日曜美術館「蔵出し!日本絵画傑作15選 一の巻」/ アートシーン「#アートシェア+ルオーと日本展」(2020.06.07)

過去45年の放送から傑作中の傑作15点を選び出し、紹介する企画の第1回。
古墳時代から鎌倉時代までの5点が登場します。
アートシーンは先週の日曜美術館に引きつづき
「今だから見てほしい一作」を取り上げる「#アートシェア」でした。

2020年6月7日の日曜美術館
「蔵出し!日本絵画傑作15選 一の巻」

放送日時 6月 7日(日) 午前9時~9時45分
再放送  6月14日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

日曜美術館45年のアーカイブから「日本絵画の傑作15選」を3回に分けて紹介するシリーズ。初回は古代から鎌倉時代の5作品。日本絵画の原点・チブサン古墳、憧れが生んだ超絶美人・鳥毛立女屏風、仕掛けづくしの王朝美・源氏物語絵巻、肖像画誕生!・伝源頼朝像、自然と仏の出会い・山越阿弥陀図の5作品を、井浦新、岡本太郎、上村淳之、瀬戸内寂聴、横尾忠則、井上涼さんら豪華な出演者の言葉とともにじっくり見る。(日曜美術館ホームページより)

出演
井浦 新 (俳優)
岡本太郎 (芸術家)
上村淳之 (日本画家)
横尾忠則 (アーティスト)
瀬戸内寂聴 (作家)
井上涼 (アーティスト)

佐治健一 (山鹿市教育委員会)
生野里美 (うきは市教育委員会)
西川明彦 (宮内庁正倉院事務所所長)


古墳時代から鎌倉時代まで、日本美術を振りかえる傑作選!

小野さんと柴田さんが久々にスタジオに揃ったこの回は、
お2人が屏風のようにつながった傑作15点の見本を広げる所から始まりました。
ひとつひとつは縮小されているとはいえ、
古墳時代から江戸時代まで全てつなげるとかなりの長さです。
今回紹介される5作品は、
《チブサン古墳》《鳥毛立女屏風》《源氏物語絵巻》《伝源頼朝像》《山越阿弥陀図》。

《チブサン古墳》《日岡古墳》ともに6世紀
「〇△□の伝言 井浦新 “にっぽん” 美の旅4」2018
ニュースセンター10時「荒らされる装飾古墳 岡本太郎が語る」1974 より

日本にはおよそ660基の装飾古墳があり、その4割は九州の熊本と福岡にあるそうです。
2018年当時、日曜美術館の司会を務めていた井浦新さんが
「僕の中のスター古墳」だというチブサン古墳(熊本県山鹿市)の石室は、
赤・黒・白で塗りつぶされた丸・三角・四角(ひし形)で飾られていました。
人物の姿も描かれていますが、それ以外はほぼ〇△□の組み合わせ。
円の形は副葬品の鏡、または太陽・月・星を意味しているんだそうです。
ひときわ目立つ2つ並んだ同心円乳房のようにも見えることから
「チブサン古墳」の呼び名がついたという説もあるんだとか。

一方、日岡古墳(福岡県うきは市 若宮八幡宮内)は
同心円や三角のほかに、武器・草・動物らしき形が赤一色で描かれています。
井浦さんはこの石室を上から覗き込んでいましたが、
その44年前に訪れた岡本太郎さんは、中に入って至近距離から観察していました。
「四次元との対話:縄文土器論」によって
日本美術史に縄文時代を付け加えたと言われる岡本さんは、装飾古墳についても

人間の生き方、いろんな謎がここに秘められているから、こういうものこそ大事にするべき

と語っています。

《鳥毛立女屏風》奈良時代
正倉院宝物 天平の美とロマン「第2回 鳥毛立女屏風」1988 より

続いて、日本史の教科書などでおなじみの美人が登場します。
聖武天皇の没後その遺品を収めた正倉院宝物のひとつ《鳥毛立女屏風》。
ふっくらした顔は肌色に塗られているのに、
髪と着物の部分は白いままで残されている不思議な絵だと思っていましたが、
実は色のついていない所には鳥の羽が貼られていたそうです。

木の下にたたずむ女性たちは、ふくよかな顔つきの唐風美人です。
(わたしは、この女性が1人ではなく6人いたことも初めて知りました)
装いも、ゆったり結った髪、つけ黒子、額に描かれた花のような文様など、
唐を中心に流行していたもの。
鳥の羽で作った衣装についても、中国の歴史書である『唐書』に記述があります。
中宗(唐の第4・6代皇帝)の娘である安楽公主が
鳥の羽で作った裙(スカート)を身に付け、それが非常に流行したんだとか。

そんな理由もあって、この屏風は唐で作られたものだと思われていましたが、
現在は日本製だと考えられています。
決め手のひとつは衣装に残っていた羽毛の一部で、
これは日本にしか生息していないヤマドリの羽だということが分かっています。

花鳥画の大家である上村淳之さんによる《鳥毛立女屏風》の再現作業では、
屏風の1枚(つまり女性1人分)に対して使われた羽は約千枚。
実際に鳥の羽で衣装を作るとしたら、どれだけの量が必要なのでしょう?

