日曜美術館「伝統は冒険のために〜第68回日本伝統工芸展〜」(2021.9.19)

日本工芸会(公益社団法人)が開催する公募展「日本伝統工芸展」。
第68回にあたる2021年は、
陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の7部門の入選作に
人間国宝の新作45点を加えた560の作品が一堂に会します。

目次

2021年9月19日の日曜美術館
「伝統は冒険のために〜第68回日本伝統工芸展〜」

放送日時 9月19日(日) 午前9時~9時45分
再放送  9月26日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

卓越したものづくりが一堂に介す日本伝統工芸展。今年も、応募総数1200点あまりから選ばれた作品が全国十カ所を巡る。歴代最年少26歳の入賞者も誕生し、審査委員が「これしかないんだって開き直った構えのものが多い」と語る今年の作品たち。アトリエ訪問なども織り交ぜながら、入賞作16点全てを、美しい映像とともにお届けする。伝統に根ざしながらつむがれる冒険の数々をお楽しみに。(日曜美術館ホームページより)

出演
室瀬和美 (漆芸家・審査委員会副委員長)
しんたにひとみ (漆芸家・富山大学特命助教)
知念冬馬 (琉球紅型染織家)
小宮康義 (江戸小紋染織家)
安達征良 (ガラス工芸作家)
松枝崇弘 (久留米絣染織家)
高田和司 (仏師)
羽石修二 (陶芸家)
髙橋阿子 (金工作家)


第68回(令和3年)の日本伝統工芸展には「見る側がワクワクする」作品が

昨年の第67回に続き、コロナウイルスの影響下で開催される「第68回日本伝統工芸展」。
審査委員会副委員長の室瀬和美さんは、
「『(コロナ禍の)今これやってて良いのかしら』って思ったり?」
という柴田さんの質問に
「それはたぶん去年の思いだとおもう」
と答えます。

今年の伝統工芸展には
「私はこういう表現しかない」「こういう生き方しかない」「作っていくんだ」
という姿勢の作品が集まって、
「見る側がワクワクする、そういう審査でしたね」とのこと。
番組ではそんな作品たちの中から
入選作品16点を紹介しました。


小野正嗣さん・柴田祐規子さんのアトリエ訪問

漆芸
しんたに ひとみ《乾漆銀平文はちす箱》
(かんしつぎんひょうもんはちすばこ)
朝日新聞社賞

漆芸家のしんたにさんを富山大学高岡キャンパスに訪ねたのは、
大変お久しぶりな気がする小野正嗣さんです。
しんたにさんは1年ほど前から学生と机を並べて
漆芸・文化財修復の研究をしています。

「この日のために片付けて(笑)」という
しんたにさんの机の上には、仕切りのある箱が置いてありました。
箱の中にはコガネムシ・蛾・蜂など
日常生活の中で見つけた虫の亡骸が。

虫の死骸を拾い集めるのが「半分趣味」だというしんたにさんが
これらをモチーフに作り上げたのが《乾漆銀平文はちす箱》です。
丸みのある六角形の箱の蓋には、唐草で表現された蜂の巣と蜂の姿が。
側面には蜂が羽を広げた形が表され、
蓋をとると螺鈿の女王蜂が現れます。

ここに使われた「銀平文」は
厚さ0.2ミリの銀の板を糸鋸で切り抜いたもので、
正倉院の宝物にも同じ技法が使われていました。
しんたにさんが参考にした正倉院御物の
《銀平脱鏡箱》は丸い箱で、蓮の花をくわえたオシドリを
唐草模様が丸く囲んだ文が連なるデザインです。
しんたにさんは、オシドリがくわえている蓮から
「蓮の実(はちす)」を連想し、
それが「蜂の巣」「蜂」とつながって、この作品が生まれました。

染織
小宮康義《江戸小紋着尺「川蟬」》
(えどこもんきじゃく「かわせみ」)
日本工芸会奨励賞

東京の葛飾区にある「小宮染色工場」を訪れたのは、
こちらもお久しぶりの柴田祐規子さん。
まず驚いたのは、工房内の暗さでした。
小宮康義さんによると、
普段は真っ暗な中で作業をしているんだそうです。
細かい文様が生まれる場所としては意外な感じですが、
細かい柄を彫った型紙を布にあてて
その上から防染用の糊を置く作業は、
作業が終わる前に糊が乾くのを防ぐために最小限の明かりで行うようです。

