今年で10年目を迎える京都の国際写真祭「KYOTOGRAPHIE」を小野さんと柴田さんが訪れました。
京都の街中10か所に散らばって開催されている写真展の一部を紹介します。
歴史ある建物(お寺、モダン建築から商店街まで)や伝統工芸と写真のコラボレーションはもちろん、展示を読み解く小野さんの熱いトークにも注目です。
2022年4月24日の日曜美術館
「写真で冒険 京の町〜京都国際写真祭2022〜」
放送日時 4月24日(日) 午前9時~9時45分
再放送 5月1日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
京都を舞台にした国際写真祭「キョウトグラフィー」。ふだん入ることが出来ない寺や町屋に入ってみると、そこは “写真の遊園地”。世界でもトップクラスの写真が、京都ならではの建造物に特別なしつらえで展示されている。古いしきたりが残る京都で型破りな写真展を成し遂げたのは、地元には縁もゆかりもなかった二人。行政や大店に日参。新しいもの好きの京都人の心を動かした。写真展を通して知られざる京都の町を大冒険!(日曜美術館ホームページより)
出演
山口源兵衛 (十代目誉田屋源兵衛)
おおうちおさむ (アートデザイナー、グラフィックデザイナー)
ルシール・レイボーズ(写真家、KYOTOGRAPHIE共同創設者/ディレクター)
仲西祐介(照明家、KYOTOGRAPHIE共同創設者/ディレクター)
遠藤克彦 (建築家)
北仲康之 (箔職人)
小西克己 (織物職人)
イサベル・ムニョス (写真家)
誉田屋源兵衛とスペインの写真家
帯問屋・誉田屋源兵衛の社屋は、釘を一本も使わない宮大工の技法を使って10年がかりで建てられたヒノキ造りの立派なお屋敷です。
8代目誉田屋源兵衛の注文で1919年に完成したこの建物は、初年度から10年にわたってKYOTOGRAPHIEに会場を提供してきました。
10代目の山口源兵衛さんによると会場の提供をOKした第1号なんだとか。
源兵衛さんは小さいころから「この家は人が出入りするほど栄える」と聞かされていて、写真展も「悪くないな」と思ったといいます。
イサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛(誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷)
BORN-ACT-EXIST
特別なお客様を通すための奥座敷には、スペインの写真家イサベル・ムニョスのモノクロの写真が展示されています。
今回発表された作品は源兵衛さんがムニョスさんを案内した奄美大島で撮影したもので、中には泥だらけになった源兵衛さんの後頭部や顔を写した一枚も。
奄美の泥染めにインスピレーションを得たムニョスさんが源兵衛さんを泥に漬けて(!?)撮影したもので、エネルギーに満ちた生命誕生の根源を表しているそうです。
ただし源兵衛さんは、自分で穴を掘らされたり、頭のてっぺんまで泥に漬けられたり、洗う所がなかったりとだいぶ難儀したようで、ムニョスさんのことを「メチャクチャな女や」とユーモアまじりに語っていました。
場所の特性を生かした会場デザイン 空間と写真のコラボレーション
普段は平面のデザインを手がけている おおうちおさむさんがデザインを手がけた両足院と京都文化博物館の会場は、人が移動することで初めて完成する構成が特徴。
見る人が動くことで新しい写真が現れては消えて行き、最後には空間そのものが残る。
由緒あるお寺と明治期の洋風建築を舞台に、ドラマチックな展示空間が展開しました。
奈良原一高(建仁寺山内、両足院)
ジャパネスク〈禅〉
特別拝観の時期(初夏・冬)をのぞいて非公開の塔頭では、戦後の日本を代表する写真家のひとりである奈良原一高(1931-2020)の写真が展示されています。
ヨーロッパから帰国した奈良原があらためて日本の姿をとらえるべく曹洞宗の寺に籠って僧侶の日常を撮影したこのシリーズは、思いもよらない視点でとらえられた被写体の姿が禅の精神世界を象徴する記号のように見えてきます。
単なる現実ではなく内面にまで踏み込むような「パーソナル・ドキュメント」の表現を完成させた奈良原の作品は、創建490年の古刹の建物や自然の中で浮くことも霞むこともなくまったく新しい空間を演出しているようでした。
ギイ・ブルダン(京都文化博物館、別館)
The Absurd and The Sublime
旧日本銀行京都支店として1903年に建てられた赤レンガの洋風建築のホールには、水色、黄、紫、ピンク、灰色、黒など様々な色の壁が螺旋状に並べられています。
壁と壁の間は隙間が開いて、そこから別の色や写真がのぞき、単品で見るのとはまた違った解釈を引き出します。
撮影者のギイ・ブルダン(1928-1991)はフランスを代表するファッション写真家。
商品やモデルを見せるよりも、それらを組み合わせたシュールで意外性のある世界を演出することに定評があります。
写真と色の組み合わせが移動にあわせて移り変わる会場の構成は、そのままブルダン的な世界につながっているようでした。
普段は立ち入り禁止の2階は吹き抜けの回廊になっていて、上ると展示会場全体を見降ろすことができます。
アートの民主化と写真祭 KYOTOGRAPHIEが目指すもの
共同創始者で共同ディレクターのルシール・レイボーズさんと仲西祐介さんがKYOTOGRAPHIEというイベントを始めたきっかけは、2011年にフランスで出会った「アルル国際写真祭」でした。
教会・空き家・倉庫など町全体を会場にした写真祭に惹きつけられた2人は、日本でも同じことを実現するべく、同年に移り住んだ京都で交渉を開始。
伝手も資金もないなかで、ゼロからのスタートだったそうです。
粘り強い交渉で写真祭を実現した2人の目標は「アートの民主化」。
親しみやすい場所にアートを置くことで場所の力を借り、限られた一部の人ではなく色々な人にアートを見て、そのメッセージを受け取ってもらうことです。
さらにこの写真祭は、ただアートを見る場所にとどまるものではなく、フェスティバルそのものが皆で作るアート作品だといいます。
作品と撮影者だけではなく、場所やそこで暮らす人々、準備に参加した人、もちろん作品を見に来た人たちも、巨大なアート作品の一部となるのです。
プリンス・ジャスィ(出町桝形商店街)
いろいろ アクラ──キョウト
KYOTOGRAPHIEでは、日本ではなじみの薄いアフリカのアーティストを毎年ひとり紹介しています。
今年はガーナの写真家プリンス・ジャスィ。
この人は全てのもの(感情・週・曜日など)を色で認識する共感覚の持ち主で、その特性を生かした作品は黄色の空の下にピンクの地面があったりと色鮮やか。
(ジャスィさんの目には世界がこう見えているのでしょうか?)