光沢のある山鳥の羽を貼りつけた茶色の衣装は、
華やかではないものの豪華で落ち着いた雰囲気でした。
髪の毛も黒々として、より古代の美人らしい姿になっています。
それでも、なんとなく違和感を感じてしまうのは
肌以外の部分が白一色の図を見慣れているせいでしょうか?

なお安楽公主は、母親の韋皇后と共謀して中宗を毒殺したために
従兄弟である臨淄王李隆基(のちの玄宗皇帝)に殺された人物です。
本家中国だと、鳥の羽のエピソードはあまり良い意味ではなかったかもしれません。

《源氏物語絵巻》平安時代末期
日曜美術館「瀬戸内寂聴 源氏物語絵巻への旅」1995 より

「国宝源氏物語絵巻」と呼ばれる絵巻です。
源氏物語を題材にして制作された現存する絵巻の中では最古の物だそうです。
現在は一場面ずつに分かれて保存され、複数の美術館や個人に所蔵されています。

ここで取り上げられたのは、名古屋市の徳川美術館が所蔵する「柏木」巻。
もっとも完成度が高いといわれているこの巻には、
物語を盛り上げる仕掛けがたくさん盛り込まれています。

内大臣の息子柏木と密通して薫を産んだ女三宮(光源氏の正妻)が
父親である朱雀院に出家を願う場面では、
周囲の調度品や女房達の衣装が華やかな色で表現されるのに対して、
悲しみに沈んでいる中心人物たちの衣装は墨や銀を中心とした暗い色が使われています。
現在は経年のために全体が退色して分かり難いのですが、
制作された当時はその部分だけが暗く沈んで見えたのではないでしょうか。
畳の縁と几帳の直線が雑然と交わる様も、乱れた心を表しているようです。

罪悪感のあまり病に伏した柏木を友人の夕霧(光源氏の長男)が見舞う場面では、
寝所の御簾に桜の模様がほどこされ、
事の始まりである女三宮との出会いを思い出させます。

どの場面でも登場人物は「引目鉤鼻」と呼ばれるシンプルな描き方で、
実際は現れているかもしれない表情や内心の葛藤などは読む側の想像に任されています。
『源氏物語』を現代語訳した瀬戸内寂聴さんは、これについて
「(病床の柏木が)死にそうには見えない。まるまる太っちゃってね」
と、コメントしていました。

アーティストの横尾忠則さんは全体の構図が気になったようで、
黒漆で塗られた調度品の直線的な黒と
女性の髪の毛の曲線的な黒とが交じり合う音楽的な配置や、
建物の屋根を外して上からのぞき込むような「吹抜屋台」の構図に言及しました。

スタジオでも同様の効果を狙って、
カメラを持ち上げたクレーンショットを試していましたが、
映される側がカメラを意識しているせいか、やや印象が弱かった気がします。

《伝源頼朝像》鎌倉時代
京の国宝「神護寺 源頼朝像」1992 より

これも歴史の教科書でおなじみの肖像画です。
(現在は頼朝ではないという説もあるため「伝」源頼朝像と呼ばれています)
教科書にあわせて縮められたサイズに馴染んでいると、
実物の大きさはちょっとした衝撃でした。
絵の中の人物の頭のサイズは、軸を広げるお坊さんとほぼ同じ。
高さのある冠や角ばった装束のせいもあって、より大きくいかつい雰囲気です。
また、写真では潰れてしまう装束の文様や表情など、
細かく描きこまれている部分がよく見えました。

肉感的で生々しい顔に対して
ほとんど直線で構成された平面的な体という対比から
画面の大半を占める装束を黒い折り紙に見立てて
「おりがみのよりとも」という歌とアニメーションを作った井上涼さんは、

SFの映画に出てくる、前は人間だったけど今機械に移植されちゃったクリーチャーみたいな印象

を受けたそうです。
井上さんの動画「びじゅチューン!」おりがみのよりとも はこちらで視聴できます。

《山越阿弥陀図》鎌倉時代
国宝探訪「来迎のひかり 慈悲にみちて」2000 より

鎌倉時代には、西方浄土に住む阿弥陀如来が
臨終する人を迎えに来る「来迎」の思想が流行し、
さまざまな「来迎図」が描かれました。
《山越阿弥陀図》もその一種で、
巨大な仏が山の向こうから顔を出しているというダイナミックな構図です。

こちらの《山越阿弥陀図》は、京都の東山にある禅林寺の所蔵です。
山の向こうに見える阿弥陀如来と
それに先だって死者を迎えに来た観音菩薩と勢至菩薩等のほかに
四天王と2人の童子も描かれています。

如来の姿には西に沈んでいく太陽が重ねられ、
仏と太陽が同一のものであると示しているかのよう。
人々は、再生のシンボルである太陽に導かれて
浄土で新たな生命を得ることを願ったのかも知れません。


