日曜美術館「名もなき写真のチカラ 写真家 浅田政志」(2022.3.13)

その時々で設定を変える不思議な家族写真を集めた『浅田家』(赤々舎,2008)で
第34回木村伊兵衛写真賞を受賞した、写真家の浅田政志さん。
新作『私の家族』を作るきっかけになったのは、2011年の東日本大震災でした。
写真洗浄のボランティアを経て、特別注目されることはないけれど
「ある人」にとっては特別な一枚になる写真について考えるようになったそうです。

2022年3月13日の日曜美術館
「名もなき写真のチカラ 写真家 浅田政志」

放送日時 3月13日(日) 午前9時~9時45分
再放送  3月20日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

消防団や極道など架空の設定を演じきるユニークな家族写真で知られる浅田政志。しかし今、自分の色を出すのではない「名もなき写真」に心奪われている。11年前、東日本大震災の被災地で、津波に流された写真が、人々に寄り添い支えとなる姿を見たことがきっかけだった。多くの人ではなく、誰か一人の感情を揺さぶりたい。新たな写真のチカラを信じて新作に挑む浅田の半年を追う。(日曜美術館ホームページより)

出演
浅田政志 (写真家)
小田洋介
浅田家のみなさん(父、母、妻、長男、兄、兄の妻、兄の長男、兄の次男)

細井佑基と細井家のみなさん(父、母、妻、子、弟)
外之内加奈と外之内家のみなさん(父、母、夫、長男、次男、近所の人、飼犬)


『浅田家』のはじまり

浅田政志さん(1979-)が「家族写真」を撮り始めたきっかけは、
大阪の日本写真映像専門学校に通っていた時に出された
「写真1枚で自分を表現しなさい」という課題です。
小学校時代、父・兄・自分が同時に怪我をして
母が看護師をしていた病院に行った思い出からアイデアを得て、
お母さんは看護師の制服、他の3人は浴衣に包帯を巻いた患者スタイルで撮影した
「家族写真」は、専門学校の学校長賞に選ばれました。

家族全員が設定に沿った衣装をつけて演技をするおかしな撮影は、
浅田家の恒例行事として現在も続いています。
特に記念日でもなんでもない日に協力して作り上げる写真は、
撮影日が新しい記念日となる「記念日を作る記念写真」になるのではないかと
浅田さんは思っています。

2021年11月の「家族写真」は、
自分の家とお兄さんの家の子どもが全員小学生になったことから
ランドセル製造で有名な兵庫県で撮影しました。
球児と監督・女子学生・神戸マダムなど白一色で揃えた衣装での撮影は、
想像より風が強かったこともあって思うように進みません。
「寒い!」「はやく撮ってよー!」の声が上がります。
母・順子さんによると浅田さんは
自分の中で広がっているビジョンを「上手にみんなにプレゼンができてない」そうで、
撮影がスムーズに進まないのはいつもの事のようです。
撮影が終わると、始めてから2時間が経っていました。
甥の維芯くんいわく「終わった後が一番楽しい」「開放感がある」んだとか…

東日本大震災と新しい挑戦

さまざまな設定の家族写真などコミカルな作品を得意とする浅田さんですが、
11年前の東日本大震災がきっかけで、
これまでとは違った家族写真を考えるようになりました。

震災当時、浅田さんは青森県の八戸市で
地元の人たちと作品「八戸レビュウ」を制作したばかり。
震災は八戸のミュージアムでの展示期間中だったそうです。
八戸市を訪ねた浅田さんは「もっと大変な所に」という声を受けて
岩手県の野田村へ向かいました。

そこで出会ったのが、
津波で流された写真を洗浄し持主に返すボランティアをしていた
小田洋介さん(当時は千葉大学の大学院生)です。
浅田さんは織田さんたちの活動に参加するうちに、
写真が人々にとって大切な存在であるとそれまで以上に実感し、
非日常的で面白い写真ではなく何気ない日常の、
誰かにとって本当に大切な宝物としての写真
というイメージが湧いてきたといいます。

ボランティアと並行して写真洗浄の作業現場を取材した
『アルバムのチカラ』(藤本智士 文;浅田政志 写真)は
2015年に赤々舎から刊行。2020年に増補版が出ています。


『私の家族』プロジェクト

特定の誰かの大切な宝物になる写真。
そのイメージを形にしたのが、ある人にとっての特別な一枚を撮影して渡す
「私の家族プロジェクト」です。
浅田さんが目指すのは、写っているのはひとりでも
その人につながる家族の物語を伝えるような写真。
日曜美術館では、応募で選ばれた中から2組を選んで紹介しました。

細井佑基さん(写真スタジオ2代目)と細井家

お父さんと一緒に写真館を経営する細井さん。
浅田さんは「特別な一枚」のほかに、
細井さんと弟の直樹さんがお父さんが作った立派なアルバムを広げてみせる様子や
写真が苦手な母の初美さんが、台所の入り口から半分隠れて覗いている姿など、
家族それぞれの物語を織り込んだ写真も撮影しています。

細井さんは元々写真館を継ぐつもりはなく、
大学を卒業した後は別の仕事をしていました。
今も営業などスタジオの外でする仕事がメインなのですが、
浅田さんと一緒に特別な一枚を作り上げる過程で
お父さんを見直すきっかけになったそうです。
写真館の初代でもある父・貴さんの写真は、
これまで地元の人たちを撮影した大量のネガフィルムに囲まれて仕事をする姿。
細井さんの写真は、スタジオでカメラを構える姿になりました。

外之内加奈さん(酪農家4代目)と外之内家+α

「“自称” 築百年の古民家に四世代で酪農を営んで暮らしています」
という外之内さんのお宅には、額に入ったご先祖の写真が並ぶお座敷があります。
浅田さんはまず、母の登美さんとご先祖様の写真を入れて1枚。
酪農を始めたのは、外之内さんの曾祖父・登美さんの祖父に当たる人なんだそうです。
夫の知則さんと父の昌男さんは結婚してから酪農を始めた
昌男さんいわく「婿さん同士」の間柄。
浅田さんは男性2人のツーショットも撮影しました。

外之内さんは同級生だった知則さんを家族に紹介した時、両家が元々知り合いで
お爺さんと曽御祖父さんには仕事の付き合いもあったことを知りました。
ご近所には外之内家の子どもたちを可愛がってくれる武田たまえさんも住んでいて、
(こちらはお祖母さん同士が友だちだったとか)
外之内さんの「家族」は家や戸籍の区切りを超えてつながっているようです。
そんな「地域も含めた家族観」を表現するための「特別な一枚」は、
ご先祖様や今の家族が歩いている、家と牧場をつなぐ一本道で撮影されました。


「浅田政志写真展 だれかのベストアルバム」(水戸芸術館現代美術ギャラリー)

原点『浅田家』から最新作『私の家族』まで、本人の言葉とともに
浅田さんの作品をたどります。
入り口には原点となった専門学校の課題作の別ポーズ版が。

茨城県水戸市五軒町 1-6-8

2022年2月19日(土)~5月8日(日)

10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで

月曜休館 3月21日は開館し、翌3月22日休館

一般 900円
高校生以下・70歳以上 無料

公式サイト

浅田政志オフィシャルサイト

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