日曜美術館「日本の原風景〜広重の “木曽海道六十九次”〜」(2020.09.13)

渓斎英泉・歌川広重によって制作された名所絵のシリーズ
《木曽海道六拾九次》のうち、広重によって描かれた作品を紹介。
広重の絵を鑑賞することで版画の見どころから
版元の思惑や摺師の苦労まで、色々なものが見えてきます。

2020年9月13日の日曜美術館
「日本の原風景〜広重の “木曽海道六十九次”〜」

放送日時 9月13日(日) 午前9時~9時45分
再放送  9月20日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー) 平泉成(俳優)

雨や雪など自然の変化を巧みに織り交ぜて日本の風景を情緒豊かに描き出し、“風景の叙情詩人” と呼ばれる歌川広重(1797-1858)。その代表作の一つに、中山道の名所や宿場を網羅したシリーズ版画『木曽海道六拾九次』がある。番組では、『木曽海道六拾九次』を、旅・自然・人間という3つの視点から広重風景画の魅力を紹介するとともに、摺(す)りの再現などを通して、広重の技の秘密を明らかにする。(日曜美術館ホームページより)

出演
菅原真弓 (大阪市立大学 教授)
中垣絵理 (中山道広重美術館 学芸員)
渡辺英次 (浮世絵・新版画摺師)


《木曽海道六拾九次》天保6~8(1835-1837)頃

木曽街道(中山道)にある69の宿場に、
江戸の日本橋を加えた70箇所の風景を描いた名所絵《木曽海道六拾九次》は、
江戸後期に活躍した渓斎英泉(1790-1848)と歌川広重(1797-1858)による連作です。
9月13日の日曜美術館で紹介された作品は、すべて広重の絵でした。

江戸と京都を結ぶ街道のひとつである木曽街道は、またの名を中山道というように
山を越えていく内陸の道なのですが《木曽海道六拾九次》は「海道」となっています。

風景と人

菅原真弓教授によると、
雨・雪・月など絶えず変化する自然の風景の一瞬を切り取った場面に
いかにもその場所にいそうな人々を配置することで、
まるでそこに行ったことがあるようなイメージを呼び起こすんだそうです。

言われてみれば紹介された広重の名所絵は
横殴りの雨に追われて屋根の下に駆け込む人々(須原)や
焚火の日が照らす闇夜の中でタバコの火を分け合う人たち(軽井沢)、
雪の中進む旅人の着物や馬のタテガミにも真っ白に雪が積もっている様子(大井)など、
臨場感のある情景。

菅原教授が一番好きな1枚だという《小田井》も
ススキが生い茂る風景の中で
右から来る僧侶と(「本堂造隆」の幟で、寄付を集める行脚だと分かります)
左から来る3人の巡礼(先頭は赤ん坊を抱えた若い父親で母親らしい人はいません)が
すれ違おうとするところを描いたものです。

静止した場面のはずなのですが、
その中で繰り広げられる物語が見えるような気がしてきます。

絵師と版元

自然の情景とそれと結びついた人の姿を描いた広重は
季節・天候・時間といった要素にはかなり敏感だったと思われますが、
それがすべての作品に反映されたかといえば
なかなか思うに任せない時もあったようです。

たとえば山道を進む大名行列を描いた《落合》。
初摺では冬枯れの黄色い山が画面の大部分を占めていて、
行列の人たちもどこかくたびれた様子に見えます。
ところが後摺になると山の色が緑に塗り替えられ、
新緑の中を進む行列もなんだか生き生きとした様子に見えてきます。

中山道広重美術館の中垣絵理さんによると、緑の山の方が売れるだろうという
版元の計算でこうなったのだろうとのことですが、
浮世絵は必ずしも絵師の思い通りに仕上げられるものではなく、
版木に起こす彫師、版木に絵の具をつけて紙に写す摺師が
独立して作業を行うもので、しかも版元の意向で変更されることもありますから
行程の途中で最初の予定と違う絵になってしまうこともあったようです。

摺師の苦労

番組内で《洗馬》を再現した摺師の渡辺英次さんは、
広重の叙情ある空気感を再現する作業を
「面白いけど摺るの大変ですよね」といいます。

《木曽海道六拾九次》の中でも傑作と言われるこの作品は
満月が浮かぶ夕暮れの空の下、2艘の小舟が通り過ぎていく様子を描いていて
赤、青、薄墨などたくさんの色が重なり合う空の色は圧巻。
墨の輪郭線から仕上げまで、19回も摺りを重ねるんだそうです。

どのようにして描いたか?

《木曽海道六拾九次》は長いこと現地に行って取材したものではなく、
先行の作品をお手本にして制作したと考えられていました。
たとえば《上ヶ松》は数年前に出版された
葛飾北斎の《諸国瀧廻り》に同じ風景が描かれており、
《鳥居本》は《木曽路名所図会》を参考にしたようです。

ですが、菅原教授によると広重が手がけた《木曽海道六拾九次》のうち
少なくとも14点は現地を訪れて取材したものだと考えられるそうです。
大英博物館が所蔵している広重の手帖には
《垂井》《恵智川》《高宮》などの下絵と思われるスケッチが収録されていて、
これは現地取材で得た人の姿や風景を描き留めたものなんだとか。

実際に訪れることなく資料を見て、または想像で描いた図も多いのでしょうが、
先人が描いた絵や自分の取材によるスケッチを組み合わせて
臨場感のある物語を作りだした広重のセンスには脱帽です。


特別展観「木曽海道六拾九次之内」中山道広重美術館

岐阜県恵那市大井町176-1

2020年8月27日(木)~10月4日(日)

月曜休館(祝日を除く)
祝翌日、年末年始休館

9時30分~17時
※入場は閉館の30分前まで

一般 820円(660円) ※( )内は20名以上の団体料金
18歳以下無料
障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名まで無料
毎週金曜日はフリーフライデー(観覧無料)

公式ホームページ