日曜美術館「至宝が伝える天平の夢 〜第74回正倉院展〜」(2022.11.6)

奈良国立博物館で毎年恒例の正倉院展、今年は10月29日から開催されています。
(11月14日まで)
日曜美術館では、中国や朝鮮半島からインド、ペルシアなど、
大陸とのつながりを感じさせる品々が紹介されました。

2022年11月6日の日曜美術館
「至宝が伝える天平の夢 〜第74回正倉院展〜」

放送日時 11月6日(日) 午前9時~9時45分
再放送  11月13日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

年に一度、奈良・正倉院の貴重な宝物を公開する「正倉院展」。今年は初出陳8件を含む、59件が出陳。「国家珍宝帳」に記載される繊細な装飾を施した「八角鏡」や聖武天皇が身近においた象を描いた「びょうぶ」など正倉院ならではの宝物が一堂に会する。今年注目されるのは法要を華やかに彩った伎楽の面や、天平の人々の装いにまつわる品々。天平時代の宝物に込められた現在にも通じる願いや喜びを、尾上右近さんと一緒に探る。(日曜美術館ホームページより)

ゲスト
井上洋一 (奈良国立博物館館長)
尾上右近 (歌舞伎俳優)

出演
西川明彦 (宮内庁正倉院事務所前所長)
山本晃久 (鏡師)
北村繁 (漆工芸家)
亀井亮子 (装潢師)
中村力也 (宮内庁正倉院事務所保存課長)
三本周作 (奈良国立博物館研究員)


国際色豊かな天平の宝物

正倉院宝物の多くは奈良時代の日本で作られたものですが、
中には中国(唐)や朝鮮半島(新羅、渤海など)、
ササン朝ペルシア、東南アジア諸島などの製品も保管されています。
また外国の文化は日本で作られたものにも影響を与えており、
大陸との交流を深めた聖武天皇(701-756)の時代を思わせます。

漆背金銀平脱八角鏡(しっぱいきんぎんへいだつのはっかくきょう)

平脱は、漆を塗った上に文様をかたどった金や銀の薄板を乗せて
さらに漆をかさねた後で研ぎ出す方法です。
奈良時代に伝来した技法ですから、当時は最先端の技術だったことでしょう。

こちらは銅鏡の裏に黒漆を塗り、
平脱で鳥や鳳凰、唐草などを現した華やかな鏡で、
光明皇后が大仏に献納したものです。

銀壺(ぎんこ)

胴の直径は60センチある銀製の壺。
鳥、植物、馬に乗った人物など様々な文様が描かれ、
背景は隙間なく魚子(魚の卵のような小さな円文)がほどこされています。
正倉院に伝来する器の中では最大のもので、やはり大仏にささげられた供物です。

馬の上で振り向きざまに矢を射る人物はペルシア起源の文様ですが、
ここで描かれている人物は中華風の服装をしていて
様々な文化がまじりあっています。

象木﨟纈屛風(ぞうきろうけちのびょうぶ)

6つの板(扇)を組み合わせた屛風の一部。
布に蝋で文様を描き染料で染めた後に蝋を取り除く「ろうけつ染め」の技法で
大きな木とその周りでくつろぐ動物たちを表現しています。

中央で一番目立っている象は当時の日本にはいないはずの動物ですが、
なぜか非常にリアルな姿。
よく見ると一度ろうけつ染めをした後から白い絵の具を塗り重ねて
より本物らしい形に修正した跡があります。
西川明彦さんによると、
監修か制作に本物の象を見たことがある人(もしかすると海外出身の人)が
かかわっていた可能性がある、とのことでした。

鳥獣花背円鏡(ちょうじゅうかはいのえんきょう)

中国の唐で作られた鏡。
直径およそ30センチの丸いスペースの中には
葡萄の唐草と動物たちが配置されています。

外側の縁には様々な鳥や獣が駆け巡る様子があらわされ、
中にはペルシア由来のペガサスの姿も。
内側には8組の獅子の親子がいて、
中央の紐通しの部分(鈕)も鹿を食べる獅子の親子をかたどっています。
すべての文様が細かい部分まではっきりと表現されていて、
技術の高さがうかがえるようです。。

現在まで銅鏡を作り続けている「山本合金製作所」の山本晃久さんによると
おそらく当時最先端の技術だった蝋型による製作だろうとのこと。
蝋型は柔らかい蝋で作るために細かい文様が作れるそうですが、
それでもここまで細かい細工は「希代の職人」と言われるような
名人の作のようです。

井上洋一さんいわく、こういった時の権力者や神仏にささげる作品は
絶対的存在に対する畏れもあって、いい加減なものは作れないし作ってはいけない。
だからこそ、優れた職人が最先端の技巧を用いて作る
最高峰の作品が生み出されるわけです。


752年の東大寺大仏開眼会

今から1270年前の752年に行われた
東大寺の大仏開眼会(新しく作った仏像に眼を入れて魂を迎える儀式)には、
国内外の人を合わせて総勢1万人が参加したそうです。
仏の座す極楽を再現した堂内は特別な装飾をほどこされ、
参加者を楽しませる芸能も演じられました。

金銅幡(こんどうのばん)

法会の際に仏殿を飾る旗を「幡」といいます。
正倉院には織物で作った幡もたくさん伝わっていますが、
これは金属製の透かし彫りで金メッキをほどこしてあります。
透かしの部分には鈴がつけられ、飾られていた当時はその音色も
見る人を楽しませていたのかもしれません。

