焼き物でゴミを作り、ゴミを使ってゴミを作る。
現代美術家の三島喜美代さんが登場します。
作品が常設展示されている「ART FACTORY城南島」での座談会も必見。
2021年6月27日の日曜美術館
「三島喜美代 命がけで遊ぶ」
放送日時 6月27日(日) 午前9時~9時45分
再放送 7月4日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
大阪在住の現代美術家・三島喜美代さん。新聞や空き缶などの「ゴミ」を、焼き物で、本物と区別がつかないほど精巧に作る。しかも50年続けている。なぜそんなことを? 本人曰く「ただおもろいから」。そんな独創的で不思議な作品への評価は、今やウナギ登り。88歳にして現役。体力の限界などお構いなし。果敢なる新作作りの現場に密着!(日曜美術館ホームページより)
ゲスト
三島喜美代 (現代美術家)
水嶋龍一郎 (ART FACTORY城南島プロデューサー)
出演
片岡真実 (森美術館館長)
田文雄 (制作チーフ)
宮部友宏 (陶芸家)
ゴミを作る? 三島喜美代さんの制作風景 《作品 21-A》
三島喜美代さんの作品は、グシャグシャになった新聞紙や空き缶など、
焼き物で作るには難しそうなものがたくさん登場します。
紙や薄いアルミ板を粘土で再現する方法は、
板状の粘土を新聞紙に挟んで麺棒を使って伸ばし、
次に上の新聞紙を外して、さらに薄く延ばすというもの。
手打ちうどんを見た時に閃いたんだとか。
薄くなった粘土の上に、シルクスクリーン印刷を粘土に転写する
特殊なフィルムをピッタリと貼り付けます。
400度くらいで焼くとフィルムは全て溶けてしまい、文字が残るんだそうです。
フィルムをつけた粘土は分厚いケント紙にはさみ、
紙ごと折りたたんで乾燥させることで、リアルな紙屑の形に固まります。
作品の完成のために作る陶製の「新聞紙」は100個以上。
すべて手で作っていきます。
遊んでるつもりなんですよね、これきっと命かけて遊んでるような感じでレーサーと一緒ですよね
と語る三島さんが作品を作る様子は確かに遊んでいるようで
見ているこちらも「なんだか楽しそうだな」と感じますが、
実際にはかなりハードなものでした。
作品作りのために食事も簡単に済ませる三島さんは
1日10時間以上も立ったまま作業する日もあって、
足の痛み・むくみを抑えるための薬が手放せないそうです。
大阪で作られた130個の「新聞紙」は
別のアトリエがある岐阜県土岐市で更に組み立てられました。
金属のタンクの中に陶製の新聞紙を詰めていく作業では
「カン! カチャン!」と不穏な音が響き、
手伝いに来た若手美術家たちからも「怖っ!」という悲鳴が上がりますが、
三島さんは「大丈夫大丈夫」「怖々やったら割れる」と落ち着いた様子。
周囲の人たちから
「本当に作品のことしか考えてない」
「もうちょっとスケールが違う」と言われるのも納得です。
こうして出来上がった「ひっくり返ったタンクからあふれ出る大量の紙くず」。
その脇にもうひとつ、一斗缶や鉄くずなど「本物のゴミ」を詰め込んだタンクを添えて
《作品 21-A》は完成しました。
一斗缶は30年前に欲しくなって購入し、錆びるままにしておいたものだそうです。
「割れる新聞」から直島の《もう一つの再生 2005-N》まで
1932年、大阪の十三にある酒屋に生まれた三島さんは、
家にあった顕微鏡に熱中するなど、
興味が向いたものにのめり込む子ども時代を送りました。
1950年代から独立美術協会に所属し、当初は静物画などを描いていたそうです。
22歳で画家の三島茂司さん(1920-1985)と結婚。
「女性も解放されれば才能が伸びる」という考えを持っていた茂司さんは、
三島さんによると
「それで私を自由にしてくれた。なんぼ遊んでも何しても何も言わなかった」
と言いますから、当時どころか現代でも相当珍しい人です。
三島さんは美術にのめり込み、
イメージや印刷物をコラージュした作品を制作しました。
陶器で作った「割れる新聞」を思いついたのは、1970年ごろ。
コラージュにつかった新聞紙が、
アトリエの床に丸まって転がるのを見たのがきっかけだったそうです。
ちょうど「情報」という言葉がもてはやされ始めた時期でした。
初期に作られた《Package》(1971)は
何かを包んであるような丸い形にまとめられた英字新聞の形をしています。
もはやメディアではなくなった情報媒体をスタートに、三島さんは
読み古された漫画雑誌の形をした《Comic-07》
使い古してゴミを詰め込まれたた輸入果物の段ボールにしか見えない
《バナナボックス》や《サンキストボックス》など
ゴミを忠実に再現したセラミック作品を作りますが、
斬新すぎてまったく売れなかったそうです。
53歳で現代美術のメッカ・ニューヨークに留学した三島さんは、
毎日町でゴミの写真を撮り、
帰国後も文字通り「ゴミ」ばかり作っていたそうです。
2005年、ベネッセコーポレーションを中心として島ぐるみのアート活動を行っている
瀬戸内の直島に、《もうひとつの再生 2005-N》が設置されました。