小宮家は、小宮さんの曽祖父にあたる初代小宮康正さん以来、
小紋の人間国宝を輩出しており、
小宮さんは現在、三代目小宮康正である
お父さんの下で修業を積んでいます。
江戸小紋の世界では、代々続く柄を少しずつ変えながら
作り込んでいくのが普通ですが、
小宮さんは新しい柄を作ることを目指し、
今回出品した《江戸小紋着尺「川蟬」》も
一からデザインした作品です。

近所の公園に見にいったカワセミから着想を得たこの作品、
一見歪な扇形を組み合わせたようで
どこが鳥なのか首をかしげてしまいますが、
ひとつのパターンをパソコンで拡大した図を見ると
確かにカワセミの連続模様になっていました。
(小宮さんの小紋は、すべてパソコンでデザインしているそうです)

もし自分の着物として着た時には、会う人に「カワセミ!」と教えたいし
「カワセミなんだ!って言ってもらえたら嬉しい」と想像する柴田さんでした。

陶芸
羽石修二《窯変筒花器》
(ようへんつつかき)
日本工芸会会長賞

小野さんが茨木県笠間市にあるアトリエを訪れると、
羽石修二さんは焼物に使う薪を割っているところでした。

羽石さんは、40代の終わりごろに体力の低下で
「土を力で抑え込もうとしてもままならない」ようになり、
土の望む形に任せる自然なフォルムの作品へと
作風が変化していったそうです。

今回出品した《窯変筒花器》も、
そんな「粘土のなりたい方向」を形にした作品のひとつ。
弥生土器の甕を思わせる堂々とした姿で、
のこぎりの歯で斜めに櫛目を施した表面は
ところどころキラキラと光る青緑色。
この発色は、鉄分を含む4種類の土を配合して
焼き締めることで得られます。

器づくりの源はなんと「お酒」。
作風が変わったのも、
夜中にほろ酔いで工房に入ったのがきっかけだったそうです。
「轆轤引いてる時は、お酒をいただいてからやることが多いですね」
とのことですが、冗談なのか本気なのかは不明です。
一応、肩ひじを張らずリラックスして作ることで大らかな作品ができる
という理屈もあるみたいですけど…?

仕事場の中にもお酒を楽しむための
囲炉裏スペースまで作ってしまった羽石さんは、
「自然と人間とのかかわりを体現している」と評される
大らかな器たちを、家族に「怒られながら」作っているようです。


そのほか、2021年の受賞作品

人形
中村信喬《陶彫彩色「星河」》
(とうちょうさいしき「せいが」)
日本工芸会奨励賞

伝統的な博多人形の制作に41年携わってきた
中村信喬さんの作品です。
白い卵型の顔に筆でスッと描いたような
和風の顔立ちですが、目の色は青。
さらにダボっとしたズボンに高い襟のついた上着を着て、
金色の帽子をかぶった姿は
絵本のピエロのようにも見えます。
ズボンの幾何学模様は森、
上着に斜めに走る螺鈿の線は流れ星を現したもので、
夜の森とその上に広がる星空の景色を
人の形に落とし込んだような人形でした。

染織
知念冬馬《琉球紅型着物「朧型・島唐辛子」》
(りゅうきゅうびんがたきもの「おぼろがた・しまとうがらし」)
日本工芸会新人賞

知念家は、琉球王朝に使えた紅型三宗家の末裔。
知念冬馬さんはグラフィックデザインを学んだあと
29歳で祖父母の工房(知念紅型研究所)を引き継ぎ、
紅型の研究と製作を行っています。

琉球王朝の紅型を現代に合った着物として生まれ変わらせる
知念さんが今回出品した着物の模様は「朧型・島唐辛子」。
光を当てると向こうが透けてしまうような絹に型染を施したものです。
グレーの濃淡で花のような文様を現した地に
鮮やかな色の島唐辛子
(主に九州・沖縄で栽培されている小粒の唐辛子)と、
控えめながらも遊び心のあるデザインです。