蓮華残欠(れんかざんけつ)

ハスの花や葉をかたどった高さ30センチほどの置物で、
仏前に飾られてました。
花や葉の部分は木製で金銀の箔が貼られています。
金属製の茎が柔らかく曲がりくねっていて、非常に立体的なつくりです。

伎楽面(ぎがくめん)

伎楽は滑稽で分かりやすいストーリーに教訓的な要素も入った仮面劇です。
日本には百済から伝わり、全国の寺院で演じられました。
仮面は女性・貴公子・王様・動物など様々で、
今年展示されているのは呉女、呉公、力士の3つ。

白い顔で髪を結っている呉女は中国の高貴な女性、
青色の顔で笑顔の呉公は笛をたしなむ貴公子、
赤い顔で怒り顔の力士は悪者を懲らしめるつわもの…と、
それぞれ決まった役回りがあります。
尾上右近さんは「どういう人格なのか想像しやすい」仮面の表現に注目していました。


天平時代のファッション

天平時代の貴族が好んだファッションにも
大陸の流行が取り入れられています。

斑犀把緑牙撥鏤鞘金銀荘刀子(はんさいのつか りょくげばちるのさや きんぎんかざりのとうす)

長さ18㎝ほどの小刀は、紙を切ったり木簡の字を削ったりする時に使う文房具。
こちらは柄に赤く染めた犀角を使い、
緑色に染めた象牙の鞘には金で鳥や植物などの文様をあしらった贅沢なものです。

貴族たちはそれぞれオリジナルの刀子をあつらえ、豪華さを競ったんだとか。
今でいうなら万年筆をオーダーするようなものでしょうか?

紐類残欠(ひもるいざんけつ)、犀角魚形(さいかくうおがた)、彩絵水鳥形(さいえのみずどりがた)

刀子などの文房具を身につけるときは、紐に結んで腰から下げていました。
正倉院に残っている紐を見ると、太めの組み紐を帯に結び、
そこから細い紐を何本もたらして様々なものを結び付けていたようです。

文房具だけでなくアクセサリーも吊るしていたようで、
犀角を魚の形に加工して金で鱗を描いた3.6cmほどの魚はそのひとつと思われます。

また鳥の形に切ったヒノキの板を彩色し
カケスの羽毛と金箔で飾った2.6㎝ほどの鳥は、
左右一対で衣服に直接飾っていたようです。
(犀角魚形と彩絵水鳥形は拡大写真も展示されています)

裛衣香(えびこう)

唐の薬方書にしたがって、沈香・丁子香などの香料を調合した香り袋で、
虫よけや衣装の香りづけに使われました。
正倉院事務所では1905年から1993年まで毎年
宝物の裛衣香をまねた香り袋を作り、実際に利用していたそうです。

日曜美術館では特別に小野さんと尾上さんの生まれた年の裛衣香を借り、
香りを確かめていました。
(画面越しのため香りがわからないのが残念)
布でくるんで口を絞ったシンプルな形で、
見た目とサイズは肉まんに似ています。


仏教の道具類

インドで生まれた仏教は、
シルクロードから中国・朝鮮半島を通じて日本に根付きました。
儀式で用いられる道具は多くが古い形を残したまま
現在まで使い続けられています。

犀角銀絵如意(さいかくぎんえのにょい)

お坊さんが手に持つ孫の手のような道具で、インドにルーツがあります。
唐では皇帝や貴族の持ち物で、贅を凝らした如意が作られたとか。

先端の折れ曲がった部分に貴重な犀の角を使い
銀の線で植物を描いたこの如意も相当に豪華なもので、
どんなシチュエーションで使われたのか気になります。

鉄三鈷(てつのさんこ)、素木三鈷箱(しらきさんこのはこ)

密教儀式の道具と思われる鉄製の道具で、
柄の両側に三叉の銛がついたような形をしています。
先端が鋭くとがり、かえし(獲物に食い込んで抜けにくくするさかとげ)も付いていて
見た目は本物の銛のよう。
三本周作さんによるとこれは己の煩悩や邪気を払う武器をイメージしたもので、
確かに悪いものと戦えそうな凄みを感じます。

もちろん本当に戦うものではなく、
現在まで続く東大寺二月堂の修二会(旧暦の二月に行われる厄払いの法要)でも
似た形の仏具が使われています。

収納用の素木の箱は鉄三鈷がぴったり収まる形の溝をつけたもので、
大切に保存されていることを物語っているようです。


「第74回 正倉院展」(奈良国立博物館 東新館・西新館)

正倉院展の概要とチケットについては、こちらの記事もどうぞ。

奈良市登大路町50番地

2022年10月29日(土)~11月14日(月)

9時~18時
※金・土・日曜日、祝日(11月3日)は20時まで
※入場は閉館の60分前まで

会期中無休

一般 2,000円
高大生 1,500円
小中学生 500円
キャンパスメンバーズ学生 400円
障害者手帳またはミライロIDの提示で本人と介護者1名無料
奈良博プレミアムカード会員は1回目及び2回目の観覧無料
※すべて事前予約のみ
※入場無料対象者も無料指定券の予約・発券が必要

チケットサイト
ローソンチケット(58885)
電話受付(0570-000-028)

公式サイト