#アートシェアと展覧会情報「ルオーと日本展」

先週の「#アートシェア」に続いて、いま分け合いたいアートを紹介する企画です。
また全国の美術館が、地域の感染状況・美術館の規模にあわせて
徐々に再開していることをうけ、アートシーンでも展覧会の紹介が再開されました。
第1弾はパナソニック汐留美術館の「ルオーと日本展」です。

5月31日放送「日曜美術館 #アートシェア」に続き、「アートシーン」でも、美術を愛するさまざまな方に、今だから見てほしい一作をご紹介いただきます。北川フラムさん、中野京子さん、千宗屋さんのとっておきの作品とは…?また、再開した展覧会の情報もお届けします。

中野京子さん(ドイツ文学者)の#アートシェア
ウジェーヌ・ドラクロワ《怒れるメディア》1836-38

初めてこの絵を見た人は
「誰かに追われて逃げる母親が子どもを守ろうとしている」と感じるでしょう
でも実は違うのです

と、中野さんは言います。
ここに描かれているのは、ギリシャ神話の中でも有名な場面です。
夫・イアソンに裏切られたコルキスの王女メディアは
夫の再婚相手とその父親を魔法の薬で殺害し、
さらにイアソンとの間に生まれた2人のこどもも手にかけました。

つまりタイトルとそこに絡んだ物語を知っている人から見ると
この場面は母親が左手に握る短剣で子どもたちを殺そうとする瞬間であって、
背後を振り向いているのは邪魔が入ることを警戒しているから、という解釈になります。

新型コロナウイルスで社会が混乱し、フェイクニュースが流れるいま、
この絵は「真実を知るためには知識が必要である」、
知識がなければ目の前の光景もまったく違って見えてしまう、
というメッセージを投げかけているようです。

北川フラムさん(アートディレクター)の#アートシェア
磯辺行久《天空に浮かぶ信濃川の航路》2003 ほか

環境をテーマに作品を発表してる磯辺行久さんが
越後妻有の「大地の芸術祭」で第1回(2000)から制作している
川や水の流れに注目したシリーズです。
《天空に浮かぶ信濃川の航路》では、
かつて現在よりも25メートル高い位置を流れていた信濃川の水面の位置を
500年ごとにラインで示し、現在に至るまでの軌跡を目に見える形にしました。

北川さんは現在の新型コロナウイルスの蔓延を
「自然の氾濫のようなもの」
「都市化していく中で自然との関係をちゃんと作ってこなかったことによるもの」
と考えています。
大人数が特定の地域に密集して暮らす都市化と疫病は表裏一体の関係ですから、
都市に暮らす人間が自然とのかかわりを考えていくことは
疫病とのかかわりを考えることにもつながるのかも知れません。
外出に慎重にならざるを得ない現在、北川さんたちは
「その場所に行くことなく、なおかつその場所にふさわしい作品をつくるやり方」や、
芸術祭個々ではなく芸術祭同士が連動し
さらに他の人たちにも呼びかけて交流していく試みを始めているそうです。

千宗屋さん(武者小路千家家元後嗣)の#アートシェア
杉本博司《仏の海》1995 ほか

《仏の海》は京都の蓮華王院本堂(通称「三十三間堂」)の
千体の千手観音が並ぶ様子を海に見立てた、白黒の大判写真のシリーズ。
長らくリニューアルオープンが先送りされていた京都市京セラ美術館の
「杉本博 瑠璃の浄土」で公開されています。

透明な《光学硝子五輪塔》シリーズが並ぶ参道を抜け、
《OPTICKS》シリーズの鮮やかな色彩写真の展示室を通って、
モノクロの《仏の海》に辿り着くとそこは「静かな理想世界」であって、
「自身の心のありようのあるべき姿を思わせる」と千さんは言います。

今このコロナ禍にあって 人知れずこの世界が誰に見られることなく
閉じ込められていることそのものが
すでに示唆的である

5月26日から、京都府在住者限定の予約制で公開されていたこの展覧会ですが、
6月19日からは府外からの予約も受け付けてもらえるそうです。
(ただし定員あり)

萩原敦子さん(パナソニック汐留美術館学芸員)
ジョルジュ・ルオー《夜の風景 または よきサマリア人》1897

パナソニック汐留美術館が所蔵するルオー作品の中から選ばれたのは
聖書の「神への愛と隣人への愛」を説く一場面を描いた作品でした。

旅の途中で盗賊に襲われひどい傷を負った人を、
ユダヤ教の祭司やレビ人(神殿に仕える部族の人)は見捨て、
サマリア人(ユダヤ人と敵対していた部族の人)は助けた。
助けられた人の「隣人」は、祭司・レビ人・サマリア人の誰か…という、
キリストが語った喩え話ですが、
この絵の背景は工場の煙突や集合住宅が見える近代社会になっています。

キリストの生きた1世紀、ルオーが活動していた19世紀末、もちろん21世紀も変わらない
「困った人には手を差し伸べよう」という教えを描き込んだこの作品は
「私たちも現実の社会というものに目を向けつつ、かつそこにも光があるということが改めて感じ取られる」
と萩原さんは語っています。

パナソニック汐留美術館の「ルオーと日本展」は開催延期となっていましたが、
6月5日から始まりました。