2022年最初の日曜美術館は、豪華プレゼンターによる「♯アートシェア」。
今回のアートシェアでは、単独の美術品やアーティストだけではなく、
新型コロナウイルスの感染拡大による自粛期間を乗りこえて再開された
展覧会やアートイベントも紹介されました。
2022年1月1日の日曜美術館
新春SP 「♯アートシェア2022」
放送日時 1月1日(土) 午前10時15~11時15分
再放送 1月9日(日) 午前9時~午後10時・午後8時~9時
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
「再生」の2022年、出会えるアートは?超豪華プレゼンターが紹介する。洋の東西の至宝が集結する大注目展覧会の「推し」を荒木飛呂彦とヤマザキマリが。ヘドラをデザインした特撮美術の巨匠展を永山瑛太が。白銀の夜の美術館を橋本愛が。今年消える?名建築を中野信子と樋口真嗣が。熱狂と感涙の祝祭を菅原小春が。収録は水鏡が雪の峡谷を映し出す「光のトンネル」。(日曜美術館ホームページより)
ゲスト
水原希子 (俳優・モデル)
北川フラム (アートディレクター)
原田マハ (小説家)
出演
豊福亮 (アーティスト)
小野塚正司 (東川小学校OB・《最後の教室》管理担当)
荒木飛呂彦 (漫画家)
ヤマザキマリ (漫画家)
永山瑛太 (俳優)
三池敏夫 (特撮美術監督)
橋本愛 (俳優)
片岡真実 (森美術館館長)
金沢寿美 (アーティスト)
中野信子 (脳科学者)
樋口真嗣 (映画監督)
KOE (コスプレDJ)
菅原小春 (ダンサー)
山川陽子 (画家)
國友裕一郎 (須賀IXANAI連代表)
大地の芸術祭2022(新潟県越後妻有)
新潟は越後妻有で3年ごとに開催される「大地の芸術祭」。
2021年夏の第8回が延期になり、今年の春以降に改めて開催される予定です。
芸術祭の総合プロデューサーである北川フラムさんは、
アートには祭りなどに代わって人々を繋ぐ効果があることに
人々が気づいてきていると語り、
今後アートを中心としてより地域を盛り上げていく未来を期待しているようでした。
(妻有では「大地の芸術祭」にあわせて修学旅行の予約が増えているそうです)
今回は水原さんがいち早く会場を訪れて、
2021年までに制作された作品を紹介しました。
マ・ヤンソン&MADアーキテクツ《Tunnel of Light(清津峡渓谷トンネル)》2018
司会の小野正嗣さん・ゲストの方々がいる場所はスタジオではなく、
閉鎖された清津峡渓谷をアートスポットとして再生した「清津峡渓谷トンネル」。
壁面や水鏡の床に渓谷の風景が映り込む幻想的な風景ですが、ちょっと寒そうでした。
豊福亮《樂聚第》2021
水原希子さんがまず訪れたのは、去年の開催に合わせて作られた作品です。
標高384mの山頂にある「松代城展望台」の中に設けられた黄金の茶室。
中に入ると、壁には日本の四季を彩る動植物の絵が並んでいます。
作者の豊福亮さんは、コロナを乗りこえた人たちにとって
地方にくること・自然の中にいくこと(とくに旅をすること)が
今までとは違う風に感じられるだろうと考え、その状態で
「こういう作品を見て回ることがどうなるのか楽しみ」と語っていました。
クリスチャン・ボルタンスキー&ジャン・カルマン《最後の教室》2006
次に水原さんは、第3回の芸術祭で作られた作品を訪ねました。
25年前に廃校になった旧東川小学校の校舎の中に
光を使って降り続く雪の残像を映した作品は「人間の不在」を表しているそうです。
中に入ってまず「ワラの匂い」を感じた水原さんは、
暖かい色をしたライトの光に「人の存在みたいなものを感じる」と言います。
作品そのものは無人の空間ですが、匂いや光が
かつてそこにいた人たちの存在を思い起こさせる装置になっているのかもしれません。
作品の管理をしている小野塚正司さんは、作品とともに過ごすうちに
「作者はどんな感覚で作ったのか」と思うようになり、
「意外と居心地がよくなってきた」といいます。
メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年(大阪市立美術館・国立新美術館)
大阪 2021年11月13日(土)~2022年1月16日(日)
東京 2022年2月9日(水)~2022年5月30日(月)
ニューヨークのメトロポリタン美術館からやってきた
西洋絵画史を代表する選りすぐりの傑作65点(うち46点は日本初公開)から
お気に入りを紹介するのは、荒木飛呂彦さん。
番組で挙げられた2点は、どちらも日本初公開作品です。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《女占い師》おそらく1630年代
荒木さんが「絶対に見逃せない」「傑作中の傑作」と称えるのが、
20世紀に再評価されたフランス古典主義の巨匠による風俗画です。
占い師の女性と話をしている裕福そうな男性から
(おそらく占い師とグルの)女性たちが財布や宝飾品をすり取る一場面。
荒木さんはこの絵の「おいしそう」で「ショートケーキで塗って描いてる」
ような色彩や柔らかな質感が好きなんだそうです。
またキャラクターそれぞれの役柄に応じて
表情豊かな動きをする手の表現がとても良いんだとか。
ルカス・クラーナハ(父)《パリスの審判》1528頃
「ポージングが現代のファッションモデル」と言われるのは、
3柱の女神たちがトロイアの王子パリスに最も美しい1柱を選ばせようとしている
ギリシャ神話の一場面を描いた作品です。
女神たちのポーズは人の取る姿勢としては不自然だけれども、
だからこそファンタジー感があり、見る人の印象に残るという荒木さん。
数々の独特のポージング(いわゆる「ジョジョ立ち」)を生み出したプロとして、
親近感があるのでしょうか。
東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」
2022年10月18日(火)~12月11日(日)
ヤマザキマリさんは、東京国立博物館の150周年を記念して
所蔵する国宝89点を全て展示する(会期中展示替えあり)展覧会から
安土桃山時代の屏風2点を紹介します。
狩野永徳《檜図屏風》安土桃山時代/長谷川等伯《松林図屏風》安土桃山時代
もとは豊臣秀吉が作らせた大邸宅の襖絵だったという《檜図屏風》。
金色の背景に、檜の大樹を鮮やかな色彩で存在感たっぷりに描き出した作品は、
ヤマザキさんいわく「どんなショボい人が入ってきても『うわーっ!』ってなる」
さながら少女漫画の背景に描かれる薔薇のような効果が期待できる逸品で、
「秀吉の業のようなものが表れている」気がするそうです。
一方《松林図屏風》は、日本水墨画の傑作。
霧に包まれた松林が、墨だけを使って表現されている様子に、ヤマザキさんは
「樹木を描きたいんじゃなくって霧を描きたいんだなって」
「じっと見つめるべき絵ですね」といいます。
描かれている木々のほかにも、もっとたくさんの木が隠れているのではないか…
そんなことを思わせる絵に、
「もっとおばあさんになったら こういう漫画が描けるかも」
というヤマザキさんでした。
この2つの絵を並べてみると、
自分の生命力とエネルギーで成功したい、という若い時代と、
承認欲求などどうでもいい、という枯れた時代、
(現在のヤマザキさんは後者が近いとか)
生きていくうえで経験する2つの世界を
象徴的に表現しているように見えるそうです。
《竜首水瓶》飛鳥時代
同じ展覧会からゲストの原田マハさんが選ぶのは、
「トーハクの至宝中の至宝」《竜首水瓶》です。
原田さんが何度も見に行って「マイ国宝」というほど惚れ込んでいるこの水差しは、
名前の通り注ぎ口が竜の顔になっているのが特徴。
ササン朝ペルシアでポピュラーだった形です。
角度によって凛々しかったり可愛らしかったりする竜の表情はもちろん、
シルクロードを伝って入ってきた西洋文化を思わせるペガサスの文様も見どころ。
もともとは唐からの伝来物だと思われていたのが
最近の研究では飛鳥時代に日本で作られたという説も出てきたと言いますから、