染織
小林 佐智子《風通織木綿着物「青海」》
(ふうつうおりもめんきもの「おうみ」)
日本工芸会総裁賞

濃淡の異なる糸を縦横に組み合わせて格子模様を織り出す技法は
世界各国に見られる古典的なものです。
《風通織木綿着物「青海」》は白から深藍まで10色の糸を組み合わせ、
その濃淡がところどころ光って見えるような効果を生み出しています。
さまざまな色合いを見せる海の青と
岩に打ち付ける波しぶきを表現したダイナミックな作品は、
第68回日本伝統工芸展に応募した工芸品1240点の中で、
最高の評価を獲得しました。

諸工芸
安達征良《硝子花入「五月雨」》
(がらすはないれ「さみだれ」)
日本工芸会奨励賞

安達征良さんが目指したのは、
雨粒が車のフロントガラスを伝って垂れてくる様子をそのまま活かした器。

まず平行の線を刻んだガラス板をドーナッツ型の台に乗せ、
その下に花瓶の出来上がりの高さに合わせて空間を作ります。
2日がかりで徐々に温度を上げ、頃合いを見計らって一気に加熱。
(受賞作品は740度で5分40秒と、細やかな調整が必要な作業です)
柔らかくなったガラスが自然に垂れ下がった部分が花瓶の胴に、
台の上に残った部分が口になります。

素直な雫型、内側に刻んだ線が花瓶の形に沿って
緩やかなカーブを描く優雅な姿からは、
こんな緊張感にあふれた技術は思いもよらないのですが…

漆芸
水口咲《乾漆箱「新雪」》
(かんしつはこ「しんせつ」)
NHK会長賞

朱漆の肌は「塗り立て」という技法で仕上げたもの。
漆を塗った後磨かずにそのまま乾かして完成させる方法で、
木炭・磨き粉などを使って磨くことで
鏡のような艶を出す一般的な仕上げと比べて、
しっとりした柔らかい艶が出るのが特徴です。
言葉で言うのは簡単ですが、
少しでも刷毛の跡や埃などがつくと台無しになる、
とても難しい技法なんだとか。
ふっくらした形は夜の間に積もった雪の形を表現したもので、
たしかに雪が降ると、外に停めてある車の屋根が
こんな形になっていた気がします。

木竹工
甲斐幸太郎《桜拭漆器「望春」》
(さくらふきうるしうつわ「ぼうしゅん」)
日本工芸会保持者賞

春になると近所で見かけるハクモクレンの花を表現するために、
甲斐幸太郎さんは9年かけて構想を練ったそうです。
花弁の形を表現した柔らかいカーブや縁の薄さを見ると、
木を彫りだして作った作品だということが信じられなくなりそうなほど。
底の部分に「ちょこん」と付けられたハイヒールの踵のような足が
なんだかユーモラスな雰囲気を添えています。

木竹工
三浦信一《黒檀嵌荘匣「深山の彩」》
(こくたんがんそうばこ「みやまのいろどり」)
文部科学大臣賞

黒檀の樹で作った箱の表面に、染めた鹿の角や金属を象嵌して、
新緑の緑、秋の紅葉、雪と氷などを表す幾何学模様が描かれています。
作者の三浦信一さんがよく訪れる近所の山の風景を表現した作品で、
全体が尖頭アーチのような形になっているせいか、
ヨーロッパの山小屋や教会のような雰囲気もあるような気がします。

染織
松枝崇弘《久留米絣着物「森の光・雨音」》
(くるめかすりきもの「もりのひかり・あまおと」)
日本工芸会奨励賞

今年最年少で受賞した松枝崇弘さんの作品は、
藍で縞と幾何学的な絣模様を織り出した久留米絣。
遠目にもはっきりわかる濃淡の縞と、
濃い部分に規則的に配置されている白っぽい柄は
きっぱりした印象を与えます。
これからしっかり技術を身につけていきたいという松枝さんは、
今はこれから「どんな挑戦ができるのか」考えている時期。
今後どのような作品が生まれるのか楽しみです。

