
近寄って接点を持ち、そこで起きた摩擦から新たなエネルギーが生まれる。
そんな試みであると鴻池さんは語っていました。

現実のものをありのままに描こうとしたクールベの描く動物と、
動物学・考古学・おとぎ話などを取り入れた神話的な作品で知られる鴻池さん。
野生動物の世界に足を踏み入れるような体験が期待できるのではないでしょうか。

映像で見ると、毛皮・皮革・石・角など様々な素材で構成された展示は、
太古の魔力に満ちている不思議な世界という雰囲気。
毛皮の林や皮で出来た大きな鳥、仕留められた野生動物の絵などを通り過ぎ、
その先に登場する鹿は、その世界を自由に走り回っているようにも見えました。
(本来は猟師から逃げている姿だそうですが…)

展覧会情報

アーティゾン美術館は日時指定予約制

東京都中央区京橋1-7-2

2020年6月23日(火)~10月25日(日)

月曜休館(祝日の場合は開館し翌平日は振替休日)
展示替え期間・年末年始休館

10時~18時
※入場は閉館の30分前まで

一般 1,100円
大学生・専門学校生・高校生 無料(入館時間の予約が必要)
中学生以下 無料(入館時間の予約は不要)

公式ホームページ


弘前れんが倉庫美術館 地域を活かしたコレクション

大正期に、国内で初めてシードル(りんご酒)の本格的な製造・販売を行った
レンガ造りの建物は、地元の実業家福島藤助が地域の役に立つようにと建てたもの。
元の名前は吉野町煉瓦倉庫(旧吉井酒造煉瓦倉庫)といいます。
半世紀ほどの閉鎖を経て、美術館にリノベーションされました。
弘前という土地の地域性をいかした作品を作家に依頼してコレクションする、
新しいアートを生み出す場所としても活躍していく予定です。

エントランスには弘前のアーティスト奈良美智の
《A to Z Memorial Dog》(2006)が展示されています。
こちらは2006年に開催された展覧会「Yoshitomo Nara+graf A to Z」の
ボランティアスタッフをはじめとする関係者の思い出として市に寄贈され、
吉野町煉瓦倉庫だったころにも展示されていたそうです。

「Thank You Memory―醸造から創造へ―」

弘前れんが倉庫美術館の最初の展覧会も、
煉瓦倉庫や弘前をテーマとした
現代のアーティストたちによる新作が中心となります。
参加するアーティストは
尹秀珍、ジャン=ミシェル・オトニエル、笹本晃、畠山直哉、藤井光、奈良美智、ナウィン・ラワンチャイクン、潘逸舟の8人。

番組で特に注目されていたのは、
タイのアーティスト、ナウィン・ラワンチャイクンの《いのっちへの手紙》
ねぶたをイメージした形のパネルの中に、
1960年に弘前市内の遺跡で出土した
「国指定重要文化財 猪形土製品」(通称いのっち)を中心に
弘前の歴史・文化・生活にまつわる人と物を詰め込んだ絵画です。
(弘前れんが倉庫美術館と《A to Z Memorial Dog》も登場)
煉瓦倉庫を建てた福島さんも、その子孫の方の姿もありました。

コロナウイルスの流行のため来日を見合わせた作者のナウィンさんは、
この時代のアートにできることは「まだ希望はある」と感じてもらうことだといいます。
現代の暮らしでは、古くからのコミュニティが弱まっていくことは変えられないけれど、
人々を励まして「“ともにあること” の価値に思いを至らせる」のがアートである、と。

展覧会情報

青森県弘前市吉野町2-1

2020年6月1日(月)~9月22日(火・祝)
※7月10日まで入館対象を制限(段階的に拡張予定)
※7月5日まで事前予約制を実施

7月11日(土)よりグランドオープン(入館対象制限なし、予約不要)

火曜休館 (祝日の場合は翌日に振替)、年末年始休館

9時~17時

一般 1,300円(1,200円)
大学生・専門学校生 1,000円(900円)
※( )内は20名以上の団体料金
※無料の対象
・高校生以下
・弘前市内の留学生
・満65歳以上の弘前市民
・ひろさき多子家族応援パスポートを持参の方
・障がいのある方と付添の方名

公式ホームページ