色々な意味で注目すべき国宝と言えるでしょう。
生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展
2022年3月19日(土)~6月19日(日)
1971年公開の『ゴジラ対ヘドラ』に登場した
公害怪獣ヘドラをこよなく愛する永山瑛太さんは、
ヘドラの生みの親である井上泰幸(1922-2012)を回顧する展覧会を企画している
東京都現代美術館のバックヤードを訪れました。
井上は井上の創造性と細部に至るこだわりで日本の特撮映画の礎を築いた人物です。
永山さんは、見ごたえのあるヘドラの原画や『ゴジラ対ヘドラ』の脚本に触れ、
充実した時間を過ごしたようです。
ヘドラのフィギュアやTシャツも自分でデザインしてしまった永山さんは、
自分の手でゴジラ対ヘドラを実現する計画もあるんだとか。
企画が実現する時、これらの資料はきっと力になることでしょう。
特撮美術監督として後輩にあたる三池敏夫さんは、
特撮の功労者でありながらずっと「知られざる人」だった
井上の功績にあらためて明らかにされることを嬉しく思っていると言っています。
青森県立美術館「ナイトミュージアム」
最近、各地の美術館で開催されている「ナイトミュージアム」
昼間とはまた違う美術館の姿を楽しむイベントとして人気があるようです。
橋本愛さんは、青森県立美術館のナイトミュージアムに参加しました。
青森県立美術館では不定期に
開館時間を20時まで延長するナイトミュージアムを実施しています。
(2021年は8,9,11,12月に開催されました)
奈良美智《あおもり犬》2006/《Miss Forest/森の子》2016
橋本さんが「想像の150倍くらいありました」と興奮気味に反応したのが、
青森県出身のアーティスト奈良美智による高さ8.5mの野外彫刻《あおもり犬》。
建築と一体化したこの作品は、展示室の中から見ることができます。
同じく奈良美智制作の《Miss Forest/森の子》は、
美術館南側にある「八角堂」に設置されている高さ6mのブロンズ像。
粘土のような柔らかさを感じさせる優しい雰囲気の作品です。
橋本さんが訪れた日は雪と小雨で
《あおもり犬》には雪が積もり帽子をかぶっているようで、
《森の子》は表面についた水分で泣いているようでした。
橋本さんは何かにじっと耐えているような《あおもり犬》と
大地や森に人間が与えてきた傷と悲しみを静かに訴えているような《森の子》の
内面に共感を寄せているように見えました。
マルク・シャガール《バレエ「アレコ」のための背景画》
青森県立美術館の中心には、マルク・シャガール(1887-1985)が
第二次世界大戦中に亡命していたアメリカで
「バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)」のために制作した
全4幕のバレエ「アレコ」の背景画を展示する「アレコホール」があります。
(《ある夏の午後の麦畑》のみ、アメリカのフィラデルフィア美術館より長期借用中)
第1幕《月光のアレコとゼンフィラ》
第2幕《カーニヴァル》
第3幕《ある夏の午後の麦畑》
第4幕《サンクトペテルブルクの幻想》
それぞれの大きさは、およそ9m×15m。
これらの作品に四方を取り囲まれたホールの中では、
「アレコ」の世界に迷い込んだような気分になれるかもしれません。
橋本さんは特に第1幕がお気に入りになったようです。
金沢寿美《新聞紙のドローイング》シリーズ
「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」(森美術館)
2022年6月29日(水)~11月6日(日)
片岡真実さんは、審査員を務めた「CAFAA賞 2020-2021」(現代芸術振興財団主催)の
グランプリを受賞した金沢寿美さんを紹介しました。
新型コロナウイルスが登場して今年で3年目。
金沢さんの作品は、そんな中で毎日をどう生きていくべきかということを
考えさせてくれるといいます。
(金沢さんの制作に対する姿勢にも表れているような?)