松枝さんは、昨年の第67回伝統工芸展に
久留米絣着物《光芒》を出品して高い評価を受けた
松枝哲哉さんの息子さんです。
(哲哉さんは2020年7月に亡くなりました)

人形
高田和司《木芯桐塑和紙貼「蒼天」》
(もくしんとうそわしばり「そうてん」)
高松宮記念賞

鷹匠の人形ですが、相棒である鷹はいません。
地下足袋と脚絆で固めた足もと、手に嵌めた革の手袋という服装、
手を差し出すしぐさと上空を見上げる表情で、鷹匠であることを伝えています。

作者の高田和司さんは木彫物を彫る仏師で、お坊さんでもあります。
4年前に人形制作の人間国宝の林駒夫さんに弟子入りし、人形師にもなりました。
「人形の目になって、この人形が何を見ているのか、何を考えているのか」
という先生の言葉を実践した作品です。

木竹工
五十嵐誠《楓造彫装箱》
(かえでづくりちょうそうばこ)
日本工芸会新人賞

白木の四角い箱。木の肌合いの美しさが目を引きます。
飾りと言えば角の部分に控えめな彫が入っただけの
そっけないほど単純な作品に見えるのですが、
5ミリに満たない小さな模様を規則的に
1600以上も刻み付けるのは、大変根気のいることだったようです。
作者の五十嵐誠さんは、この作業を朝の8時から夜の2時までくり返し、
10日余りかけて完成させました。

金工
近藤亮平《布目象嵌花文箱》
(ぬのめぞうがんはなもんばこ)
日本工芸会新人賞

金属製の丸い箱。
蓋には黒い表面いっぱいに描かれた花が浮かび上がり、
蓋のつまみが花芯になっています。
花弁の先端に控えめにほどこされ立体感を加えている金銀の箔は、
散らしたのではなく一枚一枚貼り付けられたもの。
輪郭線は細く伸ばした銀線で、
さり気なく箱の側面にも続いている模様も注目ポイントだと思います。

陶芸
林恭助《耀変流光彩深鉢》
(ようへんりゅうこうさいふかばち)
日本工芸会奨励賞

林恭助さんは、20年前に
国宝・曜変天目茶碗の再現に成功した陶芸家です。
今回出品の《耀変流光彩深鉢》は、
20㎏の土を使った大きな黒い器の一面に青白い禾目
(細かい筋のような斑紋を稲の穂先の芒に見立てた呼び名)が浮かぶ、
重々しくも軽やかな表情がある作品でした。

金工
髙橋阿子《蠟型鋳銅花器》
(ろうがたちゅうどうかき)
東京都知事賞

蝋で原型を作る鋳金は、自由で繊細な成型が可能になる一方で、
冷えるまでに形を完成させなければならない点が難しく、
担い手が少なくなっています。
そんな技術を受け継ぐひとりである髙橋阿子さんは今回、
引き延ばした蝋の形をそのまま活かした
《蠟型鋳銅花器》を出品しました。

硬い銅製の作品でありながらどこか柔らかそうな形、
深い縦ジワが不規則に入った様子は
杉やヒノキの樹皮のように見えますが、
髙橋さんによると、これはあくまでも「蝋自体の面白さ」だそうです。


第68回 日本伝統工芸展(日本橋三越)

中央区日本橋室町1丁目4−1 日本橋三越本店 本館7階(催物会場)

10時~19時(最終日は18時まで)

入場無料

9/15(水)~9/27(月)

東京展終了後、

  • 名古屋 9月29日(水)~10月4日(月)
  • 大阪 10月15日(金)~10月20日(水)
  • 金沢 10月23日(土)~11月3日(水)
  • 京都 11月5日(金)~11月7日(日)
  • 岡山 11月18日~12月12日(日)
  • 高松 1月2日(日)~1月16日(日)
  • 仙台 1月20日(木)~1月25日(火)
  • 福岡 2月2日(水)~2月7日(月)
  • 広島 2月16日(木)~3月6日(日)

に巡回予定

入選作品はすべて
公益社団法人 日本工芸会のホームページで公開されています。

また、受賞作品の解説動画がYouTubeで公開されています。