作品は出町桝形商店街のアーケードに横断幕のように吊るされています。
(KYOTOGRAPHIEは今や商店街の一大イベントで、お店の人たちも準備に協力しています)
片面はガーナの市場を撮影したもので、もう片面は日本から小道具(すべて商店街で用意したもの)を送ってそれを使ってガーナで撮影したもの。
本当はジャスィさんが来日して撮影の予定だったのですが、今年は状況が許さなかったそうです。
プリンス・ジャスィの作品は、京阪祇園四条駅からほど近いアートギャラリーASPHODELでも展示されています。
アーヴィング・ペン(京都市美術館、別館)
Irving Penn: Works 1939–2007. Masterpieces from the MEP Collection
写真家としての活動はまずアイデアを出して、それから資金獲得の交渉をするもの。
KYOTOGRAPHIEの活動もそれが大規模になっただけ…とレイボーズさんは言いますが、予算を集めながら来年度の準備(前年度のマイナスがあればその補填も)という
自転車操業状態の運営は大変なもので、予算にはいつも苦労しているようです。
今回の展示デザインを担当した建築家の遠藤克彦さんは、シビアなコストと作家の世界観を両立する方法を考えました。
展示されているのはポートレートの巨匠アーヴィング・ペン(1917-2009)のオリジナルプリント80点。
パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)所蔵の貴重な作品です。
高さの違うむき出しのパネルをギザギザに配置することで、余計なものを消して人物を際だたせるために背景にパネルを立てる手法を得意としたペンへのリスペクトを表現。
会場内にはあえて写真を貼らずに、ペンと同じ構図で写真を撮れるフォトスポットもあります。
枠の外を目指す帯づくり 再び誉田屋源兵衛
写真とはこういうものだ、という枠を超えて新しい物を作りたい。
源兵衛さんはそんな思いから、KYOTOGRAPHIEの10年目にあたる今年、日本の伝統技術を使って写真を帯に仕立てました。
世界初の試みです。
帯づくりは分業制のため、計画の実現には職人の協力が欠かせません。
紹介されたのは、和紙にプリントした写真をプラチナ箔と重ねて細く裁断し横糸を作る箔職人の北仲康之さんと、完成した意図を写真の通りになるよう調整しながら織り込んでいく織物職人の小西克己さん。
(1日で進められる量はわずか数センチ)
きっと他にもたくさんの人の手を経て完成した帯は、デザインも織り方も違うものが3本。
源兵衛さんが体を張ってモデルを務めた後頭部の写真もあります。
来日したムニョスさんも「新しい芸術の誕生ね」と喜んでくれました。
日曜美術館ではこの帯について「縦糸は京都の伝統、横糸は海の向こうから来た革新」と言っています。
(語りは柴田さん)
そう言えば、現代まで積み重ねられた伝統も、だいぶ昔の革新だったはず。
(小西さんの使う織り機は、明治時代にフランスから輸入されたものだそうです)
古都を舞台にした革新的なフェスティバルも、いつかの未来で革新を支える伝統となる日が来るのかもしれません。
「KYOTOGRAPHIE 2022」
2022年4月9日(土)~5月8日(日)
詳しい内容(展覧会の詳細、会場へのアクセス、チケット情報など)は、
公式サイトでご確認ください。
チケット
会場は京都市内の美術館や町家などに分かれて開催されています(うち2会場は無料)
会場ごとに購入する単館チケットのほかに、
全ての会場に1回ずつ入場できるパスポートチケットがあります。
(一般 5,000円、学生 3,000円、京都市民限定 4,500円。オンラインチケットあり)
アーティストと展示会場
- KYOTOGRAPHIE Information Machiya
八竹庵(旧川崎家住宅) - ギイ・ブルダン
京都文化博物館 別館 - アーヴィング・ペン
京都市美術館 別館 - マイムーナ・ゲレージ
嶋䑓ギャラリー - イサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛
誉田屋源兵衛 黒蔵・奥座敷 - 世界報道写真展
堀川御池ギャラリー - 鷹巣由佳
y gion - サミュエル・ボレンドルフ
琵琶湖疏水記念館 / 蹴上インクライン - プリンス・ジャスィ
ASPHODEL / 出町桝形商店街 - 奈良原一高
両足院(建仁寺山内) - 細倉真弓・地蔵ゆかり・鈴木麻弓・岩根愛・殿村任香・田多麻希・稲岡亜里子・林典子・岡部桃・清水はるみ
HOSOO GALLERY - ペンティ・サマラッティ
何必館 / 京都現代美術館 - Hideka Tonomura
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