金沢さんの《新聞紙のドローイング》は、
本物の新聞紙を一部を残して鉛筆で塗りつぶしたもの。
鉛筆の黒で塗られた中に塗り残しが点々と残っている様子は、
遠目に見るとまるで星空のように見えます。
これらの作品は、金沢さんの落書きから偶然生まれたものだったそうです。
その中で一瞬、まったくちがう夜空めいたものが浮かんだ時、
「違う視点が見えた瞬間が美しかった」ことから制作がはじまりました。
金沢さんが見開き一枚を塗りつぶすのに使う時間は丸3日。
これまで制作を続けてきた6年間で、およそ400枚の新聞紙を塗りつぶしたそうです。
過去の作品にはコロナウイルスが浮かんでいる者もあれば、
その日の出来事を示す文字が残されているものも。
ここ数年の時間と、その中に浮かび上がる小さな出来事のつながりが混在する世界を、
片岡さんは星座に例えています。
黒川紀章《中銀カプセルタワービル》1972
中野信子さんが選んだアートは、
セカンドハウスとして使っていたという中銀カプセルタワービル。
寝泊まりに必要なものを備えたカプセル型のユニットが集合した形が
「ドラム式洗濯機を積み重ねたよう」だといわれる、50年前の集合住宅です。
このビルが完成してからずっと気になっていたという樋口真嗣さんを案内しました。
樋口さんは住み心地が悪そうな空間を想像していたそうですが、
丸い窓や壁に収納されている作り付けの家具が
(ダイヤル式の電話やオープンリールのステレオに時代を感じます)
宇宙船を思わせる室内は意外と快適そう。
中野さんも「この大きさであることがいい」と言います。
お2人は、部屋にあわせて特別にデザインされた設備に
「設計した人間の欲望だけでできてる感じ」
「社会と折り合いをつけてない」
「むしろ俺が社会をデザインしてやる!/変えてみせる!」
といった意気込みを感じ取っています。
このビルをデザインした黒川紀章(1934-2007)は、完成当時38歳。
樋口さんいわく「負ける気がしない」血気盛んな年齢でした。
汎用品を当てはめてコストダウンをはかったりしない、
こんな建物が作られ愛されてきたことについて、中野さんは
「利便性に流れないものをどれだけ抱えておけるのかがある種文化のバロメーター」
と語りました。
中銀カプセルタワービルは、黒川が細胞の新陳代謝をヒントに辿り着いた
「メタボリズム建築」を形にしたものです。
本来ならカプセルのひとつひとつが
25年程度のサイクルで交換・増築を繰り返して常に成長していくはずでしたが、
現実にはさまざまな事情から(技術的に可能でも実現は困難など…)
交換が行われることはありませんでした。
その代わりのように住人によるリノベーションが進み、
まったく違った部屋に生まれ変わっている部屋が幾つもあるそうです。
趣味の部屋として利用しているコスプレDJのKOEさんの部屋は、
ゴジラやガメラがまわるターンテーブルをはじめ、
好きなものが詰めこまれた空間になっていました。
(オリジナルの中銀カプセルタワービルグッズまであります!)
昨年の3月に敷地の売却が決定し、住人の退去が進んでいる中銀カプセルタワービル。
取り壊しを前に、30以上の海外の美術館から
カプセルを譲ってほしいという申し出が相次いでいるそうです。
よさこい祭り(高知県高知市)
全国から集った踊り手が4日間にわたって高知市内を踊りまわる「よさこい祭り」。
菅原小春さんは、2019年によさこいに出会ったことがきっかけで高地に移住しました。
2020年、2021年とよさこいが中止だったことを考えると、運命的なタイミングです。
初めてみるよさこいを、参加者がみな
ダンスの「魂よりももっと中にあるもの」で踊っていると感じて
「1人じゃないっていう感覚になった」という菅原さんは、飛び入りで踊りに参加。
その時の姿は、山川陽子さんによって絵になりました。
2019年に一緒に踊ったチームの人たちも
2022年によさこいが復活することを願って練習を続けています。
(菅原さんも時々参加するそうです)
國友裕一郎さんはチームの代表として、
高知で頑張りながら現在踊ることができない人たちとも連携を取って
「良いエネルギーを発信できたら」と語りました。
感染状況が許せば、今年の8月は2年ぶりに「よさこい祭り」が見られるはずです。
2022年はアートに会いに出かける年に?
原田さんは、コロナ下でアートと離れ離れになっている時間を
「やっぱりこんなにも、私たちはアートが必要だったんだ」と
再確認する時間と位置づけて、
「今年こそは私たちの友達であるアートに会いに出かけていきたい」と希望を語ります。
水原さんもアートと触れ合うことが、
自分を再確認し、新しい自分を見出し、さらに自分の感覚を拡張する
効果をもたらすことを再確認して、
「今年こそはいろんなところに出かけて、いろんなタイプのアートに触れたい」と
決意表明しました。
水原さんの言葉を受けた小野さんは、
アートを「人の可能性を拡張してくれるもの」と定義して、
自粛の2年間は「その可能性を奪われてきた」と振り返ります。
そんな中でも自分たちに何ができるか考えて、共有してきた幾つもの試みがあり、
(#アートシェアもそのひとつです)
そしてとうとう長いトンネルを抜けた今年、
トンネルの先に新しいアートの可能性を見る一年になることを期待して、
2022年初の日曜美術館は終わりました。
本当に、今年こそは何の心配もなくアートに会いに出かけられる年になると良いですね!