日曜美術館「見つけよう!あなただけのオルセー美術館」 8K(スーパーハイビジョン)による高精細映像で名画鑑賞

2020年度最初の日曜美術館にはオルセー美術館の名画が登場。
スタジオ内に設置された8Kモニターからぐーっと近い距離で鑑賞します。
普段目に留まらないような細かい部分や
普通の写真や映像では再現できない画家の筆跡など、
いつもとは別の視点から名画の新たな一面を探してみましょう。
(2020年10月25日に再放送しました)

2020年4月5日の日曜美術館

「見つけよう!あなただけのオルセー美術館」

放送日時 4月 5日(日) 午前9時~9時45分
再放送  4月12日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

NHKとオルセー美術館の国際共同制作により8K撮影した名画を、スタジオモニターで鑑賞。小林聡美さんと細田守さんが“日本で一番オルセー美術館に詳しいひとり”高階秀爾さんと一緒にマネ「草上の昼食」、ゴッホ「星降る夜」などおなじみの作品を高精細ならではのアップでじっくり見る。と、今まで気づいたことのない細部や質感がどんどん現れる!画家の息吹やたくらみまで伝わってくるよう、絵画はまったく新しい魅力を放つ。
日曜美術館ホームページより)

ゲスト
高階秀爾 (大原美術館館長、美術史家)
小林聡美 (俳優)
細 田 守 (アニメーション映画監督)

出演
長井倫子 (NKHディレクター)
山口誉人 (NKHディレクター)



8Kの高精細映像で見るオルセー美術館の名画…ところで、8Kとは何ですか?

蛇足ですが、上のような疑問をもったのが私だけではないと信じて…。
「8K」とはテレビなどの画素数をあらわしています。
「画素」はデジタル映像や画像を構成する色の点のことで、
これが細かくたくさん集まるほどなめらかで再現度の高い映像になります。
「K」は「キロ」。つまり1,000。

8Kの場合、画面に表示される画素の数は
横の数 約8,000個 に対して 縦の数 約4,000列。
つまり3千200万個の画素で構成された大変繊細な映像です。

家庭のテレビはこれまでのフルHD(約2,000×1,000画素)から
4K(約4,000×2,000画素)が主流になりつつある状態だそうで、
8K対応のテレビが一般化するのはまだまだ先の話のようです。
(しかも4Kと8Kの差を実感するには相当大きな画面でないと難しいとか)
わが家のテレビではどの程度再現できているのか分からないのが残念ですが…
既に8K対応の方には、スタジオと同じ映像が見えていると思います。

NHKでは当然8K対応の撮影機器・再生システム・モニターなどすべて保有しており
主に大画面の映像が必要な番組やイベントなどで使用しているそうです。



ルノワールの《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》と「目が合う」!?

司会は引き続き小野さんと柴田さん。(嬉しい!)
ゲストは1990年に「NHKスペシャル 印象派の殿堂 オルセー美術館」で
案内役をつとめた高階先生、
8K番組「オルセー美術館 太陽の手触り/月の肌触り」に
「わしみみずく」「シロクマ」の声優として出演した小林さん、
そしてオルセー美術館が大好きなあまり映画「未来のミライ」(1918)で登場する
架空の東京駅のモデルに起用したという細田監督です。
8Kでオルセーを撮影した番組ディレクターの長井さんと山口さんも登場します。

最初の一枚は、
ルノワールの《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》(1876)。
ポロポロとこぼれてくるような光や楽しそうな雰囲気を味わった後
絵の中の人物の何人かと目が合うことを発見。
明らかにこちらを見ている女性たちの視線に
「ハッとしてワクワクする」幸先の良いスタートになりました。

細部を拡大する マネが描いた《草上の昼食》のカエルと《オランピア》の髪の毛

つづいて高階先生出演の「印象派の殿堂 オルセー美術館」の映像を交えながら
エドゥアール・マネの《草上の昼食》(1862-1863)と
《オランピア》(1863)を鑑賞します。
この2つに共通するのは、当時の風俗と古典的な主題である裸婦を組み合わせていること。
マネの革命的なところで、同時に世間から批判された理由なんだそうです。

あまりにも有名な絵なので今さら新しい発見があるのかな?と思いきや、
《草上の昼食》の左下には何だか愛嬌のあるカエルが描かれていることを発見。
そしてもうひとつ、意外なものが発見されました。
《オランピア》の中心に描かれている女性。
茶色い髪をしているのですが、背後の壁も同じような色をしています。
そのせいで、女性が左肩の方に流していた髪の毛が背景に溶けこんでしまい
ショートカットかひっつめのように見えていたのです。

…そういえば人間は「知っている」と思うとその対象にそれ以上の注意を向けなくなると、
この本にも書いてありました。
もともとよく見ていた人や注意深い人には当たり前のことかもしれませんが…
わたしはどちらも、番組で指摘されるまで気がつきませんでした。

ここではさらにドガの《ダンス教室》(1873-1876)
ギュスターヴ・モローの《ガラテイア》(1880)
の2作品を、踊り子のアクセサリーや些細なしぐさ、
女神の足元にさり気なくいる人影などの細部に目をとめながら紹介しました。
知らなければ見逃してしまう、
知っていても画質やサイズによっては良く見えないかもしれない
気が付くとなんだか嬉しい注目ポイントです。



長井ディレクターのおすすめ スーラの《サーカス》に画家のこだわりが

夜のオルセーを8Kで撮影した長井ディレクター。
撮影が一晩で2作品くらいのペースで進んでいたので
必然的に1つの絵画をじーっと眺めることになり
その過程でいろいろな発見があったそうです。

