国立科学博物館の「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜―太田洋愛原画展」動画で無料公開中

上野の国立科学博物館では臨時休館中に会期が終わってしまった
「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜―太田洋愛原画展」をYouTubeで無料公開しています。
監修者である樋口正信先生(植物系統分類学…本当はコケがご専門だとか)の解説で
展示会場を回る充実した時間を過ごすのはいかがでしょう。
全3本の動画をすべて見ても、かかる時間は30分弱です。

「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜―太田洋愛原画展」

この企画展は2020年3月17日(火)から4月12日(日)までの予定でしたが、
2月19日から続く臨時休館の延長により開催期間が終了しています。

公式ウェブサイト

科博は4月7日のTwitterでこんな発表をしました。


「もう見られない…かも」の一文にがっかりした人も多いことでしょう…
嬉しいことにその3日後、10日にYouTubeで動画が公開されました。

もとからのファンはもちろん、
ボタニカルアートって何?という初心者にもわかりやすい内容だと思います。
なじみ深い桜を入り口に、植物画の世界に浸ってみるののはいかがですか?

動画(「かはくチャンネル」)

国立科学博物館は、新型コロナウイルス感染防止のため、当面の間臨時休館しています。
3月14日から4月12日までの期間、企画展「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜 −太田洋愛原画展−」を開催する予定でしたが、残念ながら皆様にご覧頂けない状況です。

ぜひ本企画展を監修者の解説とともにご覧頂きたいと考え、展示紹介の動画を制作いたしました。

# 1では本企画展の概要と本企画展のテーマである「日本の桜」についてご紹介いたします。日本植物分類学の父、牧野富太郎が採集した桜の標本が見どころのひとつです。

#1 https://www.youtube.com/watch?v=bUt7u3wuU4Y
2020/04/10(8分19秒)

# 2では太田洋愛がどのような人物であったのか、「日本桜集」の共著者である大井次三郎がどのような人物であったのかをご紹介いたします。

#2 https://www.youtube.com/watch?v=riTLzhZp_JM
2020/04/10(8分13秒)

# 3では本企画展一番の見どころである、太田洋愛の描いたボタニカルアートについて、そのモデルとなった品種の標本ととともにご紹介しています。
科学的に正しく記録されたボタニカルアートは芸術性も兼ね備えています。ぜひご覧ください。

#3 https://www.youtube.com/watch?v=nZgxYrm9riE
2020/04/10(13分20秒)


ボタニカルアートと太田洋愛

ボタニカルアートとは、植物学(Botany)と美術(Art)を合わせた言葉です。
植物画の歴史は、
植物の研究がはじまったのと同じころから続いていると言っても過言ではありません。
カラー写真が存在しなかった時代、
植物の姿かたちを記録に残そうとすれば絵は欠かせないものでした。
腊葉標本(さくようひょうほん。押し葉や押し花の標本)は
乾燥して水分が抜けることで色や形が変わってしまうので
花の色などの特徴を残しておくには絵に描いておくしかなかったのです。

現在存在が知られている植物画でもっとも古い例は紀元前1世紀ごろ
植物学者クラテウアスの本草書に付された彩色図のようです。
クラテウアスの植物画は1世紀ごろに
古代ギリシャの医者で植物学者のペダニウス・ディオスコリデスが編集した本草書
『薬物誌』に取り入れられ、
この書物は西洋の薬学・医学の基本文献として1500年以上ものあいだ伝えられました。

また15世紀から16世紀にかけて航海技術が発達したことで、
17~18世紀のヨーロッパでは国外への興味が高まりました。
特に18世紀イギリスでは航海技術と経済力を惜しみなくつかって
世界各地の地理・地質・自然形態の調査をおこない、
動植物の標本を蒐集しています。
美術として鑑賞されるボタニカルアートが
貴族や裕福な市民の間で流行したのもこの頃のようです。

