国宝絵巻はすごい!―《源氏物語絵巻》《伴大納言絵巻》《信貴山縁起絵巻》《鳥獣戯画》の四大絵巻

人々が冊子や巻子の形に仕立てた絵を楽しむようになったのは、平安時代のことだそうです。
絵と本文(詞書)をひとつの巻子に仕立てて物語と絵を楽しむ「絵巻物」は日本独自の絵画形式で、平安も末の院政期には優れた絵巻が多く作られました。
その中には「四大絵巻」と呼ばれる作品もあります。

国宝・四大絵巻とは?

美しい絵・美しい文字・美しく装飾された料紙を組み合わせた絵巻の形式は平安時代中期に完成し、平安時代末期になると数々の傑作絵巻がつくられました。
数ある絵巻作品の中でも最高傑作として名高い4つの作品(すべて国宝)が「四大絵巻」と呼ばれています。

2023年は東京国立博物館の特別展「やまと絵 ― 受け継がれる王朝の美」(10月11日~12月3日)が開催され、1993年の「やまと絵 雅の系譜」以来30年ぶりに四大絵巻がそろって展示されました。
日曜美術館「まなざしのヒント 特別展やまと絵」(2023.11.12)


《源氏物語絵巻》(げんじものがたりえまき)

12世紀(平安時代)
徳川美術館(愛知県)・五島美術館(東京都)などに所蔵

「源氏物語」全54帖の各場面を絵と文章で綴った優雅な作品。
数ある源氏物語の中で唯一国宝に指定されているため《国宝源氏物語絵巻》ともいいます。

作者は平安時代の宮廷絵師・藤原隆能(ふじわらのたかよし)だと伝えられていたため「隆能源氏」とも呼ばれていましたが、現在は有力な貴族がプロデュースした職工チームによる共同制作説が有力です。
(絵師のチームに隆能がいた可能性はあります)
詞書の部分は、書風の違いから5つのグループが分担していたと推測されています。

源氏物語絵巻についてはこちらの記事もどうぞ
源氏物語絵巻(国宝)はどこで見れる?ー 所蔵館・公開時期を紹介

伴大納言絵巻(ばんだいなごんえまき)

12世紀(平安時代)
出光美術館(東京都)所蔵

866年(平安時代前期)に起きた応天門の変を題材にした絵巻。
応天門が放火されて無実の人物が罪を着せられそうになるものの、ひょんなことから真犯人が大納言伴善男(伴大納言)だと発覚して罰せられるまでの物語が、上中下巻の3巻で語られています。
上巻の詞書が失われていますが『宇治拾遺物語』(13世紀のはじめ頃に成立)に収録されている「伴大納言応天門を焼く事」とほぼ同じなので話の流れがわかります。

大の絵巻愛好家として知られる後白河法皇のお抱え絵師のひとりだった常盤光長(または土佐光長)の筆と伝わっていますが正確なところはわかっていません。


信貴山縁起絵巻(しぎさんえんぎえまき)

12世紀(平安時代)
朝護孫子寺(奈良県)所蔵
奈良国立博物館寄託

信貴山朝護孫子寺の中興の祖・命蓮上人の霊験譚がテーマです。
朝護孫子寺は587年に聖徳太子によって開かれたと伝えられ、910年に命蓮上人が伽藍を整備しました。

托鉢用の鉢が山崎の長者の倉を乗せて命連のもとまで飛んで行った「飛倉巻」(「山崎長者巻」とも)、祈禱で醍醐天皇の病を癒し剣の護法を遣わした「延喜加持の巻」、命連の姉が東大寺でお告げを受けて弟と再会する「尼公の巻」の3巻からなり、悠々たる山水をバックに米俵が空を飛ぶ「飛倉巻」が特に有名です。

信貴山縁起絵巻については、2023年11月13日の日曜美術館でも取り上げられました。

鳥獣人物戯画絵巻(ちょうじゅうじんぶつぎがえまき)

12〜13世紀(平安〜鎌倉時代)
高山寺(京都府)所蔵
全4巻のうち甲・丙巻は東京国立博物館、乙・丁巻は京都国立博物館に寄託

通称「鳥獣戯画」でおなじみの絵巻。
擬人化された動物たちが主役の甲巻、現実と架空の動物を掲載した図鑑のような乙巻、人間の遊戯と動物の遊戯を描く丙巻、人間による遊びや行事の様子を描いた丁巻の4巻で、内容は特につながっていません。
描いた人・制作背景・主題などすべてが謎に包まれていながら、墨だけで描かれた白描画の素晴らしさは広く知れ渡っており、中でも兎・蛙などの動物たちが遊び戯れる甲巻は人気です。

2021年の特別公開の際は、NHKの日曜美術館でも大きく取り上げられました。
日曜美術館「生中継!“鳥獣戯画展”スペシャル内覧会」(2021.4.11)

その他の傑作絵巻

国宝四大絵巻は《鳥獣戯画》を外して、同じく国宝に指定されている《粉河寺縁起絵巻》を入れる場合もあります。

《粉河寺縁起絵巻》(12~13世紀、平安~鎌倉時代)は、現在の和歌山県紀の川市にある粉河寺の建立(770年に大伴孔子古が開いたと伝わっています)にまつわる伝説と霊験譚が描かれます。
火災によって巻頭部分を失い、画面の上下も焼けた跡が。
粉河寺(和歌山県)の所蔵で、京都国立博物館に寄託されています。

また、日本にあれば国宝四大絵巻が五大絵巻になっていたことは確実と言われるのが《吉備大臣入唐絵巻》(12~13世紀、平安~鎌倉時代)。
吉備真備(695-775)が唐の都で繰り広げる荒唐無稽な活躍を描くもので、現在はアメリカにあるボストン美術館の所蔵になっています。

《吉備大臣入唐絵巻》についてはこちらの記事もどうぞ。
《吉備大臣入唐絵巻》(ボストン美術館所蔵)
《吉備大臣入唐絵巻》のあらすじ

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