たとえば、手描きのデジタル画ともいうべき「点描法」を発明した
ジョルジュ・スーラの《サーカス》(1891)。
点描のひとつひとつが迫力を感じるほど鮮やかです。
そしてディレクターが「発見してしまった」のが規則正しくひかれたグリッド線の痕跡。
これはどうやら消し忘れだったようで、細田監督いわく
「スーラはこれアップにするのはどうかと思ってるかもしれない」というものですが、
小野さんや高階先生も指摘しているように後世の人間には有難いものです。

写実主義の画家ジャン=フランソワ・ミレーの作品を集めた部屋で
「妙に不思議な光を放って目に飛び込んできた」というのが《春》(1873)。
働く人々の姿がメインの《種まく人》(1850)や《落穂ひろい》(1857)とは違って
大地を主体とした風景画です。(よく見ると遠くの木の下に人の姿が)
ちょうど雨が止んだところらしく空は雲に覆われてほんの少し青空が見えていますが、
手前にある茶色い道の上にはよく見るとところどころ水色の部分があります。
これは画面の外にある空が水たまりに映って青く見えているもので、
青空が広がりつつあることを示すように左手の地面や木は太陽の光が当たって輝き、
上空には虹がかかっています。

ダイナミックな光を表現した《春》の後、
ディレクターはギュスターヴ・カイユボットの《床削り》(1875)で
細かいパーツに見える光に注目しています。
汚れた床板を削って綺麗にしている職人の絵ですが、
床に落ちている削りカスの透け具合が薄いものと厚いもので描き分けてあります。
中心で仕上げをしている職人が結婚指輪をしていることから
画面に描かれている3人の職人を「親方」「息子」「親方の弟」に見立てて
会話を当てているのが楽しそうでした。



山口ディレクターのおすすめ ゴッホの《星降る夜》の質感

山口ディレクターがまず紹介するのは、
絵の具の厚みと表面の凸凹に定評のあるフィンセント・ファン・ゴッホの
《星降る夜》(1888)。
8K画像で近くから見ると、盛り上がった筆の跡がよく見えるのだそうです。
パッと見るとただ青いように見える空の色が
実は一筆一筆絵の具を置くようにしてつくられていること、
対岸のガス灯の黄色い光の色にオレンジが混じっていることなど、
近くまで寄ってみなければ分からない発見がありました。

これに対して、一見白一色のように見えるのが
エドゥアール・ヴュイヤールの《ベッドにて》(1891)。
ベッドで眠っている人の顔の一部だけがちらりと覗いて、
あとは白い枕と白い布団が折り重なっているように見える絵ですが、
実は一色ではなく様々な色を重ねることで
さまざまな質感を持った「白い寝具」を表現しています。

最後に、色彩に注目するべき作品として
ポール・セザンヌの《リンゴとオレンジ》(1895-1900)、
ポール・ゴーガン《アレアレア》(1892)が登場。
《林檎とオレンジ》のテーブルクロスは遠くから見ると白一色ですが、
近くから見ると意外にたくさんの色を使っていることがわかります。
《アレアレア》は強い色を何色も使って原色あふれる世界の人物と風景を描いています。
絵のもとになったのは画家が暮らしていたタヒチですが、
印象に残った色を実際の風景よりも強調して描いた絵は
ゴーガンの世界観や心の中の真実を表現しているようです。



自分だけの鑑賞ポイントを探す楽しみ

今回は8K撮影による映像で名画の新しい魅力を発見することが目的だったためか
モニターを前にして盛り上がりながら名画鑑賞といった雰囲気でした。
時には拡大された映像のさらに近くまで近寄って覗き込んでみたり。

現実の絵画だと、作品保護のために距離をとらなくてはいけません。
どうにか近くまで行けたとしても
有名どころは見たい人が大勢待機しているので順番を譲らなくてはならないし…。
細部を拡大しても画質が落ちず、筆跡の凹凸まで立体的に映し出してくれる映像を
みなさん大変お楽しみだったようです。

今回紹介されているような名作は既にたくさんの人が鑑賞・研究しています。
番組内の発見も人によっては既に知っているでしょうし、
別の人にとってはどうでも良いことだったりするかもしれません。
それでも新しい注目ポイントをさがしてそこから絵画の見方を広げていくのは楽しそうです。
特大の8Kモニターがあるとより便利かもしれません(笑)

おうちでオルセーを楽しむために BS8Kから「オルセー美術館 太陽の手触り/月の肌触り」再放送と、Google Arts & Cultureのこと

2020年2月2日(日)と3月1日(日)にNHKのBS8Kで放送された
8K撮影によるドキュメンタリー
「オルセー美術館 太陽の手触り」と「オルセー美術館 月の肌触り」(各60分)は
2020年4月に再放送されることになりました。
(BS8Kの視聴には8Kに対応した設備が必要です。くわしくはBS8Kの視聴方法をご覧ください)

「太陽の手触り / 月の肌触り」
4月 7日 15時~ / 16時~
4月 9日 10時~ / 11時~
4月13日 11時~ / 12時~
4月14日 19時~ / 20時~

番組ホームページ

また、オルセー美術館はGoogle Arts & Cultureで館内と展示の一部を公開しています。
博物館や美術館の休館が続くいま、
おうちからフランスの美術館へ出かけてみるのは如何でしょうか。

Google Arts & Cultureへはこちらから