当時、瀬戸内の島で問題となっていたゴミの不法投棄を知った三島さんが、
ゴミをリサイクルした「溶融スラグ」(ゴミや汚泥を高温で溶融した素材)
を使って作ったもので、見た目は新聞やチラシの入ったゴミ箱。
ただし、高さは4.5mもあります。
中身のリアルさもあって道端に置かれた様子は普通のゴミ箱のようですが、
隣に人が立つと巨大さがよく分かります。
当初は地元の人を困惑させた巨大なゴミ箱でしたが、
現在はSNSなどで宣伝され、これを見に訪ねてくる観光客も増えているそうです。
展示されるゴミ(ART FACTORY城南島)
今回、小野さんと柴田さんは
三島さんの作品21点を常設展示しているART FACTORY城南島を訪れました。
建物の外壁に設けられたショーウィンドウには、
「この額に入っていなかったら、ゴミ箱にしか見えないですね」
という柴田さんの言葉どおり、
空き缶で一杯のゴミ箱…のような三島作品が展示されています。
《Newspaper 08》(2008)と《20世紀の記憶》(2013)
屋内に展示されている《Newspaper 08》(2008)も、
天井まで積まれた日本や外国の新聞の山…のような、
迷路のインスタレーションでした。
小野さんいわく
「面白いんですけど、両側から、暗い中から新聞紙が迫ってくる感じでちょっと怖い」
古い紙のにおいが漂ってきそうな空間ですが、
新聞は本物ではなく合成樹脂にプリントしたものです。
物量なら、床の上に1万600個の煉瓦を敷き詰めた
《20世紀の記憶》(2013)も負けていません。
煉瓦の一つひとつには20世紀の新聞記事から
三島さんの興味を引いた記事がプリントしてあり、
小野さんの誕生日の2日前に発行された
三島由紀夫自決の記事(1970.11.25)や
ヒトラー台頭のニュースがあるかと思えば
その隣にファッションやダイエットの広告がある、
中心辺りの煉瓦は遠すぎて何が書いてあるのかも分からない、
まさに情報の氾濫を目に見える形にしたような空間になっています。
素材の煉瓦は、三島さんの馴染みの工房が
窯をしまう時にでたゴミを引き取ってきたものです。
1万600個に記事を写す作業にかかった時間は30年以上。
「途中で『やめよ』と思うことなかったんですよ」という三島さんの活動は
目の前の面白そうなものと作業の面白さが重要で、
出来上がった作品自体にはそれほど思い入れがないようです。
次は現代音楽?
三島さんの作品そのものへの執着のなさは
ART FACTORY城南島のプロデューサーである
水嶋龍一郎さんが「大変だったのよ」と語るエピソードにも表れています。
倉庫を改装した広々とした空間に展示する作品を探しに行った時のこと。
畑の中のスペースにブルーシートにくるまれた作品が並んでいて、
(他の作品を見た後だと、ブルーシートの塊も作品のように見えます)
三島さん本人は「後は片づけてあの世へ行こう」と、ゴミ屋さんと交渉中でした。
水島さんが(ブルーシートの中身を確認せずに)引き取ることを決めなかったら
今展示されている作品は本物のゴミとして破棄されていたわけです。
作品を作ることそのものを楽しんでいる三島さんは、
今後の計画も特に考えていません。
(足が)動くようでしたらまた次の作品つくります
これ(足)が駄目で、どうしようもなくなって
頭だけ動いてると、現代音楽でもやろうかな
とのこと。
体を大切にして、次の作品を作ってほしい…と思う反面、
三島さんが作る現代音楽も聞いてみたいような気がします。
ART FACTORY城南島
東京都大田区城南島2-4-10
年始年末休業、ほか不定休
平日 11時~19時
土・日・祝日 11時~17時
※入場は閉館の30分前まで
「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館
《作品 21-A》(2021)は2021年6月現在、東京の森美術館で開催されている
時代に先駆けて活躍した女性アーティスト16人の作品を集めた展覧会で展示中。
館長の片岡真実さんは、三島さんのスタイルを
「世界的に見てもこんな事をしている人は三島さん以外にはいない」と評価しています。
新しいもの、試みたいことをやってみる、
その好奇心でワクワクしている感じが伝わってくるところが
最大の魅力じゃないかなと思ってます。
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
2021年4月22日(木)~9月26日(日)
会期中無休
10時~20時 (火曜日のみ17時まで)
※入場は閉館の30分前まで
- 一般
2,000円(2,200円)
オンライン 1,800円(2,000円) - 大学・高校生
1,300円(1,400円)
オンライン 12,00円(1,300円) - 4歳~中学生
700円(800円)
オンライン 600円(700円) - 65歳以上 1,700円(1,900円)
オンライン 1,500円(1,700円)
※( )内は土・日・休日の料金
※7月31日(土)まで学生および子供料金が一律500円
※オンラインチケットの販売はこちら