ボタニカルアートは美術として楽しむ対象になりましたが、
図鑑や専門書の挿絵として科学的に正しい植物の形を伝えるのが本来の役割でした。
そのため、ボタニカルアートにはいくつかの決まりがあります。

  • 背景を描かない
  • 人工的な物(花瓶や植木鉢など)を描かない
  • 実物大に描く事(無理な時は倍率を添える)
  • 植物の特性(色・形など)をそのまま描く
  • 個人的な主観を入れない

といったものですが厳密な規定があるわけではなく、
植物の特徴が一目でわかること・学術的に間違いがないことが肝心なようです。
たしかに背景や周囲のものが写り込む写真よりも
余計なものを描かない絵の方がわかりやすいこともあります。
解剖図や断面図など実際にはあり得ない様子を可視化できるのも絵の優れた点でしょう。

芸術性の高い植物画を普及し日本ボタニカルアート協会の創立(1970)に尽力した
植物画家・太田洋愛(おおた ようあい 1910-1988)は
学生時代に洋画を学び、古代蓮の研究で知られる大賀一郎に師事して植物画を学びました。
さらに優れた植物画を数多く残したことでも有名な「日本植物学の父」牧野富太郎にも
教えをうけています。

教科書や図鑑の植物画を多く描いた洋愛は
1965年に日本の桜を集めた図鑑をつくるために
全国の桜をめぐる旅をはじめました。
およそ8年にも及ぶ旅の集大成が『日本桜集』(平凡社,1973)で、
展覧会の目玉である「太田洋愛のボタニカルアート」は
この本に収録された挿絵の原画です。
一緒に展示されている絵のもとになった標本には
『日本桜集』の文章を担当した大井次三郎(1905-1977)の直筆で
採集された場所・日付などが書かれたラベルがあります。
洋愛が1969年に発見した新種「太田桜」など一部は動画の中で紹介されますが、
やはり実際の会場でひとつひとつ見て回れなかったのは悔しくなってしまいますね。


休館中の国立科学博物館の取り組み

ツイッターによる発信

国立科学博物館公式Twitterでは、
上野本館、筑波実験植物園、附属自然教育園の情報のほか
休館中に利用できるサービスのお知らせや展示室の様子なども発信されています。

【国立科学博物館公式】かはくチャンネル

YouTubeの公式チャンネルでは
「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜」のほかにも
日本人の祖先がたどったと思われる
台湾 → 与那国島のルートを古代の技術で航海する実験
「3万年前の航海再現プロジェクト」を紹介する動画(2016年公開)や
科博の研究者が科学について語ってくれる動画などが公開されています。

4月17日(恐竜の日)の動画には、恐竜博士こと真鍋真先生のメッセージも。
(先日まで発掘でアルゼンチンにいらしたため、待機中のご自宅からでした)

「3万年前の航海再現プロジェクト」は2019年7月に成功をおさめ
2020年3月には国立科学博物館の「イセ食品シアター36〇」で
航海の様子を疑似体験できるはずでした。
これもまた臨時休館の延長で先延ばしになっていますが…再開が楽しみです。

おうちで体験!かはくVR

一般財団法人VR革新機構の協力で実現した、
VR映像や3Dビューで国立科学博物館を疑似体験できるサービスです。
VR映像の鑑賞には専用ゴーグルが必要ですが、
3Dビュー映像はパソコンやスマートフォンから利用できます。

こちらからどうぞ

日本館と地球館の常設展示が体験できるほか、
ミュージアムショップやカフェなど意外な場所にも入ることができます。
使われている映像は臨時休館中に撮影されているため、
ミュージアムショップに入ると
特別展「和食~日本の自然、人々の知恵~」のコーナーが目につきました。
海産物をモデルにした可愛いぬいぐるみの横に
やけに大きなタコの足(本当に足だけ)のぬいぐるみがありましたけど…
値札が付いていたのであれも売り物のようです。

ふと思いついて日本館1階の中央ホールに行ってみましたが、
「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜」の看板が出ているのは確認できたものの
展示室の入り口はしまっていました。残念。